宇多丸『トップガン マーヴェリック』を語る!【映画評書き起こし 2022.6.10放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。          

オンエア音声はこちら↓

宇多丸:                        
宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、5月27日から全米と日本で同時に劇場公開されているこの作品、『トップガン マーヴェリック』

(曲が流れる)

はい、レディー・ガガが歌う今回の主題歌「Hold My Hand」をお聞きいただいております。トム・クルーズを一躍スターダムへと押し上げた、1986年『トップガン』の、36年ぶりの続編。アメリカ海軍のエリートパイロット養成学校「トップガン」に、伝説のパイロット、マーヴェリックことピート・ミッチェルが教官として呼び戻される。彼の任務は、とある危険な作戦を遂行するため、若きパイロットたちを鍛え上げること。その中には、今は亡き相棒グースの息子・ルースターの姿もあった。

主演はもちろんトム・クルーズ。共演はマイルズ・テラー、ジェニファー・コネリー──このマイルズ・テラー、ジェニファー・コネリーは、監督のジョセフ・コシンスキーの前作、2017年の『オンリー・ザ・ブレイブ』から、そのままスライドしてるようなキャストですよね──。あと、ヴァル・キルマーが引き続き、ちょっと泣ける姿で出てきたりもします。監督は、先ほど言いました『オブリビオン』とか『トロン:レガシー』とか『オンリー・ザ・ブレイブ』の、ジョセフ・コシンスキーさんでございます。

ということで、この『トップガン マーヴェリック』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの……トップガンたちからの監視報告(感想)を、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、今年最多クラスだった『シン・ウルトラマン』を超え、今年最多!となりました。賛否の比率は、およそ9割が褒め。前作リアルタイム世代から、前作未見の20代まで、幅広い支持を集めています。

主な褒める人は、「今年ナンバーワンの大傑作! ド迫力の空中戦。手に汗握るストーリーなど、どこを取っても文句なし」「前作へのオマージュをふんだんに盛り込みつつ、前作を遥かにしのぐ続編になっている」「トム・クルーズは現代最高の映画スターだ」などなどございました。一方、ダメだったという方の意見は、「現実に起こってる様々な戦争を思うとアメリカの一方的な攻撃を肯定的に描く内容には疑問がある」。これは、まあね……。「アクションシーンはいいが、ドラマの部分はボロボロでは?」などのご意見もございました。

■「『トップガン マーヴェリック』、合計10回、映画館で鑑賞しました」

代表的なところを紹介しましょう。「バウアーよりリーチャー」さん。「ジャックといえば……」っていうことですかね?(笑) 「バウアーよりリーチャー」さん、ありがとうございます。

「初めてメールを送らせていただきます。『トップガン マーヴェリック』、合計10回、映画館で鑑賞しました」。すごいね! リピーターも多いのね。「ぼくは現在20歳なので、一作目はテレビで鑑賞していましたが、トムの若々しさとナイスガイしかいない世界観にやられました。

そして今作の鑑賞後、ぼくは謎の涙が止まらなくなりました。この映画には、トム・クルーズの考える映画観とトム自身のキャリアが全シーンに投影されています。今やCGによってあらゆる映像を作れるようになり、また、配信やドラマシリーズがメインストリームとなった時代。その中でも、実際に体を張って全力で撮ったものにこそ熱さがあるのだと、還暦手前になってもなお最前線でトップにあり続けるトムの思いが、“But not today(今日ではない)”というセリフに込められているのではないかと思います」。ここ、全く私も同意で。後ほどの評でもね、この「バウアーよりリーチャー」さんと重なることを言わせていただきます。

「ぼくはこの映画をIMAXの巨大スクリーンで鑑賞できたことに感謝しています。オールタイム・ベスト更新!ありがとうトム・クルーズ! ぼくはあなたが大好きです!」という方もいらっしゃいます。

