宇多丸『アイス・ロード』を語る!【映画評書き起こし 2021.11.26放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

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宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、11月12日から全国の劇場で公開となったこの作品、『アイス・ロード』

(曲が流れる)

『96時間』シリーズなど──まあ本当はね、「『シンドラーのリスト』などの」とか、いろいろあるんだけどね(笑)──『96時間』シリーズなどのリーアム・ニーソン主演の、レスキューアクション。カナダのダイヤモンド鉱山で爆発事故が起こり、作業員が地下に閉じ込められてしまう。救出のタイムリミット、30時間以内に30トンもの救出装置を運ぶため、4人のドライバーが集められる。彼らは厚さ80センチの危険な氷の道「アイス・ロード」を命がけで走るのだが……僕、これ予告で見た時、「そんな、無茶な」って思ったんですけど、本当にアイス・ロードって、あるんですね。産業用アイス・ロード、あるんですよ。

共演はローレンス・フィッシュバーン、ベンジャミン・ウォーカーなど。ベンジャミン・ウォーカーさんはたしか、あれですよね。かつてあのリーアム・ニーソンの若い時の役やってたよね。これ、たしかね。あれで……なんだっけ、タイトルを忘れちゃったけど(※宇多丸補足: 2004年『愛についてのキンゼイ・レポート』でした、とほほ……)

脚本・監督を務めたのは『アルマゲドン』などの脚本を手掛け、『パニッシャー』などを監督した、ジョナサン・ヘンズリーさんです。ジョナサン・ヘンズリーさん、10年ぶりの監督作、ということで。そこを期待して楽しみにしてる人っていうのは、そんなに数はいないと思いますが(笑)、ジョナサン・ヘンズリーさん、10年ぶりの監督作という、ここも見所でございます。

ということで、この『アイス・ロード』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「普通」。まあでも、なんだろうね、超話題作!みたいな感じじゃなくてこれぐらい集まってるのは、結構いい線かなと思いますけどね。

賛否の比率は、「褒め」の意見がおよそ6割。残りの大半は、「普通」「まあまあ」など。全面否定の意見は少ない。全面肯定もいなければ、全面否定もいない、みたいなね。わかりますよ(笑)。

主な褒める意見としては、「手堅い演出とキビキビした語り口。午後ロー(午後のロードショー)映画として100点」「リーアム・ニーソンの肉弾アクションが泥臭く、それが味となっていた」など。一方、否定的な意見としては、「序盤まではよかったが、後半からどんどん雑になっていく」「主人公が好きになれない。職場をすぐにクビになるのは弟のせいじゃなく、お前がすぐに殴るからだろう」。いやでも、あれは……殴っていいんじゃない?(笑) 「後半のある(悲劇が起きる)展開、それは不要だったんじゃないか?」などがございました。

■「感想は一言『午後ローで会おう』!」

代表的なところをご紹介しましょう。「どすこいパイナポー」さん。

「初めてメールさせていただきます。ポスタービジュアルを見たときは、よくある低予算映画だろうなと感じましたが、リーアム・ニーソンの『スノー・ロワイヤル』が大好きだったため、ほんの少しの期待を胸に劇場へ足を運びました。

結果は、観に来て大正解! よく練られた脚本に、実写撮影にこだわった、初めて見る映像の連続、次から次へと降りかかってくる試練に、あっと言う間の劇場体験でした。実際に現地での撮影にこだわったとインタビューで語られていましたが、本作の最大の魅力は、丁寧な人物描写だとおもいます。

それもそのはず、ジョナサン・ヘンズリー監督はあの『パニッシャー』の脚本・監督。『パニッシャー』は普遍的な復讐ものかと思いきや、アンチヒーローの誕生を丁寧に描いた作品で、個人的には『アイアンマン』や『ダークナイト』にも影響を与えているのではないかと思っています。復讐のために動くだけの主人公ではなく、心の内に抱える問題や個々人の性格を、人々との関係性の中で見せていく手法が、ジョナサン・ヘンズリー節と言えるのではないでしょうか。

さらに本作は、個人的な恨みのために動くのではなく、黒幕を除くほぼ全員が他人のためを思って極限の中で他者を助ける選択をします。その素晴らしい友愛の連鎖はローレンス・フィッシュバーンがトラックの下で口悪く叫ぶシーンから始まっているのです。ハラハラドキドキの連続に、胸を打たれる感動的なシーン、そしてお約束として決めるところは決めるという、お手本のように素晴らしく良くできた映画でした」とかね。

