いじめに反対「ピンクシャツデー」

人権TODAY

カナダの高校での出来事がきっかけ

「ピンクシャツデー」は2月の最終水曜日に、ピンクのシャツを着たりピンクのものを身に着けたりすることで、いじめ防止・いじめはダメと意思表示をする世界的な活動です。 

そもそもは2007年に起きたカナダでの出来事がきっかけです。高校生の男子生徒がピンク色のポロシャツで登校したところ「男のくせにピンクを着ている」といじめられてしまった。それを知った上級生が「じゃあ僕らもピンクのシャツを着ていじめストップを」と提案したところ、呼びかけに賛同した生徒たちが翌日ピンクのシャツで登校し、学校中がピンク色に染まって、いじめはなくなったそうです。 

こうして始まった「ピンクシャツデー」。カナダでは政府も情報発信をしていて、トルドー首相もメッセージを出しています。多くの企業も参加しているほか、パトカーにピンクのステッカーが貼られていたり、バスもピンクシャツデーのラッピングがされているそうです。テレビのニュース番組でもキャスターがピンクのシャツを着て伝えているそうです。 

活動は世界に広がり、日本でも今年のピンクシャツデーである2月22日を中心に各地でイベントが行われました。特に神奈川県内では、多くの施設がピンク色にライトアップされたり、企業・団体がイベントを開催したりと大きな取り組みとなりました。

神奈川県内のピンクシャツデー活動を主催した、神奈川子ども未来ファンドの吉富多美さんはーー

吉富多美さん

「いじめストップ」とか「多様性」とか、そういうものを受け入れられるような地域にしていこうという思いがあったので、最初に行政、それから企業・団体と、全てが手をつないだ形でやっていこうと。やっぱり1つの団体だけでやっていると、どうしても目立たないですよね。それで企業さんにも声を掛けたら、デパートが支援してくださって、店の中をピンクに染めてくださったり、チャリティーで売り場を作ってくださったりして応援してくれました。市議や県議さんも2月の議会の時にピンクの缶バッジをつけてくださっていました。

サッカー少年・少女への啓発活動

横浜市内では小学生のフットサル大会が開催されました。これは市内でサッカースクールを開いている加藤晋平さんが「ピンクシャツデー」に賛同して企画したものです。

フットサルの試合の様子

「FC SANCTUS」代表 加藤晋平さん

22日のピンクシャツデーの当日のイベントも、子どもたちと一緒に横浜駅でチラシを配りました。いじめはささいなきっかけで当事者にもなるし加害者にもなってしまうんですよね。だけど、せっかく私たちサッカーチームなので、サッカーを通していろんな方と協力しあって、何か1つの輪みたいなものが広まっていくと、顔見知りだったりとか、知ってるよっていうだけで、もしかしたらいじめが減るんじゃないか。周りの親の目とか大人の目というのも大事なので、ここで子どもたちが顔を覚えてもらえれば、街歩いてて何か危険な目があれば助けてもらえたりとか、そういうきっかけにもなるかなと思ってます。

加藤晋平さん(右端)

閉会式では、子どもたちに声を出すことの大切さを教えていました。「声を出せば仲間を助けることができる。そうすればきっといじめもなくなる」と、表彰式では試合中に声をよく出していた子が表彰されました。

参加した小学生たち

フットサルの試合の合間には、いじめを考えるワークショップも開かれました。子どもたちは自分がいじめにあったらどうするか、いじめを見たらどうするか考えました。また、全国中学生人権作文コンテスト横浜市大会で最優秀賞となる横浜市長賞の『ぼくはスカートを履いている』の朗読も行われました。

ワークショップに参加した小学生たち   
「いじめは絶対にいけない。みんなには平等に優しくしようと思って」   
「自分がいじめたりしたら、ちゃんと人に正直に言ったりとか、いじめられている子がいたら寄り添ってあげたりする」   
「いじめられたことは数多くあるけど、いじめた人は謝り、いじめられた人は全部味方に言って、いじめをなくしてほしい」   
「いじめられている人の気持ちになって、その人がどう思っているのかをしっかり考えてあげることが大切だと思いました」   
「いじめをされている人がいたら声をかけて助けよう」

