宇多丸『シャドウ・イン・クラウド』を語る!【映画評書き起こし 2022.4.15放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。          

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宇多丸:                
さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、日本では4月1日から劇場公開されているこの作品、『シャドウ・イン・クラウド』

(曲が流れる)

第二次世界大戦下の1943年、ニュージーランドからサモアへ最高機密を運ぶ指令を受けた連合国空軍の女性大尉モード・ギャレットは、B-17爆撃機フールズ・エランド号に乗り込むが、狭苦しい銃座に押し込められてしまう。そこでギャレットは大空の魔物グレムリンに襲撃される。主演は『キック・アス』や『モールス』などのクロエ・グレース・モレッツ。監督・脚本を務めたのは新鋭女性監督ロザンヌ・リャン……「新鋭」って言ってますけど、あのね、結構実はキャリアありますので。後ほど、今日はこのロザンヌ・リャンさんという方のキャリアを覚えて帰っていただきたい、この人の名前を覚えて帰ってね、というのが主眼でございます。

ということで、この『シャドウ・イン・クラウド』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)を、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「多い」んですって。公開規模、そんなに大きいわけじゃないし。非常に低予算映画だけども、多い。これは嬉しいですね。賛否の比率は、「褒め」の人が9割近く。主な褒める意見は、「ツッコミどころは多いが、それも含めて楽しい」「上映時間の短さもいい」「B級映画風だが、男性社会の中で抑圧される女性が途中から逆転攻勢に出るという展開にスカッとした」「クロエのためのクロエ映画」などがございました。

一方、ダメだったという方の意見は、「無茶な展開や描写が多すぎて乗れない」「要素が渋滞している」「フェミニズム的なメッセージにピンと来なかった」などがございました。

■「ただのジャンルムービーで終わらせない意気込みを感じた」

ちょっとこれ、代表的なところを紹介しましょう。「オムライス食べ太郎」さん。

今年のベスト級が来てしまいました。予告編の、グレムリンと殴り合うクロエ・グレース・モレッツを見た時点で内容はお察しで、蓋を開けてみると、やはりB級感満載でしたが、前半の『あれ? こういう映画だったの?』と戸惑ってしまう密室劇に、後半のアクションシーンの爆発力にやられてしまいました。主人公が、セクハラや、男社会に突如現れた“異物”に向けられる不信感に耐えながらも抵抗する様や、オーバーキル気味なラストには、この映画をただのジャンルムービーで終わらせない意気込みを感じました。恐らくは、脚本に名前のあるマックス・ランディスの女性への暴行の告発を受けて改稿を重ねたとのことなので、その結果なのだと思います」。この話も後ほどね、させていただきますが。

「そして何と言っても、出ずっぱりのクロエ・グレース・モレッツの魅力。前半の密室での独り芝居や、不安や緊張を感じさせる表情、『ありえないだろ!』と言いたくなるようなアクションシーンでの必死さ、『極秘任務』のためとは言え、やりすぎのラスト。若干のリーアム・ニーソンっぽさを感じました。B-17の銃座での密室劇、耐え難い男社会に、襲いかかるグレムリンとゼロ戦、要素が多く、バランスの悪さがありましたが、そのハチャメチャさが魅力の映画でした」というオムライス食べ太郎さん。

あとですね、たとえば「エスキリョウ」さん。この方も全体に絶賛していただきつつ、たとえば「中盤、彼女の愛と知識と勇気、そして巨大すぎるガッツで苦難を乗り越えようとする所で『男性乗組員たちとの力関係の逆転』を文字通り”カメラの反転”で表現して見せた事も、この映画の抜けの良さを体現している一因とも思います」。これ、面白かったよね。後ほど、この話もしたいと思います。ありがとうございます。

一方、ダメだったという方もご紹介しましょう。「お金大好きゼニゲルゲ」さん。

「序盤から始まる銃座での会話シーンからグレムリンとの遭遇シーンは『おぉ!』と思いましたが……その後から始まる、『細かい事は気にするな!』の範疇を超えた、物理を完全に無視したシーンの数々は…正直いただけませんでした」という。ちょっとネタバレになるんで。「……○○映画は大好物ですが、いくら何でも高高度を飛行中の銃座から飛び出した瞬間、とんでもない風圧でギャレットは空中に投げ出されるはずです! それをあろうことか、機体に逆さに張り付きながら移動を開始するとは!」っていう(笑)。

