宇多丸『ドント・ルック・アップ』を語る!【映画評書き起こし 2022.1.14放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。     
 

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宇多丸:     
さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、昨年12月10日から日本では劇場公開され、12月24日からNetflixで配信されているこちら作品、『ドント・ルック・アップ』(2021年12月10日公開)。

(曲が流れる)

はい。ニコラス・ブリテルの音楽もこれ、いいんですよね。ご機嫌で。ちょっと60年代感覚っていうかね。最初のタイトルの出方もちょっと60年代感覚、ありますよね。レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス主演。彗星衝突の危機に直面した人類を描いたSFブラックコメディ。天文学者のミンディ教授はある日、教え子のケイトと共に、地球に衝突するおそれのある巨大彗星を発見。2人は世界中にその事実を知らせようと奔走するのだが、なかなか信じてもらえず、事態は思わぬ方向へ転がっていく。

主演の2人のほか、メリル・ストリープ、ケイト・ブランシェット、ジョナ・ヒル、マーク・ライランス、タイラー・ペリー、ティモシー・シャラメなど豪華キャストが終結しております。脚本・監督は、『俺たちニュースキャスター』『マネー・ショート 華麗なる大逆転』などなど、のアダム・マッケイが務められました。

ということで、この『ドント・ルック・アップ』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)を、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「多め」。やっぱり番組でね、結構各曜日パートナーともこの話、しましたしね。多め。ありがたいことでございます。

賛否の比率は、8割以上の人が褒め。主な褒める意見は、「笑うに笑えないブラックコメディの大傑作。現代社会を風刺した1本としてまさに今、見るべき作品」「豪華配役も見どころ。特にディカプリオとティモシー・シャラメの新旧美少年共演がよかった」。ああ、たしかにね。そうかそうか。そういう見方もあるか。

ダメだったという方の意見は、「中途半端にシリアスなので、あまり笑えず」「大統領側やメディアの人物がバカすぎる。しつこいし、物語にメリハリもない」などがございました。まあ、構成はごくごく正統派の三幕構成になっていると思いますけどね。きちんとした構成だと思いますけど。

■「アメリカの現状を象徴して作られているにもかかわらず、日本にも全然当てはまっている」

ということで、代表的なところをご紹介します……ちなみにティモシー・シャラメは、なんか変な感じで髪が伸びた感じになっているけども、あれはコロナの間、撮影が中断して伸びちゃった髪を、監督がZOOM会議で見て、「ああ、それいいからそのままにして。切らないで」って言って、あの感じにしたそうです。変な伸び方してるよね。あれね。

ということで、ラジオネーム「いいくら(ゐーくら)」さん。

「『ドント・ルック・アップ』ウォッチしました。大傑作だと思います。本作はまさに『笑うに笑えない』作品で、考えれば考えるほどコロナ禍の現実を象徴しすぎており、鑑賞中は声を出して笑っていたのに、鑑賞後は嫌な気持ちが増幅していきます。描かれるのは、彗星激突の事実を知らされても、選挙で勝つことしか考えない大統領。エンタメとして消費するワイドショー。目を背ける市井の人々。金のため、他国に勝つため、“正しいこと”を曲げる政府です。一方、その中でも事実を知らされたケイトの恋人の狼狽や、バーにいた人々の混乱もしっかりと描かれ、時折カットインする自然の生命の営みは、それらが無に帰すサスペンスを高めます」。あと、いわゆる動物たちだけじゃなくて、アメリカ以外の国の人々の営み、っていうのもね……だから要するに、「本当はアメリカ中心で回っているんじゃないんだけどな」っていうところも示されているのかもしれないですね。

「そしていよいよ彗星=現実、事実が目の当たりになるのに始まるドントルックアップ運動。最終的に世の中に対してあきらめた人たちは『今目の前にある日常、幸せ』を楽しみます。最後に割を食うのは市井の人々です」ということでいろいろ書いていただいて。「恐ろしいのはアメリカの現状を象徴して作られているにもかかわらず、日本にも全然当てはまっている点です。この時代だからこそ、多くの人が観て、考えるべき一作だと思います」という。

