宇多丸『シャザム! 神々の怒り』を語る!【映画評書き起こし 2023.3.24放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』のコーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞して生放送で評論します。

宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、日本では3月17日から劇場公開されているこの作品、『シャザム!~神々の怒り~』

(曲が流れる)

ちなみに、この前のね、6時半ちょっと手前の時間帯で金曜パートナー山本匠晃さんがおっしゃっていた、「とある凶暴な生き物」に、虹色のチョコをね、ダーラという女の子のキャラクターが投げる、というところがあって。あれは、「あの生き物」と虹色というのは、どちらも非現実的な存在というか、つかめない存在というか……というようなところで、欧米圏では意味づけられるという。そういう含みもあるような演出だったりしますね。

ということで、スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンなどを擁するDCコミックスの人気キャラクター、シャザムの活躍を描く、「DCユニバース」……いや、まだこれは「DCエクステンデッド・ユニバース」です! これから始まるのが「DCユニバース」なんで。皆さん、この後に説明しますけど……「DCエクステンデッド・ユニバース」最新作です。

見た目はオトナ、中身はコドモのヒーロー、シャザムことビリー・バットソンの前に、神アトラスの娘たちが現れる。ビリーは、人間に罰を与えようとする彼女たちに、家族と共に立ち向かう。シャザム役は、前作に引き続きザッカリー・リーヴァイ。敵対する三姉妹役を、ヘレン・ミレン、ルーシー・リュー、そしてレイチェル・ゼグラーさんが演じられております。監督は前作に続き、デヴィッド・F・サンドバーグさんが務めました。

ということで、この『シャザム!~神々の怒り~』をもう観たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、ぶっちゃけ「少なめ」。あらまあ。賛否の比率は、褒める意見がおよそ7割。

主な褒める意見は、「前作に続いて今作もよかった」「家族というテーマに対して、今作ではそこからの自立ということがしっかり描かれていて好感を持った」など。一方、否定的な意見は、「ヴィランたちの目的が分からない。あの人たちは何のために何がしたかったの?」……まあ、途中でちょっとブレ始めますんでね。「前作がよかった分、期待外れだった」などもございました。

■「本作もまごうことなき大傑作! ファミリー映画として非常に誠実」

代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「転がるフルグラにソースはつかない」さん。「前作の『シャザム!』は当時、劇場で見て嗚咽するぐらい感動し、個人的にはティーンエイジャーヒーロー作品として最高傑作だと思っています。そのため、『シャザム!~神々の怒り~』に関しては「続編? もう成長しちゃってるじゃん」と斜に構えており、一抹の不安を感じておりました。

しかし、本作もまごうことなき大傑作! 1作目で疑似家族の絆を描いていたのに対し、2作目は家族からの自立を描いていたと思います。言うなれば、2作目は1作目のカウンター。ファミリー映画として「家族といっても束縛されるのは面倒くさいし、いずれ独り立ちしていく」ということを描くのは非常に誠実だと思いました。

また、前作のヴィランは家族に復讐する存在でしたが、今回のヴィランであるアトラスの娘たちは力を奪われた一族であり、言ってしまえば家族のために人間たちに復讐する存在。そして家族というしがらみにがんじがらめになるのはシャザム側もヴィラン側も全く同じであり、鏡像関係になっています。

ビリーが「全か無か」と強制的な連帯を強いていたのは、実の家族から捨てられた愛情の欠落が起因しています。それらを乗り越えて、ある決断とあの言葉を叫ぶ姿に心の底から震えました。大集合するヒーローももちろん好きですが、ティーンエイジャーの成長を丁寧に描いたアメコミ映画ももっと見たいと強く思います。また、ミノタウロス、サイクロプス、マンティコア、ユニコーン。神話モンスター総進撃のくだりが楽しすぎます」といったあたりございます。

「コーラシェイカー」さんも、その家族関係というか、そこのあたりに関して、とてもよかったということを詳しく書いていただいています。相変わらず、さすがの評論でございます。

あとですね、ちょっといまいちだったという方……いまいちなんだけどね、結局褒めてるっていう「ゆう」さん。「今作はいち映画作品としてはあまり質が高いとは思えないもので、なんというか、“無理やり作った続編感”が強い1本でした。

