【イベントレポート】桂宮治のトークと高座を一度に堪能「ようこそ宮治でございます」ゲストの山里亮太も落語を披露

TBSラジオプレス

2023年2月22日に、毎週日曜日の朝5時30分から放送中『桂宮治「これが宮治でございます」』の番組初となるイベント、「ようこそ宮治でございます」が全電通ホール(全電通労働会館)にて開催されました。記念すべき初回のゲストとして登場したのは、南海キャンディーズの山里亮太さん。 
本記事では、落語はもちろん、数々の伝統芸能の現場に足を運ぶ、ライターの九龍ジョーさんによる解説とレポートをお届けします。

ラジオでも発揮されている 
その異名は「令和の爆笑王」

日本でラジオ放送が始まったのは、大正14年(1925年)のこと。試験放送2日目には早くも落語(五代目柳亭左楽『女のりんき』)が流れたといいます。それから様々な興隆がありながら、落語家とラジオの切っても切れない関係は続きます。いま旬といえば、昨年あたまに国民的テレビ番組『笑点』の新メンバーに抜擢された勢いに乗り、昨年4月に始まった桂宮治さんのラジオ番組『桂宮治「これが宮治でございます」』でしょう。

もっとも『笑点』ありきではありません。宮治さんは入門こそ31歳と比較的遅めでしたが、早くから人気・実力ともに落語界で頭角を現し、2021年には5人抜きで真打昇進を果たしています。その芸風を評した異名は――「令和の爆笑王」。落語とはこうあるべき、という人々の思い込みを心地よいまでに破壊し、あの手この手で笑いをかっさらう手腕は、ラジオでもいかんなく発揮されています。

100点の前説を務めた 
前座の入船亭扇ぱい

さる2月22日、番組初となるイベント「ようこそ宮治でございます」が、東京は神田の全電通ホールで開催されました。事前に発表された内容といえば、ゲストに南海キャンディーズの山ちゃんこと山里亮太さんを迎えたトークだけ。それでも十分豪華ですが、そこは令和の爆笑王。フタを開けてみれば隠し球たっぷり、抱腹絶倒の夜となったのでした。

では、さっそくイベントをふり返ってみましょう。

会場に着くと、入り口脇で巨大な招き猫が迎えてくれます。ステージに目を向ければ、金屏風の前に立派な高座が組まれています。めくりには「ようこそ宮治でございます」の寄席文字。

開演時間が迫ると、前説代わりの前座として入船亭扇ぱいが開口一番、高座に上がりました。

寄席や落語会ではよく見る光景で、基本的にこの時間はプログラム本編にカウントされません。なぜならこの枠は、修行中の身である前座にとって、お客さんの前で経験を積むための勉強という側面があるからです。ですから本来であれば、この時間は飛ばして宮治さんの登場するオープニングから書き起こすべきなのですが、それでも触れないわけにいかないのは、この「元NHKアナウンサー」というむだにハイスペックな経歴を持つ前座の扇ぱいさんが、開口一番でイベント全体に関わる重要な指摘をしたからです。

めくりの「ようこそ宮治でございます」の文字、「ざ」の字の濁点が抜けている、というのです。たしかに目を凝らせば、「ごさいます」となっています。

「わかっていたなら、なぜ開演前に教えてくれないのか。濁点ぐらいならマジックで直せたのに!」とは、このあと登場する宮治さんの弁です。そのとおりですが、前座働きとしてはいざ知らず、落語家(の卵)としての判断は、100点と言っていいのではないでしょうか。

ちなみに余談ですが、扇ぱいさんは、落語芸術協会所属の宮治さんとは異なる協会――落語協会の所属です。これは、番組『これが宮治でございます』でも思うことですが、ここいちばんのイベントで他協会の前座を使うところなどにも、宮治さんの落語界全体を盛り上げようとする気遣いが感じられるのです。

オープニングはコスプレで 
猫の日だからキャッツ・アイ

いよいよ、オープニング。暗転した会場に鳴り響く、杏里の「CAT'S EYE」――とくれば、客席の手拍子に乗せ舞台に登場した宮治さんはキャッツ・アイのコスプレ……もとい雑なウィッグにレオタード姿です。そのまま客席に下りて、前方を練り歩くと、お客さんは拍手喝采。

曲が止むと、ゼイゼイと荒い息を整えながら、マイクを握った宮治さん。「これだけは言っておきますよ」と断って一言――。

「僕だって! やりたくて、やってるんじゃないですよ!」

じつは宮治さん、これまでも自分の独演会などで、入場曲やコスプレを使った型破りな入場演出をしてきた実績があります。

「……でも、それは自分が好きでやったんですよ。これはちがう! 企画会議で強制的に決められたんです! 『おまえ、キャッツアイな』。パワハラで訴えたら勝てます! そして、このレオタードのもっこりした部分は、最前列のお客さんへのセクハラという危険もあるんです!」

