宇多丸『X エックス』を語る!【映画評書き起こし 2022.7.22放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。          

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宇多丸:                             

宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、日本では7月8日から劇場公開されているこの作品、『X エックス』

(曲が流れる)

『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』などなど話題作を次々と送りだす……まあ、これはどっちもアリ・アスターの作品だけども。スタジオA24製作のホラー……これじゃあ、ホラーばっかり作ってるスタジオみたいに聞こえるじゃないか(笑)。『カモン カモン』とかだってそうですからね。『WAVES/ウェイブス』とか、いろいろありますから。

1979年、テキサス。女優のマキシーンをはじめとする6人の男女が、自主映画制作のため、とある農場を訪れる。そこで連日撮影を進めるマキシーンたちだったが、彼らをじっと見つめる不気味な老婆を見かけ、やがて仲間の1人が姿を消してしまう。主な出演は、リメイク版『サスペリア』や『ニンフォマニアック』などのミア・ゴス。『ピッチ・パーフェクト』シリーズのブリタニー・スノウなど。あと、出演でいうと、あれですね、本名で出ておりますけども、スコット・メスカディこと、キッド・カディですね! キッド・カディが、海兵隊上がりのポルノ男優というかね、その役をやっております。

あと一応、プロデューサー……元はだから、ストリップ小屋のオーナーというか、店長とかなのかな? ウェインという男ね。マーティン・ヘンダーソンさんが演じていますけども、このなんか、ちょっとマシュー・マコノヒーみがあるっていうかさ(笑)。あの感じもなんか、忘れがたいものがありましたね。アクセントとかもちょっと、マシュー・マコノヒー風、っていう感じがありましたけども。監督・脚本を手掛けたのは、『サクラメント 死の楽園』などのタイ・ウェストさんでございます。

ということで、この『X エックス』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)を、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「普通」。でも、公開規模とか、雰囲気からすれば結構これ、見ている方かな? 賛否の比率は、褒めの意見が7割半、というところでございます。

主な褒める意見は、「殺人を行う老夫婦たちがおぞましく、恐ろしい」「画面の構図や演出など、映画としての完成度も高い」「70年代ホラーへのオマージュも楽しい」などございました。一方、否定的な意見は、「定番外しを狙ったせいで全然怖くない」「ストーリーも残酷描写もつまらない」など、ございました。

■「何より印象深かったのは、映画史上最年長の殺人鬼老婆パール」

代表的なところをご紹介いたしますね。ラジオネーム「Ryo―爺(りょうじい)」さんです。

「結論から申し上げますと、絶賛です。しっかり怖く、そしてグロいというかおぞましい。最近見たホラーの中では、断トツに怖かったです。池の畔の農場で若者たちが1人1人殺されていくというのは、シチュエーションだけ見ればホラーあるあるですが、殺し方の豊富さやホラーのセオリーの外し方など、バリエーションに富んでいて観客を楽しませてくれます。何より印象深かったのは、映画史上最年長の殺人鬼老婆パールです。白いドレスを着て静かに佇む姿は、この世のものならざる不気味さを醸していました」という。で、ちょっと省略させていただきますが。

「……また、ミア・ゴス演じるマキシーンとパールが鏡映しの関係になっていることで対比される、“若さ”と“老い”。ひねりを加えまくったスラッシャームービーの恐ろしさに、“老い”への恐怖というファクターを加えることで、この映画の持つ心をざわつかせる強度を一段上げることに成功しています。映画としての完成度も申し分なく、画の映し方の多彩さ、色々なものを現在進行形の現実とリンクさせる演出の妙。そしてマニア心をくすぐる過去作へのオマージュと伏線の数々。しっかり怖くておぞましく、映画としての完成度も高い、のみならず、随所でカタルシスをも味わえる稀有なホラー映画と言えるのではないでしょうか?」というRyo―爺(りょうじい)さん。

あとですね、「グッドウォッチメンズ」さん。この方も、「大傑作ホラーだと思いました! 冒頭ファーストショット、スタンダードサイズ画角で、ある場面が映される。このざらついた質感がめちゃくちゃ『悪魔のいけにえ』の空気感で、1970年代の空気感を生き返らせてる感じが凄く良く、カメラがぐーっと寄っていくと画面が広がってスタンダードサイズではないことがわかってきて、ある納屋の中から撮られ、ドアでスタンダードサイズ画角にふちどられていたことが分かる、というファーストショットから、気が利いてるしめちゃくちゃかっこいい撮り方で、心掴まれました!」。この話、ちょっと私も後ほどさせていただきたいと思います。グッドウォッチメンズさん。

