日本語を話せない在留外国人が、薬局を利用しやすくする取り組み

人権TODAY

今回のテーマは「日本語を話せない在留外国人が、薬局を利用しやすくする取り組み」

一部の薬局では、外国人患者の受け入れを断っている…

日本で暮らす外国人の方は年々増えていますが、その方々が、日本語が話せない場合に困ることの1つが「薬局で薬を買う事」。自分がいま、どんな症状でどんな薬が欲しいのか。日本語を使わず薬局側に理解してもらうのは、なかなか難しいことです。一部の薬局では、外国人患者の受け入れ態勢が整っていないため、ある問題も起きているといいます。在留外国人の医療問題に取り組んでいる「外国人患者対応力向上委員会」の事務局メンバーで、ウェルパーク薬局 東浦和駅前店の薬剤師でもある、池浦恵(いけうら・めぐみ)さんにお話を聞きました。 

「残念ながら今の医療機関では、外国人診療に対しても外国人の来局に対しても、積極的ではない医療機関があるのが現状です。外国人ってだけで、日本語が話せなかったので、その段階で断られたという。ただその断っている背景は、おそらく日本語が話せないので、責任が持てないことは医療としてできないからというので、断る側の心理も分からなくはないです。ただ、みんなが断ったらこの人の行き場がないじゃないですか。彼女たち・彼らの人権で医療を受ける権利はあるはずなので、それを守ることは必要だし。」(「外国人患者対応力向上委員会」事務局の池浦恵さん)

 このような対応をとる薬局ばかり、という事では決してありませんが、池浦さんの言うとおり、薬局側としては「間違った薬を出すことはできない」という心配のほうが強いのかもしれません。 

「薬樹薬局 下北沢」は英語の問診票や指さしシートを常備

そんな中、話せる言語問わず、すべての人が平等にお薬を手にできるように、と接客対応を行っている薬局がありました。下北沢駅が最寄りの「薬樹薬局 下北沢」です。管理薬剤師の川村尚史(かわむら・ひさし)さんと、ストアマネージャーの淵聡美(ふち・さとみ)さんに聞きました。

「どういった症状なのか。頭が痛いだとか、ほかにも症状が分かるようなシートが何枚かありまして、それを使って指さしで確認をとるという形ですね。こちらからの説明の英語もシートに載っていて、『1日何回飲んでください』や『この薬は冷蔵庫で保管してください』などが書いてあります。」(川村尚史さん)

初めてご利用いただく方には問診票を用意しているんですが、英語版も薬局では用意しています。特に専門用語が入るときには、iPadに入っている翻訳機能を使ってコミュニケーションをとっています。」(淵聡美さん)

こちらの薬局では、1日平均2名ほど、英語なら話せるという外国人患者の方が来られるそうです。淵さんは「『英語の問診票もありますよ』と渡すとほっとした表情を見せてくれる方が多い」と話していました。 また、シートに書いていないような専門用語が出てきた場合や、英語以外を話す方が来た場合には翻訳アプリを使用しているそうですが、翻訳がうまくいかないこともあるため、どう考えても違う。というときには、もう一度聞き取りをするなど、細心の注意を払っているということです。

外国人患者対応を学ぶ、薬剤師向けの研修会

こういう対応をする薬局を増やしていくためにも、外国人患者対応力向上委員会は、薬剤師向けの20か国語以上の多言語ツールをホームページにまとめています。まず、患者さんが何語を話しているかすら分からないという時に言語が確認できるシート。そして、指さしで症状などを確認できるシートをプリントアウトして薬局に常備してもらうことを勧めています。また、薬剤師さんを対象にした研修会も開催しています。再び池浦さんです。

「外国人患者対応に必要な制度の背景とか、基礎的な知識を午前中にやっています。午後から、言語ごとに分かれて実際に「ここはスペイン語…」「ここはベトナム語…」「ここは英語…」といったように言語別のロールプレイを実際にその言語を話す模擬患者さんに来ていただいて、ツールの使い方などを学んでいくという研修をしています。相手(=外国人患者)がいつ来るかはわからないけれど、それに備える薬剤師は研修を行うことで増えていくので。」(「外国人患者対応力向上委員会」事務局の池浦恵さん)

研修に参加する薬剤師さんは、最初は、知らない言語を扱うことへの不安から なのか、比較的馴染みのある、英語のグループに人気が偏ってしまうそうです。しかし、池浦さんは「それでは研修の意味がない」と他の言語での対応も学んでもらうように促しています。研修を終えた薬剤師さんたちは、目に見えてモチベーションが変わると、池浦さんは言っていました。

各国の文化的背景も考慮した薬局対応

お薬の処方や使い方の指導のほかにも、外国人患者さんへの対応では、文化的背景も考慮した対応が必要になるそうです。再び池浦さんです。

「いま、緊急避妊薬の話とかピルの話が問題で出ていると思うんですが、海外の薬局だと薬局で買えるんですよね。ところが日本では産婦人科で処方してもらわなきゃいけない。これがまず、在留外国人の方にはその制度の違いがわからないから、『この国は薬局では買えないよ。制度が違うよ』という説明から入らなきゃいけなくて。あるいは、宗教的に豚がダメだとなった時に、豚由来のゼラチンを使っているカプセルは使いたくないという人はいます。そういう時にどうやって薬の選択をしていくのか、そういう指導を相手に合わせてやっていくのが必要になってきたケースは過去にもあります。」(「外国人患者対応力向上委員会」事務局の池浦恵さん)

池浦さんは、「外国人患者に、言語だけが伝わればいいのではない。文化的背景や母国の風習など、1人1人の背景をきっちり見た対応が必要で、それができる薬剤師を育成していくことも、課題の一つだ」と話していました。

(担当:木村志保)

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