あとですね、そうですね。「のん」さん。「『トップガン マーヴェリック』を息子と共に見に行ってまいりました。自衛隊のヒコーキ乗りの父に育てられた私は、トップガンと共に育ちました。今でも年に10回は自宅でトップガンを見ているトップガン・マニアです。そんな私は開始5秒で涙、10秒で号泣でした。」「まずあのオープニング。最&高の一言。あの瞬間、36年という月日が一瞬で埋まりました。とにかく大同窓会。作品の端々にトム・クルーズの前作に対するリスペクトが感じられ、“そう、そうだよな!”“あぁ! あぁ!”と語彙力を失う感覚を覚えました。私は反抗期から父と話さなくなり、ヒコーキ乗りにはなりませんでした。しかし今、トップガン2を見た後、私は自分の息子とトップガンを見るのを楽しみにしています。何だか我が家のトップガン2が始まったようです」。いいですね。なんかそういう、本当に人生と共にね、あるという、大事な映画の人もいますね。

一方、ダメだったという方。「めんだこ」さん。ちょっと省略しながらご紹介させていきますね。「『トップガン マーヴェリック』、ウォッチしてきました。もう最高!! ありがとう、トム!!! ……とも確かに思うのですが、同時に私には、どうしても気にかかるところがありのめり込みきれませんでした。私が見ていて一番気にかかったのは、やはり作中の軍事作戦に正当性が見られず、“いや、それ、先制攻撃では……”“国際法違反なのでは……”と引いてしまったところです」。これは正直、ねえ。非常に抽象化された敵なんですけどね。で、ちょっと省略しますね。

「……私はこの続編企画を聞いた時、最も懸念したのも、また、“現代的なっている”という前評判を聞いて最も期待したのも、うまいエクスキューズをつけて、そのプロパガンダ性の改善や回避することだったので、他の部分はとても現代的な語りになっても関わらず、むしろ前作よりも好戦的なストーリーであったことにすごくがっかりしてしまいました。公開時期が今になったのは偶然とはいえ、このような国際情勢や、それに伴う一部の国内政治家の発言を思うとなおのこと、この作品を楽しむからこそ、この作品の持つ問題点と危うさに自覚的でいたいと思いました」。だから、エンターテイメントとしての良さみたいなことは認めつつ、ちゃんとここは一線を引こうというか。これは本当に私も同意でございます。はい。たしかに前作よりも好戦的。前作はね、一種(敵が)来ちゃったというか、出会っちゃったっていうことで。今回、ガッツリ攻めに行きますからね(笑)。はい。

あと、こんなご意見も。「南向きの鳩」さん。この方はですね、これもちょっと省略しながら紹介させていただきますが。「ストーリーがボロボロなんじゃないか」というご意見です。「ストーリーがボロボロに思えたのは、マーヴェリックとルースターの関係が後半に進むほど雑になっていることです」「なぜかルースターは明確なきっかけがないのに覚醒します。このルースターの心境の変化や才能の覚醒は見せ場のひとつになるはずで、丁寧に描いた方がいいはずなのに、描き切れていません」とか。

「前作は、友人の死という悲劇があり、そこから話の新たな展開や人間関係の再構築が始まります。しかし今作には、大きな悲劇ありません。だから、チームとしての連帯感や、作戦を必ず達成しなければならないと思わせるブースターにはなりません」。これも、特にルースターとの関係が急に改善されちゃうところは、たしかにね、一番本作でなんというか、「あらら」というところではありますよね。

ただその、悲劇というかな、本作を進める機動力は、僕はその、「マーヴェリックというキャラクターそのものが、最初から抱えている欠落」だと思うので……それについてはちょっと後ほど、言っていこうかなとは思いますが。ただ、ご意見はわかります。ちょっと性急だったりね。ものすごい、ここはご都合主義だな、みたいなね。特にあの海辺で遊んだら途端にオールOK!みたいなのが(笑)、やっぱり相当ね、(ご都合主義だな、と)なりますけどね。はい。皆さん、熱いメールありがとうございました。とにかくすごい分量、いただきました。