あとはね、「タイガーます子」さんも「感想は一言『午後ローで会おう』!」というね。「午後ローで内容知らずに放送していたら、絶対に最後まで見てしまうくらい、一気に引き込まれる面白い作品でした」というご意見。

一方、ダメだったという方もいらっしゃいます。「ツーラン」さん。

「賛否で言ったら『まあまあ』といった感じ」。そう。だいたいこんぐらいね。

「鉱山事故が起こったため、アイスロードやボロボロの橋をトラックで突破していこうという、『恐怖の報酬』な設定……」。まあ、後ほど説明します。

「それ1つでハラハラドキドキが保証されています。プラス、主人公と弟とのプロフェッショナルな仕事っぷりや軋轢も熱くなれる設定で、よかったです。ただ、110分という上映時間の中、事故が発生して会社の偉い人たちが救出作戦を練り、トラックで輸送する人間を雇って、主人公たちがその求人を見て、その合間に洞窟に閉じ込められた作業員を描き……いざ『発進!』というところまで、まったりして退屈でした。いざ本筋のハラハラドキドキが始まってからも、最初の氷の上が割れるのか割れないのかの緊張感もなぜか伝わってこず、ローレンス・フィッシュバーンのピンチもうっかりミスにしか見えず……」とかね。

で、ちょっと途中のネタバレを防ぐために省略しますけど、いろいろあって……「スノーモービルとトラックのチェイスや車の中での殴り合いとか、見せ場はありますが、全体的にもっさりしたアクションシーンが続いて退屈でした。また、合間に入る洞窟の中でのサバイバルとか、会社の偉い人の悪だくみとかも正直蛇足に感じてしまって、話が止まってしまう印象でした。もっとハラハラドキドキの緊張感いっぱいのアクションが個人的には見たかったです」というご意見。まあ、これもおっしゃることは非常によくわかる、という感じですね。ということで皆さん、ありがとうございます。

70年代的な骨太感を感じさせる、「アメリカ映画らしいアメリカ映画」

でも 、『アイス・ロード』をみんな見に行く、っていうのはいいんじゃないですか。私もTOHOシネマズ日比谷で2回、見てきたんですけど。日比谷もね、平日昼の回にしては……これ、小さめなスクリーンだったというのもありますけど、男女を問わず、中高年のお客を中心に、結構入ってた方です。体感的には俺、『DUNE』よりもいたように思うぐらいの。なんとなくだけど、こういう、言ってみれば「普通の」アメリカ娯楽映画というか、昔ながらのエンターテイメント作品ね。俺の言うとこの「ちょうどいい作品」というのがですね、シネコンでは他に、あんまりかかってなくてですね。しかし、需要としては実はしっかり今もある、ということなんじゃないかなという気もします。

だから要するに、みんながみんな……やっぱり『エターナルズ』は、「ちょっとこれ、何?」みたいな人も、それはいるわけですか(笑)。ちなみに本作、アメリカ本国ではNetflixが買い取って、配信公開されている作品でございます。

ということで、『96時間』シリーズ以降、すっかりアクションスター化、ジャンル映画スター化したと言っていいリーアム・ニーソン主演の、これもやはりコテコテの大味アクション娯楽作。

そもそも70点満点、いやさ、65点満点くらいの気分で見ればいい、というね。それ以上を求めてはいけないタイプの映画です、はい(笑)。言っておきますよ。そんな1本では間違いなくあるんですけども、ただ、その『96時間』もそうですけど、元々はもちろん演技派として高い評価を得てきた、俳優としての圧倒的な実力、格というようなものも、確実に作品の中で活きているのもまた、リーアム・ニーソン主演作ではあってですね。

だから、僕はやっぱりどれもきっちり面白いと思うんですよね。リーアム・ニーソン主演作ね。特に本作『アイス・ロード』は、どちらかと言えば、アクションスターとしての側面よりも、一見無骨だが繊細な内面を抱えてもいる、アイルランド系の労働者……あの、今にも泣き出しそうな、その常に「愛を乞う」表情というかね、繊細な内面を抱えてもいる、アイルランド系労働者、いわばそういう……名優としての側面っていうよりは、演技者としての側面っていうほう。その丁寧な演技っていうのが、より前面に出た作品だということかな、という風に思うんですね、『アイス・ロード』は、どっちかって言うと。

