宇多丸『シン・ウルトラマン』を語る!【映画評書き起こし 2022.6.3放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。          

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宇多丸:                       
さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、5月13日から劇場公開されているこの作品、『シン・ウルトラマン』

(曲が流れる)

M87星雲、光の国改め「光の星」は結構怖えぞ、って話なんだけども(※宇多丸補足:ウルトラシリーズの『光の国』はM78星雲ですが、当初の設定ではM87だった、という秘話を踏まえてのこの曲タイトル、ということだと思います)……ねえ。米津玄師さんがこの主題歌「M八七」を歌っています。日本を代表する特撮ヒーロー、ウルトラマンを、『シン・ゴジラ』を手がけた庵野秀明が企画・脚本・総監修、樋口真嗣さんが監督を務め、新たに映画化しました。「禍威獣(かいじゅう)」……これ、ちょっと字が変わってますけどね。禍威獣と呼ばれる巨大生物に次々と襲われる日本。日本政府は通称「禍特対(かとくたい)」と呼ばれる対策チームを結成する。新たな禍威獣・ネロンガが現れた時、銀色の巨人が突如出現し、ネロンガを撃破。その巨人はウルトラマンと呼称され、禍特対はその正体を探るのだが……という。

主な出演は主人公・神永新二役の斎藤工さん。神永のバディとなる浅見弘子役の長澤まさみさん。その他、禍特対のメンバーを西島秀俊さん、Hey! Say! JUMPの有岡大貴さん、早見あかりさんが演じる。また、物語の鍵を握るメフィラスを、山本耕史さんが怪演しております。

ということで、この『シン・ウルトラマン』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)を、メールでいただいております……(劇中の主人公たちの設定よろしく)公安からの監視報告をいただいております(笑)。ありがとうございます。メールの量そのものは、「とても多い」です。やっぱりね、特撮物は多いんだよね。『シン・ゴジラ』もめちゃめちゃ多かったしね。今年でもトップクラスの多さ。みんな、お好きねえ(笑)。本当にね。

賛否の比率は「褒め」と「ダメ」と「好きなところもあるが嫌いなところもある」が1対1対1の割合。正しく賛否両論、割れております。主な褒める意見は、「ウルトラマンが人間のために戦う姿に感動した」「オリジナルシリーズへの細かいオマージュが嬉しい」「文句はあるがそれを含めて楽しかった。また見たい」などございました。一方、ダメだったという方の意見は、「前半は良かったが後半がダメ」「ウルトラマンがなぜそこまで人間を好きになったかがわからない」「CGや映像が安っぽい」「特撮ファンがはしゃいでいるだけの自己満足的な作品」「長澤まさみさん演じる浅見弘子周りの描写が不愉快だった」……要は、ちょっと性的な描写というかね、そのあたりどうなんだ、みたいなのが非常にネットなどでもね、ちょっと議論になってたりしますよね。などなどがございました。

■「ウルトラマンの“人間のことが知りたくて努力してみたが、分からなかった”。この言葉が本当に嬉しかった」

ということで皆さん、メールありがとうございます。代表的なところをご紹介しますね。「コテコテポエマー」さんです。

「見たことのあるウルトラマンは、2020年のウルトラマンZのみ、庵野作品はシン・ゴジラのみ、という門外漢です。“初代を見ていないと分からない要素ばっかりだったらどうしよう…”と心配を胸に鑑賞しました。しかし、そんな心配はどこへやら。気が付くと私は、大粒の涙を流しながら“頑張れ! ウルトラマン頑張れえ!”と絶叫していました(心の中で)。電磁波を操り、人間社会を容易に破壊できるザラブ星人。人間の考え方を理解し、巧みに自分の都合の良い方へと誘導するメフィラス。明らかにまずい方向に向かっていく人間を前に、禍特隊だけでは力不足です。