■『トップガン』の本質は「スポーツ物」

ということで『トップガン マーヴェリック』、私もT・ジョイPRINCE品川のIMAXで、二回見てきました。本当はね、いろんな形で見たかったんだけども、なかなか……たとえば池袋グランドシネマサンシャインのIMAXレーザー/GTで見たかったんだけど、平日昼でも、いい席がガンガン埋まっちゃう勢いなので。これが週末になれば、若い人もさらに増えるだろうから。ちなみに今回の『トップガン マーヴェリック』は、パートごと、シーンごとにIMAXで撮ってるところ……特に空中戦のところとかを中心にIMAXで撮っているパートがあって、それ以外の日常パートみたいなのがシネスコ、という、シーンごとに入れ替わるスタイル。でも結構、IMAX率は高い方だと思いますね。はい。

とにかく5月27日のアメリカ・日本同時公開以来、特大ヒット驀進中。アメリカでは、初週で1億ドル余裕の突破。トム・クルーズ映画としても歴代トップのヒットになっている、という。まあ評判が評判を呼んで、ちょっと社会現象化しつつある感もある。

そして、結論から言ってしまいますが、僕は、それも当然と思えるほどに、本作『トップガン マーヴェリック』、特に劇場で、アメリカ大作「実写」映画を見る喜び、というのを、改めて多くの人が感じるに違いない、まあ少なくともエンターテイメントとして非常にレベルが高い……いろいろ、さっきのストーリーの粗とかがあったとしても、ちょっと奇跡的なレベルの高さの一本、といっていい、という風に私は思っております。

もちろんこれ、1986年の一作目『トップガン』。主演トム・クルーズを完全にスーパースターにした一作。と同時に、実は映画製作、プロデューサーとしての仕事を学ぶ大切なターニングポイントだった、というのも今回、劇場で売られてるパンフレットのプロダクションノート……ちなみに劇場用パンフレットも、一時はずっと品薄で買えませんでしたけどね。それでトム・クルーズは言ってますけれども。とにかく、今に至る「映画人」トム・クルーズの……トータルで映画を作る人トム・クルーズの、ある種原点でもあるような。あるいは、監督に抜擢された故トニー・スコット、亡くなってしまいましたトニー・スコットにとっても、一大ブレイク作であり。もちろん世界中でまさに社会現象となるメガヒットとなったという、1986年の『トップガン』。その、まあいろんな意味で待ちに待たされた、満を持しての続編、というのももちろんあるんだけど。

ぶっちゃけ今回の『トップガン マーヴェリック』、前作のフォーマットや美点……たとえばですね、CM畑出身のトニー・スコット十八番の、バックライト。逆行を美しく生かした、キメ画作りであるとかですね。あるいは、シズル感あふれる、ブルース・ウェーバー写真集を参考にしたともいう、調子こいた美男美女描写(笑)などなど。それは当然のように今回も受け継ぎつつも、特に今の目で見ると明らかにマイナスな、雑さや軽さ、技術的不備、あるいはその時代的な限界などを、現在の「トム・クルーズ・クオリティー」で……つまり、他の人がリメイクしてたら間違いなくこのクオリティーじゃなかったんだけど、現在のトム・クルーズ・クオリティーでアップデート、ブラッシュアップしたと。

あえて言い切ってしまいますけど、あらゆる意味で僕は、前作を完全に凌駕した……なんなら本作のあまりの出来の良さによって、前作の映画史的位置もググッと底上げさえしてみせるような、そんな一作になっている、と僕は思います。僕自身、実は一作目は、正直それほど思い入れがあるというわけではなかったスタンスの映画ファンなので。なのでですね、一作目を見てない、という方でも、これは本当に無問題(モウマンタイ)! 問題ないと断言させていだきます。本作を通して回想、推察される……見てなくても推察がちゃんとできるようになってますから。(本作から)推察される一作目の出来事の方が、一作目そのものの出来よりも、より美化されている、と言ってもいいぐらいかなと思いますけど。

ちなみに、一作目『トップガン』がどのように作られたか。どのような作品なのか、ということについては、先ほどもね、6時台のオープニングで言いました、DVD・Blu-ray特典映像として見られる「『トップガン』の舞台裏」という2時間半あるメイキングドキュメンタリー集。おそらく2000年代前半に作られたやつかな? それを見るのが結局、一番早いし。これですね、いかに綱渡りの連続の製作プロセスだったかとか、あと、どういう「映画的ウソ」をついてるか、あとはそのトムとヴァル・キルマーの緊張関係、などなど、技術アドバイザーからスタッフ、出演者それぞれの証言が非常に面白いので、本当におすすめでございます。