序盤にいくつか、「少年から大人への成長」や「ヒーローとしてのあり方」などの問題提起らしきものが提示されますが、どれも中途半端で消化不良だし、悪役とされる側がパワーを得ると何が問題なのかもよくわからないし、その上、やたらとテンポが早いせいで、まるでダイジェストを見てるような慌ただしさだし。お世辞にも質が高いとは言えない作品だと思います。

しかし、トータルで「見てよかった」、なんなら「もう一度見てもいい! 嫌いじゃない!」と思わせるほど大きな魅力がある作品だと思います。その魅力とはズバリ、可愛げです! この映画の良さは、チャームなのです。むしろチャームしかないとさえ言えるほどです。主役のシャザム(ザッカリー・リーヴァイ)をはじめとしたキャラクター達、ひいてはそれを演じる役者陣の「子供演技」が超魅力的で、上手くて、可愛くて、ストーリー展開なんかよりもどっちかというと、「今画面に写っているこのキャラクターは次に、どんな顔でどんな面白い事をするのだろう?」という点ばかりに意識が常に向いており、作劇としては退屈な映画なのに、最後まで飽きずに鑑賞できる、まさに「魅力が実力を凌駕している」映画だと思います」。なるほどね。たしかにその、演者たちのそういう魅力でずっと見させちゃうパワーっていうのは、当然ありますよね。

他にも皆さん、いろんなご意見いただきました。全部拝読してます。ありがとうございました。ということで、『シャザム!』2作目。『シャザム! 神々の怒り』、私も、TOHOシネマズ日比谷とバルト9で観てまいりました。どちらも字幕版で……吹き替え版をちょっと観る余裕がなくて、申し訳ございませんでした。

■いろいろ振り回されたらしいデヴィッド・F・サンドバーグ監督。ぜひ応援したい

ということで、このコーナーでは結局ガチャが当たらなかった、2019年『シャザム!』の続編にして、DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)第12作目です。と言ってもですね、細かい説明はここでは省きますが、ライバルのMCU、マーベル・シネマティック・ユニバースとは結局比較にならないほど、がちゃがちゃと試行錯誤と路線変更を重ねた挙句、ついに一旦、完全に仕切り直し。今後はジェームズ・ガンと、本作のプロデューサーでもあるピーター・サフランさんが統括する、「DCスタジオ」で作られる「DCユニバース」として再編され、再出発することが、もう既に決まっております。

DCエクステンデッド・ユニバースが今までで、これからがDCユニバース。最初からそうしろ!って感じもしますけども(笑)。「DCU」になるわけですね。で、この『シャザム!』2作目はですね、6月に公開予定の『ザ・フラッシュ』や、今年中に公開されるのかな? 来年かな? 『アクアマン』の2作目などと並んでですね、DCEU、DCエクステンデッド・ユニバース末期の作品であると同時に、一応新たなそのDCユニバースの一部ともみなされるかも、というような、そういう位置づけの作品だそうです。

ちなみにDCEUとしては前作の11作目にあたる、昨年の『ブラックアダム』はですね、今後のDCユニバースには入らない、ってことなんですね。で、ご覧になった方はわかると思いますけども、設定上もバリバリ『シャザム!』シリーズと連なるお話っていうか、本当は1作目の『シャザム!』にヴィランとしてブラックアダムは登場する予定だったという……要は、完全にシャザムと対になる、「黒シャザム」なんですよ、ブラックアダムはね。黒シャザムがブラックアダムなんだけど、なぜかここまでですね、シャザム側との絡みが、一切ないんですね。不思議なぐらいなんすけど。

これですね、『THE RIVER』というところの記事によればですね、どうやら『ブラックアダム』主演のドウェイン・ジョンソンが、今回のジェームズ・ガンが仕切り直すというのが決まる前に、「今後のDCは、俺のブラックアダムとスーパーマン。この2大トップで引っ張っていく!」というご自身の意向を通そうとした結果、ということらしいんですね。

なので、ネタバレを伏せつつ言うのでちょっとわかりづらくなって申し訳ないんですけど、今回の『シャザム!』2作目を観た人ならわかるように、ポストクレジットシーン、一通り話が終わって。メインキャストのクレジットがあって、その後に付くシーン……僕らが大好きな「あのDCEU作品」から、「でも、いくら何でも地味すぎじゃね?」という(笑)、あるキャラクター2人が、カメオ出演しているんですけども。

