宇多丸『SING/シング:ネクストステージ』を語る!【映画評書き起こし 2022.4.1放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。          

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宇多丸:              
さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、日本では3月18日から劇場公開されているこの作品、『SING/シング:ネクストステージ』

(曲が流れる)

日本では2017年に公開された、イルミネーション・スタジオの2016年の作品、ミュージカルアニメ『SING』の続編です。コアラのバスター・ムーンが支配人を務めるニュー・ムーン劇場は、地元で大人気となっていた。しかしバスターには、エンターテイメントの聖地クリスタル・タワー劇場──要するにラスベガスを思わせる、レッドショアという地域があって──そのクリスタル・タワー劇場で自分のショーを披露する、という夢があった。その夢を叶えるため、仲間たちと大都会へ飛び出すのだが……。

声の出演は、前作のメインキャストに加え、新たにU2のボノが出演。びっくりですよね、まさかの。日本語吹替版では、新キャストとして、このボノにあたる役を、B'zの稲葉浩志さん。あとね、BiSHのアイナ・ジ・エンドさんが参加されている、ということです。監督を務めたのは前作に引き続き、ガース・ジェニングスさんです。脚本も務めていらっしゃいます。

ということで、この『SING/シング:ネクストステージ』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)を、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「普通」、なんですけどね。結構、公開から時間も経っちゃっている、っていうのもあるかもしれません。賛否の比率は、褒める人がおよそ4割。そして同じく4割程度の人が、「良いところもあったけど悪いところもある」という意見。だから全面的にワーッて(賛否が盛り上がると)いうよりは、「いいところもあるんだけど、ちょっと……」とか、あるいは「問題はあるけども、いい」とか、そういう人が多かった。

主な褒める意見は、「ストーリーは前作から落ちるものの、歌唱シーンの素晴らしさは相変わらず」「前作同様、クライマックスが最高だった」「日本語吹替もよかった」などがございました。一方、ダメだったという方の意見は、「歌唱シーンはよいが、安易な悪役や各キャラのドラマの薄さなど、とにかく脚本のダメさが目立つ」「主役のコアラ、バスター・ムーンが単なる嫌なヤツに見えてしまった」……ここはなかなか、一作目から危ういところなんですけどね。はい。というようなご意見がございました。

■「前作からスケールUP。良い要素は引き継ぎつつ新しい挑戦を果たす、誠実な続編」

代表的なところをご紹介しましょう。どの方にしようかな。「レイン・ウォッチャー」さん。

「前作からスケールUPし、良い要素は引き継ぎつつ新しい挑戦を果たす、誠実な続編でした。“名曲わんこそば”とでもいうべき感覚は変わらず、ちゃんとお腹いっぱいで帰ることができるし、冒頭とラストに配置された二つの劇中劇はもはやシルク・ドゥ・ソレイユみたいな壮大さに成長し、盛り上げます。一作目で解決済み課題の焼き直しでもなく、既存キャラの雑な改変もない。そして、新たな課題を与えて答えを出す。玉石混交の続編映画界隈で、この安心感は貴重だと思います。

今回の課題は、アイデンティティの揺らぎ。前作が志望校に合格するまでとすれば、今回は入学後の話で、新たな目標や他者との関わりに直面します。前回は内側に閉じていたのに対し、彼らが今回戦うのは外部とのコンフリクトです。仲良しごっこだけでは開けない、外の権威や評価、より優れた存在との出会いと葛藤・協調。それらの成果がちゃんとラストステージにおける各キャラクターのパフォーマンスに結実していてカタルシスにつながる様は見事です……」。なるほどな、そうか。

「ムーンは相変わらずトニースターク並の迷惑サイコおじさんですが(解決法がほぼ精神論だし)、物語上どうしても発生するご都合的な歪みだったり、ヘイトを他のキャラの代わりに引き受けていると言う意味で、座長・プロデューサーの役割をまっとうにこなしている気もしてきました……」。損な役、汚れ役はムーンが買って出ている、という。「その点では、その名前(ムーン、つまり月)も、周囲の輝きを受けて初めて光る存在、としてぴったりだと思います」。なるほどな! 「三作目があるとしたら、次は彼が“他の誰かのために”輝ける存在になる話でしょうか。今回、アッシュやロジータが垣間見せた、他者へのケア・寄り添いが、ヒントになるかもしれません。」というレイン・ウォッチャーさん。なるほど! 後ほど言う私の評とは基本的にちょっとテンションが違うんですけど。「なるほどな」と思いました。はい、ありがとうございます。こういうの、いいですよね。

