調律の違うピアノ3台を持ち込んで録音~映画『BLUE GIANT』脚本家の南波永人さんが見た壮絶な録音現場

パンサー向井の#ふらっと

TBSラジオで月曜から木曜、朝8時30分からお送りしている「パンサー向井の#ふらっと」。

「パンサー向井の#ふらっと」はTBSラジオで月曜~木曜の朝8時30分から放送中!    

3日8日(水)10時からは『ふらっと向井くんち』!
スタジオを『向井さんの家』に見立てて、お隣の三田さんと“お客様”をお迎えし、お土産話を伺います! 
本日のお客様は、話題の映画『BLUE GIANT』の脚本家で、小説『ピアノマン~BLUE GIANT 雪祈の物語~』著者の南波永人さん!

自分に一番近いキャクターは…雪祈君かな?

向井:ジャズの漫画ってなかなか難しいんじゃないかって思うんですけど。
南波:そうですね、石塚さんは『岳』という山の漫画を描いていたので、今回は音楽の漫画っていうことで本当に演奏シーンが描けるのかっていうのが一番問題だったんですけど。
向井:もちろん漫画は音が出ないわけですもんね。
南波:迫力ある音楽シーン描けるの?って聞いたら、描ける描けるって2回言うんで、じゃあやってみようかっていう感じで始まりました。
向井:『BLUE GIANT』はいろんな章がありますけど、まず一番最初は宮本大という男の子と、小説『ピアノマン』の沢辺雪祈と、玉田というドラムの3人の物語で夢を目指す上での苦悩とか挫折とか葛藤、劣等感とか、そういうこともかなりこの物語に入ってますけど、南波さん自身も夢を目指すにあたって、今の仕事するにあたってそういうことを感じてきたからこそ描けるみたいなところってあるんですか。
南波:普段は漫画の編集者をしていて、いろんな新人さんを見たりとかしてきたので、みんな本当に苦しんでるなと。苦しみながら頑張ってるなっていう姿を見てきたので…あらゆる業界、あらゆる場面でそういうことがあると思うんですけど、今回ジャズプレーヤーの中にそういう気持ちを乗せさせていただいてるっていう感じですかね。
向井:ご自身が一番近いなと思う登場人物って『BLUE GIANT』の中にいらっしゃいます?
南波:僕は…雪祈君かな?と。
向井:雪祈君は小説『ピアノマン』でも主人公にもなってますけど、雪祈って結構天才肌っぽいですよね、一見ね。ピアノで才能があるように見えて、スマートで。ただ、よくよく見てみると彼の中でかなり葛藤したりしてるっていうキャラクターですもんね。
南波:今回劇中でも雪祈君が大人にものすごく怒られるシーンが、ボロクソに言われるっていうシーンがあるんですけども。僕、今回小説を書かせていただくときも、最初に担当編集者からボコボコに言われて。雪祈君だな~と思いましたね。
向井:そうですか(笑)。ご自分と重ねながら。
南波:負けないぞ!っていう、はい(笑)。

スーパードラマーが下手にドラムを叩くのは非常に難しい

向井:実際に音が流れるというのは漫画と本当に大きく違うところじゃないですか。このジャズを奏でるメンバーのキャスティングもすごい人たちにやってもらってますよね。
南波:そうですね。上原ひろみさんが一番最初に決まっていた方なんですけども、連載当初からいろいろアドバイスをいただいてたりしていたので映像化にあたってはまずひろみさんにお願いするところから始まったという感じですね。
向井:そうですか。この3人組のジャズバンドのドラムの玉田という役はゼロの経験から始める訳じゃないですか。だから、役でいうとうますぎても…っていうところもないですか?
南波:石若駿さんというドラマーが担当してくれたんですけども、本当にスーパードラマーなので。一番最初はど素人のドラミングをしなきゃいけないんですけど、やっぱスーパードラマが下手に叩くっていうのが非常に難しかったみたいで。録音も見たですけどかなり苦労されてましたね。
向井:下手に叩くという苦労!そこの成長もブルージャイアントの大きなポイントですもんね。
南波:下手に叩いてても「まだうますぎる」って周りから言われて。
向井:音楽聴きに行くだけでも価値のある映画で…ぜひ劇場で体感していただきたいですね。

僕、仙台出身なんですけど…仙台編を僕が「切りますか?」って(笑)

