宇多丸『愛なのに』を語る!【映画評書き起こし 2022.3.11放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。          

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宇多丸:            
さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、2月25日から劇場公開されているこの作品、『愛なのに』

(曲が流れる)

『アルプススタンドのはしの方』などの城定秀夫監督と、『街の上で』などの今泉力哉監督が、互いに脚本を提供し合う企画「L/R15」の一作……だからこの後にもう一作、今度は逆シフトであるわけですね。今作では、城定秀夫さんが監督、今泉力哉さんが脚本を務められました。

古本屋の店主・多田は、店に通う女子高生・岬に告白されるが、一花という忘れられない女性がいるため、岬の気持ちを受け入れられずにいた……まあ、それだけじゃないと思うけどね。立場上っていうもあると思いますけど。一方、一花は、結婚式の準備に追われていたが、婚約者が浮気をしていることに気付く。

多田を演じるのは、瀬戸康史さん。一花役には、ゲスの極み乙女のドラマーとしても活動している「ほな・いこか」こと、さとうほなみさん。女子高生の岬を、『ちょっと思い出しただけ』──あれもやっぱり年上の男性にちょっと憧れる役、というかね──の河合優美さんが演じる、というあたりでございます。あとはね、とにかく中島歩さんが好演を見せている、とかね。あと、向里祐香さん。本当に見事な演技を見せている、こんなあたりもございました。

ということで、この『愛なのに』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)を、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「普通」。まあ、でも公開規模とかを考えたらね、かなり健闘している方じゃないですかね。賛否の比率は、「褒める人」が8割以上。かなりの高評価。主な褒める意見は、「今泉脚本と城定監督、どちらの持ち味もしっかり出ていても面白い」「愛のさまざまな形が描かれていて登場人物たち全てが愛おしい」「主演の瀬戸康史をはじめ、俳優陣が全員よかった」などございました。

一方、ダメだったという方の意見は、「全体的にはいいが、所々で男性目線のジャッジや理想像の押し付けを感じてしまった」などがございました。

■「決して記号化できない、矛盾を抱えた人間たちの狂想曲」

それでは代表的なところをご紹介しましょう。「転がるフルグラにソースはつかない」さん。

「盤石な布陣と思っていましたが、大傑作でした! 劇場では四方八方から笑い声が。やっぱ映画館っていいもんですねえ。城定監督と脚本の今泉監督、2人の持ち味が見事に混ざり合い、決して記号化できない、矛盾を抱えた人間たちの狂想曲になっていました。お二方は全然違う作家性を持つ監督ですが、共通しているのは“普通”からはみ出た人たちを描く点。両監督の作品を観ると、一面的ではない人間の多面性に触れた気分になります。また、今泉脚本だけあって、部屋のシーンが多いのですが、城定監督らしく、とにかく登場人物は動くし、カメラワークも多彩。インタビューで“濡れ場に関しては絶対に今泉監督に負けたくない”と城定監督は仰っていましたが、その言葉通り濡れ場は艶っぽく、娯楽的に撮るという矜持を感じました。ただ、一番注目すべきはカットの中の『異物』だと思います。岬と浩司のやり取りの中で、奥に写り込んでしまう老人(城定組常連の飯島大介)と猫。告白して、投げ捨てられた後の花束。公園で逆上がりの練習をする親子。何故かコの字型の水槽があるラブホテル。限定的な空間の中で「異物」もきっちり抑えることで、世界の奥行を感じました」。なるほど。このあたり、やっぱり城定監督の、なんていうかやっぱり映画監督としての、映画にしていく手腕、というあたりかもしれませんね。

「……また、本作で印象的なのは皆何かしらの矛盾を抱えています。“愛”はあるけど、肉体関係を求めない岬。“愛”があるからこそ、肉体関係を拒絶し、誠実さを貫こうとする浩司。ネタバレになるので書きませんが、何より結婚式を控えた亮介と一花が“愛”に関して、一番矛盾を抱いています。客観的に見たら、矛盾だらけで、グロテスクにさえ見えるかもしれないけど、交わったり、離れたり、伝えたり、伝えなかったりしながらも、面倒臭い“愛”という感情と向き合う。僕はそんな業を抱えた人たちが愛おしくて堪りません。『愛なのに』はある種の人間賛歌ではないでしょうか」という転がるフルグラにソースはつかないさん。