いろんな事象に当てはまるという点に関してはね、「レインウォッチャー」さんもこうおっしゃってます。

「今作の顛末は、表面的には『ファクトフルネス』の世界とでもいうか、昨今のいわゆる情報災害系トピックであれば何でも擬えることができると思います。某ウィルスの話でもいいし、ヘイトクライムの話でもいいし、環境問題の話でもいいでしょう。混乱の末、劇中では世界が『Don’t Look Up』vs『Just Look Up』の対立に至ります。主人公サイドがJust勢であることも手伝い、どうしてもDon’t勢=悪・バカにされるべき側と見えがちかもしれないが、その見方だけだと少し勿体無い。

風刺の対象はDon’t勢だけではなく、Just勢もでしょう。アリアナ・グランデまで引っ張ってきたチャリティライヴのシーンなんてその際たるものですし、段々とやっていることはどちらの勢力も変わらなくなってくるようです。その中で興味深いこととして、序盤でひとたび『世界が終わるかも』となったとき、現代人が拠り所にしている、本来絶対的なファクト(真実)であるはずの『数字やデータ』のインパクトがとたんに軽く思えてくることがあります」と。で、いろいろ書いていただいて。

「知らない誰かが作った、本当にあるかもわからない情報(データやニュース)なんかに躍起になって時間をさくよりも前に、本当にいま大事にすべき人のことを見つめていますか? という、実はひどく手垢にまみれた、しかし人間的なメッセージがこの映画のベースにあると考えるのは間違っているでしょうか」。いや、それもいいと思います。そうじゃないでしょうかね。

あとね、「ノーカントリー」さん。

「とても面白かったです。特に『研究者』の描かれ方がとても興味深かったです。私は生物学ではありますが大学で研究者をしています。レオナルド・ディカプリオ演じるミンディ博士のように、正確に伝えようとするあまり、結論からではなく、専門外の人間相手に細かいプロセスから説明してしまう人……います! 『ノーベル賞受賞の〇〇先生』などの大御所研究者を集め、研究のビジョンは壮大だけど、その根拠となる研究データは杜撰。反対意見には耳を貸さず、そのまま突き進む研究プロジェクト……あります! これまで多くの映画で描かれてきたステレオタイプの研究者ではなく、『実際にこういう人いるよなぁ』という描かれ方がされていて、とても面白かったです」という、本物研究者の方からのご意見。

一方、ダメだったという方。「おいしい水」さん。

「アダム・マッケイの『マネー・ショート』『バイス』はとても好きなのですが、今回は全く面白くなかったです。」「『バイス』や『マネー・ショート』のように全員悪人ではなく、ディカプリオやジェニファー・ローレンスのようにまともな人がいる分、『こいつらほんとひどい! バカ!』と笑えなくなってしまっているように感じます。ラスト周辺で急にシリアスな雰囲気を出されても白けてしまいました」というご意見でございます。まあ、いいところはいいというようなことを書いていただきつつ、という感じですね。

『博士の異常な愛情』と同レベルの傑作として扱われるべき

ということで、『ドント・ルック・アップ』、私ももちろんNetflix、昨年12月24日からの配信時と、あとヒューマントラストシネマ有楽町で、見てまいりました。ちなみにこれ、劇場用のとNetflixとだと、字幕がちょっと違っていてですね。これ、すいません。正直……これ、本当に正直に言いますね。訳し方のスムースさというか、意訳のスムースさは、Netflixの字幕の方が正直、ちょっとスムースだったところもありました。あの「マナティが……」の訳し方とかは、Netflixの意訳の仕方でいい気がしますが。と、いうような意見もあります。

とにかく、そのヒューマントラストシネマで見て、終映後に、前にいた若い男性2人の観客がですね、しみじみ、「むっちゃくちゃ面白かった……!」とつぶやいていて。「だよね~!」と思いましたけどね(笑)。ということで、コロナ禍がなければ、ひょっとしたら普通に劇場公開だった作品だったかもしれない……同時にでも、明らかにやっぱりコロナ禍を経たからこそ、さらに深みと説得力と面白さを増した、と言えるこの映画。先ほども言いましたけどね、同じくNetflixでいま見られる『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と並んで、このコーナーのシネマランキングを別にすれば、この二作が本当に、ワンツーフィニッシュ!というぐらいで。まあ、あふれ返る配信作品の中で、その中の1本、という扱いにしてはいけないというか、ちゃんと映画史の中にきちんと位置付けなければいけない、それこそ『博士の異常な愛情』と同レベルの傑作として扱われるべきだ、という思いから、劇場でかかっているうちはということで、しつこくガチャに入れさせていただき、当たった、ということですけども。