そんな中、光を放って現れるウルトラマンの姿は本当に頼もしく、ヒーローかくあるべしと感じました。しかしその一方、ウルトラマンに対して申し訳ないという感情もありました。人間にそこまでしてもらう価値はあるのだろうか? なんでウルトラマンはここまでしてくれるのだろうか? その疑問の回答は、決戦の後に訪れました。ウルトラマンは言いました。“人間のことが知りたくて努力してみたが、分からなかった”と。この言葉が本当に嬉しかったです。わからないけれど、知ろうと努力している。いなくなって欲しくないと心から思っている。それが“好き”ってことじゃないですか! それに我々人間が“強く応えて”いかなくてどうする! と心から勇気づけられました。但し、長澤まさみさん関連の下劣なシーンの数々は、本当にノイズでした。せっかく素晴らしいヒーロー映画だったのに、余計なことをしないで欲しい。とはいえ、こんな優れたヒーローを50年以上前に作り上げてくれたことに感謝しかないです。また、今作でそれを教えてくれた制作陣にも感謝です。ウルトラマン、大好きです。今のところバットマンを超えて今年ベストです

ちなみに「長澤まさみさん関連の」っていうのは、途中ね、元のテレビオリジナルシリーズにもある、ある展開があるんですが、そこ、僕もあれ、スカートを履かせる必要はあるのかな?とかね。パンツスーツとか、いくらでもやれたし。オリジナルは当然、科特隊の制服だったんで、ズボンなんで問題なかったんですけど。とか、あと、お尻をバーンって叩くとかね。人のお尻もバーンって叩くとか、そういうキャラクター……おそらく「サバサバした」というのを表現しようとしてるんだろうけど。その「サバサバした女性」を表現するのに、いちいちお尻を叩くだのっていうのが、そもそもどうなんだ?っていうのは、今時は当然、その見方はあるでしょうね。

一方、褒めてる方でも、「コオニ」さんという方は、「SNSで問題となったセクハラ描写ですが、個人的には違和感を持つくらいでセクハラとまでは感じませんでした。逆に言えば、それ必要?とおもうくらいには、余計な要素にはなっています」。このぐらいのご意見もございました。

一方、ダメだったという方。これ、ラジオネームなくてメールでいただきました。

「見終わった直後の感想は『そんな人間が好きになったのか、ウルトラマン?』でした。ファンが喜ぶ過去作オマージュの描写を削ってでも、救うに値する善良な人間たちの姿をもっともっと見せてほしいと感じました。でないと醜悪でずる賢い人間たちがいる中でも、最後の絶望的な戦いに挑む道理が立ちません。監督インタビューを読む限りでは、ウルトラマンに守りたいと思わしめる人類代表が禍特対とのことですが、そう思わせられるほど強い印象はないように感じました」。これはね、正直おっしゃる通りです。そこまでの描写は何もないですよね。

「時間的な制約で難しかったとは思いますが、禍特対以外の、慎ましく生きる市井の人々とウルトラマンが触れ合う描写を見せて欲しかった。ベタかもしれませんが、“がんばれウルトラマン!”と応援する子どもたちの姿があるだけでも、ウルトラマンの行動への説得力を高めることはできたと思います」。つまり、通常のヒーロー映画で僕が「必ず人命救助をすべし」って言ってますけど。そういうのはないですよね。ただ、通常のスーパーヒーローとウルトラマンって、そう単純に比較していいのか、という問題もちょっとはあったりすると思いますが。

「あと、話題になっているセクハラ描写については、やっぱり気になりました」という。ですが、そのセクハラ描写についてこのラジオネームのない方が書いているのは、「でも、そのどれもが、僕がこれまでの人生のどこかで接してきたアニメの描写なんだよなぁ。それらの描写を気にしないできたのは、そういうアニメだって分かって観ていたからであって、大衆向け実写映画で見せられると個人的にはノイズでしかなかったです。シン・ゴジラに続いて、日本の特撮コンテンツを幅広い年齢層に届ける作品だろうと思っていたので、“あ、そうじゃないんだ”と思い知らされた瞬間でもありました」というメールをいただきました。

あとは「愚鈍なグドン」さんは、いろいろ書いていただく中で、いびつさがあるというんだけれども。意図的に作られたものと、やむなく都合で発生してしまった、意図しないいびつさがある、というような趣旨のメールで。意図されたいびつさは、そのウルトラマンの描写だったり、みたいなことですよね。なんだけど、「ストーリーの構成もテレビシリーズを忠実になぞった結果、綺麗に5話構成になっていますが、一本の映画と見るとどうしてもツギハギな部分が感じられてしまいます」とか。あと、意図せざるいびつさに関しては、「一部のCG表現などは邦画であることを考えても、違和感があるものとなっています。加えて、大量の素材を撮影し、庵野氏が編集したということですが、素材の中にはiPhone撮影の物も多数含まれており、場面によっては画質の差が顕著になっています」というような、いびつさについての指摘もございました。