一方、ちょっといまいちだったという方もご紹介しましょうかね。「綾小路しみまろ」さん。

「城定秀夫監督×今泉力哉脚本の組み合わせも、ストーリー展開も、瀬戸康史の演技も大好きだったんですが、『否』にします」と。でですね、ちょっとこれ、僕もネタバレは全体的に伏せたいので要約させていただきますけど。要するに、とあるところで……まあこの話ね、セックスコメディっていうか……ラブコメというか、セックスコメディと言っていいようなところがあるんですけども。そのセックスに関するジャッジ、みたいなものが、すごく男性目線なんじゃないか、というような批判的視線でございます。はい。

まあ先ほどね、ちょっとこの前のパートで金曜パートナーの山本匠晃さんともお話しましたけども、とはいえそのセックス面だけが人間関係の全て、とも言っている作品ではなくて。なんかそのバランスが、僕はちょうど大人なバランスかな、ぐらいには思いましたけど。とはいえその、なんていうかな、セックスをこういう形で俎上に上げる、ということ自体はアップデートされた視点ではあるということは認めるつつ……という綾小路しみまろさん。

あと「ミッシェル・ガンエレファントカシマシ男」さんも、全体にはよかったとおっしゃっていただきつつ、ラストのオチの解釈で、これってやっぱり男性の理想像として女性を描いているというか、なんというか、幻想の中に閉じ込めるようなあれなんじゃないか、みたいなね。たしかに解釈の仕方によってはね、ラストのあるオチがあるんですけど……というようなところで、そこでちょっと一気に冷めちゃった、というようなメールでございました。ちょっと私の要約が雑だったら申し訳ないですけど、そんな感じでちょっとネタバレを避けたいので、要約した感じのご紹介をさせていただきました。ありがとうございます、皆さん、メール拝読いたしました。

■今泉脚本・城定演出、思いのほか相性いいじゃん!

ということで私も、『愛なのに』、新宿武蔵野館で2回、見てまいりました。評判が広がっているのか、結構入ってましたね。なかなかな入りだったと思います。

ということでこの『愛なのに』。改めて概要を説明しておきますと、もうすぐ、3月18日に劇場公開される『猫は逃げた』という、こっちは今泉力哉さんが監督をして、城定秀夫さんが脚本という、ちょうど本作品『愛なのに』と逆シフトの作品。この二作がセットの「L/R15」というコラボ企画の、これは1本目ということですね。まず、この企画がやっぱり、面白いですよね。それぞれにはっきりした作家性・キャリアを持つ、なおかつ、少なくとも表面的なイメージとしてはまあまあ対照的な感じもする映画の作り手同士で、互いに脚本を提供し合って、監督し合う、という。まあ、クロスコラボというのかな、そんな感じの企画ですよね。

しかも、結論から言えば、この『愛なのに』に関して言えば、その今泉脚本・城定演出、皆さんがおっしゃってる通り、思いのほか相性いいじゃん!というか。それぞれの持ち味がミックスされた上で、今泉さん単独作とも城定さん単独作とも違う面白み、味わいが出ている、という。コラボならでの化学反応、マジックがきっちり起きている作品になっている、ということは皆さんがおっしゃる通り、間違いないかと思います。でね、その両者の作風と言われてもピンとこない方のために、改めてざっくり説明しておくならば……やっぱりそこは分かっていた方が面白いと思うんで。

まず、今回の『愛なのに』では脚本を手掛けられた、今泉力哉さん。このコーナーでは2021年、昨年の2月26日に『あの頃。』、あと4月30日に『街の上で』というのを取り上げさせていただきましたけども。ちなみにその『街の上で』の中でね、「城定秀夫監督の“城定”イハです」っていう自己紹介があったりしましたよね。元々、交流があったみたいなんですけどね。で、その評の中でも言いましたけど、今泉監督、「それぞれの人がそれぞれに抱えている思惑とか背景が、時に完全にすれ違ったり、時にちょっとだけ共鳴し合ったり……という、そういう“それぞれ”同士の関わり合いが起こす感情や関係性の、ささやかな、しかしたしかなさざ波みたいなもの」という、これを描いている。

たとえば、やっぱりこれが大きいですね。「好き」っていう感情。「“好き”って何だよ?」みたいな。「好き」っていうものの得体の知れなさ、一種の理不尽さであるとか……傍から見れば理解に苦しんだり、言っちゃえば他者からは共有できないものでもある、というこの得体の知れなさ。「好き」という感情。自分だってよく分かんない。「好き」ってね、コントロールできるもんじゃないから。あるいは、まだ名前もつけようもないような、気持ちとか関係性。恋じゃないし、友情でも……なんだかわかんないけど、でもまあたしかになにか、いい関係性。いや、「いい」って言っていいかもわかんない関係性が、生まれたな、っていう……その瞬間の、人生の一断片の、愛しさであるとか、みたいな。