特に興味深いのは……これ、非常に重要な証言だと思います。脚本コンビ、ジム・キャッシュさん、ジャック・エップス・ジュニアさんが、はっきり「これはスポーツ物だ」と断じてる、ってことですね。それも、「チーム内のトップを決める」スポーツ物。チームスポーツ物だと。なので、敵は重要じゃない。つまり戦争映画じゃないんだ、ってことを、はっきり言ってるんですよね。たとえば今回の『マーヴェリック』の冒頭でもですね、これはもう言っちゃいますね、ケニー・ロギンス「Dange Zone」がかかって……ちなみにこのケニー・ロギンスの「Danger Zone」の制作秘話も、めちゃくちゃ面白いんで。作詞をした人が実は……とかね。めちゃくちゃ面白いんですけども。はい。空母からの(戦闘機の)発着の様子が、その「Danger Zone」に乗せて描かれますね。要はあれ、F1とか、モータースポーツ的な光景ですよね。少なくともそのように撮って、そのように見せているわけです。スポーツ物として見せている、という。ここがポイント。

■「リアル」の追求がもたらす映画的興奮を知るトム・クルーズだからこそ、挑戦を続けている

で、とにかく1986年のその一作目『トップガン』ではですね、もちろんアメリカ海軍の協力のもと、本当に戦闘機を飛ばして、ドッグファイト用の映像を撮影してはいるんだけど……そしてそれは、当時としては航空映画として画期的な「リアルさ」をもたらしたのも、これも確かなんだけど。まず、コックピットにいる役者たちの姿は、明らかにスタジオでの別撮りで。そこは言っちゃえば「リアル」じゃない。実際の戦闘機映像と、トーンが合ってないわけです。

一応、役者たちも本当に戦闘機に乗せて撮ってみたりしたんだけど、当然のようにフラフラになって、顔面蒼白になっちゃったりで、使い物になる画があんまりなかった。そしてトム・クルーズ自身、そこが一作目の弱点のひとつで、今やるならああはできない、ということを、たぶんもちろん重々わかった上で……今回の『マーヴェリック』ではですね、パイロット役の俳優陣に、非常に時間をかけて段階的に、本当に飛行機に乗る体験、訓練を重ねさせて。パンフの解説によれば、トム・クルーズ自ら、個々の俳優たちのトレーニングメニューを考えたりまでしている、という。

で、トム・クルーズ自身はご存知の通り、ほとんどベテランのパイロットなんでね。誰よりもうまく操縦ができるくらいなので。さすがにF18は運転させてもらえなかった、というだけで。なのでね、今回はF18にIMAXカメラを搭載して、さすがにその操縦桿こそ握らせてもらえなかったものの、本当にコックピットに座った俳優たち自身に、そのカメラとかの一連の操作を任せて。飛んでいる間、(地上から)指示とか出せないから。もう全部、セリフとか……しかも角度、いろんな位置関係も。

「この位置でこれを言え」とか、「この位置でこれを見ろ」とか、そういう指示を受けたものを正確に、俳優たちが自分たちでカメラを回したり、いろんなそういうこともやってまで、「リアル」にこだわったという……要は「キャラクターが戦闘機を操縦している姿」の映像が、いかに本作『トップガン マーヴェリック』に、迫真性と、それゆえの没入感、「これは本当なんだ」って思える没入感をもたらしているか、実際にご覧になった方々には、本当に言うまでもないことだと思います。