脚本・監督のアダム・マッケイさん。僕のこのコーナーでは、2016年3月12日に、2015年の作品ですけど『マネー・ショート』という作品を評して以来です。ちなみにこの『マネー・ショート』の回なんですけど、書き起こし職人みやーんさんによる公式文字起こしが始まった、最初の一回なんですね。今からでも読めますので……『マネー・ショート』、ぶっちゃけ初見ではなかなか理解し難い方も多かろう作品のサブテキストとして、まあまあいい線いってると思いますので(笑)、ぜひご覧の際はお供にどうぞ、という感じなんですけども。

とにかく、ちょっと時間も空いてますんで、改めてこのアダム・マッケイさんという方のキャリアを説明しておきますと……主にウィル・フェレル主演の、最高にくだらない──これ、褒めています──くっだらないコメディで名前を上げてきた方ですね。『俺たちニュースキャスター』シリーズ、『俺たちステップ・ブラザース -義兄弟-』『タラデガ・ナイト オーバルの狼』など、いろいろとありました。

ただ、それが2010年の、つまり『マネー・ショート』で描かれた金融危機の後に作られた『アザー・ガイズ』という作品から、ちょっとだけモードが変わってきます。全体は、ほとんど今まで通りの大バカコメディみたいな感じで進むんですけど、エンドロールの段階になって、特にその権力者とか富裕層がもたらす社会的不正義、みたいなのに対して、かなりストレートに怒りを表明する、そういう作りになっている。ここがターニングポイントです。

とはいえですね、元々このアダム・マッケイさん、テレビシリーズの『マイケル・ムーアの恐るべき真実 アホでマヌケなアメリカ白人』の、企画・製作を元々はやってたぐらいで。本来、そういうポリティカルな志向がゴリゴリにある方で……まあ、あまりにも世情がひどくなってきたから、そこに回帰した、というようなこととも言えると思うんですね。はい。なんて話も、『マネー・ショート』評の中でしてましたけど。

■コメディとシリアスをさらに高い次元でハイブリッドした、アダム・マッケイ監督ネクストレベルな一作

ともあれ、その『マネー・ショート』に続いて、『バイス』というね、これはディック・チェイニーをクリスチャン・ベールが演じてました。これも背筋が凍るような傑作。さっき、その『バイス』の中の名場面を、私が日本語バージョンですけど演じ直してゲラゲラやっていた、というところがありますけれども(笑)。これ、ガチャは当たらなかったんだけどね。

とにかく、この二作。実話ベースの……先ほどのメールに書いてる方もいましたね、「笑うしかないほどひどい現実」を描いた、もしくは「笑うに笑えないダークコメディ」というこの二作。これでアダム・マッケイ、完全に巨匠の領域に……要は、アカデミーの作品賞を争うレベルの巨匠に押し上げた二作、ということですよね。まあ、言っちゃえばスコセッシ『グッドフェローズ』以降の編集センスを、さらに密度を上げて、ちょっともうカオティックなレベルまでにしているような、そういう独特の作風、というのがあります。

その意味で、今回の『ドント・ルック・アップ』はですね、アダム・マッケイさん、実話ベースの前二作に対して、久々の完全フィクション、まあはっきりコメディ、という打ち出しの作品ではある。しかし同時に、『マネー・ショート』『バイス』と完全に連なる、いま我々が生きている「現実のこの世界」を直接的に撃つ、極めて強い社会的メッセージを伝えてくる作品でもあって。要は、コメディの作り手としてのキャリアと、主に前二作で確立したシリアスな作家としてのスタンスの両方を、さらに高い次元でハイブリッドした、ネクストレベルな一作、という言い方が完全にできるかと思います。『ドント・ルック・アップ』ね。アダム・マッケイのキャリア上でも。

で、これは公式資料によりますと、実際、初期の草稿段階では、コメディじゃなかったんですね。シリアスなヒューマンドラマとして最初は構想されていた時期もあった、ということなんですね。でも途中で「これはコメディでやんなきゃダメだ」みたいになって、こっちの方向に来たという。元々は、2019年にアダム・マッケイさんが気候変動に関する本……これ、日本でもNHK出版から出てます。『地球に住めなくなる日』という、読んだ方もいますかね? そういう本を読んで、そこから構想された話です。つまり、今作におけるその地球を破滅させかねない彗星っていうのは、まずは気候変動、いやさ、「気候崩壊」のメタファーだった、という。