要は、人と人とのコミュニケーションって、うまく行っても行かなくても、やっぱり面白いよね、愛おしいよねっていう、そういうニュアンスを、味わい尽くすタイプの作風ですよね。なので、ある種淡々とした、静的なトーンっていうか。こういうのが今泉力哉さん作品のイメージとして、概ねあると思いますね。やっぱりね。まあ、スタイリッシュという言い方ができるクールさもあると思うんだけど。

■静的な今泉監督、動的な城定監督。とは言え人間観では意外と通じているふたり

一方、今回の『愛なのに』で監督を務めてらっしゃる、城定秀夫さん。当コーナーでは2020年8月7日に『アルプススタンドのはしの方』……これ、いっぱいある城定作品の中では、むしろこれもちょっとイレギュラーな1本ではあるのかもしれませんが、ともあれ2020年度のこの番組のシネマランキング、リスナー投票ぶっちぎりの1位、という大人気作ですよね。僕も大好きですけども、『アルプススタンドのはしの方』を取り上げさせていただきましたけど。

城定秀夫さん、とにかく多作で。2003年の監督デビュー以来、ピンク映画、オリジナルビデオなどを含めて100本以上。しかもその全てで、脚本・編集も手掛けていて。そしてその全てでちゃんと面白い!という、まさに怪物的存在、城定秀夫さん。手掛けたジャンルは当然多岐に渡るわけですけど、ざっくり言って……まあ僕がね、前の評の時点で「13本の男」って言っていて(笑)、それから更に増えて、20本は行ってないけど、まあまあまあそのぐらい(の鑑賞歴)ではありますが、(そんな鑑賞歴から見て)ざっくり言うと、「人生の目的が見つからず、もしくは見失ってぼんやりと生きていた人が、他者と出会い、そしてそこから1歩踏み出す経験を通して生の充実を見出していく」。正しいとか間違ってるとかじゃないけど、生の充実を見出していく、というようなテーマが、うっすら一貫してたりすると。

なので、いろんなエグい話はやるんだけど、最後はなんか結構清々しいっていうか、爽やかな感じの作品だっていう。後味がいい。で、さっき言ったように、今泉力哉監督作の、言っちゃえばゆったりした、淡々とした、静的なトーン……まあ基本、会話劇ですしね。言っちゃえばそのスタイリッシュなクールさ、インディペンデント映画っぽい感じ、アート映画っぽいムードみたいなものとは対照的に、城定監督作は、基本はやっぱり、娯楽作品としてのホットさ……人もカメラも、非常に動的なタッチ、というのが印象的だったりしますね。

ということで、その対照的な、しかし先ほどのメールにあったこととたぶん通じる部分ですけど、人間というものを捉える視線の幅というか、豊かさ、もっと言えば優しさ、みたいなところ……特にその「普通」からはみ出ちゃった人、たしかにさっきのメールにあった通りです。人間観の本質みたいなところは、やっぱり結構、意外と通じてるところもあるお二人かな、という気がします。この二人。

■ラブコメというよりも、セックスコメディという方がぴったりくる

で、まずはその今泉力哉さんの脚本による……もちろんそこにね、城定秀夫さん側のアレンジも、所々入って。まあ、だから共同脚本というクレジットではありますが。まあ、その今泉さんの脚本をベースに、城定秀夫さんが監督した、というこの組み合わせによる『愛なのに』はどうなっているか、と言うとですね……ストーリーの骨格はやっぱり、まあ当然のことながら、今泉さんらしいんですよね。

さっきから言ってるその、「好き」という得体の知れない感情の、どうしようもない行き違いですよね。ある意味、行き違ったまま、とも言えますけどね。あとその、まだ名前のつかない関係性、気持ちが、しかしたしかにそこには生じた……みたいな。そういう話ではありますよね。だからまあまあ、すごい今泉さんっぽい話なんですけど。ただ、これまでの今泉作品には明らかになかった要素が、実は本作では、ドスンと大きな位置を占めておりまして。おそらく今泉さんも、「まあ自分で撮るんじゃないなら、これ、行くっしょ!」みたいな(笑)。もしくは「城定さんならこれも行けるっしょ!」みたいな。そういう狙いが当然あったのだと思いますけども。

