オズワルドと12ヶ月。【連載エッセイ「TBSラジオ、まずはこれから」】

ほら!ここがオズワルドさんち!

エッセイストの中前結花さんにさまざまな番組の魅力を紹介いただくエッセイシリーズ「TBSラジオ、まずはこれから」もついに最終回。今回は約1年前、中前さんがライターとしてオトビヨリに初参加した『ほら!ここがオズワルドさんち!』インタビュー取材の裏側で心動かされたできごとを綴っていただきました。 

 

それは、去年の4月。 

「2021年に会社を辞めて、独立しました」

そんなふうに誰かに話すとき、わたしの胸の内はいつもジクジクとする。“独立”といえば聞こえはいいが、その実、体を壊して休職し、「とても戻れる場所はない」とそのまま会社を辞めただけのことだった。 
本当は、逃げ出したのだ。

もう体と時間をたくさん使ってくたびれるのは嫌だった。「無理だけはしない」とだけ心に誓って、「ものを書いて生活していきます」と桜の季節に小さな小さな旗を立てた。ちょうど1年前のことだ。 
それをはじめて見つけて、そうっと掬う(すくう)ようにして仕事をくれた人があった。 
そんなご縁の中で始まったのが、このTBSラジオの連載なのだ。


加えてもうひとつ。「春から新しく番組を始めるラジオパーソナリティ 」のインタビュー記事の仕事の依頼をもらい、それがわたしの復帰後はじめての取材となる。

そのパーソナリティが、オズワルドのふたりだった。 
 

はじめて「お邪魔」したのは。

「取材ですが、来週の水曜日に決まりそうです!」

そんな連絡をもらってカレンダーに目を落とすと、そこには、大きな「×」と「安静」の文字が書き込んであった。 
わたしはその前日に、右目の手術をすることになっていたのだ。それさえ済めば長年悩まされていた頭痛が楽になるかもしれず、けれどもそれは全身麻酔で切ったり縫ったりするものらしい。「もう無理はしない」と心に決めたわたしだ。 
けれど……

「夜なら行けます!」

どんな自分との約束も、オズワルドには敵わなかった。 
 


「次はオズワルドですよ」

予防注射さえ知恵熱を出すようなわたしが、全身麻酔の手術だなんて恐ろしくないはずがない。けれど翌日に「オズワルドに取材ができる」と決まってからというもの、“手術の日”は、ただの“前日”に変わってしまった。

そもそも、オズワルドとはわたしにとって何だったのか。

毎年年末になると、M-1グランプリの決勝に進む9組を「中前さんはよく当てる」と言われてきた。なんの事はない。予選を見て準決勝には必ず足を運んでいるのものだから、他の人よりも「少し予想が多く当たる」だけのことだ。 
けれど、「注目は?」「いま誰がおもしろいの?」そう言われれば、知った顔で「オズワルドですよ」とわたしは言い続けてきた。そして去年の春からは、

「オズワルドのラジオが始まるんですよ」 
「YouTubeのラジオもおもしろいから、聴いた方がいいですよ」

うれしくなってそう続けることも多かった。 
2021年4月からスタートした『ほら!ここがオズワルドさんち!』。肩の力の抜けたふたりの気の良いおしゃべりが心地よく、彼らの漫才同様、じわりじわりと深みにはまってしまう。 
金曜深夜の30分番組としてスタートし、リスナーにとっても「駆け抜けた平日のご褒美」になると想像すると、それはとてもとても満足だった。


そして迎えた取材当日。

わたしはマスクで鼻と口を覆い、右目には眼帯をつけて、左目だけでTBSラジオに向かうこととなった。布だらけでずいぶんとおかしな格好だけれど、胸の内はただただうれしかった。 
復帰後はじめての取材が、ずっと楽しみにしていたオズワルドの番組だなんて。 
 

布だらけの失敗

番組について、これからの活動について、あれもこれも尋ねたい。ふたりのいるブースに入ると、わたしの胸はひさしぶりに高鳴って、耳の奥がぎゅっと詰まった。

「よろしくお願いします」 
そう言って腰掛けると、 
「だいじょうぶですか?」

そのへんにいる人がそのへんにいる人に尋ねるみたいにして、畠中さんと伊藤さんが口々にそう言ってくれる。「なんのことか」と思ったけれど、そうだ、わたしは布だらけの女なのだった。

