2019年台風19号で甚大な被害を受けた自閉症総合支援施設「けやきの郷」

人権TODAY

今回のテーマは、2019年台風19号で甚大な被害を受けた自閉症総合支援施設「けやきの郷」

近隣の川が決壊、1.8mの浸水

埼玉県川越市に「けやきの郷」という重度の自閉症の方たちの自立支援施設があります。このけやきの郷が2年前、2019年10月の台風19号で甚大な被害を受けました。施設から300mほどの場所にある越辺川の堤防が決壊。けやきの郷は自閉症の方たちが暮らす入所施設や、仕事をするための工場など全6事業、建物にして16棟があるのですが、このうち1つを除く15棟が床上浸水1.8mほどの被害を受けました。

幸いに人的被害はなかったのですが、この惨状について施設の関係者からは「天災ではなくて人災だ」という声があります。どういうことなのか。1985年、けやきの郷をこの土地に建設したいきさつについて聞きました。

「当時、障害者施設の建設にあたっては、これは全国で埼玉県だけだったんですけれど、半径300m以内の全住民の同意を取ることという行政指導がありました。私たちはこれは障害者差別ではないかと抗議したんですけれど、聞き入れられる訳はなかったですね。で、やっと見つけた建設予定地で、同意書を巡って反対運動が起きました。結局、当時一面の桑畑で、半径300m以内には人家が一件もない、この現在の土地に決まったといういきさつがあります。」(社会福祉法人けやきの郷・元理事長の阿部叔子さん)

結局、希望していた建設地で住民の同意が得られず、埼玉県が現在の土地を探してきてけやきの郷が建設されたのですが、周辺に家が無いどころか、ハザードマップ上の浸水想定区域になっていて、50年前も地域一帯が冠水したような場所だったんです。

1週間に4回も避難所を転々

この台風19号の際は予め利用者の半数が自宅に避難、もう半数は地域の市民センターに避難し、利用者75名は皆さん無事だったのですが、その後の避難生活で困難があったと阿部さんは話しています。

「そこの市民センターは、次の日に市民のサークル活動があるというので、移らざるを得なかった。で、このあと1週間のうちに4回も避難所を転々とすることになりました。4回目、やっと市民センターの体育館で落ち着いたんですけれど、やはり障害を持った人たちが避難するということは本当に大変だということを本当に実感しました。」(社会福祉法人けやきの郷・元理事長の阿部叔子さん)

例えば2か所目に避難したのが近所の小学校の体育館でしたが「翌日から授業が始まる」などと言われて移動したということです。特に自閉症の方は物事へのこだわりが強い反面、環境の変化に適応しにくいという特徴がある中で、安心とは程遠い状況です。結局避難生活は約9か月に及んだのですが阿部さんは「障害のある人が避難生活を送る場所として応急仮設住宅を用意してほしい」と言っていました。

台風を機に積極的行動変化がみられた

けやきの郷には全6事業うちの一つが「やまびこ製作所」です。自閉症の方24名が、木工作業、主に倉庫などでものを載せるために使う木製の「パレット」を機械を駆使して製作、修理する業務を行い、社会参加および経済的自立を果たすことを目的としています。

このやまびこ製作所は台風の被害で一階部分全てが浸水。およそ6か月仕事が出来ず、毎日ぐちゃぐちゃになってしまった工場内の泥の書き出しや後片付けに追われる日々でした。こうした中、ここで働く自閉症の方たちの頼もしい面が見られたと、被災当時のやまびこ製作所の事業所長・伊得正則さんは話します。

「かなり環境の変化はありましたが、30数年来の職員・スタッフと利用者の信頼関係の深まりが、際立った不安の様子を見せることもなく、むしろやまびこ製作所を早く再建させて、パレットの製作に汗を流そうとの思いの方が強く、より協力関係が深まり、積極的行動変化が多くみられるようになったと感じます。」(やまびこ製作所・元事業所長の伊得正則さん)

具体的には、今日自分が誰と何をするといったやるべきことをボードで確認、食事の準備、片付けをより積極的にやるようになったそうです。

台風と新型コロナの影響で事業形態を変更

しかし、台風の被害からやっと復旧した所での、新型コロナウイルス感染拡大。仕事の受注が激減したことでやまびこ製作所は、雇用契約を結ぶ「就労継続支援A型」から雇用をしない形で工賃を払う「生活介護事業」への移行を余儀なくされました。この状況を受けて伊得さんはこのように話しています。

「今回の水害から追い打ちをかけてのコロナ禍は、現在のやまびこ製作所の力量で乗り越えていくにはあまりにも高く厚い壁でした。障害特性ゆえか、事業形態がどう変わろうと、利用者の方が真面目に日々ただ淡々と決められた業務推進をしています。本当に私も感心するんですけども素晴らしい方々だなという風に思ってます。」(やまびこ製作所・元事業所長の伊得正則さん)

仕事内容も、木製パレットの受注が減った代わりに古紙の分別作業が増えるなど変化があったそうですが、私も工場の様子を見学した際、みなさん真剣に黙々と作業されていて頼もしいと感じました。

けやきの郷の被害に関する詳細はジアース教育新社から出版された書籍「私たちが命を守るためにしたこと-2019年台風19号、障害者施設〝けやきの郷〟の記録」にもまとめられています。

(担当:中村友美)

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