あとね、これも褒めてる方で、「ニーナ」さん。「『シング』続編はひたすら音楽の心地よさとパワーに圧倒され、大いに泣いて笑って感動して、過呼吸になりそうなくらい嬉しくなってしまい、何年かに一度出会えるような最高の一本でした……」という。でね、いろいろと書いていただいて。

「……イルミネーションスタジオの『ペット』シリーズや『グリンチ』もそうですが、全方位に配慮して合格点を取ろうとする作風ではなく、多少へっぽこな部分があっても目指すもの伝えたいことが明確で、そこに一心に向かう徹底した純粋さ潔さには敬意さえ感じます」。これもなるほどな、たしかに。いいですね。褒めの意見に「なるほど!」っていうことで、私がだいたいどういうテンションかっていうのは、わかるかもしれない(笑)。でも、すごくこれも説得力があると思います。ありがとうございます。こういうの、嬉しいですね。

一方、ダメだったという方。「とらさぶろう」さん。

「『SING/シング:ネクストステージ』、前作が大好きだったぶん、大きく落胆してしまいました。前作は、コアラのバスター・ムーンが周りに迷惑をかけながら自分の欲望を叶えるというのが基本プロットでありながら、物語の推進力は、周りのキャラクターたちが歌を通じて「抑圧している自分」を何とか表現しようとする切実な部分が担っていました。しかし今作では、わかりやすい悪役を退治して、コアラの“手段を選ばない欲望計画の成就”が推進力の大部分を担ってしまっているため、最終的な着地も“これっていい話……なのかなあ”というような気分になってしまいます。

一応、周りのキャラにも葛藤と成長的なものが用意されていますが、それも基本的には偶発的に乗り越えて行くだけな上、最初からコアラの計画に乗り気ではなく、それに付き合わされた末も強制された結果、というのがいい話とは思えません。新キャラも、15年間隠居だったわりにはあっさりほだされたり、ベッドに突っ伏しているのみで、あまり葛藤と成長の部分をしっかりと見せてもらえなかったりと、スケールが大きい割にイマイチ盛り上がりに欠けてしまいました。歌のすばらしさなど含め、いつものイルミネーション映画くらいの楽しさは担保されていますが、イルミネーション作品の中でも突出していたシングの続編としては、かなりがっかりしてしまいました。」というご意見でございます。皆さん、ありがとうございます。

■エモーションのトーンが重層的で、厚みのある作劇が傑作だった前作『SING』

ということで、私も『SING/シング:ネクストステージ』、新宿バルト9深夜で字幕、そしてTOHOシネマズ日比谷で吹替と、2種類、見てまいりました。特に平日昼……といっても春休みなのもあって、吹替版の方は、お子さん連れや、あと中高生、お若い方中心に、なかなかの入りでございました。上映中は思ったよりも皆さん、おとなしい感じでしたけどもね。本当はもっとたぶん、子供がワイワイしていて、一挙手一投足に反応があるようなところで見た方がよかったのかもしれないですね、ひょっとしたら今回は。

ということで、イルミネーション・スタジオ、2016年の大ヒット3DCGアニメーション『SING』。僕のこの映画時評コーナーでは2017年3月25日に取り上げて、こちら、例によって公式書き起こしが今でも読めるので、ぜひそちらもご参照いただきたい。一作目に関して、すごく僕が熱く語ってますので。はい。少なくとも僕にとっては、完全「ナーメテーター」案件。最初は、「『コクソン』、当たらねえかな?」とか言って、ガチャを何回回しても『SING』が出て。「もう『SING』でいいです……」みたいなテンションでやったんですけど(笑)。今となっては本当に、ナーメテーター! 傑作、名作と躊躇なく断言できるほど、最上級に高く評価している作品です。