要はですね、さっきから言っちゃってますけど、「まあまあしっかりエロい」っていうね(笑)。まあがっつり……結構がっつりセックスシーン!みたいな。これ、今泉力哉作品で、今までそんなセックスシーン、ベッドシーンって、あったっけ?みたいな。チューだってあったっけ?みたいな感じじゃないですか。そんな感じですよね。なのに今回はもう、まあまあしっかりセックスシーンですし、それがまあまあしっかりエロいんで。はっきり「見せる方向のセックスシーン」というのかな、そういうのが数ヶ所あったりとかして。要は性、セックスっていうのが、わりとドスンと中心にあるような作品ですよね。これね。メインテーマとして。

だから、ラブコメっていうよりも、セックスコメディっていう方がぴったりくる感じだと思いますよね。たとえばその、さっきチラッと言いましたけど。「(コンドームを)二重にしておこう」とかね(笑)。これ、なかなか日本映画で、あんまり見たことないくだりですが。大事ですよね! しかも、コンドームはできるだけ早めに付けなさい、っていうのが、その……正しくはそうなんですよ。性行為が始まった時点で付けるのが正解なので。彼(劇中の多田)は、非常に真面目にそれを守ってるんですよね。しかもそれを二重に、っていう。でも、その二重に付けてる間に「あれっ?」ってなってきて、「いや、ちょ、ちょっと手伝って……」っていうようなことを言う、みたいな(笑)。そんなのって、なかなか日本映画では見ないと思うんですけど。

特にですね、先ほどから言ってますけど……ここでは伏せておきますが。後半、あるポイントから先……これ、要するになぜ伏せるかっていうと、そこからすごく作品のトーンが、ちょっと変わるっていうか。怒涛のようにというか、坂道を転げ落ちるように(笑)、どんどんどんどん、身もフタもなくなっていくわけです。本当にセックスコメディとして、これ、本当に日本映画としては異例なまでに突き抜けた……ヌケがいいんです、セックスコメディとして。身もフタもない! これがなにより本作『愛なのに』の、非常に大きな魅力、という風に言えると思います。

■今泉監督単独作ではあまり見られないホットさがある。映画としてのエンタメ度高し

特にですね、もうさっきから山本さんとキャッキャキャッキャ話しちゃってますが、先日の濱口竜介監督の『偶然と想像』とも通じる役柄と言っていいかもしれません、ぬぼーっとしたイケメン、なおかつ、ぬぼーっとしたイケボ……イケボ、イケてるボイスなんだけど、なんかぬぼっとしている。ぬぼーっとしたイケメンを演じさせたらもう超一品、中島歩さん。いいですねー! 本当にね。最初にドレスを選んでるところから、「ああ、これはダメだな」って感じがちょっと見えるし。その次、パッと場面が変わると、「ああ、こいつはもう二重、三重にダメだわ」っていう感じの人。

その、さとうほなみさん演じる奥さんとの会話でですね、彼は、さっきも言いましたが、大嘘をついてるわけですよ。大嘘をついて……まあでも、要は「てめぇが悪いんだろ」みたいな話をしている中で、奥さんにね、「いや、ありえないでしょ!」って、当然ね、超怒って言われて……(すると中島歩演じる男側も)「(ぬぼーっとした言い方で)いや、ありえないよ~」みたいな。なんだ、その返し?(笑)っていう、もうこことか、本当におかしい感じなんですよね。本人たちは至って真面目なのに、傍から見るとめちゃくちゃおかしいっていう、非常にもう見事なコメディ演出だと思いますし。

あとこの、中島歩さん演じるイケメンの、もうすぐ結婚する男。まあまあモテては来たのかな? どうなんだろうね? 「経験少ないですよね」とか言われてましたけど(笑)。彼にそういうことを言う、向里祐香さんっていう方が演じるウェディングプランナー。彼女の、非常にクールでクレバーな物腰と、さっきのそのぬぼーっとしたイケメンの、「えっ、バカなの?」みたいなそのやり取りの掛け合いが、もう絶品なんですよね。特にその後半、さっき言ったように、坂道を転げ落ちるように(笑)どんどんどんどん身も蓋もなくなっていくその展開の中で、この二人がする会話の、もうしょうもなさ……その、しょうもなさがドライブしてゆく、というか。まあ、最高ですね。本当に半端ないと思います。向里祐香さんも素晴らしい俳優さんだなと思いました。

