外見と心をケアするボディパーツ「エピテーゼ」

人権TODAY

失った身体の一部を再現し、外見をカバー

生まれつき、あるいは事故や病気で失った体の一部分を、そっくりに再現し、その見た目を補う人工ボディパーツ「エピテーゼ」について取材してきました。エピテーゼは、身体機能を補う義手や義足と違って、自然な見た目を再現することを目的としたものです。東京・台東区で、エピテーゼの製作を行う「エピテみやび」田村雅美(たむら・まさみ)さんに伺いました。

「エピテみやび」の田村雅美さん

ずっと歯科技工士をやっていて、20代前半の時に海外で学びたいと思って渡米したんです。研修で大学病院に行ったところ、顔を失くした兵士にリアルなマスクを作っていたのがエピテーゼでした。本当にリアルで、出来上がって鏡で自分を見た彼はすごく嬉しそうだった。それを見ていた家族も泣きながら抱き合っていて、人の心を癒す面でも素敵なものなんだなというのがエピテーゼとの出会いです。

田村さんは帰国後も歯科技工士を続けていましたが、乳がんで乳房を切除した友人が精神的に落ち込んでいる様子を見て、エピテーゼのことを思い出したそうです。その後、国内でエピテーゼを製作する技術者の下で学び、独立・開業をします。

失った手足の指を環境に応じてリアルに再現

事故や病気で手の指を失った、あるいは、生まれつき指が短い方からの依頼が多いそうです。服を着ていても外から見える部分ですし、スマホやパソコンの操作などで自分の視線が頻繁に向かう部分でもあるので、気にされる方が多いといいます。「他人からどう見られているのか、常に気を遣いながら生きていくのに疲れた」「エピテーゼを装着したら、自分の気持ちが変わるのではないか」と訪れる人が多いといいます。

このエピテーゼ、実際どうやって作っていくのでしょうか?手の指の場合、依頼者の指の型を取って、シリコンを流し込み、中が空洞の指の形状に仕上げていきます。実際に装着してフィット感を確認してもらい、その状態で色付けをしていきます。どのような状況で使うのか、ユーザーの声を聞くことが大切だと田村さんは話します。

エピテーゼを装着した状態で色付けをしていきます。

指って色々動くので、その人が「マイクを持つ仕事なのか」「キーボードを打つ仕事なのか」「ナチュラルな状態で過ごす人なのか」で曲がる角度が違うんですね。ヒアリングさせてもらって、その場で作り上げていきます。女性であれば爪の長さとかにこだわる方が多いので、ミクロ単位でその場で合わせていきます。

いわゆる指サックのようなものをイメージする人も多いと思うのですが、人間の指というのは、長さも太さも人それぞれです。曲げる角度、柔らかさ、色、血管、ネイルの有無などを細かに再現していきます。依頼者には実際に装着してもらった状態で、自然な感じになるように色付けしていきます。

ネイルもできてお洒落を楽しむことができる

ネイルアートで綺麗にしてもらいたいというリクエストがとても多いということで、エピテーゼの上に付け爪を貼り、その上からネイルチップを着けられるようにしています。また、境目が目立たないようなオシャレな指輪を紹介したり、エピテーゼの保管箱をジュエリーケースにしたりと、細やかな配慮を心がけています。外からどう見えるかだけでなく、ユーザー自身からどう見えるかも大切だといいます。

年齢も10代から高齢者まで様々、性別も様々です。若い時に指を失い、「指がないのが当たり前」といった生活をしてきた高齢の女性が、「人生の後半は自分のためにオシャレを楽しみたい」と、作りにくるケースもあったそうです。

ネイルアートもできるように改良

ひとりのユーザーの方にお話を伺いました。現在20代前半の千葉彩香(ちば・あやか)さんです。千葉さんは、19歳の時に自動車事故で右手の人指し指を失います。普段は美容師、また、まつ毛のカールやエクステを施すアイリストの仕事をしていることからお客さんからの視線がとても気になっていたそうです。そんな時、知人の紹介で、エピテーゼを製作している田村雅美さんと出会ったそうです。

実際見るまでは期待していなかったんですけど、はめてみたら感動しました。普段ネイルするんですけど、ネイルもできるということだったんでよかったです。利き手の指なので一番使うんですよ。人前で手を出すことに抵抗があったんですけど、自然な仕上がりだったので、抵抗もなくなりました。写真を撮る時も、それまでは左手でピースしていたんですけど、作ってもらってからは右手でピースするようになりました。 

プライベートサロンで癒しの空間を提供

「エピテみやび」の田村雅美さんは、ユーザーとのコミュニケーションを大切にしています。工房のような雰囲気よりも、製作者とユーザーが落ち着いた雰囲気で語り合える プライベートサロンのような場所にしたいと考え、いまのお店を作りました。エピテーゼをメイクやファッションのように、自分のコンプレックスをオシャレに魅せられる 選択肢として広めていきたいと話していました。 

お客様の新しい門出として、一眼レフのカメラで、記念写真を撮らせていただいています。薔薇の花びらを添えたり、好きな小物を持ったり、好きな指輪やネイルをしてもらいます。撮影も私がしていんですが、会話をしながら撮影しているのでお客様も柔らかいんですね。そのためにカメラも習ったんですけど(笑) 

エピテーゼが使われるのは、普段外から見えている体の部分だけではありません。プライベートゾーンを補うのも、大切な役割のひとつです。乳がんの手術で乳房を失った人や、心と体の性が一致しないトランスジェンダーの方の性器などデリケートな問題にも寄り添っています。「見た目」と「こころ」を回復するのがエピテーゼの重要な役割だと感じました。

(取材担当:TBSラジオ・制作ディレクター 瀬尾崇信)

■取材協力:エピテーゼ専門サロン「エピテみやび」https://epitemiyabi.jp/

『人権TODAY』は、TBSラジオで毎週土曜日「蓮見孝之 まとめて!土曜日」内で8:20頃に放送。人権をめぐるホットな話題をお伝えしています。

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