3・11の被災はそれぞれ。まとめ上げてしまうメディアの課題~報道特別番組「伝える~東日本大震災から12年」

TBSラジオでは、3月11日 土曜日 午後1時からに2時間、
『報道特別番組「伝える~東日本大震災から12年」』をお送りしました。
東日本大震災発生から12年を迎え、少しずつ「風化」という言葉も聞かれる中、震災の経験や教訓をどう伝えていけばいいのか、考えました。
荻上「関東の放送局であるTBSラジオだと、東京近郊の体験を送ってくれる方がとても多いです。それぞれの災害の経験があり、それぞれの心配や苦労などがあり、そして次どう備えるのか?そうした課題がある」
(※中略)
「地震がどのタイミングで来るのかというのは予想が難しい。阪神淡路大震災は早朝の5時46分。東日本大震災はお昼の2時46分。次の地震が深夜かもしれないし、昼間かもしれない。真冬かもしれないし、真夏かもしれない。家族と離れ離れかもしれないし、電気や電波が通じないかもしれない。備えが必要。震災特番や震災に関する情報は、震災にあった方々が今どうしてるのか。そこにはどういったシーンが必要なのかを考えるのと同時に、他にはどういうものが必要なのか考えることが大事かと思います」
武田「今日、色々な人の話を聞いて、皆さんがおしゃっていたのが…『まだ語れないことがある』、あるいは『語ることにためらいがある』。こういう方が沢山いるんだということを凄く考える。僕たちは『12年も経った』と言ってしまう。東京にいる人たち、とりわけメディアが凄く整理をして、3・11のタイミングでまとめ上げてしまうところがあるじゃないですか?そこを今一度考えなくちゃいけないなと強く思いましたね」
荻上「メディアはメディアで、次は自分たちが被災者になった場合の取材はどうするのか?具体的な課題として考えていると思いますね」
南部「『もしも』を考えるには最大限に想像力を働かせて…でも想像力も大変だから私はぜひ行ける方は、その場に行くと何か言葉を超えて分かることっていうのがある。皆さんなりの距離感で行ける方は行って頂きたいと思いました。様々な伝える形があるから、入ってきたものをどういうふうに処理するかっていうことだけでもそれを考えるだけでも全然違うのかななんて思いました」
荻上「未体験の方にとっても話を聞く、現地に行くっていうのは強制的に体に刻む一つの手段でもあるんですよね。それだけで全てを学ぶことはできないけれども、自分の立場だったらどうしようかというふうに置き換えて考えるということができる。もちろん、災害対策というのは教育もパッケージ化して『水を備えておきましょう』とか『ラジオを備えておきましょう』とか、そうしたものを伝えるだけでもとても大事なものではあるんです。でも、さらに一歩そしてさらに一歩というふうに、自分の安全、身内の安全などを確保するという点では、そうした人々の話をじっくり聞くという機会とても大事かなと思います。今日リスナーの皆さんから頂いたメールで、皆さんがどうしてたかって話を聞くことも想像力っていうことを考えるということに繋がるなと思いました」
◆1時台
・IBC岩手放送アナウンサー・甲斐谷望(かいたに・のぞみ)さん。
2011年IBC岩手放送に入社後、
被災地の放送局員として、復興のあゆみや地域が抱える課題を取材してきた甲斐谷さん。
今後の課題の課題について、「当時の話をしてくれる人が限られてきたなと感じます。高齢化はもちろん、当時の記憶が薄れていくと感じと、どこか断片的になっている人も。もしくは「もう話したくないな」という人もいます。そうなると、“待つ”ことも大事になってくる」と伝えてくれました。
甲斐谷さんからのリクエスト曲、震災後に園児が歌ってIBS岩手放送に送ってくれたという「空より高く」の合唱曲(原曲)を放送しました。
・TBSラジオ 国会担当・澤田大樹記者
震災当日から現地に入り、取材を重ねてきた澤田記者。宮城県の東北放送の社内に「雑魚寝」させてもらい自転車で取材をしたなど当時の様子をスタジオで話してもらいました。地元が福島県の澤田記者は、そこでの被害を直視できなかった葛藤もあったそう。また、現在担当している国会周辺の情報として、きょう福島県主催の追悼式典に出席している岸田総理の動きや2031年まで復興庁を機能することになったことなども解説しました。
・ラジオ福島「3.11特別番組『忘れない、空を。』」山地美紗子アナウンサーと、タレントで俳優のなすびさんと中継。
午前から放送している特別番組を繋いで、南相馬の「道の駅 南相馬」から伝えてもらいました。ラジオ福島で放送した発生当時の地震の避難についての呼びかけや、なすびさんが支援している、故郷・福島県の復興と再生のために行っている「エベレスト登山」などの活動についてお話しいただきました。山地アナウンサーからは「是非福島にいらしてください!!」と、力強いメッセージも。
・東北放送アナウンサー・林田悟志さん
2013年に東北放送に入社した林田さん、「震災当時は県外出身者だったため負い目を感じた」と、率直な思いとともにこの12年間を振り返ります。気仙沼市の“ヤマヨ食堂(https://yamayosuisan.com/)”での取材のエピソードも披露していただきました。

◆2時台
・TBSラジオ・崎山敏也記者
福島県双葉町で取材中の崎山記者、福島第一原発の敷地から約5キロの場所から伝えてもらいました。場所や人によってそれぞれの状況は全く違うと強調し、「震災も大変だったけえれどその前にも暮らしがあったこと」を大切に取材をしているということです。
・TBSラジオキャスター 田中ひとみ
2011年6月出版、震災からわずか3ヶ月で発行された、『つなみ』に注目。保育園から高校生、80人の、当時の当時の記憶が、作文としてまとめられていて多くの方に読まれました。「移転して住む」「そこに住み続ける」というそれぞれの選択。「かわいそうな被災者」「困難を乗り越える子どもたち」という、一面的な見方をして欲しくないという意見があるとレポート。
武田「メディアがまとめ上げてしまう3・11の課題が見えてきた」
・大槌新聞社・菊池由貴子さん
東日本大震災後、被災した町民の生活に直結する生活情報や再建情報などを不足に感じ、2012年6月に「大槌新聞」を創刊。取材や執筆、編集、事務経理など1人でこなしました。外からやってくるメディアとの温度差に複雑な思いを数年間抱えたエピソードなど、葛藤をお話しいただきました。
そして「黙とう」。
東日本大震災発災時刻の14時46分に、ラジオの前の皆さんと一緒に1分間の黙とうをしました。

2011年の東日本大震災から12年。その報道量も減少し、「風化」が進んでいるとも言われる一方で福島第一原発事故は収束しておらず、震災の影響は、未だに多くの被災者を苦しめています。TBSラジオでは東日本大震災発生直後から、特別番組を編成し、リスナーの安全を守るための放送をお届けしましたが、初めてと言ってもいい巨大震災を目の前に、多くの課題が浮き彫りになりました。正しい防災情報の伝え方やSNSの使い方、地震・津波などからの避難の在り方、震災の教訓や経験を今、改めてリスナーの皆さんと共有する2時間となったことを祈ります。
(番組スタッフ 榎本祐太郎・加藤奈央)
TBSラジオ 3.11 報道特別番組「伝える~東日本大震災から12年」 放送日時:2023年3月11日(土) 13:00~15:00 出演:荻上チキ・南部広美(荻上チキ・Session)・武田砂鉄(アシタノカレッジ)崎山敏也記者・澤田大樹記者・田中ひとみ(TBSラジオ)菊池由貴子(大槌新聞社) 他 |