■「ウルトラマンという存在のヘンさ」に改めて向き合った部分こそがまずは面白い

というところで、皆さんありがとうございます。『シン・ウルトラマン』、私もTOHOシネマズ日比谷とバルト9で、2回、見てまいりました。公開3週目にして平日昼、平日深夜、どちらも結構、まだまだ入ってる方でしたね。

ということでですね、3パートに分けて話そうと思います。まず、基本的な作りの話です。言うまでもなく、1966年の特撮テレビシリーズ『ウルトラマン』を現代にアップデート、かつ長編映画にした、リブートですよね。それが基本中の基本。と同時に、2016年の『シン・ゴジラ』の大成功を受けて実現した企画だ、というのも間違いなく……僕は2016年8月13日に評して、公式書き起こしも今もばっちり読めますのでぜひ参照にしていただきたいですが、とにかくその『シン・ゴジラ』、そしてこの後は『シン・仮面ライダー』へと続く、要はですね、身も蓋もない言い方をすれば、庵野秀明率いる筋金入りのオタククリエイター軍団がですね、ついに「オレたちの見たかった○○」を公式に実現してみせる!という。そういう企画シリーズの一環として、この『シン・ウルトラマン』は間違いなくある。

冒頭ですね、60年代の東宝ロゴに続いてですね、あの、マーブル模様がグーッと逆回しで『シン・ゴジラ』という字になり、そこからバーンと、赤字に白い文字の『シン・ウルトラマン 空想特撮映画』と出る、という。これ、要するに1966年のウルトラマンのタイトルの出方、そのままですね。前番組の『ウルトラQ』のタイトルがグーンと曲がって『ウルトラQ』って出て、バーンってなって『ウルトラマン』になる、という、そのフォーマットを、サンプリング的に踏襲している、ということですね。さっき言ったような『シン・ゴジラ』を受けての……という本作の立ち位置、まずは示してみせるわけですよね。これでもう二つ、意味が入っている。「サンプリング的にやりますよ」っていうことと、「『シン』の続きですよ」っていう。

ちなみにその『シン・ゴジラ』はじゃあ、どういう作品だったのか。ちょっと関係してくるんでざっくり確認しておくならば、『ゴジラ』のリブート、というのは言うまでもない。それを、前述したようなサンプリング感覚……僕はタランティーノとの類似性を評の中で指摘しましたけど、まさにタランティーノ映画のようにですね、その元ネタとなる作品を知らない世代にも、その良さの本質を改めて「思い出させる」。見たことないのに、「ああ、これが(こういうジャンル作品の)良さだ」って「思い出させる」ような、ジャンル映画のポストモダン的アップデート版、というか。

たとえば、その時点で最新のCG技術とかも、もちろんね、『シン・ゴジラ』は多用しているんだけども、同時に、ミニチュア・着ぐるみを使った日本型特撮の感触、手触り、その良さを、現代に通用する形で生かした、という、そういうアプローチ。それがとてもうまくいっていた作品だと思います。『シン・ゴジラ』はね。もちろん、あと1954年、第一作の『ゴジラ』が突いてきた、戦後日本人の抱えるトラウマというのを、2016年に置き換え、アダプテーション(翻案)してみせた。

つまり、要は東日本大震災以降の日本人が受けたショックとかトラウマっていうのを、織り込んでみせた。その角度も、少なくとも日本人観客には大変ハマったと思いますし。

またですね、岡本喜八監督……今回もね、「独立愚連隊」っていうオマージュのセリフが入ってます。岡本喜八監督作の、ドライなスタイリッシュさとか。あるいは、実相寺昭雄監督の、極端にデフォルメされたアングル、レイアウト。そして市川崑監督、特に『犬神家の一族』を思わせる、早口のセリフを編集でさらにテンポアップ、たたみかけてみせる演出手法、などでですね、近年の日本映画にありがちな、人物描写、日常会話シーンの鈍重さ、下手さ、ウェットさなどを、反則技的にカバーするというか、目立たなくする。ぶっちゃけ作り手たちも、そういうところをうまく撮れるっていう技量がないのはわかっていて、そこをカバーするための、その演出的戦略。これも『シン・ゴジラ』に関しては、うまくはまっていたと思いますし。