要は「このままだとみんな死ぬ、大変な事態になる……と分かっているのに、そしてそれをもうみんなには知らせているはずなのに、なんでみんな、平気な顔をしているの?」という、そういう「現実」の話を、実はこの映画はしているわけなんですよね。もちろんその、でっかい彗星が地球にぶち当たるぞ!っていう映画、これまでもたくさん作られてきました。ご存知『アルマゲドン』『ディープ・インパクト』、かつては『メテオ』なんていうのもありました。日本映画でも『妖星ゴラス』とか、ありました。あれもすごい解決策、地球側を動かす!っていうね(笑)。すごいのがありました。あとは、僕が大好きなラース・フォン・トリアーの『メランコリア』。あの「本当にもうダメだ!」という感じは、あれが一番かもしれませんね。そんなのもありました。

まあ本作、この『ドント・ルック・アップ』は、ちょっとだけやっぱり『メランコリア』に通じるところがあるな、という風に思ってますけど。あとはですね、これもアダム・マッケイさんの頭にあったようですけど、60年代、70年代によく作られていたような、オールスターキャスト映画ですね。この『ドント・ルック・アップ』、その感じもはっきり継承してたりします。特に70年代は、オールスターキャストで、なおかつディザスター超大作、というのがいっぱい作られていたわけで。その意味でもやっぱり『ドント・ルック・アップ』は、それの21世紀版でもあるわけですね。

■ああ、今まで見てた映画って作り物で、実際はこうなるよね

ただし本作の場合、そういう巨大な災厄に対してですね、たとえばそういうかつてのエンターテイメントだったら、人々が合理的、かつ英雄的に対処する、それが主人公だったりするわけですけど……といったほうには行かず、むしろ、現実の我々がそうであるように、ものすごく卑近なレベルで、右往左往するばかり。つまり、突き放したコメディの視点、ダークコメディの視点で描かれるオールスター・ディザスタームービーという、そういう作りになっている。

これ、アダム・マッケイ監督の公式資料によりますとですね、参考にした作品として、マイク・ジャッジの『リストラ・マン』、そして我らが、日本タイトル『26世紀青年』、原題『Idiocracy』ですね。大傑作! あれを参考作品に挙げていて。道しるべだった、ぐらいのことを言ってるんですけど。まあ、たしかにその、人類が知性を正しく使わないとどういうことになるか、という目線は、まさに『Idiocracy』、あれで描かれていた通りですし。さらには『ネットワーク』という70年代の作品とか、あと『ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ』とか……そしてやっぱり『博士の異常な愛情』! これをもうずばり、挙げていて。

とにかくですね、割とでっかい彗星が、かなりの確率で半年後、地球に衝突しますよ、このまま手を打たなければ、地球上の生命は死滅しますよ、という、最大級に衝撃的な事実が判明、確定しているのに、なお……というかひょっとしたら、最大級に衝撃的な事実「だからこそ」こうなるのかもしれませんけど、拍子抜けするほどに社会は、世界は、何も変わらない! どうなってるの?っていう。これはまさにですね、『マネー・ショート』。皆さん、覚えてらっしゃるでしょうか? 金融破綻、起こります。予想通り、金融破綻は起こった。なのに最初のうちは、「あれ? 株価がむしろ、上がってるんですけど……これ、どうなってるの? 格付け機関、何やってんの?」っていう、あの後半の超不条理展開。

っていうか、現実にあったことなので、「超不条理現実」(笑)。皆さん、覚えてらっしゃいますでしょうか? まあ、あの展開にも通じますし。それに限らず、悪事や嘘や危険性がはっきり明るみになっているはずなのに、世の中は何も動かないし、変わっていない!というこの構図。『アザー・ガイズ』エンドロール以降のアダム・マッケイ作品が、一貫して、呆れ、怒り続けてきたこととも言えますし。

もっと言えば、たとえば今週月曜にゲストにお迎えした原一男監督の『水俣曼荼羅』だって、まさにそういう構造を暴いているわけですよ。最新の科学的知見をベースにした最高裁判決が出ているのに、国の対応は変わんない……ってどういうこと? とか。あとはもちろん、コロナウイルス感染拡大の深刻化の中、真に重大な、科学的に何重にも検証済みの……これ、だから情報って、フラットじゃないんですよね。科学は検証されてるんですよ。検証済みの事実が、たとえばやっぱりでもその中で、ネットの情報の氾濫の中で、先ほどのメールにあった通り、どんどん相対的に軽く扱われていく、という様を、我々は現に今も、目の当たりしているわけです。今、現在進行形で。