あとですね、おなじみ「コーラシェイカー」さん。この方ね、老いの恐怖が描かれているっていうことは、この映画に関して、いろんな方がそういう風に語りがちなんですけども。コーラシェイカーさんは、「……特に秀逸なのは、本作での老いに対する洞察です。肉体の経年変化や能力の低下だけが老いではなく、自らの可能性をつぶし終えたのだという思い込みに囚われ、もう取り返せない過去に執着するさまこそが“老い”なのだ、と捉えているように思います。規制的な社会から逸脱し、過去でなく自分の未来の可能性に魅了された若者たちと、過去に囚われた老夫婦との対比は鮮明ですが、老夫婦がもうだめだという思い込みから逸脱する様を描いている点は風通しが良く、その展開には“老い”を出鱈目に恐怖の対象にしない姿勢が表れているように思います」。このね、老夫婦は結構、最後の方では、ちょっと希望を取り戻してるんですよね。とあることでね。

「……また、本作は70年代ホラーに対するオマージュがふんだんに盛り込まれた作品だと言われていますが、私としては『サイコ』との類似点はその域を超えたもののように思います」「表面的だけではなく骨格自体がかなり『サイコ』を意識した作りになっているように思います」。というようなことを書いていただいているコーラシェイカーさん。いつも、ありがとうございます。

そしてダメだったという方。「hama-X」さん。「……A24製作のホラーなので、それなりに期待していましたが、残念ながらかなり期待外れの作品でした。そもそも、スラッシャーホラーなのに、全然怖くないんです。びっくりさせられるが、怖くない。いくら何でも殺人鬼が弱すぎでしょう」と。で、いろいろ書いていただいて。「……監督がこの手の映画の定番外しを狙いすぎて、怖さのツボまで外してしまったように思いました」「主演のミア・ゴスの魅力とジェナ・オルテガのスクリーム・クイーンぶりは、目に焼き付いたので、そこだけ唯一良しとしましょう」というようなhama-Xさんのご意見でございました。

■『グラインドハウス』の試みにも近い、「ジャンル映画についてのジャンル映画」

はい、メールいただきました皆さん、ありがとうございます。私も『X エックス』、渋谷パルコ8階のWHITE CINE QUINTOで、2回見てまいりました。特に初回は、祝日だったこともあってですね、若い人を中心に、なかなかの入り。まあやっぱりね、A24作品は、パルコがよく似合う!ってのもありますよね。はい。そして、忘れちゃいけない劇場パンフ。今回もですね、大島依提亜さんと中山隼人さんのコンビ……この方たち、最近で言うと『TITANE チタン』がね、このコンビのパンフでしたよね。相変わらずまあ、非常に凝った作りのですね、非常にもうマストバイなパンフレット、作っていただいております。

ということで、『X エックス』。僕的にですね、一番端的にこの映画のあり方を表現するならですね……2007年にタランティーノが企画し、一編は監督もしました、『グラインドハウス』。あの中の一本みたいな作品、という、これが一番わかりやすいのではないかと、私は個人的には思っています。つまり、かつて1960年代から70年代にかけてアメリカにたくさんあった、超低予算の、一般には低俗とされるようなジャンル物映画を、2本立てでバンバンかけていく場末の小屋たち、ってことですね。で、そこでかかっていたような映画たちを、その雑さゆえのエネルギー込みで現代に蘇らせていく、という、あの『グラインドハウス』の試みに、非常に近い構造を持った一本ということが、この『X エックス』には言えると思います。

で、この『X エックス』というタイトル自体、かつてのアメリカ映画のレーティングですね。16歳以下かな、見ちゃダメだよ、という「X指定」なのはもちろん、いろんな言葉がかかっているんだけども、「エクスプロイテーション映画」の「X」でもありますよね。きっとね。エクスプロイテーション映画全体をも、連想させます。もちろん、劇中でセリフとして出てくる「Xファクター」=不確定要素、あるいは十字架、キリストなど、そういうのを連想させたりもする、というところもあるかもしれません。