この日――2月22日は「にゃん・にゃん・にゃん」で猫の日。もっこり回避のため、ミュージカル「キャッツ」のコスプレという案もあったそうですが、たとえレオタードでも腰に布を巻くから隠せるだろうということで、キャッツ・アイに……という頭がクラクラするような(心底どうでもいい)エピソードで、すでにお客さんは笑いの渦に包まれています。

普段、番組は日曜の早朝5時半からというオンエア時間帯のため、SNSなどでもなかなかリスナーの反響を目にすることがなかったという宮治さん。ダイレクトに感じられる会場の熱気にうれしくなったのか、客席に向かって定番の質問をします――。

「いちおう聞きますが、僕のラジオを聴いたことがなくて来た人、手を挙げてもらえますか?」

すると、7割ほどのお客さんが挙手します。

「ええ~!?」と絶句する宮治さん。

「じゃあ、その人たちのなかで、僕の落語会に来るのも初めてだという人は?」

3分の1くらいのお客さまが手を挙げたままです。

「ラジオを聴いていない。僕の落語会にも来たことがない。……って、あんたら誰なんだよ!(笑)」

山里さんのファンもいるかもしれませんが、山里さんの出演を発表する前に、チケットはほぼ売り切れていたはずとのこと。「いったいどこでこのイベントを知ったんだ!」と困惑気味の宮治さんに、「サクラ!」の声が飛び、場内大爆笑です。

「ちょっと警備員さん! つまみ出して! ……ええっと、もう一度だけ聞かせてください。このラジオ、1回も聴いたことない人!」

今度も多くのお客さんが手を挙げます。

「……さっきより増えてるじゃん!!」

挙手という名のコール&レスポンス。このやりとりだけで会場を沸かしつつ、思いのほか時間が経っていることに気づいた宮治さんが、慌てて山里さんを呼び込みます。

特別ゲスト・山里亮太 
高座名は「三遊亭兼便」

「いま日本でもっとも売れている芸人、山里亮太さんです!」

「ちょっと! その紹介は性格がわるい! え~、宮治師匠が上げまくったハードルをくぐってまいりました……」と登場した山里さんは、着物に焦茶の羽織姿。挨拶もそこそこに、ジャンル違いの芸人同士ならではのリスペクトと褒め殺しと自虐とプライドが交錯する爆笑トークを繰り広げていきます。

「ところで――」と山里さん。「なんのこっちゃわからなくて来てる人がいるんでしょう?」

「そうなんですよ! ラジオを聴いたことがない、僕の落語会にも来たことがないっていう。また、手を挙げてもらっていいですか? ほら! ……ってどうした!? 人数減ってるよ!」

「違うのよ~、宮治師匠が楽しくなってイベントが盛り上がるよう、お客さんは調整してくれてるんですよ」

「それじゃ、ほんとのサクラじゃないですか!(笑)」

「いや~、2月にこんなきれいなサクラが見られるとは思ってもいなかった!」

ハイスパートな掛け合いが続くうちに、話題は、宮治さんが笑点メンバーに内定した際のエピソードから、このたび山里さんが4月から始まる朝の情報番組『DayDay.』のMCに抜擢され、情報解禁に至るまでの裏話。さらに13年目に突入した『水曜JUNK 山里亮太の不毛な議論』でのラジオパーソナリティとしての心構えや、一人しゃべりだけで千人クラスの大バコを埋めるイベント『山里亮太の140』での経験など、宮治さんがいままさに知りたいであろう質問を山里さんにぶつけていきます。

そもそも二人の出会いは2017年、鎌倉で開催された三遊亭兼好師匠と山里さんの親子会に、宮治さんが出演したときのことだそうです。親子会というからにはそう、山里さんは兼好師匠の弟子として、落語家の顔も持つのです。「三遊亭兼便」という高座名で、これまで何度か高座に上がったこともあります。

鎌倉での会以来、交流を深めてきた二人。今回、宮治さんはトークゲストだけの依頼をするつもりが、気づけばスタッフが落語も一席、お願いしていたそうです。多忙を極める山里さんですが、そのオファーを受けたと言いますから、お客さんも大拍手です。

「でも、やっぱり師匠のファンの目の肥えたお客さまの前でやるのは……」

「いや、ラジオリスナーどころか、落語会にも来たことない客ばかりですから!」

山里さんが落語のスタンバイのため退場すると、イベントは協賛スポンサーのコーナーへ。それぞれステージ脇の提灯に名前の入った「ハウスドゥ」、揚まんじゅうの「御門屋」が紹介されます。