今回はね、庵野秀明さんは、その『シン・エヴァンゲリオン』と『シン・仮面ライダー』で多忙ゆえに脚本・総監修のみ、樋口真嗣さんが監督となった今回の『シン・ウルトラマン』でも、ここまで述べてきたような『シン・ゴジラ』的アプローチは当然、基本的には継承されていると言えます。つまり、CGはもちろん使ってるけど、あくまで日本型特撮感をアップデートしたものが目指されているし、ウルトラマンとはそもそも何か? 当時、初めて見た人のインパクトを現代にアダプテーションしようともしているし、極度にデフォルメされたアングル、レイアウトに、矢継ぎ早のセリフやカット割りが全編にわたって展開されている、というのもそうだし。

ただですね、そこはやっぱりゴジラと違うのは、ゴジラは現実味があるアプローチが可能な題材ですが、ウルトラマンは、そもそも超現実的存在……はっきり言えば、冷静に考えるとかなり「ヘン」な存在であり。これ、劇中でも早見あかりさん演じる禍特対メンバーのセリフで、「銀色の巨人、としか言いようがないですね……」とかですね、「裸なのか着衣なのかもわからない」などなど、その「ヘンさ」というものが、はっきり言及されてもいたりして。まさにその、「ウルトラマンという存在のヘンさ」に改めて向き合った部分こそが、やっぱり本作『シン・ウルトラマン』の最も面白い、スリリングなところであり、まずはうまくいってるところ、と言っていいかという風に私は思っております。

■ウルトラマンの登場シーンは……「ああ、もう合格! 合格!」

ということで、2パート目に行きます。これ、うまくいってるところね。まず何より、さっきから言ってるそのね、『シン・ゴジラ』(というタイトル文字)が、「キュッ、キュキュッ、キューッ……ダーン!」って(徐々に映し出される)……で、『シン・ゴジラ』、ダーン! からの、『シン・ウルトラマン』、バーン!ってタイトルが出る。

というところに続く一連の流れが、まあ僕的にはもう、超最高!と思いました。『シン・ゴジラ』の時も、「開始1分で大きな事態がもう動き出すので入場遅れるな」と言いましたけど、今回はそれをさらに更新(笑)。開始0秒で、もう怪獣……いやさ、禍威獣が登場して。要は、これもう本当におなじみのテーマ曲ね、流れます。「テレレレ、テレレレ、テレレレ、テレレレ……♪」って(『ウルトラQ』テーマ曲が)流れます。(この曲が、流れるということは)言うまでもなくですが、『ウルトラQ』リブートのダイジェストが、なんと贅沢にも禍威獣6体分、バンバンバンバンッ!って、まさに大盤振る舞いされる。

僕、これを見て、「うわっ、なんかめちゃくちゃ贅沢なんですけど!」みたいなことを思いながら見てて。「景気がいいねえ!」っていうね。そしてはっきり、「今回はリアル路線じゃありません」宣言でもあるわけです。ここで、もういきなり、「『シン・ゴジラ』とはもうリアリティーラインが違いますよ」っていう……だってね、これ「リアルに」考えて、ゴジラ一匹で大変なことになってたのに、この頻度で怪獣が無作為に出てくる国土には、もう住めないですよ(笑)。普通に考えたら。

ということで、「怪獣は見慣れてるけど、それを退治する超現実的な存在というのはまだ誰も見たことがない」という段階。これ、まさに『ウルトラQ』後、『ウルトラマン』開始時の、視聴者レベル的な世界観セッティング。これがまずは冒頭で示されるわけですね。で、通常攻撃では歯が立たない禍威獣ネロンガというのが出てきて……ちなみにこのね、ネロンガが出てくるところ、ここはですね、本作の最大の見どころのひとつです。樋口真嗣さんが監督するならこれ!という、樋口真嗣さんならではの鉄塔・電線愛、鉄塔・電線フェティッシュが、大炸裂している場面。詳しくは2019年3月5日放送『アフター6ジャンクション』、樋口真嗣さんと石山蓮華さんをお招きしての「電線 OF LOVE リターンズ」特集、音源をどこかでお聞きください(笑)。