とにかくですね、『グラインドハウス』がそうであったように、見た目の明快なエログロさとか、ジャンル的わかりやすさと裏腹にですね、実は非常に自己言及的な、メタな構造を持った作品なわけですね。実際、脚本・監督・編集のタイ・ウェストさんというのは、『グラインドハウス』にも参加していたイーライ・ロスにフックアップされた人でもあってね。『キャビン・フィーバー2』なんかで。元々タランティーノ~イーライ・ロスラインというか、言ってみれば「ジャンル映画の歴史やあり方そのものに非常に意識的に作られた、ジャンル映画」っていう。「ジャンル映画についてのジャンル映画」というか。もっと言えば、映画、映像を撮るプロセスそのものを描く、というような作品も多かったりして。まあ、言っちゃえばそういう、いわゆるポストモダンなジャンル映画の作り手、という系譜に置かれてるんだと思います、タイ・ウェストさんね。

■近年、劇場長編を撮っていなかったタイ・ウェスト監督のキャリアを浮上させる一本

あと、これはこのタイミングで過去作を並べて見てて、僕が個人的に改めて感じたことなんですけど……「今いる場所や、それまでの人生を脱したい!という強い意思を持った女性キャラクターが、ついには暴力も含めたある行動を起こす」というような話や設定が、多い感じもするな、とか。あと、前半はあえてまったり、スローペースに進めておいて……みたいな、この作劇のバランスというかね。ここも特徴があるかなと思ったりします、タイ・ウェストさん。

でですね、ここのところタイ・ウェストさん、テレビドラマシリーズの1エピソードとかをちょいちょいやってるぐらいで、劇場用の長編映画はですね、2016年の西部劇『バレー・オブ・バイオレンス』以来、ずっと撮ってなかったんですね。これ、イーサン・ホークがですね、フラッフラになりながら、『ジョン・ウィック』ばりにワンちゃんを殺したドラ息子たちに復讐を遂げていく、という……『ジョン・ウィック』と違うのは、とにかくフラッフラになっていて(笑)。フラッフラになりながら復讐を遂げていく、という。オープニングの映像とかはちょっとマカロニウエスタン風でもある、『バレー・オブ・バイオレンス』という西部劇なんですよ。それ以来、5年ぐらい撮っていなくて。で、ようやく撮れた。

で、A24はすごく監督の意思を尊重してくれるから、A24がやらせてくれるなら……ということで出した企画が通って。そして見事、ヒットしたんでね。タイ・ウェストにとっては、再びキャリアを浮上させる一本となったのは間違いないんじゃないでしょうか。

■『悪魔のいけにえ』型の70年代風ホラーと見せかけて……?

ざっくり言えば、少なくとも導入部や設定などは、やっぱり明らかに、トビー・フーパーのね、ホラー映画の名作中の名作というか金字塔、『悪魔のいけにえ(The Texas Chain Saw Massacre)』ですね。あとは、やっぱり池っていうか、沼っていうか、みたいなところにワニがいて……みたいなあの感じ。あと、その向こうで霧がブワーッとかかってたりする感じは、『悪魔の沼』というね、1976年のトビー・フーパー作品。このへんを連想させる要素を中心に、劇中で制作プロセスが描かれるハードコアポルノ映画シーンであるとか、監督自身が大きな影響を受けましたと公言している、モンテ・ヘルマンの『断絶』っていうね、1971年の映画があったりしますけど。要は1970年代の、メインストリームではない、インディペンデントでアンダーグラウンドな……『断絶』とかも後年は評価されましたが、当時は全然評価されなかったんで。そういうちょっと、何て言うかな、周縁に置かれたようなアメリカ映画のムードというのを、濃厚に漂わせつつですね。

次第に……たとえばそのスラッシャーホラーの定石を、あえてハズす展開ですね。たとえば、普通のスラッシャームービーというのは、「ファイナルガール(最後に生き残る女の子)」っていうのがいて、それはまあ、その登場人物の中でも、性的にモラル的に潔癖な女の子が生き残る、というね。まあ昔っぽい感じですよね。そういう定石があるんだけど、それが、「と、思っていたら……?」みたいなハズしであるとか。

あとは、先ほど(金曜パートナーの)山本(匠晃)さんもおっしゃっていた通り、前半で言及されたり示された要素が、皮肉かつ残酷な形で、伏線として回収されていたり。たとえば、先ほどコーラシェイカーさんも言ってた、『サイコ』に関する言及があった後に、まさしく『サイコ』的な展開が、ひとひねり、ふたひねりした形で待っていたりとか。あとはね、とある絵が出てくるんですけど。その絵のまんまに、ある惨劇が起こったりとか。そういう構造もあったりする。