擬人化された動物たちの世界で繰り広げられる、既存の楽曲、すでに広く知られた有名ポップミュージックとかを物語に組み込んだ、いわゆる「ジュークボックスミュージカル」っていうんですよね、ジュークボックスミュージカル、音楽劇にして群像劇、という。僕の当時の表現だと、『ズートピア』+井筒和幸監督のこれまた名作『のど自慢』。「『ズートピア』+『のど自慢』」なんてことを言いました。あとは当然、『glee/グリー』ですね……みたいなのがあったりする、っていう感じですけど。

で、当然のようにですね、歌が物語の中で本当に有機的に機能していく、その音楽劇としての秀逸さ。そしてそれをアニメーションで展開していく楽しさ。あるいは、群像劇としての構成力。そのいずれもがですね、非常にレベルが高いものだった、というのもありますし。レベルが高いと言えばですね、これは日本語吹替版ですね。本当にね。現在の日本のポップミュージック界を代表する音楽プロデューサー、蔦谷好位置さんと、そしてこれも日本の現在のポップミュージック界隈、本当にもうトップの作詞家と言っていいと思います、いしわたり淳治さん。そしてですね、いろんなアニメ作品を手掛けられています、超ベテランの音響監督・三間雅文さん。今回の『SING/シング:ネクストステージ』でも続投されているこの最強トリオによるですね、ある意味で歌物の日本語吹替映画史上、明らかに最上級クオリティーの仕事ぶりですね。最上級です、本当に。ボイスキャスト陣のこれ以上考えられない程のハマりっぷり、スキルを含めて、これも本当に本当に素晴らしい出来でした。もう、素晴らしかったです。これもね。

あと、僕が特に前作『SING』一作目に深い感銘を受けたというのはですね、その時の評の中でも繰り返し言ったんですけど、たとえば、楽しげなシーンの底流に、実は流れている哀愁、とか。逆に泣けるはずのシーンなんだけど、やってることは超バカバカしいにもほどがある!っていうようなことだったりとか。そんな感じで、言っちゃえば「泣き笑い」のニュアンスが、とっても豊か……シーンごとに醸す感情、エモーションのトーンが、重層的なんですよね。一面的じゃないんですよね。楽しいの裏には悲しさがある。悲しいの裏には笑いがある、みたいな。泣き笑いの感覚。そういう深み、厚みのある作劇が、本当に素晴らしいと思います。

で、これはやはりですね、元々は実写映画監督として非常に寡作……作品の数は少ないんですけども、記憶に残る良作を残してきた、ガース・ジェニングスさんを起用して。これ、要するに実写監督を敢えて起用したことのプラス面、という風に言えるかもしれませんね。なので、イルミネーション・スタジオ作品、基本はスラップスティック、あくまでライトに楽しめる、子供向けコメディが主流ですよね。なんだけど、そういうイルミネーション作品としてはちょっと異例な、深み、厚みのあるドラマ性。そここそが、少なくとも僕が、『SING』一作目に一番食らったところだったわけですね。

実は微妙なバランス上で見事に成り立っていた前作から、さて今回はどうなっているか……

ただ、たしかにお話としては、まあまあ危うい土台の上で、絶妙なバランスを取っている……からまあセーフ!みたいなところもある作品で。当時寄せられたリスナーからの批判的意見も、まさにそこが大きかったんですけど。要は主人公のバスター・ムーンというコアラからしてですね、名前に「バスター」ってついているぐらいで、デタラメな男で。根っからの山師体質と言いましょうか、ちょっと誇大妄想的でもある、っていうかね。彼の身の丈を超えた暴走癖に、周囲の人々が振り回された挙げ句、でも許して、助けてあげる、みたいな感じなんです。

ただそれは、一作目においては、先ほどメールもあった通り、同時にそれは、その人たちにとっての自己実現にも繋がっていくことでもあるから、まあギリ、セーフなんだけど……みたいな感じだったりとか。あるいはですね、今回完全にいなくなってますけど、あの、ネズミのマイクというキャラクターがいますよね。ネズミのマイクというキャラクターは、才能があるんです。才能あるからこそ、傲岸不遜、本当にド失礼な男で。これは完全に意図的なものだという風にガース・ジェニングスさんは当時のインタビューでも語ってましたけど、最後まで反省もしない。あと、目に見える人間的成長もしない。「イルミネーション・スタジオから『このキャラクターに反省させて』とか『成長させて』って言われなくて本当によかった」って言っていて。