先ほどのメールにもあった通り、CGIの発達により、観客がスペクタクルな映像に、ある種「タカをくくる」ようになって久しい昨今。「まあ、何でもできるでしょう?」みたいにタカをくくってしまっている昨今……もちろん本作『マーヴェリック』でも、あちこちにというか、ほぼ全編にわたってCGも使ってます。と、思いますよ。それはもちろん。「どこが」って指摘できないような使い方ではあるけど、CGは絶対に使ってますけど。それでも観客が、「ああ、これは本物である」と信じられる……本物であると信じられる映像、それこそが真の映画的興奮、感動をもたらすのだ、という確信を、トム・クルーズはもちろん持っていてですね。一連の、一見単なる酔狂ともとられかねないその「リアル」の追求っていうのも、それは映画のクオリティーに本当に必要だからだ、っていう、それゆえの挑戦なんですね。それだから、挑戦を続けている。いや、続けてくれているんですね。

■「リアル」な空中戦の迫力と、それが見やすく整理された編集が、とんでもないレベルで両立している

飛行シークエンスの前作からの大幅なブラッシュアップポイントは、もうひとつあって。それは、飛行機同士の位置関係や、何がどうなっていて何をしたのかといった……要はその、空中を自在に飛び回っているモノ同士ゆえにですね、とかくこの位置関係とかが、混乱しがち。下手な人が作ると、何が何だかわからなくなりがちなその航空アクションシーンというのを、ものすごくロジカルにきっちり整理して、見やすく、飲み込みやすくしている。ここが本作の、本当に優れているところです。これ、すごいことです。

一作目は実は、最初の(初号編集)バージョンでは、あまりその飛行シーンが、ワケがわかんなくなっちゃっていた、ということで、編集のビリー・ウェバーさんとクリス・レベンゾンさんが、めちゃくちゃ頑張って……持てるフィルムフッテージを全部使い切り、さっき言った別録りコックピットショットに、後から説明セリフを、マスクしているからバレないっていうことで説明セリフを足したりして、なんとか「ストーリーのある空中戦」にした、というのが真相で。正直、今の目で冷静に見ると、セリフの説明があるから何とかまあ……っていうぐらいの感じですよね。

つまり、言ってみればドキュメンタリー的な、「リアル」な戦闘機映像と、芝居やストーリーといったフィクショナルな段取りの部分が、スムースに融合できなかったんです。そしてそれは一種、技術的限界の部分でもあったわけです。一作目のね……という弱点を、トム・クルーズ、もちろん今回の『マーヴェリック』では、完全カバーにかかっていて。たとえば、メインとなるその核施設爆破ミッション。これは、既に多くの方が指摘している通り、完全に『スター・ウォーズ』一作目の、デス・スター攻略戦そのものなわけですけど。あれ自体、元ネタは『暁の出撃』という1955年の戦闘機映画ですけども。

とにかく「ここでこういうルートを通って、ここでこういう危険があって……」というクライマックスの展開、その説明と予行演習を、ご丁寧に参照イメージ付きで、何度も何度も繰り返し、観客にブリーフィング、まさに叩き込んでくる作りなので。見ていて、混乱しようもないんですよね。またその、いわば行きのルートが、「左から右に行く」イメージ、そのさっきの参照イメージ通り、左から右に行くイメージで繰り返し示されるのに対して……なので、我々も「左から右にミッションを遂行している」イメージ(を叩き込まれているし)、編集によってもそれが示されているのに対して、帰りルートでの、クライマックス後の、さらに二段重ね、三段重ねくらいの「シン・クライマックス」(笑)となる、空中戦があるわけですね。

ここはメインミッションと違って、事前に「こういうことが起こりますよ」っていう説明ができない、不測の事態なんだけども……要するに普通は混乱しちゃいかねない場面なんだけど、ここは(行きルートの時とは逆に)「右から左に進む」全体のイメージが編集でも明らかに意識されている上に、敵機との位置関係も、言ってみれば、西部劇ですね。西部劇的な「対峙」の構図……(敵と)向かい合っているとか、横につけられてるとか、その構図が、非常に明確に示される作りになっているので、やはり混乱しない。

