宇多丸『モスル あるSWAT部隊の戦い』を語る!【映画評書き起こし 2021.12.10放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。 
 

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 宇多丸: 
さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、11月19日から全国の劇場で公開となったこの作品、『モスル あるSWAT部隊の戦い』

(曲が流れる)

『アベンジャーズ/エンドゲーム』などMCUのいくつかの重要作を大成功に導いたことで知られております、ルッソ兄弟がプロデューサーを務めた戦争アクション。長びく紛争により荒廃したイラク第2の都市・モスルで、イスラム過激派組織と孤独な戦いを続けるSWAT部隊。彼らに命を救われた新人警官カーワは部隊に参加。とある任務を遂行するため、共に敵地を進んでいく。

出演は、『ハート・ロッカー』などにも出ていらっしゃいますヘール・ダッバーシさん。カーワという若者は、『タイラー・レイク 命の奪還』──これもルッソ兄弟プロデュースですね──にも出ていたアダム・ベッサさんなど。他は全部、あんまり我々が知らないような、アラブ系の役者さんが揃えられております。監督・脚本を務めたのは、『ワールド・ウォーZ』や『21ブリッジ』などの脚本を手掛け、本作で監督デビューを果たした、マシュー・マイケル・カーナハンさんです。

ということで、この『モスル あるSWAT部隊の戦い』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)を、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「普通」。まあ、でもそんなにドカンと広く公開されてる作品でもないですし、公開から時間も経ってますし。結構これは健闘している方かな、という気がしますが。

賛否の比率は、「褒め」の意見がおよそ9割。とても評価が高い。主な褒める意見としては、「最後まで緊迫感がすさまじく、見終わった後にドッと疲れた」「今まで見た戦争映画の中でもトップクラスにリアル」「短時間のうちに変化していくSWATの新入り・カーワを演じた俳優さんがすごい」……これはアダム・ベッサさんがすごい、ということですね。

一方、否定的な意見としては、「SWATをややヒロイックに描き過ぎでは?」とか「ラストは途中で放り出された感じ」などがございました。

■「平和を享受する国に生きる我々にも言葉以上の説得力をもたらしてくれる傑作」

代表的なところをご紹介しましょう。「ポテ巻」さん。「とにかく凄まじい! 開始早々、(いわゆるイスラム国を名乗る過激派組織の)ISの兵士を有無も言わさず処刑する部隊の面々。正義と悪の明確な線引きなど存在しないことを有無も言わさず描写する冒頭から、首根っこを捕まれるように引き込まれました。

その後も、異常なほど張りつめた緊張感がイヤと言うくらい続くので、時間の感覚がどこか消えてしまうほど。今年観たどの映画よりも体感が速い。しかし、戦場の姿が淡々と語られるだけではありません。隊員の背景やドラマも徐々に見えてくる演出の見事なバランス。何より、戦闘シーンのリアルさは昨今の戦争映画の中においてもトップクラス。ひたすら続く戦闘の最中で、仲間を誤射してしまう場面は、もはや作り物であることを忘れさせるほど現実的な出来事として見てしまいました」。ねえ。あったね、あれね……。

「ある種、はぐれものとして戦場を駆け回る部隊の真の目的を知った瞬間、主人公同様に刮目させられます。彼らは、大義や大局のためではなく、かけがえのない日常を取り戻すために必死に闘っている。現状、平和を享受する国に生きる我々にも言葉以上の説得力をもたらしてくれる傑作でした」というね。他の皆さんも、結構熱い言葉が並ぶ絶賛メール、いっぱいありました。

あとですね、これはメールそのものはちょっと長めなんで読む時間がないんですけど、テレビ局の報道プロデューサーとして、モスルの街を実際に取材された方。「エターナルサミモ」さんというラジオネームでいただいておりまして。本当に実際に現地、しかもその、あそこまで荒廃する前の、要するにイラク戦争前の、2003年のイラク。そのモスルの様子と、その後、まさに劇中で描かれたころの1年後ぐらい、2018年ぐらいにモスルに行かれて、そのあまりの変わりように愕然とされた。そしてそれを番組にされた、というお話。非常に勉強になりましたし。