向井:漫画に最初から関わっていますけど映画の脚本ってなったらまた全然違いましたか。
南波:全然違いますね。漫画はどんどん話が進んでいくんで、すぐ次の話次の話…って考えていかなきゃいけないんですけど、映画はずっと同じ話を詰めていくというか精度を上げていくっていう作業なので…また関わる人数が多くなっていくというのもね。
三田:原作のファンの方もたくさんいらっしゃるプレッシャーとかは?
南波:そうですね、それはあんまりなくて、むしろ逆に原作を読んでない方にどう届くかっていうことを思ってましたね。
向井:漫画の『BLUE GIANT』で主人公の宮本大が生まれた仙台の話が漫画だと4巻くらいあるんですけど、そこを今回は一切ナシで東京編からなんですよ。だからそれだけバックボーンがあるものを初めて見た人にも読んだことがある人にも満足させるっていう作業ってなかなか難しいんじゃないかなと思うんですけど。
南波:僕、仙台出身なんですけど…仙台編を僕が「切りますか?」って(笑)。
向井:思い入れのある…ねえ?(笑)
南波:ありますけども、しょうがないという…。じゃないと4分の1、ライブシーンなんですけどそれが入らなくなっちゃうんで。ライブシーンをとにかく見ていただきたいなと思って。
向井:どこを残してどこを落とすかっていうのはいろいろ話し合いながら決めていくものなんですか。
南波:そうですね、話し合いもかなり…1年ぐらいやってましたかね。
三田:なんかクライマックスとかも原作とは違う展開になっていてすごく楽しみな部分おありになると。
南波:原作ファンもおそらく喜んでくれるだろうし初めて見た方も喜んでくれるラストなんじゃないかなと思ってっああいうふうにしてみました。

上原ひろみさんがピアノを3台持ち込んでシーンごとにそのピアノを使い分けて…

南波:『JASS(ジャス)』っていう作中のトリオの録音に立ち会わせていただいたんですけども、面白かったのは上原ひろみさんがピアノ3台持ち込んで、シーンごとにそのピアノを使い分けて。すごく調律されたピアノ、そうでもないピアノ、もっとそうでもないピアノを、場面場面で使い分けてるのを見て、そこまでやるんだ、と。
向井:調律がそうでもないピアノを使うシーンっていうのはどういうシーンなんですか?
南波:例えば、『Take Two』という場所で、雪祈君が練習中にピアノを弾くんですけども、あそこのピアノはそんなに精度が高くないはずだろうと。
三田:役者がいろいろ組み立てるときみたいに本当に突き詰めて、その音色も全て計算されてるんですね。
向井:その場所にあるピアノはこのぐらいの調律だろうっていうことで変えてるんですか。それって作る側から提案したことじゃなく上原さんがご自分での判断で?
南波:ご自分で、はい。
向井:やっぱりその録音シーンは立ち会ってみてやっぱり感動されましたか。
南波:めちゃくちゃ感動しますね、その時点でもう…うわっ!すごいな、と。サックスの馬場さんが主人公の宮本大の音を出そうとするんですけども、もっと『大っぽく』っていうふうに言われたりして。で、大を降ろそうとして何度も何度も吹いてる姿を見て、もう倒れちゃうんじゃないかと。

映像化が決まる前から漫画の中には譜面が描かれていた

向井:漫画の中で雪祈が作曲した曲があるじゃないですか。でもそれって漫画だからどんな曲か作ってなかったわけですよね?
南波:それがですね、元々上原ひろみさんが作っていて、漫画の中に小さく譜面が出てくるんですけど…もうその時点から。
向井:漫画の段階できてるんですか?
南波:そうなんです。映像化になるとは思ってなかったんですけど、一応このときのこのイメージっていうのをなんでしょう…遊びでじゃないですけど漫画の中の譜面にはちゃんとした曲が載ってるんですよ。
向井:その時点で完成してたんですか!?

『ピアノマン』執筆中は雪祈君みたいに牛丼を食べたくなったり…

南波:壮絶な録音現場を見た後だったし石塚さんと毎回頑張って漫画を描いているんで、かなりちゃんとしたものを書かなきゃいけないと…ちょっと熱く熱くなっちゃったんですけども。
向井:熱量が伝播したんですね(笑)
南波:小説単体として映画や漫画に肩を並べるぐらいのものを書きたいなと思って、それでこういう形でやらせていただきましたね。
向井:漫画で描かれていないシーンもいっぱい『ピアノマン』にはあるわけじゃないですか。そのキャラにどうやって潜っていったんですか。
南波:夜中に1人で仕事場でカタカタカタカタとやるんですけども、もうとにかく1行1行真摯にやろうと。ちょっと力の抜き方もわからなかったので一文字一文字とにかく真摯に書き続けるみたいな感じでしたね。
向井:雪祈のバックボーンを想像してどんどん膨らませていくっていう感じですか。
南波:そうですね。だから食べ物とかも、ちょっと雪祈君と同じようなものを食べたくなるいうか。貧乏な大学生なので牛丼食べたりとかチェーン店のおそばとかうどんみたいなのを食べながら、ひたすらそれをやり続けるっていう感じでしたね。
向井:元々漫画にあるシーンも幸徳ってこのときこんなこと考えてたんだとかがこの小説で描かれてるから原作を読んだ方でも映画から見た方でもどこからでも本当入れますよね。

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