あとは当然のように、トランプ政権がもたらしたもの、というのもこれ、現実のパロディ要素もいっぱい込みで……そもそも「ドント・ルック・アップ!」っていうあのかけ声とか、いろいろそういうのも込みで、全編にそれは影を落としてますし。あとね、これはもうひとつ、僕がこの間NHKのBSドキュメンタリーで見たデンマークのドキュメンタリーで、地球温暖化懐疑説を垂れ流す用の会社の話があって……「地球温暖化はウソ? 世論動かす“プロ”の暗躍」っていう、このドキュメンタリーとかを見ると、要は『ドント・ルック・アップ』で描かれていることって、デフォルメされてないじゃん!っていうか、ただの現実じゃん!って思ったんですよね。まあ、そういうことがあったりする。

つまりですね、世界を滅ぼしかねない大災厄に対して、途中までは『アルマゲドン』のパロディみたいな感じで進むんだけども、結局のところ人類はきっと、一致団結するどころか、互いの目先の利得争いを続けるばかりだろう、そしてその中で、真に合理的、英雄的な対処などは埋もれてゆき、人類はせっかく積み上げた知性を、文明を、とてつもなく下らないことに浪費していくばかりだろう……という。本作『ドント・ルック・アップ』は、この視点こそが、これまでの全てのディザスタームービーを完全に過去のものにするほど……つまり、ふざけてるだけじゃなくて、リアルで説得力があるんですよ。「ああ、今まで見てた映画って作り物で、実際はこうなるよね」っていうことなんですよ、むしろ。ここにこそ本作の、歴史的と言っていいレベルの画期性があると思います。

■世界最高峰の俳優陣による極上のコメディ演技!

人類の行く末に対する冷徹なまなざし、という意味では、これに比肩し得るのはやはり、『博士の異常な愛情』くらいなものだと思うし。ただ、本作『ドント・ルック・アップ』はやはりですね、上から目線の冷血漢キューブリックとは違いましてですね(笑)、そんな人類の卑近な右往左往の果てに、でもやっぱり、人……「これが全部なくなってしまうのは、悲しいじゃないか」という、やっぱりその人の営みの尊さ、愛おしさ、生というものの大切さ、というのも、しっかり捉えてみせるという。そこも本当に僕は素晴らしいと思います。だから、「コメディ」っていう枠組みを、あんまり、もっと僕は広く捉えるべきだと思うんですけどね。それはね。

とまあ、以上述べてきたようなことは、あくまで作品の概要のことであってですね。『ドント・ルック・アップ』の面白さ……最初から最後までずっと面白いんですけども、その面白さっていうのは、いま言った概要の、その中にあるんですね。それは何かと言うと……アドリブが非常に多用された撮影だったようです。特にジョナ・ヒル……メリル・ストリープの息子であり、大統領補佐官を演じるジョナ・ヒル。非常に憎たらしいんですが、そのセリフ、残っている部分はほぼアドリブ、ってことなんですけど。みたいなね。あと、インターネット・ムービー・データベースによれば、レオナルド・ディカプリオ。あの、最後の感動的なセリフなどもアドリブ、っていうことらしいですけど。

まあとにかくですね、いずれ劣らぬ世界最高峰の俳優陣による、人間の最もみっともないところをえぐり出して、拡大してみせるかのような、爆笑させられつつも居心地が悪くなるような、極上のやっぱり、コメディ演技ですよね。これを本当に味わう……この面白さはその賜物でもある、という。ジョナ・ヒルはちなみに、『FYRE』っていう中止になっちゃった、とんでもないフェス、本来は金持ち用のフェスのドキュメンタリーがNetflixでもありましたけども、あの『FYRE』フェスを人間にしたらこうなる、っていうキャラクター造型だったっていう(笑)。

あと、あのね、ディカプリオのテンパり演技。最高ですしね。シャラメのね、これは(水曜パートナー)日比(麻音子)さんもおっしゃっていました、なんだかんだの聖(セイント)感、これも素晴らしかったし。あと、あのロン・パールマンのね……あれは完全に『アルマゲドン』パロディであり、あと最後に、また『プライベート・ライアン』パロディもちょっと入ってるかな? (敵うはずのない相手に向かって)ピストルで撃ったりする、っていうのはね。あと、あのアリアナ・グランデとキッド・カディのさ、さっきのメールにあった通りですよ、意識高い系陣営も、「お前らはお前らで、なんだ?……なに、これ?」みたいなこの感じも、本当におかしいし、鋭いし。といった感じでしょうかね。