CMトークといえどそこは落語家、立て板に水は当然ですが、あまりの営業上手に思い出されるのは、入門前は化粧品のデモ販売で鳴らしたトップセールスマンであったという宮治さんの経歴です。

三遊亭兼便による新作落語 
『コンプライアンス保育園』

高座を整えた前座の扇ぱいさんがめくりを繰ると、「三遊亭兼便」の文字。ついに山里さんの出番です。

何度か経験を重ねているだけあり、高座姿もサマになっています。マクラで企業コンプライアンスにまつわる面白エピソードなどを振りつつ始まったのは、『コンプライアンス保育園』という新作落語です。

舞台は保育園。お遊戯会の演し物である「桃太郎」を、行きすぎたコンプライアンス基準に沿って書き替えていくうちに、なぜか「ブルーベリー太郎」になってしまう――という一席。お客さんを引き込む間や、声量の的確さ、随所に差し込まれたフレーズのキレもさることながら、落語ならではの構造になっていることに唸りました。

おそらく落語の『桃太郎』から着想したのでしょう。それをたんに漫才やコントの発想で書き替えることもできたはずですが(そして山里さんのバックボーンを思えば、お客さんだって許容するでしょう)、場面のくり返し、情報の出し入れなど、きちんと落語の特性を生かしたネタになっていたのです。おまけに、「性的メタファー」という単語の巧みな用法の陰で、その実しょうもない下ネタ満載というサービス精神にお客さんは大喜びです。

すべての伏線をネタで回収 
桂宮治による『蛙茶番』

締めはもちろん、宮治さんの落語です。高座に上がるなり、「さすが天才は違います」と山里さんを称賛しつつ、「性的じゃない、ピシッとした噺も聴きたかったですね」と振りながら、『蛙茶番』へ。ご存じない方のために説明すると、むちゃくちゃ性的(!)な噺です。

町内の素人芝居で起こったひと騒動を描く、いわゆる艶笑落語です。想い人にいいところを見せたくて、ふんどしを締め忘れたまま銭湯を飛び出した男。股間のモノを見せつけながら芝居に駆けつけ、舞台袖で舞台番を務めるも、お客さんの目は芝居そっちのけで股間に釘付けとなり――。 

これをアクション映画もかくあるやというテンポで畳みかけるのだからたまりません。爆笑の渦とはこのことです。常々、「落語に必要なのはお客さんの想像力!」というアナウンスを欠かさない宮治さんの言葉を借りれば、お客さんにはもはや高座の宮治さんが逸物をブラブラ見せつけているようにすら感じられたのではないでしょうか。

さらに驚くべきは、オープニングのもっこり、兼便さんの落語の性的メタファーなど、すべての伏線をこのネタで回収する宮治さんの構成力です。

大盛況でイベントを終え、楽屋に戻った宮治さんにそのことを伝えると、驚くべき事実を教えてくれました。

終演後の楽屋にて

「ホントは別の落語をやる予定だったんですけど、山里さんの素晴らしい落語を舞台袖で聴いているうちに、今日は『蛙茶番』だなと思ったんです」

なんと、あの『蛙茶番』は、直前で差し替えられたネタだったというのです。ですが、第一線の落語家にとっては、こんなこと朝メシ前なのかもしれません。

宮治さんは言います。

「落語に触れたことのない、新規のお客さんも多かったと思うんです。落語って、とっつきにくいとか、勉強しないといけないとか、そういうものじゃないということがわかってくれたんじゃないでしょうか。さすがに今日来た何人かはラジオも聴いてくれるでしょうし(笑)。今日あったことをまた、僕がラジオでしゃべる。ラジオイベントっていいことしかない! またやりたいです!」

そこまで話すと、「やべっ! 撤収の時間までに早く出ないと……!」と大急ぎで着替えを始めた宮治さん。

「キャバクラと同じで、延長料金とんでもなくとられるんですよ!」

まもなく100年を迎える落語家とラジオの関係は、今宵も良好なのでした。

取材・文/九龍ジョー

<番組情報>

桂宮治「これが宮治でございます」 
毎週(日)朝5:30~6:00 
高座で培った「爆笑」トークから、1男2女の子煩悩な父親目線からの「ほっこり話」まで、桂宮治の魅力が詰まった30分。 
番組Twitter:https://twitter.com/miyaji_tbsr 
番組ハッシュタグ:#これ宮治 
https://www.tbsradio.jp/miyaji905/

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