先ほどの「よかった」っていうところはまさにその荒唐無稽なところなんだけれども。「……僕はこのシーンを見た時、『未来少年コナンじゃないんだから!』と、心の中で突っ込んでしまいました! 何より、グレムリンのような得体の知れない化け物を、キャプテンマーベルばりにステゴロでぶちのめせるくらいなら、『DV夫くらい何とか出来なかったのか!?』と。色々と“設定”を活かさない展開にガッカリしました」というお金大好きゼニゲルゲさんとか。まあ、いろんなダメだったという方のご意見もいただいております。ありがとうございます。

■共同脚本のマックス・ランディスはクレジットのみ。本作は完全に「ロザンヌ・リャン監督の映画」!

ということで、『シャドウ・イン・クラウド』、私も渋谷シネクイントと新宿ピカデリーで2回、見てまいりました。まあ、ぼちぼちな入り、という感じではありましたけどね。僕が見たところはね。ニュージーランド・アメリカ合作の、上映時間83分という、非常にコンパクトな……そしてお察しの通り比較的低予算で作られたと思われる、そのぶんアイデアと工夫とかガッツで勝負!というタイプの、ジャンルムービーでありまして。単純にきっちり、めちゃくちゃ楽しませてくれる娯楽作である……と同時にですね、実は大変志が高い作品でもありまして。そこに実は心底感動させられもする、という。

ということでですね、今回はとにかく、脚本・監督のロザンヌ・リャンさんという方。この方の名前、この才能、ぜひ覚えて帰っていただきたい、という。これが主眼の評でございます。ちなみにですね、きちんと整理しておく必要があると思うので一応話しておきますけども、本作、共同脚本としてマックス・ランディスさんという方のクレジットがありますが、この方、あのジョン・ランディスさんの息子ですね。ジョン・ランディス、『ブルース・ブラザーズ』とか『狼男アメリカン』……なんでもいいです。『スリラー』とかのジョン・ランディスさんの息子で。僕もムービーウォッチメンで扱いました、2012年の『クロニクル』とか、あと『エージェント・ウルトラ』ってありましたよね、2015年の作品。あれの脚本なんかもやってる方なんですけども。

2019年にですね、複数の過去の性的暴行などの告発があって。この方、わりとその前から悪評がはっきりあった人っぽくて、今やもう完全にハリウッドからは、締め出されている状態の方です。で、これね、『クロニクル』の監督のジョシュ・トランクさんも、この告発が出た段階で出してるコメントがすごくて。「告発は100%真実だと確信している。『クロニクル』撮影時にセット出禁を宣言してから口も聞いていない」っていう。だからもう、よっぽどのヤツなんですね。というこれは、映画.comとかに載っていた記事ですけども。(編註:「映画.com」2019年6月21日「脚本家マックス・ランディスに性的暴行疑惑 所属エージェンシーは契約を解除」)

ということで当然本作も、撮影開始前ですね。2019年にこれが明らかになったわけなんで。撮影開始前に、脚本をこれはロザンヌ・リャン監督自らが、全面的にリライトして。それでそのマックス・ランディスのクレジットを外そうとしたんだけど、やっぱりアメリカはね、映画の組合が非常に強いですから。全米脚本家組合の規定により、クレジットだけは残さざるを得なかった、ということらしいですね。

ちなみにそのマックス・ランディスは、そのリライト後の現状の作品も、「俺が書いた部分が大半だな」なんてことを主張してるようなんですけど……実際に出来上がったこの『シャドウ・イン・クラウド』という映画、この作品単体で見ても、ロザンヌ・リャンさんのこれまでのフィルモグラフィー、過去作とかを見て、その延長線上で考えてみても、明らかに、完全に「ロザンヌ・リャンの映画」になっている、と言えるんですよね。なので、これね、特に僕ぐらいの年頃の映画ファンであれば、やっぱり本作をですね、たとえば『トワイライト・ゾーン』チックなその設定とかトーンから、ついその「ランディスの系譜」で語りたくなってしまう、というのは気持ちとしてはわかりますが。