特に、パッと見ただけではその人って最初わかんないぐらい、いつものルックスとは大きく変わっている、ケイト・ブランシェットも素晴らしかった。そして、マーク・ライランスですね。あの、いけ好かないスーパーIT長者、みたいなのは最近、映画によく出てきますけど、今回のこの造型は、たぶんその中でも、ぶっちぎりでトップだと思います。顔とか髪とか歯とかに至るまで、全身に最上級の手入れが行き届いた……本心では全人類を見下してはいるが、それがでも最善の行いであると本人は確信している、そういう人物の、実在感。誰に似てるとかじゃないのに、「いるだろうなぁ」というこの感じ。そして、おかしみもあるし、怖みもあるし、ムカつきもあるしね。「なにを偉そうに……!」って(笑)。まあ、でも本当に最高。そういうのもね。

あと、ジェニファー・ローレンス演じるケイトさん。最初にね、なんかをイヤホンで聞いてるなと思ったら、あれはウータン・クランの「Wu‐Tang Clan Ain’t Nuthing ta F’ Wit」っていう、ファーストアルバムの曲ですよ。もう、それをイヤホンで聞いて……しかもそれを、ソラで歌ってるわけ。彼女が。これは好感の持てる人物ですぞ!っていうことを(笑)、この選曲と、ウータン・クランをソラで歌える、というところで表現していて。もちろん、パンキッシュなファッション、ヘアスタイルも最高にかっこいいし。

あと、彼女が元カレに事実を伝えるところ。「恐竜が滅びる級のすごい彗星が落ちてくるのよ」って言って。それで彼が泣き出す。そうすると、後ろにいる着ぐるみが、よく見ると、恐竜ですよね。みたいな感じで、背景とか美術などにも、二重、三重の仕掛け……たとえば、大統領執務室の壁にかかっている肖像画たちが、「よりによってこいつらか!」っていうようなチョイスだったり。あるいはですね、これも終わりの方ですけど、あの「上の世界」と「下の世界」を対比してみせるあのドローンのショットの、ぞっとするような、「人類のゆく果てが、これなのか。情けない!」っていう、あの感じであるとかも、本当に見事ですし。

■全く小難しい映画じゃない。そのうえで、でもぞっとする大傑作

ということで、非常に細部も実は読み解き甲斐がある作品でございまして。その意味ではたしかに、配信で何度も何度も見返す用のシフト、というのもきっちり入ってはいるのかなとは思います。まあ元々ね、アダム・マッケイの作品の密度は、1回見ただけではちょっと分かんないぐらいの密度に、どんどんどんどん、『マネー・ショート』以降はなっていますからね。とはいえですね、やはりこれは、さっきも言いましたように、デカいスクリーンで、大勢の人々の笑い声とともに見たかったタイプの作品なのは、間違いないと思います。

これ、劇場にかかるのは、次はないかもしれないのでね。ちょっとかかってるうちにぜひ見ていただきたい、ということ。あとそうだ、これも要注意。これ、どの形態で見るにしても要注意! エンドロール、最後の最後まで、終わるまで絶対に見ないと……Netflixとかね、すぐに「次はこれ」とか出てくるけど、ダメダメダメ! 最後までちゃんと見てください。

まあ、全く小難しい映画じゃないです。たとえば『マネー・ショート』とかみたいに、わかんないところが出てくるタイプの映画では全くない。誰が見ても全て理解できます。その上で、ぞっとする。笑えるけど、はっきり現実の話でもある。さっきも言いましたように、もうデフォルメすらしていないです、っていう話でもある。こっちに突きつけてくるものがあるという、僕はこれは、この方向としては久々の大傑作だと思いますけどね。申し分ないと思いますけどね。はい。

あと、やっぱりこれが作れるアメリカはすごい、っていう逆説でもありますよね。ということでぜひぜひ、Netflixであれ、劇場でかかっているうちはできれば劇場なんかでも、ウォッチしてください。おすすめです。 

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『こんにちは、私のお母さん』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしは

こちらから!

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