加えてもちろん、前述したようなコックピット描写、映像も、飛行ショットと同レベルで今作では使える……つまり、人物、ストーリーとの噛み合わせが、(前作とは)比べ物にならないほどぴったりできる、というのもあって。要はこれ、めちゃくちゃ「リアル」な、ドキュメンタリー級にホンモノなショットの力と、ストーリー、展開的な見やすさ、整理が、とんでもなく高いレベルで両立できているんです。これ、ジョセフ・コシンスキー組の腕がすごいです。撮影(クラウディオ・ミランダ)、編集(エディ・ハミルトン)のレベルが、半端じゃない! このクオリティーで「空中戦をきちんと映画にした」例は、過去にはもちろんないですし。今後、劇中でも語られていた通り、その戦闘機のドローン化、無人化が進んでいくであろうことを考えると、二度とこれ級の空中戦映画は、見られないかもしれない。

■マーヴェリック=トム・クルーズだからこそ泣ける、「それは今日ではない」宣言!

で、まさにここがもうひとつ、本作『トップガン マーヴェリック』の、大きなポイントで。1986年一作目の『トップガン』というのは、さっき言ったように、「スポーツ映画」という風に作り手たちも断言したように、とにかく徹頭徹尾、少なくとも表面上のノリは、「軽い」のが特徴ですよね。要は僕は、リアルタイムの戦争はもはやそのままエンタメにはしづらい、できない時代に入った、ということの、まさに表れだと思うんですよね。当時、86年にしてから。言うまでもなく、そのトム・クルーズ演じるピート・ミッチェル、マーヴェリックもですね、とにかくその一作目では、「若さゆえの◯◯」を体現するようなキャラクターだったわけです。トム・クルーズ自身が、そういう役者だったわけです。

それに対して、36年後の続編たる本作ではですね、マーヴェリックは、もちろんいまだ現役、どころか、誰よりもイケイケの反骨男であることに、変わりはないんだけども。一作目でのその親友グースの死と、本作で描かれる、そのグースの息子、マイルズ・テラー演じるルースターとの確執などもあって、要は深い悔恨の念……深い後悔、悔恨の念を抱えて生きている、孤独な初老の男になっているわけですよ。あのね、ルースターが、かつてのグースと全く同じそのアロハシャツを着て、同じ歌を、同じようにピアノで演奏し歌う姿を、あの窓の外から一人、愕然とした顔で……(マーヴェリックが)「愕然とした」顔で見ているあのくだり。

つまりあそこで、彼の人生の、決定的な喪失とか、欠落とか、あるいはもう過ぎ去って戻ってこない若さとか、人生とか、それらが全て去来するような……それを一切セリフではなく、あのやっぱり、トムの表情で示す。あれは本当……ちょっと僕はここでまず、ものすごく落涙してしまって。これ、別に前作が好きだから、じゃないんですよね。あそこの場面が、やっぱりいいから。トムの演技がいいから、なんですけど。で、あまつさえ、彼のパイロットとしての経験、才能、その全てが、時代遅れになりつつあることが、序盤で明示される。

なにせこの最初の、あの「ダークスター」と呼ばれる機体での、マッハ10突破シークエンス。モロにノリは『ライトスタッフ』。1983年の『ライトスタッフ』の、サム・シェパード演じるチャック・イェーガー、そのものなんです。これ、わざわざエド・ハリスという『ライトスタッフ』流れのキャスティングをしてるのもあるし、そもそも一作目の特撮チームが、『ライトスタッフ』での仕事をトニー・スコットが評価して呼んできた、っていう。だから『ライトスタッフ』、関係あるんですけどね。

まあとにかく『ライトスタッフ』のチャック・イェーガーというのは、時代の流れには取り残されたかもしれないが、誰もがそのすごさを認める、孤高の男……そんな「栄光なき天才」に、ピート・ミッチェルは、本作でなってるわけですよ。あの、眩しいばかりに輝いていた美青年が、まるで後年のクリント・イーストウッドばりに、「古いやつだとお思いでしょうが……」な、どこか影のある人物になっている。で、実際本作は、イーストウッドで言えば『ハートブレイク・リッジ』と『ファイヤーフォックス』を、足したような話でもあるんですけど。