少なくとも僕は、予告などから受けていた印象……後ほどちゃんと説明しますけど、『恐怖の報酬』というね、あれをCG時代の大味さで焼き直した、「良くも悪くもバカ映画」的な作品かと思ったら、全然そうじゃなくて、むしろ逆というか。むしろ、わりと地味に地道に汗をかく描写が多めだったりする、質実剛健な、いわば「ブルーカラーの誇り」を描くような、70年代的な骨太感を感じさせる、「アメリカ映画らしいアメリカ映画」だったわけです、実際には、この『アイス・ロード』は。

■ジョナサン・ヘンズリーさんという映画人の名前、皆さんぜひ覚えて帰っていただきたい

なにしろこれ、撮影監督が、クリント・イーストウッドとの数々の傑作でおなじみ、トム・スターンなんですよ。だから、トム・スターンが撮っている時点で、そんな簡単に軽んじていい映画じゃないのはもう、明らかなんで、っていう感じですよね。そして、いま言った「ブルーカラーの誇り」みたいな感じはですね、これは脚本・監督のジョナサン・ヘンズリーさん、僕はこれが(彼の)持ち味だ、という風に思います。さっきのあの『パニッシャー』も、僕はそういう目線で見ることができる、という風に思ってたりするんですけど。今日はとにかくですね、そのジョナサン・ヘンズリーさんという映画人の名前を、皆さんにぜひ覚えて帰っていただきたいな、というのが今回の映画評でございます。

元々この方、出身は弁護士さんなんです。で、30歳過ぎてから、専門教育など一切受けずに、独学で脚本家としてデビューされたという方なんですよね。ちなみにですね、現行パートナーは、ゲイル・アン・ハードさん。『ターミネーター』とか『ウォーキング・デッド』などのプロデューサーでおなじみ、ゲイル・アン・ハードさんの、今のパートナーでもあるんですね、ジョナサン・ヘンズリーさん。

出世作は何しろ『ダイ・ハード3』。あと『ジュマンジ』『アルマゲドン』ですね。この脚本。あとは『コン・エアー』とか『60セカンズ』の、クレジットなしのリライトとかしています。製作総指揮という形でクレジットされていますけど、リライトしています。あと、逆にヴァル・キルマー主演の『セイント』という、元々はテレビドラマシリーズの映画化がありますけど、『セイント』という1997年の作品は、逆に脚本をもう根こそぎ他の脚本家に書き換えられちゃった、っていうような苦い経験もあるようです。

まあとにかく、こうして並べるとですね、思いっきり90年代大味超大作、おじさんアクション大味超大作、もっと言えばバカ映画(笑)みたいなところをいっぱい書いてきた人、ということで、これはもうたしかなんですけれども。ただですね、劇場用長編の監督としては実はあまり、そんなに撮っていなくてですね。2004年の、先ほどメールにもありました『パニッシャー』と、2011年の『キル・ザ・ギャング 36回の爆破でも死ななかった男』。そして、そこから10年ぶりの今回の『アイス・ロード』。この三作のみしか、劇場用長編映画に関しては監督はしてないですけど。

■10年に1回ぐらい自分が本当に作りたい映画を作ってみたりするジョナサン・ヘンズリーさん

途中、ビデオ作品は撮ったりしていたんですけども。特にこの、前作の『キル・ザ・ギャング 』という作品。原題は『Kill the Irishman』です。「アイルランド人を殺せ」っていうタイトルで。日本では劇場未公開、DVDスルーで、今、配信も止まってるし、DVDソフトもちょっと絶版になっちゃってるんですけど、明らかにこれがジョナサン・ヘンズリーさん自身の持ち味、作家性のようなものが、最も色濃く込められた一作で。まあジョナサン・ヘンズリー、最高傑作がなにかと言ったら、これだと思います。まあ三作しかないんだけど(笑)。でも脚本も含めて、これが彼の一番やりたかったことだろうし、一番いい作品だ、という風に思うんですけどね。この『Kill the Irishman』が。

まあ、実在したアイルランド系ギャングの成り上がりと、その堕ちていくまでを描く、というか。言っちゃえばスコセッシの、特にやっぱり『グッドフェローズ』型の……すごく『グッドフェローズ』っぽい実録ギャング物なんですけど。さっき言った、その「ブルーカラーの誇り」的なもの、もっと言えばアイルランド系労働者階級の誇り、矜持みたいなもの……要は、イタリアンマフィアが組織として襲いかかってくるのに対して、裸一貫、「俺はこの街、ここのアパート、ここに住んでるぜ! 俺は逃げも隠れもしねえぜ!」みたいな。で、絶対にネクタイとかしない感じ。