あとはですね、いわゆるこれ、このワードは僕、アメリカ版のWikipediaのこの『X エックス』の項目で、「ああ、こういう風に言うんだ」って知ったんすけど……「サイコ・ビディ物(psycho-biddy)」っていうんですって。要するに老女物、狂老女物っていうのかな。かつて美を誇った老女が、狂気の行動に出る、というようなホラー、スリラーのいちジャンルがあって。たしかに、思い返してみればね、『何がジェーンに起ったか?』とか、いろいろありますけども。最近で言えば、あれですよね、『ヴィジット』とかもありますけどね。しかしそれがですね、いわゆるサイコ・ビディ物なんだけど、意外なまでの人間的、ドラマ的な切実さをもって、ちょっと掘り下げられていたりとか。

とにかく序盤で、「ああ、『悪魔のいけにえ』型のね、はいはい。70年代っぽいホラー、スラッシャーホラーね」みたいに、「見切れて」しまう映画ファン、目の肥えたホラーファンほど、「あれ? なんか思ったのと、違う方向に話が転がっていくぞ?」というような感じ(を受けるに違いない)。そういうような面白さに満ちている、というような一本であるのは、間違いないと思います。

「映画という形式」を観客に常に意識させる様々な仕掛け

まずね、冒頭周辺から、本当に油断ならない作りが続きまして。これ、パンフで映画評論家の松崎健夫さんも言及されておりましたし、先程のメールにもありました通り。最初に映るもの……最初、納屋の内側から、戸外を映しているショットなんですけど。最初はスクリーンサイズが、スタンダードサイズなのか……いわゆるその、正方形に近い感じ。1.37対1の、(主に)昔の映画(の形式)ですね。スタンダードサイズなのかな?と思う。すると、カメラがスルスルとドリーレールで前に進んで、実は左右が影で欠けていただけで、ビスタサイズだった、っていうことがわかる。スタンダードサイズと思わせて、ビスタサイズ。要するに、画面が広がったような感じがする。

一方ですね、その後に出てくる、劇中撮影されるポルノ映画は、スタンダードサイズで示されるわけですよ。だから観客の中には、最初スタンダードサイズっぽいものが映った記憶が、そこでもう1回、想起されますよね。加えて、これは実はショットの切り返しなどを含む、「編集済み」の状態でこのポルノ映画の場面は見せられるので。実はここ、いっこ「映画の嘘」をついてるわけですよ。(虚構の)時制っていうか……これがまた後で効いてくるわけですけどね。はい。

このようにですね、スクリーンサイズが途中で変わったりする作りは、A24作品の、たとえば『WAVES/ウェイブス』とかもそうでしたけど。この『X エックス』の場合のスクリーンサイズを変える効果はですね、とにかく、こういうことだと思います。「映画という形式」というのを、観客に常に意識させるような、そういう作りになっている。最初のスタンダードからビスタへの変化、あるいは、劇中でスタンダードサイズを使うという映画内映画みたいなことで、「映画という形式」を強く意識させる。そういう作りの部分、他にもありましてですね。たとえば序盤、それこそあの『断絶』を意識したという、ガソリンスタンドでのいくつかのやりとりがありますね。あそこの会話そのものがもう、映画というものがどう作られていくか、という話そのものなんですね。もうね。

「映画ってこうやって作られるんだよ」っていう話。で、実際にその後、この『X エックス』という映画自体が、そこでの会話通りにできてる作品なんだな、っていう風に、意識できるような会話になってるわけですよ。たとえばですね、ブリタニー・スノウ演じるそのボビー・リンという、ポルノ女優というか、ストリッパーでポルノ女優をやってるのが、「なんで順番に撮らないの?」って言う。するとその監督のRJっていう男の子が、「いや、後から編集するんだよ」みたいな。さっき言ったように、そのポルノ映画の場面は明らかに「編集済み」のあれだったりするわけですね。後は、その絡みの場面を撮ってから、その前の出会う場面を撮ったりする、みたいな。