これは本来ですね、その中で話題に出てくる、その本人たち……つまり『ブラックアダム』に出てくる「あの彼ら」がカメオで出てくるはずだったのが、さっき言った『THE RIVER』の記事によれば、ドウェイン・ジョンソンのストップが……なんと撮影3日前に横槍が入り。撮影3日前にダメになった、という風に、デヴィッド・F・サンドバーグ監督がぼやいていてですね。急遽、現状の形になったという。だから、あんな地味な2人が歩いてくる、っていう(笑)。まあ、俺たちは嬉しいけど、「あの作品」好きだから、っていうことになる。

ということで、そんなこんなに振り回された挙げ句、今回の2作目がですね、興行的にも……まあ批評家受けもあんまりしていない。批評家的にも……観客の点数とかは結構高いですけど、批評的にも予想以上の逆風が吹いている、ということもあってですね、『IGN Japan』というところの記事によれば、監督のデヴィッド・F・サンドバーグさん、「もうスーパーヒーロー映画はしばらくいいや」みたいな感じで言ってたりするという。

ただ僕はですね、1作目、もちろん大好きですし、今回の2作目も、全然悪くないと思ってるので。今回の時評はですね、ちょっとこの、いま落ち込んでいるらしいデヴィッド・F・サンドバーグさんにエールを送る意味で、彼のこれまでのキャリアについて比較的多めに紹介して……デヴィッド・F・サンドバーグさんのことを皆さん覚えて帰ってね、ぜひ応援してください、ということでございます。

ちなみにデヴィッド・F・サンドバーグさん、今回の『シャザム!』2作目の中では、神々が現実社会に入ってきて、持ち上げられて落っことされる、ヒゲの男の人がいますけども……あの「離せ!」って言って、離されて落とされてしまうという、あの人ですね。「持ち上げられて、落っことされる」っていう、なにか比喩的なものを読み取るのは、ゆきすぎだと思いますが(笑)。

■ネットにアップしていたホラー短編から『シャザム!』に抜擢されるまで

この方、デヴィッド・F・サンドバーグさん。スウェーデンの方でして。初期はですね、自作のアニメ作品をYouTubeに上げたりとか、ドキュメンタリーを会社で作ってたりとかしたんですけども。

2013年にですね、ご結婚されたパートナーで、俳優のロッタ・ロステンさんという方。これはですね、今回の『シャザム!』2作目で言うと、皆さん絶対印象に残っていると思います、最初の方、橋の崩壊事故のシーンでですね、シャザムが最初に助ける、車の中の女性。カーステでボニー・タイラーの「ヒーロー」を聴いてるあの人。あの人、怖がり方とか、絶望的な顔になる演技……車に乗ったまま「ああ、もうダメだ」ってなる感じとか、とっても印象に残るいい演技を見せてたと思うんですけども。あの人が、監督のパートナーのロッタ・ロステンさんという方なんですね。

で、デヴィッド・F・サンドバーグ監督作、僕が知る限り全てに、この方、なんらかの形で出演しています。1作目だと、あのドクター・シヴァナの手下の博士の役をやっていたりします。とにかく彼女とのコンビで、2013年からこのデビッド・F・サンドバーグさんは、なんかしらのワンアイディア、つまりだいたい、たぶん彼らの本当の自宅なんだと思われる同じ家の中で、多分に出オチ的でもあるワンアイディアをそれぞれに活かしたホラー短編……3分ぐらいで終わるショートショート、ホラー短編を、次々とネットにアップし始めるわけです。

これ、「ponysmasher」というハンドルネームで上げているんですけれども。これらは今でも簡単にYouTubeなどで観られるんで、ぜひ観ていただきたいですけど。その中で、いっぱいホラー短編を上げているんですけど、その中の『Lights Out』という作品が特に評判を呼びまして。これ、ロッタ・ロステンさん演じる女性がですね、「寝ようかな」と思って廊下の明かり、電気を消すと、廊下の奥に、黒い人のような影がパッと見える。で、明かりをつけると消える。なにもいない。消すと影が見える。「えっ、あそこになんかいる?」。でも、明かりをつけるといない。消すと影。つけるといない。消すと影が……超近いところにいる!みたいな。