「出ている面積が少なくてすみません……」そう詫びると、「いえいえ」と伊藤さんがかぶりを振り、「どうしたんですか?」と畠中さんが尋ねる。

「あんまり聞くなよ」 
「ちょっと昨日手術しまして」 
「え! 痛かったですか?」 
「あんまり聞くなよ」 
「はい、かなり」 
「あんま答えなくていいですよ」 
「痛いですよねえ」 
「あんま知らないのに言うんじゃないよ」

オズワルドだ……! オズワルドじゃないか……! 「いい取材になるぞ」とうれしい気持ちが込み上げる。

けれど実際、その取材がうまくいったかと言えば、それはもしかするとこの仕事をしてきた中でも最も良くない時間だったかもしれなかった。 
どんなふうにしても話がうまく盛り上がらず、焦りだけが募る。ふたりはとても飄々とおだやかでラジオと変わらぬ本当にいい人たちだった。けれども、ふたりはすごくすごく声が小さかった。そこから流れるような会話やその魅力を、わたしはうまく引き出すことができずにいた。

そして時間も後半。意を決して、一か八か伝えてみることにする。

「すみません、ちょっと今、メモ帳がまだ真っ白なんです!」

ふたりは、ハッと笑いながら、

「えええ! 何言えばいいですか?」 
「ええ?! 何なら書いてくれるの!(笑)」

と少し声が大きくなる。場が一瞬、途端に血が巡ったようなあたたかさに包まれた。ああ、言ってよかった。 
それでも結局、その場の運転は一向に難しく、どうにもこうにもうまくいかずで、後にも先にもないようなお手上げ状態であった。 
そしてついには我慢できずに、わたしは踏み込んで聞いてしまうのだ。

「たとえば今年の年末、このラジオで報告したいことはありませんか……?」 
「……?」 
「……年末?」 
「……ああ、M-1!」 
「……あ、M-1? 優勝したいです……!」 
「えっと、絶対優勝してラジオで報告したいです……!」 
「……ありがとうございます」

とんでもない誘導尋問だ。やさしさに甘えることでしか成立せず、聞き手としてとてもとても良くなかったと反省している。

そんな調子で、半年ぶりに復帰した一発目の「取材」はとんでもなくやぶれかぶれだった。 
けれども心が沈みそうなとき、いつもメモ帳の「今年、絶対に優勝する!」という強い強い筆圧の文字が、幾度となくわたしを支えてくれた。

「今年、オズワルドは優勝するんだから」

なんだかそれを楽しみに、日々を毎日を生きている感覚があった。 
 

ひとつのメモが杖になる。

番組のコーナーは順調に増え、わたしは架空の目撃情報を募集する『私も椎名林檎見ました』というコーナーが特にお気に入りだった。 
そして「今週は、こんな仕事をしましたよ」というふたりからの報告も回を追うごとに増えた。日に日にテレビでも見ることの多くなるオズワルドの勢いが気持ちいい。

「よし、年末に向けて順調だ……」

ラジオを聴けば、いつもそんなふうに思える。 
そしてわたしはと言えば、ささやかながらも仕事は順調に増え続け、勝手ながらそんな自分をオズワルドの姿に重ねたりもしていた。

「よし、思った以上に順調だ……」

そうして、そんな調子のいい夏を迎えたとき、ラジオからは、

「あの眼帯のお姉ちゃん来てくれたのおぼえてる?」 
「中前さんって人が取材してくれてね」 
「俺たち、ちゃんと答えてなかった気がする」

と振り返るように放送で触れてくれ、あの日の「眼帯のお姉ちゃん」を忘れずにいてくれたことがわかった。それはとてもとても光栄なことで、けれども、

「おふたりは悪くないのですよ」 
「あの日から、わたしだってずいぶん変わったのですよ」

そんなことも伝えたくもなる。あそこからわたしは始まり、いまオズワルドさんの活躍を見ながら必死で頑張っているのですよ。本当はそう伝えたい気持ちでいっぱいだったのだ。

しかし季節は秋になる頃。わたしは思いの外ずいぶんと、あの「今年、絶対に優勝する!」のメモ帳に助けられることとなる。 
 

蓄えられたものは。

その頃から、ひとりでやっていくことの孤独や自分への不甲斐なさ、そして体調の悪さもぶり返し、苦しむことが多くなった。 
同じとき、M-1グランプリは3回戦、準決勝へと突入していく。「今年はオズワルドが優勝するんだから」そんな期待が、もはやわたしの「杖」のような支えになりかけていた。