ただ、事実としてこれは、あくまでロザンヌ・リャンさんというユニークな作り手にこそスポットを当てるべき作品なんであって。もうマックス・ランディス云々で語るべきでは、全くない作品だと思うので。そこをまず強く主張しておきたいと思います。これはもう完全にロザンヌ・リャン印だよ、という。過去作を見ればそれは明らかだよ、ということなんですね。

■既存のジャンル映画的枠組みをフェミニズムやアジア人女性の視点から再構築してきたロザンヌ・リャン監督

で、ロザンヌ・リャンさん。中国系ニュージーランド人の方で。これね、特にVimeoでね、ご自身が、過去作を短編含めていくつか公開してたり、長編でも部分部分の場面とか、メイキングとかを公開してらっしゃったりで。

まず、2005年、自分自身の、ニュージーランドの白人男性との結婚を巡って浮かび上がる……ご両親は香港からの移民であって、その中国のいろいろ伝統文化を引き継いでいる一方で、ご自身はあくまでニュージーランドで育った、という自分自身との、その文化的・感覚的ギャップなどなど、を題材にしたドキュメンタリー。要するに、自分自身の結婚を題材にしたドキュメンタリー、『Banana in a Nutshell』という2005年のこの作品で、まず注目を浴びて。

で、それをロマンティックコメディとして自ら劇映画化した、『My Wedding And Other Secrets』という、こういう作品が、なんと本国ニュージーランドでは、その年一番のヒットになり……みたいな。そんな方なんですよね。あとですね、もうひとつこの方、太い路線として、短編コメディシリーズがあって。2008年の『Take 3』という短編から始まる、アジア系女性3人組……これ、同じ3人組なんですけど、アジア系女性3人組のショートコメディシリーズ、というのが『FLAT3』『FRIDAY NIGHT BITES』、そして『Unboxed』っていうこのシリーズで続いていて。これ、YouTubeとかにも大量に上がっているので見れますけども。

特に個人的に気になるのは、2021年からこの同じシリーズでね、そのアジア系女性、おなじみのズッコケ3人組が主役で始まった最新シリーズの、『Creamerie』っていう。これ、今までのなんていうか日常ベースにしたコメディからちょっと趣を変えて。これはね、あるウイルスの蔓延により男性の99%が死滅した世界、っていう、ちょっとね、『侍女の物語』をさらに逆転させたようなSFディストピアコメディ、みたいな感じで。Vimeoでこれ、予告が見れたんだけども、これ、めちゃくちゃ面白そうなのよ。という感じで、基本コメディが多かった方、って感じなんすけどね。

なんですけども、一方同時にロザンヌ・リャンさん、今回の『シャドウ・イン・クラウド』とも直結するような、まさに『トワイライト・ゾーン』テイストの短編も、実は全然昔から撮っていて。僕が現状見た中でも、2005年の『Rest Stop』という作品。セリフなしで進行する不条理ホラーコメディ。ある男が車を運転していると……みたいなあれでですね、まさに『トワイライト・ゾーン』感覚というか、『世にも奇妙な物語』感覚というか、そういう感じだし。なにより2017年、これ、重要作ですね。サンダンスなどでも非常に評価されたという、『Do No Harm』という2017年の11分の作品があって。

これ、まさに「暴力的な男たちによって脅かされる、か弱い女性」……という構図が痛快に逆転する、実は本格アクションで。そこにですね、マフイヤ・ブリッジマン=クーパーさんという方。これ、今回の『シャドウ・イン・クラウド』も音楽をやっております。この方による、もうモロにジョン・カーペンター風のシンセが鳴り響く音楽を含め、完全に今回の『シャドウ・イン・クラウド』と直接連なる作品なんで。これもVimeoで、完全に見れますんで。『Do No Harm』という作品。これ、絶対に見ていただきたいと思いますけども。

ということですね、このロザンヌ・リャンさん。要はコメディのみならず、ホラーだったり、アクションだったり、要するに既存のジャンル映画的な枠組みを、フェミニズム視点だったり、あるいはアジア人女性という視点だったりで、知的に構築し直してみせる、読み直してみせる、ということができる作り手で。非常に知的な方ですね。本当にね。なので、今回のアメリカ本格進出作である『シャドウ・イン・クラウド』もですね、まさにその意味でロザンヌ・リャンらしい、本当にドンピシャな題材だし、作品だ、という言い方ができると思うんですよね。