まあ、普段着で立ち向かっていく感じ、みたいな、そういう、レイ・スティーヴンソン演じるダニー・グリーンという実在の人物、主人公像にみなぎる、アイリッシュ労働者魂!みたいな、この感じがすごい印象的で。で、その『キル・ザ・ギャング 』の70年代的な骨太感、無骨感……体はデカいし喧嘩は強い、だけど情には厚いアイリッシュ・ブルーカラーな主人公像、みたいなものはですね、はっきり今回の『アイス・ロード』と、連なるものがあると思います。今回、リーアム・ニーソン自体も、もちろんアイルランド系の方ですけれども。

ああいう、口より手が早い、みたいな感じ。でも目は悲しそう、みたいな、ああいう感じは、やっぱり持ち味なんですよね。その『キル・ザ・ギャング 』から、繋がるあたり。要は、90年代にはブロックバスター超大作の書き手としてすごく活躍したけども……とはいえ、でもさ、たとえば『アルマゲドン』だってあれはやっぱり「ブルーカラーの誇り」の話ですから。ということでもあって、そういうジョナサン・ヘンズリーさんが、10年に1度くらいはまあ、業界にも結構人脈もあるし、意外と豪華なところ集められるし……予算よりは結構豪華なところは集められるし、みたいな感じで(笑)、10年に1回ぐらいは、自分が本当に作りたい映画を自分で作ってみたりしようかな、みたいな。それが前作の『キル・ザ・ギャング 』、そして今回の『アイス・ロード』なんじゃないかな、というように思うんですよね。だから、監督作になるとだいぶ色が出ているというか。

■誰がどう見ても、発想の源は『恐怖の報酬』

ということで本作『アイス・ロード』。発想の源はね、このジョナサン・ヘンズリーさん自身、当然のようにインタビューなどでも公言していますし、まあ言ってなくても、誰がどう見ても明らかにこれは、『恐怖の報酬』なわけですよ。『恐怖の報酬』、1953年、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー脚本・監督のフランス映画。まあサスペンス映画の、古典中の古典ですね。油田の火事を消すために、大量のニトログリセリンをトラックで運ばなきゃいけない。いろいろ危ない、怖いことがあって、さあ、どうなるか!? というね。まあサスペンス映画の古典ですよね。

で、1977年にウィリアム・フリードキンがリメイクして。これ、公開当時は、『スター・ウォーズ』の公開とかいろいろ重なっちゃったこともあって、興行的にも、そして批評的にも、まあ惨敗だった作品なんですよね。長らく失敗作と言われていた作品なんだけど、このフリードキン版の『恐怖の報酬』も特に近年、これはこれで異形の傑作、異形の名作なんじゃないか、ということで非常に評価が高まっている。まあ私みたいなフリードキン・ファンにとっては、「いや、クルーゾー版よりもこっちの方がいいぐらいじゃねえの?」みたいに思ったりしてますけどね。

とにかく、災害救助のために命を賭けた長距離運搬をする、というこの設定がもう、完全に『恐怖の報酬』なわけですね。で、さらに加えて、ジョナサン・ヘンズリーさんがインタビューなどで言ってるのは、この『恐怖の報酬』要素プラス、スタインベックの『二十日鼠と人間』要素だと。まあたしかに、片方が知的障害を持っている労働者2人が、いつかは自分たちの働く基盤、城を持ちたいなんてことを夢見ながらも、なかなか難しくて。ひとつの職場に定着することができずにいて、という主人公たちの設定。そこから生まれる、まさに労働者目線のドラマというのが、今回の『アイス・ロード』の大きな味わいどころともなっていますよね。

特に、リーアム・ニーソン演じるマイク・マッキャンの弟、イラク戦争で脳に障害を負って失語症となった、ガーディというのを演じる……これ、先ほど山本さんも「一気にガーディ推しになった」と言っていました。これを演じるマーカス・トーマスさん。これ、先ほど言った監督の前作『キル・ザ・ギャング 』でも、役としては小さいんだけど、でもすごく印象が強い、いい役なんですよ。いい役柄を演じられていたこのマーカス・トーマスさん。つまり、そのジョナサン・ヘンズリーさん、10年を超えて再び、ここの更に重要な役にキャスティングしたということで、非常にたぶん信頼が厚い役者さんなわけですけど。

