原爆・東京大空襲体験伝承者プロジェクト

人権TODAY

戦争被害体験を語り継ぐ「次世代の伝承のかたち」

広島に原爆が投下されてから77年となりますが、戦争の体験を次世代に伝える東京・国立市の「原爆・東京大空襲体験伝承者プロジェクト」を取り上げます。 
このプロジェクトは2015年に開始しました。それまでは、国立市在住の原爆体験者が直接、市民に体験談を語る講演を行っていましたが、年々、戦争体験者の高齢化でそれが難しくなってきたこともあり、国立市では原爆体験者から直接証言を聞き取り、平和への思いを次世代に語り継ぐ伝承者を育成。伝承者たちは、市内の小中学校や公民館で定期的に「講話会」を行っています。被爆地以外で伝承者育成を手掛けるのは珍しいことだそうです。 
先月23日、国立市で行われた講話会に伺いました。

伝承者ここからは伝承講話を始めさせていただきます。お話しするのは、国立に住んでいらした平田忠道さんの被爆体験です。平田さんは15歳・中学3年生の時に広島で原爆に遭い、自宅にいたはずのお母さんと弟さんの行方を捜して1ヶ月間、広島の街を歩きました。平田さんは「将来、皆さんに同じ体験をさせたくない」という思いで、つらい体験を語ってこられました。平田さんの家族の話と当時の状況を加えてお話しします。 平田さんになったつもりで聞いてください。

この日、伝承者として講話を行ったのは、61歳の渡辺菊乃(わたなべ・きくの)さんです。晩年、国立市に住み、3年前に亡くなった平田忠道(ひらた・ただみち)さんという広島の原爆体験者から直接聞き取ったエピソードを語り継いでいます。およそ30分間に及ぶ講話では、パワーポイントで作成した説明や画像をスライドで映しながら、 
原爆投下に至るまでの歴史や当時の世相などをベースに、当時15歳だった平田さんの原爆投下当日を追体験する形で語りを進めていました。 
渡辺さんがどういう経緯で「原爆体験伝承者」となったのか、伺いました。 

広島原爆体験伝承者の渡辺菊乃さん

娘の中学の担任の先生が広島出身の方だったんですが、8月6日に東京で何もしていないことに「びっくりした」と言っていて、逆に衝撃を受けたんです。それで、勉強のために娘を連れて広島に行ってみたんです。たまたま出会った高齢のボランティアの女性が、ご主人が被爆者だったそうなんですが、病気がちで最期はがんで亡くなった。子どもができず、いまも悔んでいると。被爆者の家族は今でも苦しんでいるということを知りました。東京に帰ってきても気になっていて、伝承者を募集するという新聞記事を見て応募したんです。 

同じ原爆体験者から聞き取りをした伝承者であっても、その内容をどのように表現するのかは伝承者自身の感性に任されているのだそうです。原爆体験者の平田さんが学校には1日通っただけで勤労動員に駆り出されたエピソードから、子どもの教育の機会を奪っていった戦争の現実を強く訴えていきたいと話していました。

東京大空襲の被害体験の伝承

国立市では、広島・長崎での原爆体験者と合わせ、東京大空襲体験者の伝承者育成にも乗り出しています。この日の後半では、32歳の伝承者・佐藤稀子(さとう・きこ)さんが講話を行い、8歳の時に東京・亀戸で空襲被害を受け、今年で86歳の二瓶治代(にへい・はるよ)さんという方から聞き取ったエピソードを語りました。 
若い世代が伝承者となることの意味について、佐藤さんはこのように話します。

東京大空襲体験伝承者の佐藤稀子さん

よくアンケートに書いてもらうのは、「30代の人が伝承をやり始めていることに意味を感じます」とか、私が伝承活動をしていることに高校生が「興味を持ちました」と言ってくれること。つなぐということになるので、意味があるかなと感じています。

同世代、あるいは、自分よりも若い世代に向けて話すことは、戦争が分断された過去ではなく、今を生きる自分たちにつながっている出来事なんだと感じてもらうことにもなるので、その意義は大きいといいます。 伝承者の佐藤さんは、講話を予定している地域に、事前に実際に足を運ぶそうです。 戦争当時の史跡が残っている場所があれば、自分の目で確かめ、講話の中にそのエピソードを盛り込む工夫をしているそうです。


この日、講話会を聴きに来ていたのは20名ほど。赤ちゃんを連れた女性や親子で参加している方、夏休みに入ったばかりということもあって小中学生・高校生もいました。 
講話終了後に、男子中学生と、大学院生の女性に感想を聞きました。

【中学生】学校の課題で歴史の宿題なんですけど、「何か学ぶことがあったら」と思って来ました。戦争が良くないことは分かっていたけれど、実際、体験した人の話を伝え聞いて、二度とやってはならないことなんだなと理解できました。
【大学院生】大学院で民俗学をやっていて、戦争当時の状況について調べているところです。資料や文字で語り継ぐだけでなく、実際の言葉や声で聴くということの大切さを実感しました。

「くにたち原爆・東京大空襲体験伝承者」は現在、26名がいらっしゃるそうです。講話会は、国立市内の小中学校や公民館にとどまらず、近隣の自治体の学校、企業の研修などの場への派遣も行っています。

(取材担当:TBSラジオ・制作ディレクター 瀬尾崇信)

『人権TODAY』は、TBSラジオで毎週土曜日「蓮見孝之 まとめて!土曜日」内で8:20頃に放送。人権をめぐるホットな話題をお伝えしています。

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