あの変電所のね、たとえば電源を切るところで、パンタグラフがファッて(動いて)……で、ちょっと電気がブワッて残るとか。こんなところ、アップにする人いないから、樋口さん以外(笑)。とか、劇場パンフによればですね、ポストプロダクションスーパーバイザーの上田倫人さんという方の発言によれば、「ネロンガのシーンで変電所が倒れた時に樋口監督が『最後にピューッとワイヤーみたいのが出てほしい』と言って、その飛び出るワイヤーだけ僕と樋口監督ともう1人で小さなブルーバックを使って撮りに行った」っていう(笑)。だから、超こだわり描写なの。とにかく樋口さんの半端ない気合いが込められた、魂のシーンなので、ここをこそ皆さん、『シン・ウルトラマン』は見逃さないでください。変電所です! もう『シン・ウルトラマン』の見どころの8割は変電所!

とにかくですね、そこにウルトラマンが、突如現れる。後にその斎藤工さん演じる神永という、オリジナルで言うハヤタ的な役どころと融合して以降の、赤ライン、アンド、顔もいわゆる「タイプC」寄りの、わりと完成された、だいぶヒーロー然としてきた姿ではなく、最初に登場した時は、全身銀で、口元もね、今日私、フィギュアを置いてますけど、「タイプA」寄り……ちょっとこう、グニョッとした口元で。形こそヒト型だけど、存在感として全く人間的でない感じ。そして、おなじみスペシウム光線。手を十字にしますけども、なにか非常にヤバいレベルのエネルギー、パワー、殺傷光線を、「有無を言わさず放っている」、あの禍々しくすらある、話も通じなさそうな感じ。

その、ヘンさ。「なんだ、これは?」感。「何の何」感……(劇中のメフィラスのセリフを真似して)私の好きな言葉です(笑)。「何の何」っていうね。でも、ツルンときれいで、神的でもある、というような。まさにウルトラマンというキャラクターの本質に、正面から向き合い、考え抜いて、もう一回示してみせたようなこの登場シーン。これぞリブート企画の意義、まずは十二分に……僕はもう登場シーンがよかったから、「ああ、もう合格、合格! 全然いい! 全然、OK! じゃ、帰りまーす!」みたいな(笑)。

■コメディテイストやSF的な面白味のある中盤までは面白い、のだが……

で、さっき言ったようなですね、着ぐるみ感。いわゆる『シン・ゴジラ』アプローチというか、着ぐるみ感、ミニチュア感をしっかり出した日本型特撮スタイルで、禍威獣たちが、特に前半はね、描かれるのに対して、ウルトラマンはCG感強めで、その他の地球的現実からちょっと浮いているように見える、というのも、他の作品だったらCGが浮いて見えるっていうのはあんまりよくないんだけど、今回に関してはプラスに働いてるし。現実には起こり得ない、物理法則を無視した動き。たとえば第2戦、対ガボラ戦の時にですね、ウルトラマンが飛来してきて。

その、飛来してきたまっすぐな姿勢のまま、縦にぐるぐる回りだして(笑)ガボラを蹴り上げる!っていう。要はあれ、ミニチュア撮影の不自然さを、そのままわざわざCGで再現してみせたようなアクション。ちょっと笑ってしまうような感じなんだけど、それも、やはりこの場合に限っては、ウルトラマンの非地球的存在感を際立たせるのに、非常にプラスに働いてる。「これはもう、ないないない! もう、無理無理無理!」みたいな感じと、プラス、もちろんオリジナルの感触の再現にもなっていて。まあ、いいですよね。っていうか、これを堂々とやるんだからこれは偉いわ、っていう。非常にプラスになってる。