■すべての出発点は五行詩『The Death of the Ball Turret Gunner(「球形銃座射撃手の死」)』だった

たとえばですね、本作の最もわかりやすい特徴として、先ほどのメールにも皆さん書かれてる通りです、第2幕いっぱい、クライマックスに突入するまで、舞台が1ヶ所に固定されている。要はそれは、B-17爆撃機の下部にある、銃座ですね。まあ、あれですよ。(『スター・ウォーズ』の)ミレニアムファルコンで、(機体の)上下に乗って「ヒャッホーッ!」ってやってるじゃないですか(笑)。ああいう感じよ。あいつら、「ヒャッホーッ!」なんてやってますけど、あの銃座は実は、地獄なんだよね。下部にある、あの丸いドームがついた銃座に閉じ込められた、クロエ・グレース・モレッツ演じる婦人補助空軍、WAAFという組織ですね……婦人補助空軍の下級士官であるモード・ギャレット、彼女の視点だけで、お話の3分の2が進んでいく、というわけですね。

で、これはもちろんね、多くの方が指摘されてますけども、「B-17の下部銃座に閉じ込められる話」といえばですね、『世にも不思議なアメージング・ストーリー』というね、スピルバーグ製作のテレビシリーズで、スピルバーグ自ら担当した回で「最後のミッション」という1985年の作品。ケヴィン・コスナーが出ていますけども、これを直接的に連想させられますし。あと、飛行中にたった1人グレムリンを目撃するけど、誰にも信じてもらえない、というのは、これはもう言わずもがな、『トワイライト・ゾーン』の最有名エピソード「二万フィートの戦慄」。これ、オリジナルを監督したのはリチャード・ドナーですからね。それもありますし。

あとその、閉鎖空間の1人芝居で全編が進行する、という作りも、監督自身が認めるように、先行の試みとして2010年の『リミット』という作品とか……あれは棺桶の中でずっと進む、とか。『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』という、2010年の作品。これ、トム・ハーディ主演のやつで、映画ライターの村山章さんも大好きだという……大好きな作品の影響があるという意味でもこの作品は嬉しい、なんていうことを村山さん、言ってましたけど。そういうのもあるし。あと、近年でも、『THE GUILTY ギルティ』は完全にそうですね。2018年の『THE GUILTY ギルティ』とか、そういう先行する試みはいくつもあったりしますけど。

ただですね、それ以前にですね、この設定というか、この「銃座に閉じ込められた人」というのは、元ネタというか、元イメージというのが実はあって。これはfilmintという映画サイトでの、アレクサンドラ・ヘラー・ニコラス(Alexandra Heller-Nicholas.)さんという、非常にフェミニズム的な映画批評されている方ですね。オーストラリアの方かな? 彼女による、見事な監督インタビュー記事があって。これがすごくよかった。英語記事なんですけど、これで指摘されていて、僕も不勉強だから初めて知ったことなんですけど。

これ、『The Death of the Ball Turret Gunner』という……「球形銃座射撃手の死」っていう、要するにさっきから言っている、爆撃機の底についている丸っこいドームに囲まれた銃座の射撃手の死、という。『The Death of the Ball Turret Gunner』という、1945年に発表された、ランダル・ジャレルさんという方による、有名な五行詩というのがあるんですって。どういう内容かっていうと、かつてお母さんに産み落とされた僕が、そのまさにB-17とかの、丸い銃座の中……皮肉にも子宮を連想させるそのまん丸な中で死に、その僕の死体の残骸が、いまホースで洗われたんだ、っていう。

まあ、なんていうか、戦争というものの非人間性というのを非常に強烈に印象付ける、お母さんっていうのと死体がこびりついた銃座っていうのを対比させる、強烈な五行詩があって。で、このインタビュアーの方が、「あの詩を強く連想しました」という風に振ったのに対して、ロザンヌ・リャンさんも、「まさにその詩が全ての思考の出発点だ」という風に答えていたりするという。ということで、その有名な詩のイメージがベースにあった、ということを考えてみるとですね、その前半。主人公のモードが、B-17の乗組員、当然のように全員男たちにですね、ひたすら性差別的な扱いを受け続ける。絶え間ないセクハラの一方、常にその発言は軽視され……というような。

