銭湯の力を地域のコミュニティ作りに生かしたい(東京・北区滝野川の「稲荷湯長屋」)

人権TODAY

 東京・北区滝野川6丁目にある「稲荷湯」は大正時代から営業している銭湯です。木造の建物は老朽化していましたが、隣の、かつては従業員が住んでいたという二軒長屋と共に、修復、耐震工事が行われ、国の有形文化財に登録されました。そして、長屋は地域住民の集うサロン、地域のコミュニティ作りの拠点として、去年6月から様々なイベントが行われています。

 稲荷湯と長屋の再生をサポートしてきた、一般社団法人「せんとうとまち」代表理事で、建築家の栗生はるかさんは、銭湯と地域の関係について調査してきました。「銭湯には、小学生が小学生同士で来てたりとか、小学生と近隣のおじいちゃんが会話をしている様子とか、また留学生が一人で来ていて、近所の子供に脱衣所で英語教えてたりといった光景がある。予期せぬ出会いっていうのを作り出す場が銭湯。そこに地域が生じている」。     
 栗生さんたちは、銭湯のこうした機能に注目した「まちづくり」に取り組んでいて、「稲荷湯と長屋」もその一つです。「せんとうとまち」のメンバーや、近隣に暮らす住民やお店、すぐ近くの大正大学の学生たちが長屋で様々なイベントを企画、運営しています。

 1月15日には、大学生の企画、運営で「バスボム(風呂に入れると爆弾のようにはじけて広がる入浴剤)をうちにある材料を使って作ろう」という親子向けのイベントがあり、崎山記者が取材しました。この日、長屋は子供たちと付き添いの家族で大賑わい。重曹、クエン酸、片栗粉を含む白い粉に、市販のカラフルな入浴剤をよく混ぜて、バスボムを作ります。大学生6人が受付や教える役を手分けして担当しています。

 小学校の同じクラス4人が一緒に来ていましたが、最近近くに引っ越してきたという母親は「ここのことは、チラシで初めて知りました。家でできないことができるので、楽しそうだし、良かったなと思います」と話します。また、別の父親は、「自分はこの辺りで育ったので、おばあちゃんにここの隣のお風呂に連れてきてもらっていました。下町の、昔からのっていう雰囲気を含め、ここのお風呂もずっと残してほしいですよね」と話していました。

 学生たちにとっては、「まちづくり」について授業で学んでいることを実践し、学びを深める場でもあります。大正大学では、ここだけでなく、他にも様々な形で、教育に地域や社会への貢献を取り入れているんです。4年の学生は「すごいやりがいを感じています。普段あまり交流することのないこの子達とか、親御さんともお話とかできるので」と話し、3年の学生は「ポスターを直接、近所の学校とかに配って、回ったりしたんですけど、今回、3回目くらいから、またやるんですねみたいな反応をされたんですよ。そういうのが直接感じられたので、そこからやる気が出てきましえ、また来年以降も続けたいと思っています」と話していました。
 大学生たちのこの企画の他に、「稲荷湯長屋」では、例えば、新年はお雑煮、お汁粉を出したり、「朝風呂に入って、朝ご飯を食べよう」といった企画や、長屋を出発点にした「まちあるき」のイベントなどを、週末を中心に開いています。今後は、例えば、周辺の地域の歴史、伝わる物語についての情報を集め、発信する場にしたり、高齢者の健康、福祉に関わる取り組みなど様々なことをやっていきたいということです。

 「せんとうとまち」代表の栗生さんは、銭湯が無くなって、人の流れが変わり、近くの商店も閉じたり、地域の住民の交流が少なくなった具体的な事例をいろいろ見てきました。「やっぱり、自由に使える場が地域にあるっていうのが重要なんじゃないかなって思ってます。今回長屋を再生して、今までの、いい界隈のつながりを、何とか次の世代に引き継ぐようなきっかけになってくれればなということです」。
 全国どこでも、後継者不足や老朽化で銭湯は減る一方です。北区滝野川の「稲荷湯長屋」は、地域のつながりを作りだす場、地域の様々な情報を発信する場としての銭湯に注目しようという、その一つの試みです。
     

 担当:崎山敏也(TBSラジオ記者)
 

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