つまりその、映画っていうもののウソ性みたいなものが、観客にすごく意識されるようなセリフを、わざわざ入れてるわけですよ。「順番に撮ってないよ。後から作り変えてるんだよ」って。あと、それをさらに、「ヌーヴェルヴァーグばりの実験的な編集でやると、低予算でも見栄え良く見えるから」みたいなことを言うんですよね。で、実際にこの映画はですね、その会話をした直後を含めて、3、4ヶ所かな? 次のシーンのカットがその前のシーンに切れ切れに入り込むっていう。ちょっとカクカク、ギクシャクしたような、ちょっと微妙な感じの編集をしてみせるわけです。

それもすごく70年代っぽい見せ方なんだけども。とにかく、「ああ、さっき言ってた編集だ。“実験的編集”だ」みたいな感じがするわけですね。ということは要するに、自己言及的なセリフだったんだな、ってことが後からわかったりするような、響くような感じになっていたりする。また、その流れでですね、さっき言ったボビー・リンさんが、「ガソリンを入れてるところから撮り始めて、カメラをだんだん上げていけば、そのガソリン入れてるやつがペニスのように見えるよ」みたいな……つまり、映像というのは、演出次第で他の何かのメタファーになりえるよ、っていう指摘をしてるわけですね。で、まさにそういう風に撮るわけですね。

それはまさにその、映画的工夫・演出の、種あかしでもあるし。実際に本作も、たとえばその母屋の中に招き入れられたそのマキシーンという女の子が、その老女にレモネードを振る舞われる、というくだりと、ポルノ映画内のそのよく似たやりとり、しかもこちらは既に先に撮影済みの性交渉シーンの導入になる、そのくだりと重ね合わせる……メタファー的に重ね合わせられたりするわけですよね。あとはその、たとえばフリートウッド・マックの『Landslide 』という曲の歌詞が、メタファー的にそこに重なって……老女の心情にも重なったりとか。

というような感じで、とにかくさっきから言ってるような、スクリーンサイズであるとか、あるいは編集という映画ならではのマジック、映画ならではの嘘……あるいは、なんていうか、たとえば予言的なセリフですね。あからさまに、明らかに自己言及的に機能するセリフとか、細部のディテールなどなど、様々な角度から、さっきから言ってます「映画という形式」を、観客に常に強く意識させてくる。その、虚実の皮膜ごと戯れるようなクラクラする感覚が、この『X エックス』の、大きな魅力になっている部分だと思いますね。

「どういう気持ちになれと?」

無論、そういうややこしい仕掛けの話などを抜きにしてもですね、たとえば前半。これ、すごい名場面です。池に1人で遊びに行った、ほぼ主人公のマキシーン。後ろの方、遠くの方にですね、老女の姿が見えるわけですね。別に老女がいるだけだから、それ自体は怖いわけじゃないんだけど、なんか低音が不吉に鳴り響いて。「ああ、なんか嫌な感じがするな」って。やがてマキシーンが裸になり、池に飛び込む。そうすると、極端な俯瞰ショットになるわけですね。この極端な俯瞰ショットは、はっきり言って、ドローンで撮ってるのかな、とにかく70年代には絶対に不可能だったショットですね。今の映画でしか撮れないショット。

で、からの……ですね。あの、もうめちゃくちゃ静かなのに、めちゃくちゃハラハラする! あれ、めちゃくちゃ名場面ですよね。そんな感じで、ストレートにタイ・ウェストさんの演出、「おお、なかなか腕あるな!」っていうところがね、堪能できるところもたくさんあります。そしてですね、これもやっぱり『X エックス』を見た多くの方の印象に残る部分でしょう。やはりその、ヴィラン像というか、殺人鬼側の人物造形ですね。それがですね、なんというか、気まずいまでに生々しく、切実な掘り下げをしてるわけです。さっきも言いましたけど、「どういう気持ちになれと?」っていうぐらい(笑)、掘り下げるわけですね。

そこから浮かび上がる、まずはたとえば、エイジズム、ルッキズムの呪縛ですね。年を取ることそのものの悪というよりは、そこに呪縛されてしまうことの不毛さ、残酷さ。あるいはですね、この世界の片隅に、どんな形であれたしかに息づいている、まあこれはこれでひとつの愛のかたち、みたいな。そういうものにですね、もちろん非常にグロテスクだし、その恐怖や嫌悪の対象なんだけど、同時にちょっと、思いのほか胸を打たれてしまうっていうか。ああ、なんか……かわいそうっていうか、なんていうか。君らは君らでなんか、健やかにやっていて!みたいな(笑)、非常に奇妙な気持ちになるわけ。「どんな気持ちになれと?」っていう感じなんですけど。