これ、ちょっとまだこの方の身元を明かしていいのかがわからないんで、そこは一応伏せときますけども。いろいろ、ネット上とかでも、既に放送されたものが見られたりしますんで、ちょっといろいろとそういうのを探してみて、改めて勉強してみるのもいいんじゃないでしょうか。

あと、ダメだったという方もご紹介しましょう。「真夜中のゴア」さん。ちょっと省略してご紹介させていただきます。「かなり良い作品でしたが……」と。つまり、その作品の質を認めつつも……「かなり良い作品でしたが、あえていえば、SWATがいささかヒロイックに描かれ過ぎでは? というのは気になったあたりです。この映画がアメリカ製作であることを思うと、そもそもどうしてこんな事態になったのか、とかも含めて、アメリカに対する批評的な言及も特にされないまま『彼らにも家族がいるんだよー』とメッセージを発するのは、彼らを美化しているとまでは言いませんが、綺麗なものとして描きすぎではないですか?という違和感はありました」。

まあ、個人的には、はっきりアメリカ批判は、このアメリカ製作のイラクを舞台にした映画としては、ちょっと「えっ? そこまで言う?」っていうぐらい、はっきり言及してた方だと思いますけどね……というようなご感想もございました。あとはやっぱりその、すごくなんというか、そんなに丁寧に説明する映画じゃない。いきなり放り込んで、いきなり終わる、っていう感じなんで。そこのぶっきらぼうさに、ちょっとついて行けなかった、という方もいらっしゃるようでした。ということで皆さん、ありがとうございます。

一流ベテランスタッフが揃えられた、まごうことなき大作アメリカ映画

『モスル あるSWAT部隊の戦い』、私もTOHOシネマズシャンテで2回、見てまいりました。

公開3週目、平日昼にしては、中高年を中心に、まあまあ入っていった方じゃないでしょうか。ちなみにこれ、2019年のアメリカ映画で。2020年には、アメリカを含め各国で、すでにNetflixで配信公開されている作品です。ということで、いま言ったように本作は、まごうことなきアメリカ映画ですね。合作とかですらないです。100パーセント、アメリカ映画。で、しかもプロデューサーは、ご存知マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の中でも特にいくつかの重要作を、内容的、興行的に大成功に導き、まさにその現行エンターテイメント、全てのエンターテイメントの中でも、誇張でなく世界の頂点を極めたクリエイターとなった、と言ってよかろう、ジョー・ルッソ&アンソニー・ルッソ。いわゆるルッソ兄弟。これがプロデューサーなわけですよね。

つまりその、ザ・アメリカ! ザ・ハリウッド商業映画界!の、もうトップなわけですよ。さらにこれ、監督としてはデビューとなるマシュー・マイケル・カーナハンさんっていうのも、お兄さんはジョー・カーナハン。『特攻野郎Aチーム』『NARC ナーク』『スモーキン・エース』『THE GREY』などなどの監督、ジョー・カーナハンさんの弟さんで、脚本家としてずっと活躍されてきました。

『キングダム』であるとか『大いなる陰謀』『消されたヘッドライン』『ワールド・ウォーZ』……『ワールド・ウォーZ』はね、僕は(2013年8月24日にこのコーナーでやった)評の時にも言いましたけども、これはたぶん、かなり変えられちゃった中身かと思いますけども。あとは、『バーニング・オーシャン』とか、あと日本での公開順は逆になってしまいましたが、やはりルッソ兄弟プロデュースでこの『モスル』に続く作品でもある、『21ブリッジ』。私は今年4月16日に評しました。あと、さらに、日本では来週ようやく公開になる、トッド・ヘインズの『ダーク・ウォーターズ』という作品であるとか。

要は、わりと硬派な、社会派ハリウッド大作、というかね。社会派ハリウッドエンターテイメントの脚本を、ずっと手がけてこられて、活躍してきた方ですね、マシュー・マイケル・カーナハンさん。他にもですね、撮影監督のマウロ・フィオーレさんというのはこれ、『アバター』であるとか、あるいはね、アントワン・フークアの『トレーニング デイ』とか『イコライザー』とか、あとやっぱり『キングダム』とかもやってますけどね。こういう撮影監督のマウロ・フィオーレさん。あとは、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作とか『第9地区』などを手がけた、プロダクションデザイナーのフィリップ・アイビーさん、などなどのですね、一流ベテランスタッフが揃えられた、もうまごうことなき大作の、アメリカ映画なわけですよね。

