視覚障害者の移動をサポートする技術開発

自動で動くスーツケーツが視覚障害者を先導
目の不自由な人が外出する時は、白杖や盲導犬に頼ることが多いわけですが、そんな人たちも楽しく街歩きできるようにするために、白杖や盲導犬のように「移動をサポートする技術開発」が進められています。それはスーツケース型誘導ロボット「AIスーツケース」です。

これはスマホとつながっていて、専用アプリで行きたい場所を指定すると、スーツケースが自動で動いてナビゲートしてくれます。また、さまざまなセンサーで周りの状況を認識し、歩行者や障害物があれば音声や振動で伝えてくれます。

開発したのはIT企業・IBMのフェローで、去年、日本科学未来館の館長に就任した浅川智恵子さんらのチームです。浅川さんは子どもの頃にプールでの不慮の事故で目が不自由になり、これまで視覚障害者向けの技術などを研究してきました。そして副館長の高木啓伸さんも、浅川さんと共に研究してきたチームのひとりです。
高木さんにAIスーツケーツの開発のきっかけを聞きました。

元々、この研究プロジェクトのリーダーをしている浅川が、出張に行くことが多いんです。その時にふと気づいたらしいんですね。白杖を持ってなくてもスーツケースだけ押して歩くと、壁がもし前にあればスーツケースが先にぶつかってくれるし、下に降りる階段などがあっても自分は安心して歩くことができると。要するに白杖の代わりをスーツケースがしてくれるわけです。だったらこれにモーターがついてて、案内してくれれば完璧じゃないかと、ある時思ったようです。
視覚障害者の方が今、街中を歩く時というのは、どうしても白杖を使ったり、あるいは盲導犬を持ったりということで、視覚障害者であるということがわかるようにして歩かなければいけないというのが現状です。でもやはりですね、街に溶け込んで、馴染んでかっこよく颯爽と歩きたいっていう気持ちは持ってる方はたくさんいらっしゃるんですよね。そういったときに、なるべくかっこいいスーツケーツを普通に押して歩いてるように外から見えるようなデザインをしたくてですね、スーツケースという形状を選んでいます。
このAIスーツケース、現在は4つの企業が中心に運用する「次世代移動支援技術開発コンソーシアム」が開発を進めています。日本科学未来館もその一員として、館内で実験が続けられています。
触れて理解する展示
未来館ではこのほかにも「触って理解できる展示物」の研究開発に取り組んでいます。例えば、小惑星探査機「はやぶさ2」。その形をどうやったら視覚障害の人に理解してもらえるか。高木さんは3Dプリンターで作った手のひらサイズのはやぶさ2の模型を見せてくれました。

探査機の形って、言葉で説明しようとすると難しいんですよね。実際、視覚障害者の方は皆さん、探査機がどういうものかわからないということです。ただ、この模型を使うと「両側に太陽電池パネルがあるんですよ。その真ん中に探査機があって、ここに出ている棒みたいなのが小惑星にタッチダウンして石を吸い上げる」というようなことを、さわって説明ができるんですね。さらに立体模型がしゃべることによって、独力で自立して科学体験ができるようにしたいというのがですね、もう一つの研究トピックになります。
こうした模型を使った説明は、視覚障害者向けのフロアマップとして使うことも検討されています。1フロアごとに模型をつくり、どこにトイレがあって、階段があってどこで何の展示をやっているか、模型をさわるとその場所の案内が音声で流れる・・・というものです。これを使えば、自分の興味のあるところにどうやったら行けるか、ひとりで判断できるようになるということです。
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未来館を実験の場に
おしまいに未来館の今後についてもうかがいました。
近い将来に自分たちの生活を変える可能性がある科学技術を、実際にいち早く体験していただけるような場にしたい。例えばこのAIスーツケースに関してもですね、そういった体験の一部に組み込んでいきたいなというふうに思っています。実際に体験をすると、その技術が自分たちの生活をどう変えていくのか。またそれを普及するためにはどういう壁があるのか。そういった想像をしていただけるような実験場=プラットフォームにしていきたいなというふうに私たちは考えています。
取材した日は、多くの学生や子どもたちが訪れていました。子どもたちがAIスーツケースに触れてみることで多様性に対する理解も広がっていくのではないでしょうか。
(担当:進藤誠人)
■取材協力
日本科学未来館(https://www.miraikan.jst.go.jp/)
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