失語症について知るためのYouTube番組「失語症チャンネル」

人権TODAY

今回のテーマは…失語症について多くの人たちに知ってもらうためのYouTube番組『失語症チャンネル』

“失語症”とは…

『ダイ・ハード』シリーズなどで有名なハリウッドのアクションスター、ブルース・ウィリスさんが今年3月、“失語症”を理由に引退することが、大きなニュースになりました。具体的に“失語症”というのは、脳の病気や怪我などで脳の一部、言葉を司る部分を損傷することで起こります。言葉を全部忘れてしまったわけではないのに、「聞く」「話す」「読む」「書く」すべてがうまくいかなくなってしまうのです。10年前、47才の時に脳出血で倒れ5ヶ月の入院生活を送った、加藤俊樹(かとう としき)さんの場合、最初は手足の麻痺も起こったのですが、それはリハビリでほぼ回復。ところが失語症のため、こんな状態になってしまいました。

「平仮名、片仮名、なんてことも何も言えない。え~漢字も読めない。え~あと、数字も読めない。だから、例えば、時計を読むこともできない。」(加藤俊樹さん)

加藤さんは、普通の言葉がまったく話せない状態になってしまったんです。加藤さんの妻である米谷瑞穂(こめたに みずほ)さん曰く、当初自分の状態がわからずに一生懸命話し掛けてくる言葉が、まるで宇宙人のようだったそうです。

加藤俊樹さんと妻の米谷瑞恵さん

「失語症チャンネル」

一口に失語症と言っても、ダメージを受けた脳の場所や大きさで、症状に個人差があるのですが、加藤さんの場合はリハビリで社会生活を送れるまでには回復しました。しかし完全に元通りにはなりません。色々と不自由があるわけです。そんなこともあって、妻の米谷さんが2020年からYouTubeでスタートさせたのが、「失語症チャンネル」です。

【失語症チャンネルより】     
米谷「私が今から言うことを繰り返して下さい」     
加藤「はい」     
米谷「柿の種を食べる」     
加藤「柿のタメ…タメ…」     
*****     
失語症について、こういうことで困ってますとか、いうのを出来るだけ多くの人に知ってもらうことで、失語症の人の生活が楽になるんじゃないかと思って…。」(米谷瑞恵さん)

実は米谷さんは、以前はフリーのライターだったんですが、夫の加藤さんが失語症になったのをきっかけに、“言語聴覚士”の国家資格を取りました。この“言語聴覚士”というのは、失語症や聴覚障害、ことばの発達の遅れ、声や発音の障害など、言葉によるコミュニケーションに問題がある方に、専門的なサービスを提供し、自分らしい生活ができるように、支援する専門職なんです。コミュニケーションは双方向で成り立つものなので、一人でも多く、“失語症”のことがわかっている方が増えれば、失語症の方も暮らし易くなると考えて、「失語症チャンネル」を始めたわけです。

職場復帰のきっかけ

加藤さんはカメラメーカーに勤めていたのですが、発症から1年が過ぎた頃から、いつ職場に戻るか考え始めました。しかし実際どうしたらいいのかわからない状態だった時に、東京・新宿で“失語症”から職場復帰した方々が集まる会合が開かれているのを知って、見学に行ったと言います。それがきっかけでどうしたのか?米谷さんに聞いています。

「それまではもっと良くなってから、元通りになってから復職したいと思ってたのが、当事者の方が集まっている会に行くことで、これは完全には元通りにならないけど、みんなそれなりのところで戻って、頑張ってるんだということを知ることができて、じゃあ会社に戻ろうって勇気を得られたので。」(米谷瑞恵さん)

ただそうは言っても、以前と同じように仕事することは出来ないし、コミュニケーションの取り方も、病気になる前とは違うわけです。それを職場の同僚などによくわかってもらう必要があります。そこで加藤さんは、こんな工夫をしたと言います。

「僕の、え~説明書を作ったんです。あの~パワポ、パワーポイントで。それを、え~皆さんにメールで渡して。僕は前のような僕ではなくって、今はこういうことが出来ませんということを、詳細に作って…。」(加藤俊樹さん)

いわば、加藤さんの取説。内容的には、「ゆっくり話して下さい」とか、「大勢の人が話す場所は苦手」とか、「何回も同じことを聞くので、メールやメモの方が良い」とか、そのメールも「普通の人よりも3~4倍遅くしか書けない」等々といった内容だったそうです。

さてそんな加藤さんを日常で支える米谷さんが、「失語症チャンネル」と同時に、言語聴覚士として力を入れていることがあります。自分の夫が仕事に戻る際に力をもらったのと同じような“失語症”から職場復帰した方、職場復帰しようと考えている方が 集まる会を、月に1回、地元の川崎市で開いているのです。会の名前は「失語症と仕事を考える会 ステップ」といいます。

「1年半ぐらいですかね。休んだ後だと、何か非常に溌剌として行けてる気がしてます。はい…」(「失語症と仕事を考える会 ステップ」参加者)    
「言葉は相手からも歩み寄る義務があるので、自分は失語症になった、だからお前も気を遣えっていう気持ちで、失語症の人が思えるようになるといいなって思います」(米谷瑞恵さん)

米谷瑞恵さんの著書「こう見えて失語症です」(主婦の友社)

★YouTube「失語症チャンネル」   
https://www.youtube.com/channel/UCCBDsUPylOjaEfewiuzZAyQ

★「失語症と仕事を考える会 ステップ」   
https://kawasaki-st-step.jimdofree.com/   
Eメール;kawasaki.st.step@gmail.com

担当:松崎まこと(放送作家/映画活動家)

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