だけあって、今回のガーディ役も、単純な弱者などではない、きちんと意思と知性とプロとしてのスキル、そして大きな優しさを内に秘めた、非常になんというか、人物として「層が厚い」キャラクターというかね、として、本当に考えうる限り最上の演技を見せていると思います。彼が、ローレンス・フィッシュバーン演じるジム、雇い主の前でですね、整備士としての腕前を見せるシーン。ここ、最高ですね。もう、言っておきます。ここが一番いいです!っていうぐらいの(笑)、彼が腕前を見せるシーン。すごくいいですし。

「これも入れてくれるんですか? ああ、そうですか!」

またですね、ガーディだけでなく、彼と並んで本作の価値を大きく上昇させている……まずガーディという役柄がすごく今作の価値を上げているのと同時に、これはカナダの先住民、三ついる先住民のうちのひとつで、「ファーストネーションズ」と呼ばれる先住民の人ということで、若き荒くれドライバー、タントゥーというのを演じる、アンバー・ミッドサンダーさんという方。個人的には僕、NiziUのRIMAさんとか、あるいはそのお母さんの美和さんをすごく強く連想する、目が強い、キリッとした顔立ちを含め、これがリーアム・ニーソンとかローレンス・フィッシュバーンと、同僚として並んで……というか、むしろそいつらの言うことを聞かないやつ、みたいな感じで、まーったく引けを取らない、堂々たる存在感と演技ですよね。素晴らしいと思います。

これ、本国アメリカと日本では公開順が逆になってしまったんですけど、日本では来年1月公開の、リーアム・ニーソン、今年もう1本新作があって。一応、前作にあたる『マークスマン』。これがまたね、イーストウッドの『クライ・マッチョ』とちょっと似た話なのがまた興味深いんだけど……まあ、そちらにも実は、このアンバー・ミッドサンダーさんは出ている、ということで。あと『プレデター』の新作の主演、っていう話もあったりするみたいなので。とにかく次世代スター候補っていう感じで、彼女も素晴らしい。

とにかくそんな感じでですね、非常にキャラも立ってるし、演技力、存在感もろもろ、もう申し分なしのメンツのトラックドライバーたちがですね、「俺たちならできる!」という誇りを胸に、コンボイを組んで……隊列を組んで出発する、というあたりの高揚感。本当に素晴らしい。僕はもうここまでで十分、出発シーンぐらいまででもう、「見てよかった! いい映画! もういい映画! 十分にいい映画! ここまでですでに!」って(笑)。だから、ここまでがなんかテンポ遅いって感じる人もいるようだけど、僕は「丁寧」って感じたんですよね。っていうか、(派手さよりも)こっち(渋い人物造形や演技)を味わう映画だな、という感じがしたんですよね。もうすごく素晴らしいなと思いました。

加えて本作の場合、ダイヤモンド採掘の事故で、坑道内に閉じ込められた26人側の話ですね。まあ酸素残量をかけたそのタイムサスペンスっていうのと、会社からの闇指令をめぐる不信……要は陰謀劇みたいなものが、同時に進行していく。まあたしかに、いろいろと詰め込んだ結果、こっちの話が十分に消化されたとは言いがたいのも事実だが……ただ、まあ見方を変えれば、「これも入れてくれるんですか? ああ、そうですか!」っていう。「あ、パイナップルも入ってるんですか? ああ、デザートもついてるんですか?」なんていうね(笑)。飽きさせない、サービス満点な作りにはなっている、という。メインの料理と味が合ってるかは別として(笑)、それも入ってていいな、っていうのがある。

特にですね、こちらサイドのドラマを引っ張る役どころで、ホルト・マッキャラニーさんっていう、顔を見ればみんなわかるでしょうね、名脇役がいて。このホルト・マッキャラニーさんみたいな、要するにちゃんと力がある役者さん……で、みんなが見たことがある役者さんをしっかりここに置くことで、ちゃんとそのエピソードとしての重量が、リーアム・ニーソン、ローレンス・フィッシュバーン組と並べても、やっぱり見劣りしないんですよ。

だから、こういう配慮っていうのが実は大事なんですよ。そういうところのあれもちゃんとできている、ということで。僕はやっぱり好ましいな、と思って見てましたね。「ああ、ここでホルト・マッキャラニーさんをキャスティングしてる。ああ、わかっているな。いいな!」って思いました。