ともあれトム・クルーズが、ここまではっきり「自分は古い世代の人間だ」と宣言し、なおかつ、「俺の背中を見ろ」とばかりに、前人未到級の偉業をやってのけた挙げ句、次世代にバトンを渡してみせて終わる作品、というのは……トム・クルーズ史上でも、たぶん初めてのことですよね。言うまでもなく、「スター映画」というのは、そもそも主演たるそのスター本人と役柄の境界線が、非常に曖昧なもの、と言えますけども。本作のピート・ミッチェル、マーヴェリックのあり方は、そのまま俳優トム・クルーズその人とも重なる。

たとえば、ねえ。さっきの「どうせパイロットなんかドローンに取って代わるんだよ」って言われるのは、「生身の俳優、ましてや体を張ってやるアクションなんて、これからは全部CGでやるからいいよ、あんたらはもう用なしだよ」って……そういう、俳優というのに対する、メタファーにも取れる。しかし、そういう「時代の流れ」とやらに対して、トム・クルーズは……「ああ、そうかもね。しかし、たとえそうだとしても……『それは今日ではない』!」という、マーヴェリック=トムの力強い宣言。ここはやっぱり、泣きますよね。

本作を見ると、トム・クルーズ、ただ「若くいたい人」っていう風に揶揄されがちだけど、そうじゃないんだよね。そうじゃなくて、その時点で自分が、肉体的限界も含めてできること、自分だけができること、その限界に全力で挑戦し続けて、映画史を本気で更新し続けようとしている人なんだ、ということが、改めてわかるし。加えて本作では、後進たちにその背中を見せようとして……これ、パンフレットに、ハングマン役のグレン・パウエルに、作品に取り組む心構えを教えて諭すエピソードが載っていて。これももう本当に、落涙必至です! 作品と合わせると。

■空中戦を描いた映画として、そしてトム・クルーズ映画として、考え得る限り最高の出来

もちろんね、勝手に人の国に入り込んで爆撃とかしていいっていうことに、いつからなったんだっけ?とか、そういうもちろん、リアルな政治状況と照らし合わせた時のね、「うーん……」っていう感じはある。極度に敵は抽象化されてはいる。やっぱりその「チームスポーツ物だ」という割り切りはあるにせよ……ただね、インターネット・ムービー・データベースによれば、F14を持っているアメリカの敵国といえば、たぶんイランじゃないのかな?っていう。イランにアメリカは、武器供与もね、昔はしてましたから、という。まあ、そういうのはあるけども。で、さらにそこに、現在の世界を覆っている閉塞感、危機感が、図らずもシンクロして。多くの観客の、これは良くも悪くも、溜飲を……下げたかった溜飲を下げてくれちゃった作品、っていうのもあるかもしれない。

そして、その良し悪しの問題というのは、当然あるんだが! そこに踏み込む時間は、ちょっと現在ない。ちょっとそこは置いとこう、と言わせてください(※宇多丸補足:とは言え個人的には、『エンタメなんだからいいだろう』みたいな単純な割り切りもあまりしたくありません……先ほどのリスナーメールにもあった通り、娯楽映画としての質の話と並行して、必ず意識はしておくべきことだろうと僕も考えています)。あとはもちろん、そのキャラクター、特にルースターの改心とか、チームの結束が安易なのはあるけど……この安易感は、「『トップガン』らしさ」の部分でもあるというか、必要悪、という気もしなくもない。

少なくとも、アクションエンターテイメント映画、特に空中戦映画、そしてもちろんトム・クルーズ映画としては、僕はここまでのものを見せられたら、ちょっと……たった1900円で、もう考えうる限り最高の出来だ!と言わざるを得ないのが現状、ではないでしょうか、と思います。とにかく、何といってもこれを映画館で、一番いい環境で、そして満場の観客の熱気とともに……これを映画館で見ないでどうすんの? 今すぐ劇場で……今すぐだよ? 劇場でウォッチしてください! ああ、また客が増えちゃう(笑)。

(ガチャ回しパート中略 ~ 現在は宇多丸が強制的に1万円を払ってガチャを2度回すキャンペーン中 [ ※貯まったお金はウクライナ支援に寄付します]。一つ目のガチャは『ハケンアニメ!』、そして二つ目のガチャは『FLEE フリー』。よって来週の課題映画はに決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしは

こちらから!

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