ただ、これもこの『SING』という一作目全体が、要は「その人の、その人らしさ」……社会とか周囲が求める「らしさ」ではなくて、その人本来のその人らしさを、堂々と出していけばいいんだよ、というメッセージに全体が着地していくので、このネズミの傲岸不遜さ、成長しなさも、不思議と不快ではない。どころか、むしろかっこよく見えてくる、というかね。最後、『My Way』を高らかに歌って……「ああ、もうお前はそれでいいよ」っていう感じがしてくる、というような感じで。

とにかくそんな感じで、名作・傑作だと僕も思いますが、実は微妙なバランス上で見事に成り立っていた、というタイプの傑作・名作であるとも思っているので。一作目の『SING』はね。ではさて、今回の5年ぶりとなる続編『SING/シング:ネクストステージ』、原題『SING 2』では、そのへんがどうなっているか……ということなんですけど。

まずですね、ちょっと先に言っておきますけど、今回の『SING2』が好き、楽しかった、感動した、という方。もちろんたくさんいらっしゃると思います。あと、先ほどの肯定的なメールにもすごく「ああ、なるほどな」って、それはそれで納得させられるものがありました。とかね、「本当にすごく大事な作品だ」という方もいらっしゃるでしょう。そういう方々には、ちょっとここから先ですね……特に後半ですね。この時間帯の後半、あと5分後ぐらい先でしょうか? から先はですね、ちょっと楽しくないような、あんまり芳しくない感じの評価をですね、私としては多く語らねばならないことになるかと思いますので。なので、「これから見るのを楽しみにしている」とかですね、この『SING2』、既にもう楽しんだ。大好きだ、とかという方はですね、ひょっとしたら今日は……一応安全策で、あと15分後ぐらいですかね? 15分後ぐらいに、またお会いした方がよろしいかもしれません(笑)。

これ、あくまで僕個人の、さっきも言ったように前作『SING』を……おそらくでもね、メールを送っていただいたどの方々よりも、僕は第一作の『SING』、世間の皆さんの平均的テンションよりは、遥かに高く評価してるでんすよ。僕、めちゃくちゃ高く評価しているんです。で、理由は先ほど言った通り、な人間のくだしている評価ということで。私個人の評価ということで、ちょっとご容赦いただきたいところなんですけど。もちろん、だから良かった、という人もすごく本当に説得力があったので。「なるほどな」と思ってね。もちろん、脚本・監督のガース・ジェニングスさんも続投して。

ただし、前作で共同監督だった、クリストフ・ルードレさんというイルミネーション・スタジオ側の方は、今回ちょっと抜けてますけども。あとね、先ほどから言ってるU2のボノが登場するとか、まさかのキャスティングも含め、たっぷり時間をかけて、さらにスケールアップしたこの続編。普通に楽しいところ、すごいところ、もちろん山ほどあるんです。そのベースとなるレベルが、そもそも高い話をしてるんだ、というこれが、前提なんですね。

■まずはよかったところの話から

ということでまず、僕から見てよかったところの話を、先にしておきますけど。まずはやっぱり、当然ながらというべきか、歌と踊りのシーンそのものは、どれもこれも、もう「思わず体が動き出してしまう」というのが比喩ではないほど、めちゃくちゃ楽しいですよ。それはね。もう冒頭、その『不思議の国のアリス』仕立てのプリンス「Let's Go Crazy」が流れ出した時点で、もう僕、実際に体が揺れちゃって。「最高!」って、もう本当に、まさにゴキゲンそのものでしたし。

あと、画的にもですね、5年前からさらに当然、CGアニメーション、3DCGアニメーションの描画技術が、格段にアップしてるんでしょう。いろんなモノとか、あとキャラクターの毛並みとかの質感を見てるだけで、ひたすら目に楽しい。だからもう見てる間、基本的にはもちろん楽しいです。もう非常にアイ・キャンディなものがありますよね。あと、特にクライマックス。人間界で言えばラスベガスにあたる、レッド・ショアっていう場所での、スペースミュージカルシーン。その美しさ、楽しさに圧倒される、という人はもちろん多いはずだと思います。私もいいなと思って、楽しく見ました。