事程左様にですね、あまりにもとんでもない現実離れした事態が、平然と次々と現出するので、なんだかちょっと笑えてしまう、なんならコミカルに見えてしまう、一種コメディ的なテイストというのも、本作の持ち味のひとつとは言えると思います。たとえばですね、あのザラブ星人が実は化けているニセ・ウルトラマンが、画面の向こう側のビルを蹴倒している、その姿。ちょっともう、コントみたいなんですよ。とか、あるいはもちろん、オリジナルでフジ隊員に襲いかかってくるある事態を、長澤まさみさんその人で再現してみせる、あるくだりなどですね。はっきり「異常すぎて笑える」画を狙ったもの。これは狙って笑わせようとしてるところと言えると思います。

で、個人的にはですね、このバランス、最も近いというか、強く連想させられたのは、松本人志劇場用長編映画監督第一作、2007年の『大日本人』でした。あれも実は巨大ヒーロー物です。特に、国際関係の中で日本人として抱くコンプレックス、そこから発する問題意識のあり方などは、意外と本気で『大日本人』と『シン・ウルトラマン』、近いかな、っていう気がしてます。ということでですね、特にウルトラマンのその非人間的、非現実的存在感に対して、特撮的実在感のある禍威獣がいい対比になっている前半。これは非常に狙いがうまくいってる、っていうことは言えるし。

あるいは中盤ね、外星人の知的侵略によって、地球人の存在そのものが根底から揺るがされる、中盤の非常に知的な駆け引き、ロジカルな駆け引きみたいなのも、オリジナル設定をそうアレンジしたか!的な。(ゲームジャーナリスト/前日ゲストの)Jiniさんが指摘するSF的な面白み、たしかにあるし。あと、特にやっぱり山本耕史さん演じるメフィラス星人……メフィラスっていうのはつまり、「メフィスト」なので。メフィストとしてのメフィラス星人が、非常にこれ、山本耕史さんが見事に演じていて。名ゼリフね、「好きな言葉です」もあるし。

僕が一番ぞっとしたのは、「私を上位概念に置いてくれさえすれば、皆さんの生活には支障はありません」っていう……この、「私にこういう権限を与えてくれれば、皆さんの生活には支障ありませんので、あなたの権利を売り渡してください」っていうこれ、めちゃくちゃ実は、これこそリアルなっていうか、為政者とか独裁者、何でもいいですよ、そういう人が持ち出す、そして我々がうっかりそれに乗ってしまいそうになる何かとして、非常にこれは恐ろしい問いかけ。ここのセリフが一番すごいと思った。「皆さんの生活に支障はありません」っていう、そういうところも面白い。

ただですね、議論がどんどんその高度化、抽象化していくに従ってですね、前述したように、元々矢継ぎ早のセリフをさらにこの編集で畳みかける演出戦略だったものが、ちょっと明らかにトゥーマッチというか、くどくどくどくどくどくどくど、セリフでやたらと説明するだけのものに、どんどんなっていく。ということで3パート目。ここからが、あまりうまくいってないんじゃないか、というところ。あるいはどうなんだ、というところ。

■「投げている」ように見える人間描写やトゥーマッチなセリフと画面。普通にチープに見えてしまうところも

そもそもこの『シン・ウルトラマン』、人間の演出・描写に関しては、ちょっと半ば、「投げている」ようなところがあってですね。たとえば、一番わかりやすいところで言うと、電話の受け答え。ガチャッて電話を取って、「えっ? ウルトラマンが横須賀に現れた? 基地を攻撃している?」って……これ、相手がどういう問いかけをしたらこういう答えになるの?(笑) これ、昔のしょうもないテレビドラマとかだとよくある受け答えなんですけども。僕、こういうのを見るたびに、「はい、もう見る気なくした」みたいに思うんだけども。こういうことを平気でやる。

もちろん、これが決して上等な演出でないことは、作り手の皆さんも百も承知で、なんか開き直ってこれをやっているような感じがある。また、『シン・ゴジラ』は、(ストーリーが)直線構造な上、先ほど言ったように日本人のトラウマ、コンプレックスをグリグリ刺激すること、それ自体が物語の強い推進力を得ていました。なので、人間描写が多少薄くてもグイグイ見ちゃう、見させる何かがあったんですが、本作は、テレビドラマ何本分かをまとめたような輪切り構造ゆえにですね、キャラ「設定」はあっても、キャラクター「描写」はないに等しいこの作劇。どんどん求心力が弱くなっていくのは否めない。