そうして迎えた12月の決勝戦。 
見事、決勝に進出していたオズワルドは、第1ラウンドで圧巻のネタを披露し、そこには他を寄せ付けないような凄みがあった。

前年とはまるで違ったふたりの顔。ラジオや劇場、テレビでは見ていたけれど、そうだ、わたしにもこの数ヶ月があったように、オズワルドのふたりにもこの数ヶ月、忙しいばかりではなくて、戦い、考え、苦しみ、蓄えてきたたくさんのものが計り知れぬほどあったのだ。そんなことが一目でわかる姿だった。

わたしは——。 
けれど、わたしはいったいどうだろうか。忙しさの中で仕事に飲み込まれ、不安に飲み込まれ、いつもクタクタな顔をしていた。蓄えることを知らない底の抜けた樽のようで、もしも覗くことができたのなら、その中カラカラのガランドウだろう。

「オズワルドはうまくいくと良いけれどなあ」

もはや希望の光のようにただただ願った。

しかし、そこには同じように、戦い、考え、苦しみ、たくさんのものを蓄えてきた人たちが他にもいたのだ。

2021年、オズワルドのM-1グランプリは準優勝で終わった。 
 

日々は、ずっと続くから。

翌週の『ほら!ここがオズワルドさんち!』では、その裏側が語られた。「日に日に悔しくなる」、「絶対に優勝すると思ってた」、「あの頃に戻りてぇなあ」……。 
聴いているこちらが、なんだかおいおいと声を漏らしながら泣いてしまう、そんな放送だった。手が差し掛かったものを掴めぬとき、叶えられるはずのものが叶わなかったとき。真剣であればあるほど、それはどんなに辛いだろうか。放送を通して、並々ならぬ漫才への想いが改めて伝わってきた。 
しかし、すぐに優勝した「錦鯉」のすごさを語るふたり。そして「来年こそ」と口にする様子に、どんな節目があっても、どんな結果であっても。 
「そうか、日々は続いていくのか」 
そんな当たり前のこととその残酷さを痛いくらいに教えてもらった。

そして潔く爽やかな後味とひたむきさに、わたしは「誰かの結果を支えにするようなことはやめよう」とようやく思うことができたのだった。 
自分の真剣と向き合うときがきたのだ。 
 

小さな種を蒔いて

あれから5ヶ月が経ち、去年のあの頃のような季節になった。 
1年間限定のように思われていた『ほら!ここがオズワルドさんち!』は、4月から曜日を引っ越して1時間番組へと拡大されて絶好調放送中だ。

蒔いてきた種、育ててきた芽の結果は、なにもひとつばかりではないのだ。

そして、ずいぶんと勝手に自分を重ねたり、支えにしたり、希望にしたり……。そんなふうにして、楽しんできたオズワルドのラジオについて話した今回をフィナーレに、この連載は卒業することとなる。

託すのではなくて、今はしっかり自分の目標がある。そしてその先に今度は、チャンピオンになったオズワルドのふたりに取材することもわたしの年末の目標にしたい。それがひとつの、「一線で活躍できている」ことの目安になると思うからだ。 
そのときは両目でしっかりと挑み、「取材の心地がよかったお姉ちゃん」としてまた番組に登場できますように。そんな取材がしたいと思っている。 
初夏みたいに暑くなった5月。再び「書く仕事」で歩き出したあの始まりから1年を経て、今はそんなことを考えているのだった。

 

今回紹介したTBSラジオ番組

『ほら!ここがオズワルドさんち!』 
https://www.tbsradio.jp/ozu/ 
毎週水曜日24時00分~25時00分放送中/出演者:オズワルド  
※番組公式Twitter @kokoozu にて最新情報更新中! 
 

中前結花/エッセイスト・ライター。兵庫県生まれ。『ほぼ日刊イトイ新聞』『DRESS』ほか多数の媒体で、日々のできごとやJ-POPの歌詞にまつわるエピソード、大好きなお笑いについて執筆。趣味は、ものづくりと本を買うこと、劇場に出かけること。

llustration:stomachache Edit:ツドイ

 

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