でね、これ、なんでこんなにこのクライマックスのミュージカルシーンがワクワクするのかな?って思って、よくよく考えてみるとですね。この劇中、クライマックスのステージでやっていること……もちろん、あのオープニングの『不思議の国のアリス』も基本的に、「舞台ですよ」って示されている箇所からはそうなんですけど、アニメーション的に動きやスケールのデフォルメはもちろん、誇張はすごくされているんだけども。よくよく見てみると、1個1個の演出は、実は割と現実にも可能な、あくまで物理的な仕掛けがベースになっている。

たとえばなにかこう、(舞台上のオブジェが)パンって早替りするよね? あれ、風船とかをうまく使ったトリック、とかですよね。とにかく、現実にもできなくはない演出の仕掛けが、全てベースになっていて。それが要はですね、アニメーションにも関わらず、我々が見ていて「どうせCGだからなんでもできるんでしょう?」っていう、そのある種のどうでもよさに陥ることがなく……いくらでもファンタスティックにできちゃうんだけど、それをやればやるほど、別にそのシーン、絵で書いてるんですからね、っていう感じがしちゃうんだけど。

でも(本作は)そうじゃなくて、本当に物理的な仕掛けのステージング、というのを構築してるからこそ、生のステージパフォーマンスのスリリングさ、面白さを表現することに、成功しているんですよ。この『SING2』のクライマックスは。そこがすごく、この面白さになってるんだな、っていうことは……特に二度見て、「なんでこんなに面白いんだろうな?」と思った時に、そこだな、と思いました。はい。やろうと思えばできなくはない、っていう……(とは言えホントにやろうとしたら、きっと諸々の限界があって)できないけど(笑)。ただ、一応その物理法則に従ってる、っていうかね。現実的な仕掛けだってことで。

あとは今回特に、オリジナル版だとガース・ジェニングス監督本人が声を演じている、カメレオンのあのミス・クローリーさんという方。彼女を中心としたギャグの量が、相当増えていてですね、そこも非常に楽しい。特に個人的にはですね、あのムーンご一行がですね、オーディションを無理やり受けに行くために、変装して潜入していく、というくだりで……まあ、あえて言いません。「あの大ヒット曲」がですね、意外かつ超ハマった使い方……諸々、めちゃくちゃハマってるし、意外だし、みたいな。もうここ、声を出して笑ってしまいました。本当に。はい。ギャグ感覚も非常に冴えているし。

もちろん今回の続編、日本語吹替版。先ほどから言ってるように、蔦谷好位置さん、三間雅文さん、いしわたり淳治さん、という黄金トリオが続投して。さらにハイクオリティー……あと、ボリュームも増えてます。ボリューミーな仕事を、見事見事にやり遂げています。これね、前回は蔦谷さんと三間さんのインタビューが音楽ナタリーに載っていて、これがめちゃくちゃ勉強になっていたんだけども、今回はですね、蔦谷さんといしわたり淳治さんのインタビュー記事が、音楽ナタリーに載っていて。これがまた、めちゃくちゃ充実していて、細かいこともわかりまして。いしわたりさんが、なぜこのラインをこう訳したのか?みたいなことまで書いてあって。ある種のですね、これは最高の『SING2』解説です! これを読むのが一番いい。

なので正直、僕なんかのグチグチ言ってるのよりも、そっちを読んでもらった方が間違いなくいいんで(笑)。これはもう本当、保障します。ぜひこれ、音楽ナタリーの記事を読んでください。以上! おすすめです!