お話としてもこれ、戦争映画の定番と言っていいような、いわゆる「小隊物」っていうのがあって。危険地帯を横断するミッションを負った小隊に、新兵が入ってくるところから話が始まって。で、様々な修羅場を経て、彼が一人前の兵士、なんならリーダー的なところに成長するまで、的な話。まあそういう風に、話そのものを取り出せば、わりと定番的な、ジャンル的と言っていいような構造も、ちゃんと持ってる作品なんですよね。

■にもかかわらず……こんな映画は今までなかったし、見たことない!という作品になっている。

にもかかわらず……ねえ。スタッフはもうザ・ハリウッド大作!みたいな感じのスタッフだし、話そのものも、アメリカの戦争映画でいくつも作られてきたような小隊物、ジャンル映画的ですらあるような構造がある、にもかかわらず……こんな映画は今までなかったし、見たことない!という作品に、完全になっている。そういう、ちょっとなかなかなレベルですごい、画期的な一作である、ということはまず言っておきたいあたりだと思います。

まずもってですね、何の予備知識もなしにこの映画を見始めたら、恐らくここまで言ってきたような、そのバリバリにメジャーな布陣で作られた、正真正銘のアメリカ映画だということすら、ほとんど気付けないぐらいじゃないかな、と思うんですよね。一応、最初に英語でクレジットが出ますし、あと背景の説明が出るから、「まあ、英語圏なのかな?」っていうことがそれでわかるぐらいで。はっきり言って、なかなかわかんないんじゃないかと思うんですよ。その成り立ちは。

さっき言ったその、新兵にあたるそのカーワ役、アダム・ベッサさん。チュニジアの方ですね。ちなみにルッソ兄弟の『タイラー・レイク』というNetflixで見られる作品、これ、この番組でも言及しましたけど、『タイラー・レイク』でも引き続き起用さられていたりするんですが、この方は、チュニジアの方。なんだけど、他のキャストは全員、もうバリバリのアラブ系。そして現地のアラビア語をしゃべる……アラビア語のイラク方言っていうのかな、そんな言葉をしゃべる。

つまり、完全にイラク人の視点、もっと言えば、モスルに生きる人たちの視点で描かれた戦争映画で。しかも。アメリカ大作映画!という。アメリカ映画と言えばね、もう舞台がいつ、どこであろうと、当たり前のような顔で……少なくとも主要キャラは、ペラペラと英語をしゃべる、というのが、長年の常識なわけですよね。そしてあくまで、その英語をしゃべる人の視点から、「現地」を覗き見る、みたいな感覚というのが、長年のアメリカ映画の常識ですし、アメリカ映画を見る我々の常識でもあったわけです。

たとえば(14世紀フランスが舞台であるはずの)『最後の決闘裁判』で、ベラベラベラベラと英語をしゃべっていても(笑)、「別にまあ、アメリカ映画だし」っていうことで、我々は慣れちゃってるわけです。なんだけど、今回はその現地の言葉を、ちゃんとアラブ系の人がしゃべっている。この誠実な徹底ぶり、というのがまずはすごいし、素晴らしい。ちなみに、同様のアプローチをした稀有なハリウッド映画というか、アメリカ映画のひとつとして、『アポカリプト』がやっぱりありますよね。ちゃんと現地キャストを使って、現地の言葉を使う。あれは異例なことなんですよ、すごく。

■自らの成功を正しく「映画」の未来に還元しているルッソ兄弟、本当に偉い!