いじめについて学ぶ小学生たち

ひとりひとりが気楽に参加を

このような「ピンクシャツデー」のイベントはさまざまですが、何よりも大事なのは「個人個人がいじめ反対の意思表示をすることだ」と話すのは日本ピンクシャツデーの代表・高梨京子さんです。

高梨京子さん

皆さん、団体を作ってピンクシャツデーをやろうと思うと「具体的にどういうことをしたらいいかわからない」とおっしゃる人が多くて、でもそもそも目的はいじめがなくなる世の中を目指すことだから、イベントをするために運動があるわけじゃないので「必ずしもイベントをやらなきゃいけないわけではないですよ」とお伝えしています。だから気軽に出来ることから、着ていくだけでもいいしピンクの物を身に着けて一日過ごすだけでも全然いいんです。みんなが思い思いに気楽に参加していただける「バレンタインデー」みたいに根付いてほしいと思います。   

日本もいじめのニュース多いじゃないですか。どうしてもいじめというとネガティブなイメージで、関係ない人は自分には一切関係ないと思ってしまいがちじゃないですか。でも社会全体でちゃんと向き合っていかないと、たぶん無くならない問題だと思っていて、だからひとりひとりが意識を向けることで全然違った世の中になるんじゃないかと思います。いじめとか差別・偏見のない社会にするためにも、ピンクシャツデーの運動を使ってもらえればいいなと思ってますね。

加害者を生み出さない世の中に

最後に、いじめの当事者ご家族はどう考えているのでしょうか。子どものいじめ問題などを調べる「ここから未来」という団体で、遺族の一人として講演活動などをされている篠原宏明さん。2010年に当時中学生だった息子さんをいじめで亡くしています。

篠原宏明さん

講演では子どもにもわかりやすいように「いじめって何だろう」というところからスタートして、「自分の言ってることやってることが、ひょっとしたらいじめにつながってるんじゃないか」とか、「自分は遊びのつもりでも、それがいじめに取って代わっているのではないか」とか、そういった危険性を話しています。   

ただ、我々がどれだけ声を上げても本当に力及ばずのところがありまして、いじめというものが完全になくなるということは難しいんだろうと思いますけれども、いじめというのは人間が作ったものであるんだから、人間がなくせないはずはないという思いがあります。いじめをなくす一番簡単な方法というのは、いじめてる側を作らないことなんですね。被害者側がどんだけ変わろうとしても加害者側がいじめをやめない限りはいじめはなくならない。であれば加害者を生み出さないという世の中に変わっていければ、我々の目標であるいじめをなくすことができるんではないかと。そういう思いを我々大人が持たないと、子どもたちはいじめがずっとなくならないじゃないかと絶望的な概念から抜け出すことができない。我々大人があきらめてはいけない。   

どうしても日本は、ちょっと飛び抜けた変わったことをした子とか、ちょっと変な子を阻害する傾向がありますよね。「みんなが同じでなきゃおもしろくない」とか、「みんなが一緒じゃなきゃいけない」とか、多様性を認めないところがありますので、ピンクシャツデーというのは多様性について考えるテーマの一つとしてわかりやすいのではないでしょうか。

(TBSラジオ「人権TODAY」担当:進藤誠人)

■取材協力    
神奈川子ども未来ファンド ピンクシャツデー神奈川推進委員会 https://pink-shirt-day-kanagawa.com/   
日本ピンクシャツデー https://pink-shirt-day.com/   
ここから未来 https://cocomirai.org/

『人権TODAY』は、TBSラジオで毎週土曜日「蓮見孝之 まとめて!土曜日」内で8:20頃に放送。人権をめぐるホットな話題をお伝えしています。

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