……まあ、ともあれ今回もですね、原曲を、リップシンク的な整合性を含め尊重しつつ、日本語としても聞き取りやすく、そして物語的な意味も通し、そしてなんていうか、それがなおかつ空耳的なコミカル感も感じさせないようなバランスにする、という。もう、何次方程式なんだ?っていう超難題を、見事に……しかも明らかに前作より曲数、カバーする領域が増えてるんですよね。という、これも本当にすごいことです。

前回もあったオーディションシーンとか、一体何ジャンルをうまく和訳してるんだ?っていう。何曲、何ジャンルをやってみせているのか?っていう、そこもすごく聞き応え、見応えもあるところですし。キャスト陣も言うまでもなく、もう素晴らしい。新しく入った組だと、もちろんね、稲葉さんですよね。本当にまあ、ボノに対抗できるとしたら稲葉さんしかいない! 存在そのものの説得力ももちろんありますし、歌声、歌い出したらもちろん、最高ですし。

あと個人的には、あのわがまま金持ち娘・ポーシャを演じた、BiSHのアイナ・ジ・エンドさん。特徴的なハスキーボイスで、なんていうかな、悪気はないっていうか。「この子はこういう子なだけであって、悪気はない」っていう感じがしっかり出てるから、キャラクターとしてちゃんと好感をキープできているっていうか、非常に最高のハマり方じゃないでしょうか。驚きました。もちろん、歌もうまいし。

あとね、そういうとこでいうと、彼女がプイッと出ていってしまった後のムーンの一言があるんですけど、楽屋オチなんだけど、不自然でもない、という非常に上品なバランス、オチがついている。これはさすがのクオリティーですね。あとですね、オリジナルだとファレルに当たる……アルフォンソというキャラクターを、ファレルが演じているんですけどね。これをSixTONESのジェシーさんが演じていて、これの上品さと色気の出し具合、これがまた見事なバランスで。よりによってMISIAとデュエットするわけですけど、全く引けを取っていなかったと思います。これ、ジェシーさんも素晴らしかったです。

■『2』ならではの掘り下げや相対化をせず、単に「足しただけ」の『2』だった

ということで、オリジナル版も日本語吹替版も、これで十分楽しくて、よくできてるじゃん、という言い方も全然、もちろんできると思うんですが……はい、ここからですね。もちろん僕自身の、一作目の『SING』に対する評価があまりにも高すぎて、今回の二作目にも期待していた作品水準が厳しすぎる、もしくは狭すぎる、という問題があるのかもしれませんが……僕は今回の『SING2』、これを言ってる方も多いですけど、根本のお話が、少なくとも前作にあった美点をあらかた失ってしまっている上に、前述したような元々ちょっと危うかったバランスもすっかり崩れて、なんなら不快指数の高いものになってしまっているように、私には思われます。

まず、何よりですね、さっき言ったように前作『SING』の最も素晴らしいところと私は考えている、シーンごとに醸される情感、エモーションの重層性、たとえば泣き笑い的なニュアンスの豊かさが、今回は全くない。シンプルにスラップスティックなところが増えた。これはもちろん、他のイルミネーション作品のバランスに近づいた、とも言えますが。シンプルにスラップスティック、要するに笑わせどころは笑わせどころ、っていうのがあって。一方、主にやっぱりキャロウェイをめぐるエピソードに多い、感傷的な場面は、単に感傷的なまま、ベタに提示されているのみ、になっているという。

なんというか、作劇に、厚み・深みがなくなっている、という風に私は思います。で、それはなぜかと言えば、これは引き続き登場のメインキャラクターたちの葛藤が、前作では元からずっと抱えてきた悩み、コンプレックス、つまり人生全体の問題だったのに対して、今回はあくまでバスター・ムーンが無理やり設定したハードルに対してどうするか、という、わりと目先の、もちろん前作のそれと比べればグッと軽めの話に終始する上に、それらを乗り越えていく起伏も軽い、というか。これ、メールにもあった通り、偶発性に頼っていたりとか、軽い感じがする。あるいは、正当な乗り越え方とは言えなかったりする、みたいな。

それで今回、一番深い葛藤を持ってるのは新キャラクターのキャロウェイなんですけど、彼自身もわりとあっさりほだされてしまう、みたいなところがあったりする。あるいは、そのわがまま娘の葛藤の乗り越えも、なんかすごく軽い感じ。葛藤なのか何なのかさえ、よくわかんない。ということで、全体として今回、話として軽い、というのがある。で、たとえばですね、前作はそれでも、バスター・ムーン、てめえの劇場の話だから、「Crazy Koala Destroys Theater」って(報道メディアに)書かれても別に……俺、このフレーズ、いまだに思い出して笑っちゃうんですけども(笑)。まあ、「裸一貫、ここからやり直します!」っていうくだり込みで、「まあ、仕方ねえな」で済んでたんですけど。