■一種「お仕事映画」的な面白みが全編に用意されている

当然ね、道中いろんなドラマが起こるわけですけども。この本作『アイス・ロード』特有の面白いところだと僕は感じたのは、僕からするとね、「ああ、これはもうおしまいじゃない?」と思えるような事態。たとえばトラック、トレイラーが全部横転しちゃいました、みたいな局面でも、主人公たちは比較的淡々と、「作業」に徹し続けるような佇まいなんですよね。

「ああ、なるほど。ここにこうやってケーブルを繋いで、ウィンチでこうやれば起こせるんだ」「ああ、こういう時はこうやって対処するんだ」的な、一種「お仕事映画」的な納得感、面白みが、わりと全編に用意されているのが本作の味わいだと思いますね。あと、たとえば、あのガーディがですね、途中で氷の下に落っこちちゃって、マイクが助けに行く。そこところを、長回しのちょっと引きのワンショットで、ずっと捉えるショットとか。ああいうのとか、すごい冴えですね。僕は『羊の木』のクライマックス以来の……「あれ? 大丈夫? 大丈夫?」っていう感じで「ああ、帰ってきた!」みたいな、見事なショットだったと思いますね。

ただですね、今言ったようなところは、同時に、いちいち地味で地道な作業が、本来見せ場であるはずのトラブルシークエンスから、毎度始まるので。ぶっちゃけ全体的に、すごくノロノロしてるように感じる作りなのも確かだし。人によっては、そこにイライラしだしてしまう感じの作りなのも、間違いないかとも思います。

そもそもこれ、インターネット・ムービー・データベースの間違い探し項によればですね、そういった「お仕事」描写も、さっき言った、たとえばその横転したのを起こすくだりも、わりと嘘や粗が、実はめちゃくちゃあるそうで。「あのやり方じゃ起こせませんよ」とかね、「あのウィンチはそれじゃ動きませんよ」とか。いろいろそういうのがあるみたいなんですけどね。

■70点満点で71点。いやもうちょっと、65点満点で66から67、くらい?

まあでも、ともあれ、その「お仕事映画」的な部分が、本作独特の、淡々と粛々とプロのお仕事をこなす佇まい、ヴァイブスを醸していて。僕はこれ、やっぱり嫌いじゃないですし。まあね、その中盤、あるポイントから、お話上にはっきり「悪役」が登場して以降は、いろいろが数段階、陳腐化していくのは否めないですし。たとえばクライマックス、タイマン対決をするんですけど。おじさん同士の「つっ転ばし合い」なんですよね(笑)。おじさん同士がつっ転ばし合っていて、なんか絵面も間抜けだし、「これ、何を争ってるんだっけ?」みたいなのが……ちょっとピントがずれていく一方なのも、事実ですし。

ぶっちゃけジョナサン・ヘンズリーさん、アクションを撮る、見せるのに腕があるタイプの監督では、全くないです! 加えて、そこは僕はあんまりいちいち気にすることじゃないと思うけど、まあやっぱりCGのクオリティーは、全編、驚くべき低さだと思います。それはね。なので、そういうポイントで減点法的に評価が下がっていく、っていう人がいるのも、もちろん無理からぬことだと思います。

ただですね、先ほど言ったような人物造形の味わい深さ、「お仕事映画」としての佇まい、それが「ストレートな人命救助」に繋がっていくカタルシス……僕は絶対に嫌いになれないし、軽んじる気には絶対になれない。決してベタベタしない、しかししっかり深い余韻を残す、この幕引きのスマートさ、っていうのも、僕は本当に素晴らしいと思います。特に序盤、前半で、かなり得点を打ち出しているので、トータルで……先ほど言っていたテイで言うならば、70点満点で71点、いやもうちょっと、65点満点で66から67、くらい?(笑) でも、満点より上は出している、ありがとう! みたいな。そういう充分な満足度を、私は本作からしっかり得ました。

と言うか、いつも言ってますけど、むしろ僕は本来、こういうのを見るために映画館に行ってるわけです。もちろんシリーズ物、キャラクター物もいいですが、本当はこういうのが見たくて行っています。はい。

重過ぎず、もたれない。しかし、しっかり味深く、噛みごたえもきちんとある。そして、記憶に残るようなショット、シーンなんかもいくつかある。キャラクターもしっかりある。映画にこれ以上、必要でしょうか? なんつって。はい。これぞまさに私の言うところの「ちょうどいい映画」。ちょうどいい娯楽映画、近頃そういう映画が少なくなったな、とお嘆きのあなたに、ぜひぜひ劇場でウォッチしていただききたい作品です!



(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『リスペクト』です)
 

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしは

こちらから!

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