で、言うまでもなくアメリカ映画がですね、完全にイラク人側の視点から……つまりアメリカ側が、自分たちが、今となっては根拠のない攻撃を仕掛け、爆弾を落としまくった人々の側の視点から「イラクのリアル」を描く、というのも、少なくとも劇映画としては、例がないことだと思いますよね。キャストたちね、インタビューとかに答えて、「いやー、もうテロリスト役とかじゃなくて本当に嬉しい。『ISの運転手その3』とかじゃなくて本当に嬉しい」とか言ってるわけですよ。いかに(他の作品では)そういうキャスティングしか来ないか、ってことですよね。アメリカ映画においては。

僕、この映画一番近いのは、ドキュメンタリーの『アレッポ 最後の男たち』だ、と思ったぐらいで。あれはシリアですけどね、やっぱりISのあれによって、非常に荒廃した状態、というのが描かれていましたけども。というぐらいなので、非常にアメリカ映画としては、異例中の異例なわけです。そもそも本作を作ったルッソ兄弟、この製作会社AGBOフィルムというのはですね、要は既存のシステムの中では実現しえなかったような、意欲的な企画、あるいは社会的に意義を持つ企画、というのを、後押しするために立ち上げられた会社だ、ということなんですよ。

つまりですね、そのルッソ兄弟は、マジで偉いわけです! 要するに、自らの成功というのを、正しく「映画」の未来に還元しているんですよ。MCUっていう、ともすればちょっと、映画の構造そのものを根っこから壊しちゃいかねないようなものを成功に導いた側として、映画の未来に、ちゃんと誠意ある還元をしている、というルッソ兄弟、本当に偉いと思います。

■映画本編が始まった途端、いきなり『ブラックホーク・ダウン』のクライマックス

そんなこの『モスル あるSWAT部隊の戦い』なんですけども。まず冒頭、本当のモスルの破壊され尽くした街並みを見せる、ドローンでの空撮ショットが始まるんですけど。まずこの、ドローンのショットに圧倒されちゃいますよね。「ああ、ここまでもう、めちゃくちゃなことになっちゃってるのか」と。

ここで、どれだけ街全体が戦場そのものと化しているか、を俯瞰視点で叩き込まれていればこそ、本編に突入してからも……これ、実際の撮影はなんと、モロッコにそのプロダクションデザイナーのフィリップ・アイビーさんが作ったセット、オープンセットなんだって。すごいよね、これ。だから、どれだけ大掛かりなんだ!ってことなんだけど。そこで撮影が行われたそうですが。まあ、見ただけではそうとは信じられないほど……つまり、冒頭の空撮で見たような、その荒れ果てた街で、「これ、どうやってこの作品を撮ったんだ?」っていう風に疑問に思ってしまうほど、登場人物たちがいる場所全てがですね、やっぱり「本物」の現地であるように我々にも感じられるようになっている、ということですよね。ちゃんとそういう作りになっている。

これ、描かれる時期としては2017年。元になった『ニューヨーカー』の記事があるわけです。これがちょうど2017年に出ています。「ISISを打ち破る絶望的な戦い」みたいなことですかね、タイトルはね。で、2016年から始まったそのモスル奪還作戦っていうのがあって。要するにISISに完全に占拠されてしまったモスルを奪還する作戦が、2016年から始まって、その大詰めの時期のあたり、2017年のあたり、ということだと思います。

で、本作は2019年の製作作品なので、撮影が2018年ぐらいと考えると、要は現実と、ほとんどタイムラグなしで作られている作品なんですよね。ということで、そのリアルモスルの街空撮と、そこに乗せての、ここまでの事態の推移というのを字幕で説明するのが重なって、本編に突入した途端に、ですね。もういきなり観客は、激しい銃撃戦……それも銃撃戦と言っても、並の銃撃戦じゃなくて、ほとんど『ブラックホーク・ダウン』のクライマックスです! 「もうダメだ! 限界!」くらいの。もう敵の軍勢が次々と、本当に文字通り「目と鼻の先」まで迫ってきてて。こっちは弾切れ寸前だし。で、M67破片手榴弾がコロンと投げ込まれて、それをとっさに投げ返して、ドーン!みたいな。もうそういう、最後の最後の状況、みたいな。そんな絶望的な戦いのど真ん中に、正しく文字通り観客は、「放り込まれる」わけですね。