まさにそれゆえに機全体が結果として危機的状況に陥っていく、というこの展開も、そしてこれ重大なネタバレゆえに伏せますが、中盤以降明らかになる彼女の真の目的と、その、最終的に生き残ったのは誰か? 誰が一番強くて、何が一番大切だったのか?っていう作品全体の着地が、まさに前述した『The Death of the Ball Turret Gunner』のイメージ、戦争という男性中心的な世界、その暴力性、非人間性に対する、女性側からの読み直しであり、回答にもなっている、という。そういうことが改めてわかるな、と思ったんですね。その詩がベースになってこの話が作られている、という。

■「嘘だろう!?」展開つるべ打ちも、ここには抑圧や差別を「アクション」で打ち破っていく痛快さがある

それによって、たとえば戦争映画の定番描写……これ、さっき(番組オープニングで)も言いました、「荒くれ者たちの乱暴なジョークの飛ばし合いこそが、男たちの絆の証明なのだ」的な美学ですよね。これ、まあよく映画にも描かれますけども。これが実際には、たとえば女性という一歩引いた、ある種の他者からの目線を入れてみれば、いかに単に下劣で非効率な、「ムダ口」に過ぎないか、という。要するにある意味、映画史的な読み直しにも、これはひとつなっていたりするわけですね。もう本当にムダじゃないか!みたいなね。と同時に、当然そのフェミニズム的な視点がですね、要は主人公が抑圧から、抑えつけられた状態から、ついに解き放たれて行動する!瞬間のカタルシスを、効果的に倍増させる、物語的な機能を果たしている。

メッセージ的にいいことを言っている、っていうことが、物語的にも快感を増しているっていうかね。そこが本当にこの本作のすごく素晴らしいところで。エンターテイメントとしても質も高いし、メッセージ性も高くて、それが一致してる、みたいな。たとえば、彼女がついにその男性中心な制度の……要は男性中心的な制度の「許可」はもういらない、お前らの「許可」はもう取らん!と決断して、文字通り「ぶっ放す!」っていうあの瞬間の、爽快さであるとか。あるいはもちろん、クライマックス。ついにその銃座の「外」へ出て。「出るしかない!」という、その決死の決断をして。

そこからはまあ、まさに「嘘だろう!?」な展開のつるべ打ちなんですけども(笑)。そこもですね、その過程で、アホ丸出しのセクシスト、レイシストがどうなっていくのかも含めて、とにかくその、ずっと構造としての性差別とか、構造としての抑圧っていうのがあって、それを「アクション」(具体的な動き)で打ち破っていくから……テーマ的なものをアクションで打ち破っていくので痛快!っていうことですね。なぜなら、それはその不当な差別、抑圧、暴力からの解放、という、まったくもって正当な怒りであり、アクションであるから、ということですよね。

だから「映画ってこうあるべき」っていうか。その、最終的な何かを解決するのがやっぱり「アクション」である、ということ。ここがやっぱりすごくいいところだと思います。

それで途中ね、先ほど(金曜パートナー)山本(匠晃)さんも言ってましたけど、音楽。全編ジョン・カーペンター風味なんです。出だしからモロにジョン・カーペンター風味なんだけど、物語がどんどん加速していくに従って、ついにそのジョン・カーペンター風味っていう一線も越えて、なんか90年代末、2000年代の映画っぽい、なんていうかちょっとドラムンベース感みたいのが入ってきて、なんか変なサンプリングの「ヘェーッ!」みたいなのも入ってきたりして、「どうした? どうした?」みたいな(笑)。いい意味で垢抜けない抑制の効かせなさ、というか。

もう調子に乗ったら調子に乗ります!みたいな、あの感じであるとか。あとね、もちろん物理法則を無視しまくりは本当にそうで、僕はあの『ダイ・ハード2』的、という風に感じた、「いくら何でも……」な荒唐無稽感もですね、僕はやっぱりその全てが、要するにずーっとシリアスな抑圧が続く作りだから、それがボーンと弾ける!っていう意味で、好ましく感じましたし。あと、これは先ほどのメールにあった通りです。要所で、時にカメラごと「逆さになる」ことで事態を切り抜けていく。飛行機がね、(機体ごと)逆さになって、落っこちていく高度を保つ、というそのくだりも含めて、ありますよね。