今回はそのね、バスター・ムーンの誇大妄想的な暴走がですね、一応高圧的・暴力的なボスであるジミー・クリスタルという人が悪役ってことになってますけど、彼に対してムーンが嘘をついてること、詐欺同然のやり方で資本を利用していることは、事実なので……なんていうか、「いや、本当に悪いのはお前なんだけど?」感が否めず。要は、前述した前作の絶妙なバランス、ムーンはたしかにダメ人間だが……というところが、本当にダメなんだろ!っていうことになってしまう。

クライマックスも、前作は仲間たちと手作りしてるからまあよかったけど、今回はなんだかんだでクリスタルの資本を利用しまくったままだし、あと大道具さんとか、元々劇場付きだったスタッフ……照明さんとか、本当はいるはずですよね。そういう人に対するフォロー的な描写を一切していないのも、僕はやっぱりステージアートに関わる人間として、パフォーマンスアートに関わる人間として、非常にモヤりましたし。また、あれだけ演目を厳しくオーディションしていたクリスタルが、娘のキャスティングだけ急にクオリティー度外視なことを言い出すとか、あるいはあの振り付けの先生が、これは『セッション』のJ・K・シモンズよろしくですね、ステージそのもののクオリティーを下げかねないやり方で嫌がらせをしてくる、とか……全体に、エンターテイメントとかパフォーマンス・アートに携わる人たちの「厳しさ」っていうのを、歪めて描いていないか?っていうのが、僕は結構後味が悪いなと思いながら見てました。

一方、ムーンがですね、そのミーナにラブシーンを一方的に要求する……要するに非常に奥手な女の子にそれを要求するのとか、彼女は元々シンガーであって、アクターを目指していたわけでもないのに、なんでこんなことを受け入れさせられてるのか? 悪い意味で昔からのエンタメ界、芸能界的なヤダみさえ感じてしまうような感じにも見えるし。

あとですね、ラストのラスト。これも大きい。あるサクセスをムーン一同が掴んで終わるんですけど、それにも「えっ、そっち?」って。「前作で自分たちが成し遂げたことは、実はちっぽけだったんじゃないか?」という今回の葛藤が……そこから始まるわけですよね。で、それをね、「より高次の権威」に認められてチャンチャン……って、それが本当に解決なの? そうじゃなくて、本来の自分たちらしさとか誇り、そこに誇りとか喜びを取り戻す……つまりこれは、「本来のところに帰る」っていうことでこそ、クリアされるべき件なのでは?っていう。あるいは、バスター・ムーンがついにそのダメ人間ぶりを本当に突きつけられる……つまり、見放されてしまう、とか。とにかくそういうですね、『2』ならではの一作目の掘り下げ、あるいは相対化、みたいなことをちゃんとせず、要するに単に「足しただけ」なんですよね。拡張しただけなので。なんかその、(足しただけの)お話で終わってしまっていて。僕としてはそれが残念でした。

『トイ・ストーリー』でいうと、ナンバリング作品じゃなくて、キャラクターのスピンオフぐらいの感じ、っていうか。そのぐらいの期待値で見ればよかったのかな、って気もする。個人的には、『くもりときどきミートボール2』以来の「がっかり2」だったんですね。好きだった人、すいません! ということで、ぜひぜひ劇場でウォッチしてください……あ、すいません。時間が来てしまいました。楽しいところもいっぱいありますけどね。
(ガチャ回しパート中略 ~ 現在、ウクライナ支援の募金のため、強制的に宇多丸が1万円を自腹で支払いガチャを2度回すキャンペーン中(しかるべき機関へ寄付します)。一つ目のガチャは『ナイトメア・アリー』、そして二つ目のガチャは『英雄の証明』。よって来週の課題映画は『英雄の証明』に決定!

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。 

◆過去の宇多丸映画評書き起こしは

こちらから!

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