嘘脳【玉置後記 2023.3.5】

脳盗

番組内でタイタンは、「ポッドキャストを始めるにあたり俺たちがやったことはSHUREのゴッパーを買いに行っただけ」と見事な弁舌で捲くし立てた挙句、収録が終わってもなお喋り続け、SHUREの方々が帰ってもなお喋り続け、TBSを出て駅に向かう間もまだ喋り続けていた。

SHUREの魅力を叫びながらホームを進む彼の後姿を眺めていると、ふとゴッパーを初めて買いに行った夜のことを思い出した。

「周啓君マイク詳しい?今から俺のマイク買い行かない?」

ポッドキャストの収録を終えた夜、音質を上げるべく、機材に疎い彼が私を頼るようにして提案してきたのである。

「いいね、まあ任せて」

咄嗟に私は嘘をついた。
機材に詳しかったことなど一度もないが、なんか負けたくないので詳しい振りをして同行したのである。
まあゴッパーが無難だろ、と知っている名前を絞り出した。

目的地は二子玉川の駅ビル、閉店間際の島村楽器に滑り込むべくホームを走る。
ところがホームから改札に向かう階段を駆け下る道すがら、魔が差したのか彼が私を撒こうとしてきた。
私はなんか負けたくないので全速力で彼を追い抜き、改札を走り抜け、その勢いのまま視界に入ったロクシタンに駆け込み、シャンプーを買った。

数分後にタイタンから電話があった。

「どこいる?楽器屋着いたけど」

私はハンドクリームのテスターを手の甲に塗りたくりながら、まあゴッパーが無難だろ、と知っている名前を絞り出した。そして彼は、ゴッパーを買った。

実はタイタンがSHUREのゴッパーを買ったのは、ポッドキャストを始めてから数ヶ月後のことである。でも、よりよい音質を求めてゴッパーを買いに行ったことは事実である。これは嘘をついたことになるのだろうか。

文:玉置周啓

 

【パーソナリティ】

TaiTan

ラッパー。DosMonosのメンバーとして3枚のアルバムをリリース。台湾のIT大臣オードリータンや、作家の筒井康隆とのコラボ曲、テレビ東京との共同で『蓋』を企画するなど、領域を横断した作品づくりが特徴。また、Spotify独占配信中のPodcast『奇奇怪怪明事典』やTBSラジオの『脳盗』のパーソナリティもつとめる。

玉置周啓

4人組バンドMONO NO AWARE、アコースティックユニットMIZのギターボーカル。作詞作曲をつとめながら、エッセイ等の執筆活動や漫画やイラスト等も手がける。 Spotify独占配信中のPodcast『奇奇怪怪明事典』やTBSラジオの『脳盗』のパーソナリティもつとめる。


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