で、まあアメリカ西部劇における騎兵隊のごとく駆けつけたSWATチームによって、なんとかその場が制圧される。そこで助けられた若き警察官カーワっていうのが……彼の、「全体像を知らない」視点で、我々もいろいろ目撃し、理解していくわけですけれども。たとえばですね、このSWATチーム。SWATチームって言うんだけど、一応逮捕されていたISISメンバーを、さっきのメールにもありましたけど、その場で、しかもナイフで、「処刑」してしまうし。で、その弾薬とか装備等も、倒した敵の死体から、どんどんどんどん補充していくっていうか、むしり取っていくわけですよ。「足りない、足りない」っていう感じで。「使えるもの、全部使うから」みたいな感じで。

なおかつその、「家族を殺された恨みがあるやつ~?」みたいな、そういう条件を満たしている、というだけで、その新人警官のカーワを、その場でSWATチームに入れてしまったりとか。で、挙句の果てにはどうやら、正規の命令系統とは無関係に、独自かつ内密の「ミッション」を遂行中らしい、という……どう考えても、「独立愚連隊」なわけですよ! 独立愚連隊チックな、はぐれ者猛者集団、的なチームというね。まあ映画的にはこれは当然、盛り上がる感じですけども。

■馴染みがないキャスト陣ゆえ、「誰がどのタイミングでどうなってもおかしくない」感が半端ない

しかもですね、各メンバーの名前とかキャラクターが、親切に紹介されるようなくだりはないわけです。とにかくカーワ同様、いきなり小隊と行動を共にすることになり……その隊としての行動の中で交わす、ちょっとした言葉やコミュニケションから、自然とその人の、人となりやバックボーンがそれとなく伝わってくる、という。非常にムダのない、タイト極まりない作りになってるわけです。

というのも、そもそもそのモスル市内の危険地帯を横断していく、ということ自体、そんなのんびり説明とかをしてる余裕が、ないからなんですよね。休める場がないんですよ。しかも、本作が鬼なのはですね、そんな絶え間ない緊張の最中、それでもふとした合間に生じる、人間的な交流。顔と名前がようやく一致した、みたいに観客も我々も思って、「ああ、この人はこういう人なんだ」って、こっちもうっすら認識しかけた途端……まさしく突然、残酷なあっけなさで、とんでもなく破壊的なことが起こったりする、という。

で、これはしかもですね、特に我々にはほぼ馴染みがないキャスト陣ばかりゆえ、「誰がどのタイミングでどうなってもおかしくない」感が、半端ないわけですよ。その緊張感が、100分間、絶え間なく続く、っていう作品なんですよね。なので、物語的には相当なことが起こった直後なんだけど、「はい、90秒経ちました!」みたいな。鬼展開なわけですよね。逆に言えばですね、緩急の、「緩」のつけ方。「緩む」ポイントのつけ方がうまい、ということでもあるわけです、それは。

たとえば、僕が印象的だったのは、あれは元はホテルなんですかね、あの廃墟になったビルの中で、小休止をしているわけです。で、その新人のカーワにですね、先輩兵士が、スマホで音楽を聞いているイヤホンの片方を差し出して。で、2人でラップを聞いてるんですね。これ、はっきりはイヤホン越しなんで聞き取れないんですけど、クレジットによれば、なんとこれは、ラン・ザ・ジュエルズの「Oh My Darling (Don't Cry)」っていう曲なんですよ。つまり、バリバリのヒップホップ通!っていうか。たぶんアメリカ兵が聞いている曲よりセンスいいぞ、これ!みたいな(笑)。

事程左様にですね、この曲のチョイスひとつとってみても、アメリカ映画に出てくるアラブ人兵士、アラブ人のイメージとは程遠い、生きた人間感、記号的ではないキャラクター描写っていうのを、ずっとすごく丁寧にしている、してゆく作品です。1人1人の出番とかセリフは決して多くないのに、全員にしっかりとした実在感と、個性があるわけです。ラン・ザ・ジュエルズを聞いてるような青年なんです。非常にヒップホップ的にわかっている、歌詞とかもきっちりわかっている、からこその、ここでのラン・ザ・ジュエルズなわけです。

■戦場における兵士の「成長」。これはいいことなのか、悪いことなのか?