あと、さっきも言った、さとうほなみさん演じる奥さん側。間もなく結婚を控えた女性の、途中から本当に人が変わったような……表情が、違う人の顔に見えてくる。まあ衣装なんかも、ちょっと色も変わってきてましたね。ちょっと衣装に色が付いてくる感じになってましたけど。本当に人が変わったように見える表情、佇まいなんかも、本当にすごかったですね。そして、とにかくもう何度も言います。身も蓋もない! 見ながら「それ、言う? それ、言います?」みたいなね(笑)。そういう話なんですけどね。

加えてですね、これも今泉力哉さん単独作ではあまり見られない、その活発なカメラや人同士の動きですね。というのも、全編にその城定秀夫監督作品ならではのホットさをもたらしているし。さっきのメールを読んでいて「ああ、なるほど」って思いましたけど、そういうだから、舞台立てというのかな、たしかにそのラブホテルの水槽がすごく印象的に映されているとか、いろんな背景に映る人々であるとか、そこでその世界の奥行きみたいなものが……しかも奥行きだけじゃなくて、後ほども言いますけど、ちょっとある種、パズル的にっていうのかな、キャラクターとキャラクター、エピソードとエピソードを、パズル的にうまく、スムーズにフェードインっていうか、ミックスするっていうか、つなげていくようなアレンジも、城定さんのアレンジでそれを作っているみたいなので。そのあたりもたしかに、見事ですね。本当に映画監督としての手練の技、といったあたりじゃないでしょうか。

もちろんね、その今泉作品のいわば「動かなさ」っていうのは、それ自体、独特の大きな魅力なんだけども。お話の枠組みそのもの、骨組みそのものは、今泉力哉的そのものであっても、さっきから言っているストレートなエロさ、動き、熱さ、あるいはその奥行きでもいいですけど……といった、これまでの今泉作品は希薄だった要素が前面に出ることで、端的に言えば、やっぱり映画としてのエンタメ度が、さらに高まってますよね。非常に、今泉作品より見やすさやエンタメ度、万人に開かれている度っていう意味では、高まってるわけです。なので、今回のコラボは、まずそれがすごい成果の部分ですよね。すごくそれは出ていると思います。

■ふたりの映画作家が共鳴した、「好き」という感情をひとまず力強く肯定すること

同時にですね、瀬戸康史さん演じる、主人公と言っていいのかな、多田という男がですね……瀬戸康史さんは非常に童顔ですし、美青年っていうかね、少年っぽくすらあるような美青年で。『仮面ライダーキバ』で抜擢されて……という素晴らしい方ですけど、これまでのパブリックイメージにはちょっとない、ヒゲを生やして。地味さであり、あるいは年齢なりの年齢感というか、もうすぐおじさんって言ってもよかろう年齢になっていく感じ、みたいなものを身にまとってみせて演じている、古本屋店主の多田というのがいて。

この、古本屋店主っていう時点で、前の『街の上で』の古着屋店主、皆さん大好き、荒川青ね……まあ青くんよりは、ダメ感はない(笑)。青くんよりはしっかりしている。荒川青くんは、女子高生の常連にあんな風に告白されたら、本当にダメなドギマギを見せて終わり、っていう(笑)。うまくいなせないと思うんですね、青はね……まあいいや。実在の人物のことを話すみたいに話しちゃうのは、今泉作品の魅力かもしれませんけど。まあとにかく、とはいえやっぱりどちらかと言えば内向的な、文化系男子なわけですね。

なんだけど、彼は内向的文化系男子なんだけど、それゆえに……つまり、内向的文化系男子だからこその芯の強さっていうか、彼なりの倫理、筋が、一本通ってる感じっていうか。で、それが一応のクライマックス的なところで、さっき言ったようなですね、得体の知れない、他者からは共有もできないその「好き」という感情をですね、たとえそれがすれ違い、なんなら成就しないかもしれない、傍から見れば非生産的な妄念かもしれない、そして自分自身もその「好き」っていう気持ちを真正面から受け止められるわけでもないかもしれない。

でも、ひとまずそれを力強く肯定しようよ!ということで、彼が筋を通してみせる。これはすごく、今泉作品の持ち味と、城定作品の熱さみたいなところが、「テーマ的にも共鳴してる」っていうか、そんなところだと思いますね。こういう、人の中のこういう気持ちとか、こういう側面みたいなところを、俺は大事にする、私たちは大事にする、というような……テーマ的にも、この二人の映画作家が共鳴した部分かな、という風に取れて。ここは一際、やっぱりちょっと、なんというか映画全体の熱が、ぐっと上がる…天気飛躍もあるし。ここは一際、ちょっと感動的なところかなと思いました。はい。

現代的なセックスコメディとしてめちゃくちゃ面白い。これは日本映画として画期的!