この奇妙なバランスもまた、やっぱり本作『X エックス』にですね、非常に独特の魅力をもたらしてると思います。ちょっとどういう気持ちになればいいか困る感じ。でも、思えばですね、たとえばその、オマージュ元のひとつでもあります、さっきから言っているトビー・フーパーの『悪魔のいけにえ』も、たとえばレザーフェイス。皆さん、ご存知のレザーフェイスが、「なんで今日、こんなにいっぱい人が来るんだろう?」っていう(笑)、来客の想定外の多さに困惑する姿とか。

あとはクライマックスですね。非常に和気あいあいと食卓を囲む、明るい家族の食卓ですね(笑)。本当に、仲良し家族の食卓、みたいな。要は、奇怪なホームドラマっていう一面もあるわけですよ、『悪魔のいけにえ』は。だからそこでなんかまた、変な気持ちになるっていうか。笑っていいのか、怖がっていいのか、なんか変な感じ。このなんか、なんとも言えない変な感じみたいなのは、『悪魔のいけにえ』の大きな魅力でしたけども。『X エックス』もやっぱりそういう、なんか変な感じにさせてくれるという。

■椅子からずり落ちそうになった「最後のダメ押し」。情報はあまり入れずに行ったほうがいい

あと、先ほど言ったそのレモネードのくだりで示される、これもメールにありましたね、若い女性マキシーンと老女パールの、まさに鏡像関係。これはもう、画面で示されますね、はっきりね。鏡像関係。それでクライマックスがどのように……特に主人公マキシーンが、それをどう乗り越えていくか? 「私はあんたと違うんだ」っていう。どう乗り越えていくか?っていう。それはたしかに、より現代的な女性主人公像。たとえばその70年代のホラーには出てこなかったような主人公像、というのが打ち出されてもいますよね。

さっき言った性的にもモラル的にも、マキシーンは全然もう、積極的に逸脱しまくっていくわけですからね。気持ちいい!っていうね。とまあ、実は極めて重層的な作りでもある本作。しかしその着地は、なんやかんやあってもやっぱりね、もう、「くそったれホラー映画」ですよ!(笑) で、ドーン!ってタイトルっていうね、もうこの切れ味でさらにもう「最高ーーっ!」って、どんどん点が上がりますよね。あそこで5億点、チーン!って上がりますよね。

さらに加えてエンドクレジット。これ、皆さん、公式の情報でいろいろ出ちゃってますけど、これ、あんまり入れないで行った方が僕、いいと思います。A24のロゴが出てもまだ、席を立たないでください。僕、何も知らないで行ったんですよ。そしたらですね、さっきから言っている「映画という形式」を強く意識させる作り、あるいは「ジャンル映画についてのジャンル映画」という構造が、なんとラストのラストでさらにもういっこ、ダメ押しされるんですよね。「ウソ!?」って。だから僕、なんにも入れずに行ったんで、事前の情報を入れなかったから、もうそこでも、椅子からずり落ちそうになりましたよね。「なんやこれは?」っていう。これ、一応公式とかいろんな情報、表にもう既に出ちゃってることではあるんです。ここにまつわる情報は。なんですけど、ここではあえて言いませんし。ひとつ言えるのは、タイ・ウェストさん、今後楽しみを増やしてくれてありがとう!っていうことですかね。はい。あんまり入れないでここは行った方がいいかもしれませんね。

ということで、皆さんね、もちろんしつこく言ってきましたが、この『X エックス』という作品、「映画という形式」を意識させる映画……映画という形式を味わうのに、一番最適な場所はどこでしょう? それは映画館です!ってことですからね。あのね、場内の、終わった後の最後のダメ押しを受けての、ザワザワ……「ざわっ」っていう、あの感じも含めてやっぱり、味わってなんぼじゃないですかね。ホラーなんか、みんなで見てなんぼですからね。夏の暑い時にぴったりでございます。ぜひぜひ『X エックス』、劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~現在は宇多丸が強制的に1万円を払ってガチャを2度回すキャンペーン中[※貯まったお金はウクライナ支援に寄付します]。一つ目のガチャは『ソー:ラヴ&サンダー』、そして二つ目のガチャは『こちらあみ子』。よって来週の課題映画は『こちらあみ子』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしは

こちらから!

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