トークパレット木曜日「スタンバイ・ブックナビ」

2011年02月17日(木)


今朝は、文芸評論家の北上次郎こと、目黒考二さんにお薦めの本を紹介していただきました。

★久々の時代小説。野口卓という作家のデビュー作。

★今、文庫の時代小説というのが、佐伯泰英さんを始めとして非常にたくさん出ていて売れているらしいのだが、たくさんあり過ぎて、何を読んでいいかわからない状況。
★この「軍鶏侍」という小説を私もたまたま手にとって読んだのですが、これが凄くいい。素晴らしいんです。

★話の舞台は、架空の南国の小さな藩、園瀬藩。時代は江戸時代。主人公は、岩倉源太夫という男。
★40歳のこの男。若かりし修行時代に闘鶏の軍鶏からヒントを得て秘剣を編み出した程の剣の使い手だが、なにぶん人間関係の煩わしさが嫌い。早々、隠居する事を決心する。

★物語は、隠居が認められ息子に家督を相続したものの、隠居後の生活の為に計画していた剣の道場を開く事に許可がおりず、不本意な隠居生活スタートとなった所から始まる。

★話は、5話連作の長編。だが、構成としてうまいのは大きな全体のストーリーを、ちゃんと進めつつ、1話ずつがしっかりとした違う話になっていること。

★全体のストーリーとしては、秘剣を編み出した男が若い隠居へ。話が進むうちに、道場を開く事を認められ、若い後妻をもらい、子供が生まれ、、、、

★一方、構成する5つの話。例えば、第1話は、園瀬藩の政争に巻き込まれる話。主導権をとろうとする家老らの政争に、剣の腕を見込まれ、巻き込まれる。
★第2話は、主に夫婦の話。25歳の後妻・みつと結婚する。この段階で道場開きが認められ、平和が訪れたかと思いきや、訳あって後妻の元夫を成敗しに行く事になる。
★というのも、後妻の元夫が再婚した妻が浮気をし、その妻と浮気相手を元夫が殺害。その際、藩の規則を破って、藩を出た為、追われる身になる。その追う役に選ばれたのが、剣の腕を見込まれ主人公。

★そして、第3話。私が一番好きな話なんですが「夏の終わり」。これは簡単に言うと、主人公の道場に弟子入りしてきた11歳の少年・圭二郎が成長していく話。
★そして、いじめられっ子だったこの少年が、大人になるエピソードとして出てくるのが近くの川にいる、もの凄く大きな鯉を捕ろうとする話。これがいい。
★周りの「1人では無理。」との声を聞かず、意固地に一人で捕ると突っ張り、何日も川に通い続ける。そして、やっとの思いで鯉を見つけるのだが、、、
★最後の最後、結構、長いページをとって、鯉との格闘シーンがあるがこれが迫力満点。

★つまり、夫婦、子供の成長、大人の醜い争い、剣の争いと、いわゆる時代劇の醍醐味のいろいろな要素を実にうまくコンパクトにまとめている作品。構成がうまい。

★そして、もうひとつ。時代小説のよさとは何なのかというと、私は「その物語の背後に流れるゆったりした時間」だと思っている。恐らく江戸時代がそうであったような、、、。それが時代小説にする意味であり、現代小説との違い。
★これは言うのは簡単だが、問題はそれをどうやって表現するのか、どう小説にすれば、そういうゆったりした時間が流れるのか。これはそんなに簡単な事ではない。
★でも、この作家は、デビュー作からそれをやってのけているというのが、素晴らしい。舞台の南国の小さな藩には近くに川が流れて、小鳥が鳴いていて、、、、
 
★文庫の小説は結構、数が多く、新刊コーナーにあっても見逃されてしまいがちですが、是非、手にとってもらいたい一冊。最近読んだ本の中でも、出色の出来です。



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