またですね、まあたしかにこれ、下手すればまさしく「気持ち悪いんですけど」ってなりかねない、女子高生と三十男の、奇妙な……恋愛じゃないね。まあフレンドシップ、というようなものを……要するに、危ういわけですよ、これは扱いようによっては。なんだけど、この作品においては、そこが……おじさんが少女に抱く幻想、みたいなところを極力避けるように、きっちり慎重にそれ(二人の距離感)を描いているし。なにより、河合優美さん演じる岬の、その演じ方というか、まっすぐで素敵な佇まい。きりりと上品に、ある一線を保っていると思います。

要するに、ここから先はグダグダにならないように、「ちゃんとしてる」話だと思うんですけどね。またその彼女自身も、その先に何があるのか、みたいなところっていうのはちょっと、悟っている風でもあるっていうのかな。本当に賢そうな子なんで。まあ、この二人の関係は、淡いけど……淡いけど、おかしい、かわいらしい会話。これはやっぱり完全に、今泉ワールドですよね。今泉力哉作品ならではのものでもあって、やっぱりそれは、城定作品にはないテイストが入ってきてる部分でもありますよね。

あとその、河井さん演じる岬というね、女子大生に片思いしている、男子高校生。丈太郎さんという方が演じていて。あの、「自分でもどうしていいかわからなくなっている」感じ。これ、今泉作品にもよく出てくる、不器用な男の子だし。しかもそれがまた、城定秀夫作品的なギャグ感というのかな、もうはっきり声に出して笑ってしまう面白さとして……「もう! 俺が洗ってくるよ!」みたいな(笑)。「なんだ、それ?」みたいな。面白かったですね。ちなみに、劇場パンフによれば、その男子高校生がハンカチをやむなくジャブジャブ洗って、「俺、なにやってるんだろう?」みたいになっている公園。

逆上がりの練習してる親子がいて。「諦めなるなよ! 諦めたら癖になるぞ」「諦めねえよ!」みたいなね、また妙な確信を得てしまうあの公園。で、その後ろを通り過ぎるバスの中に、さとうほなみさん演じる結婚を控えた女性がいる、みたいな、そういう、要するに物語内のキャラクター同士、エピソード同士のリンクっていうのは、城定さんアレンジ、とのことなので。そこはやっぱりその、非常にスムーズなストーリーテリング、ストーリー構築力というのかな、手練の技というか。やっぱり城定さんの監督としてのあれ(手腕)が見えるあたりじゃないでしょうか。

ということでですね、今泉・城定両者にとっての新境地であり……特にやっぱり。これまでのその今泉作品の味が、ちょっと薄いと感じる方。「今泉作品、私にはちょっと味が薄いんだよね」っていう方は、今回のはすごい最高のバランス、という風に言えるんじゃないかと思います。(次に控える)逆シフトね……その『猫は逃げた』もこれ、いよいよ楽しみになってくる、という意味で、いずれにせよ非常に、企画としてお見事!だと思いますし。それは別にしても、さっきから言っているように、まずは何よりその演者さんたちの技量、魅力が炸裂する、日本では珍しい身も蓋もない、でもちゃんとフラットな……そのジェンダー的なバランスから言っても、僕はフラットなバランスがちゃんとあると思いますけどね。非常に現代的なセックスコメディとして、めちゃくちゃ面白い、ストレートに笑える作品になっている、というのはこれ、素晴らしいし。なんなら日本映画としては、画期的な部分かと思います。

特にやはり後半、あるポイントからの「ええっ、それ言っちゃいます?」みたいな感じ。そして「えっ、それ言っちゃいます?」からの、さっきから言ってる、カメラが斜め下に降りると……っていう(笑)。あのもう最高に笑う……カメラの動きからの笑いっていうか。はい。セックスシーンの見せ方も含めて、もう爆笑なんでね。これはぜひ皆さん、劇場で、笑える環境の中で、皆さんの笑い声がある中で見るのが、本当に最高の作品なので。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください! 

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の「ムービーウォッチメン」はお休み。来々週の課題映画は『THE BATMAN-ザ・バットマン-』に決定。 ※3月17日オープニングでムービーガチャを回して決定)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしは

こちらから!

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