問題だらけ。都立高校入試への英語スピーキング導入

森本毅郎 スタンバイ!

2019年にニュースになった、大学入学共通テストに英語の民間試験が導入されそうになった問題を覚えているでしょうか?当事者である高校生も含め反対の声が高まり、結局見送りとなりましたが、実は今、東京都立高校の入試で似たような問題が取り沙汰されています。TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で中村友美ディレクターが取材報告しました。

 

★都のスピーキングテストがベネッセの「GTEC」と酷似?

今年11月27日(日)、都立高校の中学3年生を対象に英語を話す力をテストし、その結果を内申書(調査書)に反映させる「東京都中学校英語スピーキングテスト」。これについて様々な問題があるとして中止を求める署名活動が行われています。署名活動の呼びかけ人の一人、慶應大学名誉教授の大津由紀雄さんです。

「このスピーキングテストはベネッセと共同開発をしているものですけれども、ベネッセ自体が実施しているGTECというテストがあります。何種類かありますけれども、その中のGTEC-Coreと呼ばれるものとそっくりで、受験者に対する指示、問題の構成と問題数、問題の傾向、準備時間と回答、採点基準など、もうまさに二つはそっくりで、東京都の中にある公立中学校の中にはGTEC-Coreを実施している所としていない所があるわけで、これは公平さに欠けるということに他ならないと思います」 

(慶應大学名誉教授の大津由紀雄さん)

GTEC-Coreと東京都のテスト、それぞれWeb上にサンプルが公開されていますが、例えば「4コマのイラストについて、ストーリーを英語で話してください」という設問がどちらにもあって、絵柄は違えど設問の文章はそっくり。解答時間の秒数まで同じです。既にGTEC-Coreを導入している中学校もあるため、そうした学校に通っている生徒が圧倒的に有利になってしまいます。

また、スピーキングテストの点数の入試への反映のされ方にについても問題が指摘されています。内申書は、1教科につき最高評価の5を取れば入試では約23点に換算されますが、英語だけはそこにスピーキングテストの結果を最大20点分上乗せして43点満点。内申書における英語の比重が大きくなってしまいます。

 

★たった1日のテストが内申書を左右する可能性

東京都内の中学・高校で英語教師をしていたという田中真美さんは、さらにスピーキングテストの点数の算出方法について問題を指摘します。

「最終的なスコアっていうのは100点満点で出す。そしてその100点満点をさらに6段階に分けて、4点刻みで内申点とするということなんですよね。、私は100点だった、私は80点だったという人が全く同じ内申点20点をもらうわけです。ところが79点だった人は80点に1点届かなかったんだけれども、内申点は16点になります。内申点を4点上げるというのは、国数英理社の教科で、内申5段階の4を5にするとか、3を4にするとか、その評価を1上げるのと同等の点数なんです。その4点が、たった1回のスピーキングテストのひょっとしたら、1点差の瀬戸際で左右されかねないっていうことなんですよね。」

(元英語教師の田中真美さん)

中学3年生は、高校受験に向けて内申点を1つでも上げるために、日々の授業や課題、定期テストに励むわけですが、このスピーキングテストはたった1日、15分程度で終わるもの。そのテストの結果が内申点並みの重みを持つことになってしまっています。

しかも、何らかの理由で予備日も含めスピーキングテストを受験できなかった人は、学力検査=ペーパーテストの英語の得点からスピーキングテストの点数を推定して加算することになっていて、この点も疑問が生じます。

また、このテストの結果が出るのは1月中旬。推薦入試には間に合いませんし、一般入試にしても、内申点が変わってしまうと、急遽、志望校の再考が必要になるかもしれないなど、保護者も混乱してしまいます。

 

★スピーキングテストなのにスピーキング力が身につかない?

さらに、慶應大学の大津名誉教授は、このスピーキングテストで果たして英語を喋る力が身につくのか?という本質的な問題も指摘しています。

「スピーキングのテストとはいうものの、タブレットに向かって話すという形をとります。これは普段我々が話をするという形態とはかなり違っているわけで、ある中学生の話を聞いたんですけれども『コミュニケーションとは人とやるものだし、普段の授業でもこんなやり方で練習したことがない』と率直な気持ちを語ってくれました。こういうテストとそれに対する練習だけをしていくと、話す力がつくということよりも、相手の思いや意見に耳を傾けて、それに対する自分の反応を伝えるという口頭コミュニケーションの本来の姿からどんどんかけ離れていってしまうという危惧がとても強くあります」

(慶應大学名誉教授の大津由紀雄さん)

大津さんは、スピーキングテストのための勉強が英語の会話力の上昇にはつながらないと指摘します。仮に、試験結果を振り返るにしても、このテストは回答の録音データがフィリピンに送られて現地の専門家が採点しますが、どんな訓練を受けてきた人たちなのか明らかにされていない上、テスト全体のスコアしか知らされないのでどこが間違っていたのか具体的に開示されません。

このように様々な問題があるのですが、中学校の教員間ですらあまり知られていないといいます。通常業務で手一杯な上、東京都側からの説明の機会も限られているいうことです。

また、東京都のみの試験ですから大学入学共通テストのように全国的に問題意識が共有されていないともいえます。しかし大津さんや田中さんは、東京都でスピーキングテストが導入されることで、今後他の自治体にこの問題が波及する可能性も指摘しています。

 

取材:中村友美

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