そういう3分間のホラーですね。日本で言うと、あれですね。今日のフューチャー&パストを担当していただきます、三宅隆太さんもやられていた、あの『怪談新耳袋』シリーズとか、ああいう感じのショートショートホラー物だと思ってください。ワンアイディアで(作られた短編)。で、とにかくその短編の『Lights Out』というのがすごく評判になって、声がかかって、ハリウッドで長編映画化、自ら監督したのが、2016年の日本タイトル、ご覧なった方も多いでしょう、『ライト/オフ』という作品ですね。これ、製作費500万ドルに対して、興行収入1億ドル以上をあげた大成功作です。

ちなみにですね、その劇中、『ライト/オフ』の中で、男の子の部屋にジャスティスリーグのポスターが貼ってあったりします。あとバットマンのロビンのフィギュアが見えたりしますんで。アメコミヒーロー物が元々お好きだったっていうのは、本当に間違いないんだと思うんですよね。で、これを受けて、今度は『死霊館』シリーズの中の、『アナベル 死霊人形の誕生』というのを監督する。これ、プロデューサーを務めているのは、さっきも言ったピーター・サフランさんですし。

(同作のプロデューサーは)ピーター・サフランとジェームズ・ワンなんですね。つまり(この二人は、DC作品である)『アクアマン』もやってますけども。ということで、つまりDC作品に流れてくる道筋っていうのがここでついた、ということですよね。あと、『シャザム!』のね、今回の作品のシリーズでいうメアリー役。先日扱った『FALL/フォール』の主演でもあります、グレイス・キャロライン・カリーさん、またの名をグレイス・フルトンさん。フルトンさんは本名らしいですけど。グレイス・キャロライン・カリーさんも出てたりします。『FALL/フォール』のあの子ですからね。

まあ、いずれにせよデヴィッド・F・サンドバーグさん、さっき言ったそのロッタ・ロステンさんとのコンビによる短編ホラー群の時点で、既にですね、もちろんホラーだから怖いんですけど、なんかどこか笑っちゃうような、ちょっとダークコメディっていうかな、コメディのセンスは既に色濃く感じられる作品群でしたし。

『シャザム!』以前の2作の長編ホラーは、両方ともですね、親に捨てられるとかも含めたですね、「保護者の十分な庇護を受けられない子供たちの視点」が主軸になっている。『アナベル』の方なんかは、孤児たちがある夫婦のもとに、お屋敷に入ってきて暮らす、っていう……なんかセットとかも含めて、ほとんどもう『シャザム!』のあの家みたいに見えるっていうか、そんな感じで。

要は、それまでホラーを撮ってきた人とはいえですね、作り手としてのカラー的にも、さっき言ったその人脈的にも……ピーター・サフランとかの人脈的にも、『シャザム!』に抜擢されるのは、必然というか、ふさわしい人材だったといえると思います。デヴィッド・F・サンドバーグさん。

■全てがキュートで好ましい。傑作だった1作目『シャザム!』に対して今作は…?

で、果たして1作目の2019年の『シャザム!』はですね、DCエクステンデッド・ユニバースの中でも比較的大成功の部類に入ると言ってよかろう、快作に仕上がっていましたよね。まあ、子供が変身してムキムキの大人のヒーローになる!というね。なんだろうな、トム・ハンクスの『ビッグ』とか、古くはね、藤子不二雄A先生の『オヤジ坊太郎』とか……もう出す例がニッチすぎてすいません(笑)。『オヤジ坊太郎』とか、そんな感じのあれなんで。必然的に当然、ジュヴナイル物、ということになっているわけです。

まあジュヴナイルヒーロー物といえば、皆さん、代表格はやっぱり『スパイダーマン』。特にジョン・ワッツ監督、トム・ホランド主演の、例の最新三部作はですね、過去の『スパイダーマン』映画と比べても明らかに、(主人公が)青年というよりははっきり少年、比較的幼めだったりしたわけですよね。

でですね、エンドクレジットのアニメーションなど、モロにジョン・ワッツ版『スパイダーマン』っぽいといってもいい『シャザム!』1作目ね……『シャザム!』1作目、エンディングのあのアニメが始まった時に、「ちょっとなんぼなんでも、ジョン・ワッツの『スパイダーマン』っぽすぎない?」みたいに思いましたけども。ちなみに、ポップな手描きのアニメのあれって、源流はジェームズ・ガンの『スーパー!』ですよね。どう考えてもね。