で、まあそういう中で言うと、特に印象的なのは、やはりSWATチームのリーダーである、ジャーセム少佐。演じているこのスヘール・ダッバーシさんっていうのは、要はデ・パルマの『リダクテッド』とか、キャスリン・ビグローの『ハート・ロッカー』などで、まさに「アメリカ人から見たイラク人」の、言っちゃえばそういうイメージみたいなものを、あてがわれてきた方ですね。ちょっとテレンス・スタンプ似というか、クールな容貌も非常にカリスマ性たっぷりで、かっこいいんだけど。

たとえばこのキャラクター、皆さんこれ、注意していただきたいのは、なにかというと落ちてるゴミを拾って、「しょうがねえな、もう」っていう感じで、面倒くさそうに片付けてるんです。丁寧に毎回、片付けるんです。周り、全部瓦礫だらけなんですよ? 周り廃墟なのに、落ちてるゴミを、ペットボトルとかを拾って、かならずごみ箱に捨てているんです。その場をきちんと整えようとしているわけです。廃墟なのに。それはなぜか、といえば……途中で、親を亡くした兄弟の面倒を見ようとね、危険を冒し手間をかけるくだりとか、そしてラストで明らかになるその「ミッション」の中身。

それら全てに一貫して……要は彼は、モスルというその生まれ育った故郷、我々から見るともう再生不可能、もうただの荒地そのもの、「もう無理でしょう、これ?」って思えるようなモスルを、彼は、いつか再建するってことを、諦めてない。諦めたくない。その現れが、ゴミ拾いなんですよね。で、もうはっきりセリフで言っています。「アメリカに爆撃を頼もうよ」って言われて、「アメリカはあいつら、再建なんて考えていない。爆破するだけなんだから。あいつらに頼む段階はもう終わっている」みたいなことを言う。これ、アメリカ映画としてはなかなか画期的なセリフだと思います。

そして、そんな彼の片付けイズムが、とある出来事の伏線にも、ちゃ~んとなっているんです! マシュー・マイケル・カーナハンさん、やっぱり脚本家だけあってですね、こういう細かい構成が、よくできているんですよ、実は。ぶっきらぼうなんだけど、よく見ると、伏線とか構成がよくできている。他のキャラクターも、そういうさりげないディテールに現れるバックボーンとか、あと伏線みたいのがちゃんとあるので、ぜひ見逃さないでいただきたい。

 

ラストで明かされる、その真相ね。これ、モスルの人々が負わされた傷の深さ、その取り返しのつかなさ。ちょっと愕然とさせられますよね。なんだけど、その絶望の果てに、でも、諦めない!という意思を決める、あのカーワの成長……先ほど(金曜パートナー)山本(匠晃)さんも言ってましたが、しかしこの成長、これはいいことなのか、悪いことなのか。戦場における兵士の「成長」を、いいことなのか、悪いことなのか、っていうバランスにちゃんと着地させている。これもやっぱり戦争映画の最新型として、見事なその良心的バランスと言うのかな、取っていると思います。

■世界的にはNetflix公開。劇場で見られる日本は非常にラッキー

これ、マウロ・フィオーレさんによる撮影は、基本、ドキュメンタリックなんですけど、たとえば途中の、対スナイパー戦……いろんな戦いのフェーズがあって飽きさせないですけど、対スナイパー戦でも、「敵側の視点」もしっかり説明として入れてたりするので。実は商業映画としての見やすさも、しっかり担保されています。という感じでございます。ちょっとお時間が近づいてきたのでね。

まあとにかく、さっきから言ってるように、その戦地に、その地獄のど真ん中に、「放り込まれる」感覚こそがキモの映画なので。これはやっぱり、世界的にはNetflix公開されましたけど、これ、むしろ劇場で見るべきでしょう? 要するにこの、100分間の集中力、というのがすごく必要な作品だと思いますので。Netflixで見てるとたぶん、辛くて止めるんじゃないかな、みたいなね。これこそ劇場で見るべき作品だったんじゃないのかな、という風に思います。

なので、日本では劇場で見られる、というのは、非常にラッキーなことだとも思います。『モスル』、戦争映画としても非常に、そしてアメリカ映画としても驚くべき、画期性を持った作品だと思います。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください! 

 

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『ラストナイト・イン・ソーホー』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしは

こちらから!

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