終盤のやりとりなんか、要はウルトラマンと同化する前の神永の描写がほとんどないので、どういう人かもわかんないし……だから、本当にゾーフィ(が劇中で取るスタンス)と同じですよ、我々も。「なんでそんなに好きになったんだ?」みたいな(笑)。キョトーン、みたいになっちゃって。その一方でですね、これしか人数がいない禍特対メンバーのうち、2人が公安出身、という……『シン・ゴジラ』でもそうだった、政治家不信に対する、官僚への何か謎の信頼感とか。あとは、要するに日本人コンプレックスの裏返しの、なんか世界に対するある種の見方、みたいな感じ……なんだか奇妙なバランスの社会意識、政治意識みたいなものも、ちょっと気持ち悪いっちゃ気持ち悪い。

あと、先ほどから言ったように、議論が抽象化していくにつれて、元々多かった説明ゼリフが、どんどん増えてくわけですね。ウルトラマンの心情を説明するのに、他に方法がないのかもしれないけど……しかも、画はですね、物越しとか、なにか穴越しとか、デフォルメしたアングル、レイアウトが、もうとにかくトゥーマッチ。『シン・ゴジラ』の時はその実相寺オマージュだったものの、更に過剰なコピー、というかですね。そうなっていて、だんだんそれにもうんざりしてくる。

で、だんだんその(話が)抽象化していくのと比例して、敵方もどんどんCG化していくんですね。ゼットンとか、(新たに考えられた)設定そのものはめちゃくちゃ面白いと思いますが、なんでこんなCG?って。『ドンブラザーズ』のCGみたいな感じになっちゃっている(笑)。「大丈夫かな?」みたいな感じがする。あと、先ほど言った、狙いとしてのコメディとかキッチュ要素っていうのはもちろんあるんだけど、それと、単にチープで下手なところの境目が、曖昧っていうか……もうなんか、トータルではやっぱり、普通にチープで下手なんじゃないか?って見えても仕方がないとこがいっぱいある、という感じがいたします。はい。

クライマックスの、あのね、次元の裂け目みたいなところのあの描写とか、なんかもう、自主制作映画みたいな感じですよね。それは「良くも悪くも」と言っていいのかわかんないけど。また、このクライマックス、神にも等しい超人の登場によって、人類の無気力化が進んでしまう、ということに対する、アツい回答。これ、オリジナル版の対ゼットン戦でももちろんあるものなんですけど、そのわりに今回の『シン・ウルトラマン』は、人間が直接絡んだ反撃……なんていうか、もちろんアイデアは出すけど、(人類が直接ゼットンに反撃するとか)そういったものじゃないんで。そのメッセージのピントが、ちょっと極度にボケちゃってると思いますし。

あと、神永が残したUSBデータを、すぐ開いて活用しないのとかも、「なんだ、これ?」って思いますね。あとはラストの、動きひとつない光の星人同士のくどくど語りからの、本当に編集テンポが悪い幕切れとか。ちょっとやっぱり、ギャグ的にしか見えない。これ、(仮に)テレビドラマシリーズでこれを見せられていたら、僕、もうちょっとハードルが下がって、普通に絶賛してたと思います。なので、映画館で一本の映画として見ることの、ちょっとハードルの高まり、あるいは相性の悪さ、みたいなのは、ちょっと否めなかったかなと思います。

■やいのやいの含めて言うのも含めてコスパは抜群

ただ、今まで述べてきたように、十分押さえるべき、「ここがおもしろければいいや」ってところは押さえている、と思いますんで。あと、やいのやいの言うコスパも含めて、例によってね、庵野さんたちの作る作品は、そういうところのコスパは抜群でございますので。ぜひぜひ劇場で今見て、やいのやいの言うのがよろしいんじゃないでしょうか。劇場でウォッチしてください。ディヤッ!

(ガチャ回しパート中略 ~ 現在は宇多丸が強制的に1万円を払ってガチャを2度回すキャンペーン中 [ ※貯まったお金はウクライナ支援に寄付します ]。一つ目のガチャは『死刑にいたる病』、そして二つ目のガチャは『トップガン マーヴェリック』。よって来週の課題映画は『トップガン マーヴェリック』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしは

こちらから!

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