で、『シャザム!』なんだけど。これはトム・ホランド版の『スパイダーマン』より、さらに子供寄りっていうか。特に弟ちゃんたち、妹ちゃんたちはもう、「児童」っていうべき年齢ですよね、はっきり言って。戦うとか、ちょっとやめた方がいいんじゃないか?っていう年齢(笑)。まあ、その『グーニーズ』的なズッコケちびっこチーム感ゆえにですね、変身後の、その肉体的にももう立派すぎるほどの成人、というギャップがまた、おかしくなってくるし。

また主人公ビリーのですね、要はちっちゃい頃、子供の時にお母さんとはぐれて、っていう、あの場面。本当に痛ましいし。そのはぐれてしまったお母さん……母を訪ねて17年、旅を続けているわけです。母を訪ねて17年の旅の、あの胸を締め付けられる結末などがですね、非常に情感豊かに描かれているからこそ、クライマックスでの新たな家族化というか、孤児同士が新たな家族になっていく、そしてチームになっていく、というのがまた、さらにグッとくる作りにもなっていましたし。

あと、最後の最後のオチね。もちろんすごく、本当に子供っぽい、というのがふさわしい……なんていうか、子供っぽい溜飲の下げ方をする(笑)ラストなんですけど。あれって言ってみれば、要するにマーベルとは違う、DC特有の、「神のごとき超人」ばっかりいるよな感っていうのを、しょうもない身も蓋もなさで相対化したようなラストのオチ、ってことですね。「すっご! こいつと一緒、すっご!」みたいな(笑)。ということで、全てがキュートで好ましい1作になっていた、僕も傑作だと思います、1作目『シャザム!』。僕も大好きです。

その意味ではですね、今回のこの2作目。メインキャストがね、あっという間に大きくなっちゃっていて。その、大人に変身した時のギャップがつきづらくなった分……それこそさっき言ったグレイス・キャロライン・カリーさんなんかは、もう変身した後も、そのままですから。今回はね。ギャップがもう、ついてないわけです。その分ですね、なんか変身後の振る舞いの幼稚さが、やや過剰にデフォルメされているようにも見えたりするくらい。ちょっとそこの育ちすぎちゃった感……これ、難しいですね。やっぱり、子供を主人公にしたシリーズ物ってちょっと難しいな、と思ったりとか。

あとはジャイモン・フンスーさん演じる魔術師。1作目、誰がどう見ても死んでるでしょう?っていうのが(笑)、特にそんな説明もなく、シレッと生きていることになっていたりとか。いろいろユルめな2、ということは間違いないと思うんです。何の説明もないよね、別にね。1作目、見返しましたけども。どう考えても死んでるよな?(笑) 死んでる以外の描写では、あり得ないと思うんだけど。

■思わず落涙させられるヒーロー論。からの、美しいクライマックス!

で、今回は何しろですね、先ほど(リスナーの感想メールで)おっしゃっていたような主人公ビリーの、なんというか、親離れならぬ新たな家族離れというかね。そういう自立の物語の部分もさることながら、今回僕が印象に残ったのは、やっぱりジャック・ディラン・グレイザーさん演じる、フレディ。足に障がいがある、あの子ですよね。彼と、スピルバーグ版『ウエスト・サイド・ストーリー』のマリア役でおなじみレイチェル・ゼグラーさんが交わす、さりげなくも本質的、そして僕はすごく感動的だと思った、「ヒーロー論」ですね。結局ヒーローっていうのは、腕力の強さのことじゃないんだよ、っていうことですよね。最初にレイチェル・ゼグラーさんが、「殴られるのを覚悟で私のことを守ってくれたわけでしょう? だから、あなたが……ヒーロー」っていう。あそこで俺、ちょっと落涙しちゃいましたけどね。

とか、そのヒーロー論からの、クライマックス近く。文字通り、完全に無力な彼らが、それでも強大な力に、身を寄せ合って……彼の、その本来はハンディキャップの象徴でもあるようなその杖を、まるで魔法の杖のようにかざして、本当に立ち向かっていく、というその姿の、美しさ、気高さ、みたいなところ。そこからさらに、ビリーの精神的自立にも繋がっていく、ということで。この絵面でもちょっと、思いもかけず落涙させられるというか。ああ素晴らしい、いろんな意味で美しい、っていう瞬間だったりしましたね。ぶっちゃけですね、そういうなんていうか、繊細なドラマ描写の部分に本当に光る部分が多い人だな、っていう風に、デヴィッド・F・サンドバーグさん、私は思ったりします。で、それがですね、最終的にヘレン・ミレン演じる神が、やっぱりその主人公のビリーこそが神の力を持つにふさわしい人物だったんだということを認める、その最後のセリフにも通じたりして、ということで。

■いろんなことを言われるかもしれないが、デヴィッド・F・サンドバーグさん。あなたは頑張った!