これも、要はそれまでの既存の白人男性中心的な価値観、あるいはそのシステムっていうのを「逆転させる」という構造の、アクション化、視覚化ですよね。はい。だから、あそこでまさに(未来少年)コナン的な展開が始まった!っていう、やっていることは無茶苦茶なんだけど、やっぱりその、全てが「逆転する」っていう、それの視覚化であるという意味で、やっぱりテーマと一致して、ものすごい楽しいし快感があるし。なんていうか、「やってやれ!」っていう感じがする、というね。

■低予算映画だが見た目に安っぽい画面はない=コスト管理が的確=ロザンヌ・リャン監督、有能!

あと、グレムリンの造形とかCGもばっちりですよね、きっちり生き物としていやらしい感じが出てるし、終盤の対決、完全に劣勢に立ってからの、なんかこう、哀れみを誘う目つきであったりとか(笑)……もちろん、アクションとしても見事でしたね。先ほど言ったその、グレムリン側からの左フックを、クロエ・グレース・モレッツが肘で受けてガードして、そこから腕をグッと回転させていく、なんていうあのアクションも、本当に爽快でしたし、見事でございました、ということでございます。

要はですね、CGとかそういうのも含めて、コストの割り振り方とかかけ方が、的確なんですよね。全体としては低予算なんだけど、そのグレムリンの造形とか最後の格闘シーンのCGとかにはWETAとかが入って、めちゃくちゃちゃんとやってる、という。ということで、見た目で「安っぽいな」って感じる作りのところは、ないんですよ。その前半、舞台が限定されてることで「低予算だろうな」っていうのは想像できるけど、何かが足りてない画、っていうのはないんですね。

だからすごくそれって、監督として有能、っていうことじゃないですか。その、かけられるコストをすごく的確に配置する能力もある、ということだから。ということで、監督・脚本を手がけたロザンヌ・リャンさんの手腕、才能。これは明らかかと思いますね。本当にね。限られた条件下で、エンターテイメントとしても成立する上に、結構高度な……なんていうのかな、フェミニズム的な、映画史も含めた読み直し、社会的なものも含めた読み直しっていうのも、メッセージに入れて。でも、それでいてちゃんとバカっぽさもあって、っていうような感じで、見事だと思いました。

■「55点満点」の映画で「85点」は取れている。ロザンヌ・リャン監督、名前覚えてといてくださいね!

なので、これ超大作にまたああいう感じ(たとえばクロエ・ジャオやキャシー・ヤンのような流れ)で大抜擢!みたいなのも、ない話じゃないですよね。だし、一連の人よりよっぽど、そういうのに向いてる気もするんですよね。そういう、ジャンル映画的なセンスがあるわけだから。

ということで、ロザンヌ・リャンさん、今後も活躍が本当に期待されるんで、名前を覚えてくださいね!ということでもあるし。映画全体としてもですね、そもそもこのね……なんか見た目は、「55点満点」なわけよ、もう(笑)。「まあ、だいたいこのぐらいだろうな……の、『このぐらいだろうな』っていうのよりもちょっとだけ面白ければ、全然いいよ」ぐらいの「55点満点」みたいな見た目なのに、志も含めると75点、いやさ、85点ぐらい取れてるんじゃない?っていう。

これ、なかなか55点(満点の条件)で85点は、取れないんでね。なので、相当僕は、大満足です、これは。条件に対しては……ということで、改めてこの『シャドウ・イン・クラウド』というものを振り返った時に覚えておくべきは、もちろんクロエ・グレース・モレッツの圧倒的な、もちろんスターとしての演技力、成熟した演技力、というのももちろんですし、ロザンヌ・リャンというこの圧倒的な作り手の才能、というあたりかと思います。めちゃくちゃ面白かったです! これぞ映画館で見ていただきたい映画でございます。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 現在、ウクライナ支援の募金のため、強制的に宇多丸が1万円を自腹で支払いガチャを2度回すキャンペーン中(しかるべき機関へ寄付します)。一つ目のガチャは『TITANE/チタン』、そして二つ目のガチャは『ナイトメア・アリー』。よって来週の課題映画は『ナイトメア・アリー』に決定!

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしは

こちらから!

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