もちろん序盤の、さっき言ったその橋の上での人命救助シーン。メンバーそれぞれのズッコケな個性を際立たせつつ、やっぱりこのスーパーヒーロー映画として、まずは見せるべきことを……私、いつも口を酸っぱくして言ってることです。私、言いましたよね?っていうことを(笑)、きっちりちゃんと見せてくれている、というあたり。

1作目、成り行きで超人的力を得た主人公たちが、「本当の意味でヒーローになっていく」2作目……しかもそれは1作目での、言っちゃえばちょっと無責任な行動のツケが来るというか、その責任を改めて自分で取る、という形にもなっているということで。私はこれ、ヒーロー映画の続編として非常に、大変筋が通った作りになっている、という風に思いますね。

中盤以降、怪獣映画、モンスター映画としてもサービス満点になっていくのもね、もちろんすごく楽しいですし……あとこれ、実は1作目のクライマックスもそうなんですけど、昼間から夜に、ちゃんと同一舞台の中で、時間の経過というのが画面の中でしっかり描かれていく、というのも、何気に丁寧な作りだと思います。

もちろん、ギャグも最高ですね。特にあの、ペンの「スティーブ」のくだり。スティーブに口述筆記させた、その口述筆記のそのままをヘレン・ミレンが仏頂面で読み上げる、あのくだりのギャグとか、本当におかしいですよね。

まあ、先ほど言ったような、メインキャストがすぐに大人になっちゃう問題もあってですね、少なくともこのシフトでこれ以上続けるのもう限界、という感じもするのはたしかだが……だからこそ、たとえばラスト近くに用意された、あるサプライズ。途中のコメディ演出が伏線にもなっているので、余計に本気で驚く、という。まあ正直、悔しいけどアガってしまいました、というある演出がありますけども……ついに終わりを迎えようとしているDCEU、エクステンデッド・ユニバースの方、その、おそらく最大の功労者ですよね。DCエクステンデッド・ユニバース最大の功労者は、なんだかんだで、「この人」の力が大きかった。なんかいまいちだなって作品も、「この人」が出ることで救われたことが何度もあった、という、あのお方。その、おそらくは……というのは、(そのキャラクターの)3作目が、製作中止になりましたんで。おそらく、最後の姿かもしれないよ、というその姿を目に焼き付けておかないと……ということですし。

さらには、最後の最後ね。エンドロールがずっと終わった後、最後の最後にもういっこ、つくんですが。これは完全に、1作目を見てないとわかんないパロディです。ただ、1作目を見てると本当に、あまりのくだらなさに「もう、しょうもなっ!」って笑う感じの、最高のあたりでございました。

ということで、とにかく「今」見ておかないと……DCEUはもう終わりますんでね。改めて言いますと、デヴィッド・F・サンドバーグさん、いろんなことを言われるかもしれませんが、あなたは頑張ったし、いい仕事をした! 本当に。今回も、気軽に楽しめる。それでいて押さえるところは押さえて、グッと来るところはグッと来る、本当にいい作品だったという風に思います。ぜひぜひ……DCEU、終わりが近づいてますけどね。これはでも、(このあとのDCユニバースに)繋がっていく可能性がありますんで。いろいろの、ドウェイン・ジョンソン絡みのトラブルがあったのを乗り越えて作ったと思えば、さらにグッと来る(笑)。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(次回の課題映画はムービーガチャマシンにて決定。1回目のガチャは、『死体の人』。1万円を自腹で支払って回した2回目のガチャは、『シン・仮面ライダー』。よって次回の課題映画は『シン・仮面ライダー』に決定! 支払った1万円は今週はウクライナ難民支援に寄付します)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしは

こちらから!

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