アルピーなんかに、惚れてたまるか。【連載エッセイ「TBSラジオ、まずはこれから」】

エッセイストの中前結花さんが、さまざまな番組の魅力を綴るエッセイシリーズ「TBSラジオ、まずはこれから」。今回は、火曜深夜24時より放送中のラジオ番組『アルコ&ピース D.C.GARAGE』の思い出とともに、アルコ&ピースに対してのツンデレなエピソードをうかがいました。

 

 

どうにも、アルコ&ピースだけはいけ好かない。

これと言って、好き嫌いは無いほうだ。
言わなくていいことは、あまり口にすべできないと思っているし、
「苦手」や「嫌い」なら、尚のことだ。
そう、言わなくていいことは言わなくていい。
けれど、これはわたしだけだろうか。
どうにもアルコ&ピースだけは、「なあんか、いけ好かない」のである。

お笑い、バラエティ、深夜ラジオをこよなく愛してきた。
劇場にだって出かける。揚々と予選から見に行く。
漫才も好きだしコントも好きだ。もちろんピン芸だって。
実際のところ、そりゃあそれぞれのネタに好みの差はあるものだ。
けれど、やっぱりわたしも書き手の端くれをしていて、
「言葉で笑わせる」「間(ま)で魅せる」、
それがどれほどに偉大なことかは本当によくわかるし、
「目の前で結果が出てしまう」という恐ろしさ。
そんな“書き仕事”に“役者仕事”に“立ち仕事”を足し合わせたような。
とんでもない苦労と恍惚をない混ぜにしたような。
それを生業にして生きている姿に、かっこいいなあ、すごいなあ、と
尊敬や憧れに近い想いを寄せてしまう、それが「芸人」という存在だった。
もう小学校の頃からかれこれ20年以上の話だ。
わたしは、ずっとずっと「お笑い」というものに支えられて生きてきた。 

けれど、なぜかひとつ例外はあった。
そうだ、出たな、アルコ&ピースだ。
どうにも、彼らは好きにはなれないのだった。

ラジオ番組『アルコ&ピース D.C.GARAGE』(火曜深夜24:00~25:00)の以前の放送でも、冒頭からよくわからない感情で、ふたりはぶつかり合っていた。
「普通にやれよ、オープニングぐらい。新規(リスナー)が入ってこないのよ」
と平子さんが嘆く。
まったくもって同感だ。こっちは毎週聴いているというのに、そんなわたしでさえ、いつも何の話をしてるんだかわかったもんじゃない。
「もともとのルール知らねえから」
と酒井さんも応戦するけれど、ルールなんかはじめから無いじゃないか。
何を言っているのか。
「夏休み中にラジオをつける学生さんも多いでしょうから」
なんて言うくせに、いつまで経っても、1990年代から2000年代の頭に活躍したウクライナの格闘家イゴール・ボブチャンチンの話ばかりしている。
誰だ。ボブチャンチンって。

車に何のステッカーを貼るのか、の話を車を買うずっと前から延々としている。
どちらが正月に餅を多く食べたかと言えば、終いには「8,000だ」と言い出し、どちらが多く見たか、知っているか……等々、ただ大きい数字を言えるかだけを、常に競い合っている。
酒井さんは未だにサブスクに入らないから、TSUTAYAでDVDを借りている。そして、ポストで返却できることを、TSUTAYAの関係者でもないのに鼻にかけているのだ。
そのTSUTAYAで借りたであろうDVDできっと、かの、映画『MARVEL』シリーズも見たのだろうけれど。 

2年前、事件は起きた。 

わたしは、お笑いと同じぐらい映画『MARVEL』シリーズが好きだ。
だからこそ、これに関してだけは、平子さんの言っていることは非常によくわかるのだけれど、あるとき、
「アベンジャーズに、ファルコン(登場キャラクター)ってのがいて……」
と語り出した。早い話が「このキャラクターは必要ないのでは?」という内容だったのだけれど、そこは平子さん流に「最強の戦士ファルコン」と散々、言葉で弄ぶ。
しかし、そんな平子さんのおかしなリードに流され、週を跨ぎ、アベンジャーズのすべてをTSUTAYAでレンタルしてきたのであろう酒井さんが、まんまと
「ファルコンは、アベンジャーズを辞めさせた方がいいんじゃないか」
とまで言い出すのだ。やがて、事はおかしな方向に進み出す。
平子さんは終始「まあまあ」とフォローをしているのだけど、結果、放送を聴いていない人たちまで巻き込んだ大炎上となり、Twitterはファルコン擁護派のMARVELガチ勢によって燃え盛っていた。

まあ、万事がそんな調子だ。酒井さんのひと押しによって
「申し訳ありませんでした……」
と、謝罪が繰り返される番組なのだ。
  

けれど、穏やかに大人の対応で振舞う、平子さんだってわかったもんじゃない。
妻が大事だ、子どもが大事だ、と家庭愛ばかり口にするけれど、真相はどうだか。
「家庭が大事だ、大事だ、という男性ほど、良くないことをしてる。それが相場よ」
と前の前の職場の先輩が長い髪をまとめながら、ちょっと色っぽくそんなことを言っていたし、
「そうか、信用してはいけないぞ」
とわたしはこのとき強く思ったのだった。

だって、声なんてやけに色っぽいじゃないか。
あの大きな体と低くて甘い声。そんな体を急に屈ませて、後輩女性の靴ひもを何も言わずに結ぶというのだから。
そんな仕草をされたなら、心を奪われてしまうことなど、想像するに容易いはずだ。
それを、あの男は平気でするのだ。平子の「平」は、平気の「平」だ。
騙されない。そんなのには騙されないぞ。

時に暴走し、奇跡を起こす酒井さん。それを「まあ、まあ」と甘い声でたしなめる平子さんという構図も多いけれど、
「仲裁とか調整が上手い人って、何考えてるかわかんないのよね」
と前の前の職場の先輩が長い髪を傾けながら、そんなことも言っていた気がする。
やけに色っぽい先輩だったのだ。
平子さんにはとにかく注意だ。あの胸板に、あのメガネ姿……。
そう言えば、
「ボブチャンチンの話をする男って危険なのよね」
とも言ってなかっただろうか?いや、覚えていないだけて言っていたかもしれない。
あの先輩なら言いそうだ。
やはり怖い。平子さんは本当に恐ろしい男なのだ。 

何にしても、酒井さんはよく映画を見るのだから、早くサブスクに入ればいいじゃないか。それも、わたしを毎週イライラさせている原因のひとつかもしれない。
「個人情報抜き取られたりしない?」
とよくわからない心配ばかりしているけれど、個人情報だなんて息をしていても抜かれている時代をわたしたちは生きている。そこは、もうどうか、諦めてほしい。
「入ればいいじゃない」
と説得する平子さん。やっぱりやわらかな物腰と低く甘い声に、もうわたしは、まいってしまう寸前なのだ。

そのくせふたりはすぐに、
「ゴッサム・シティじゃねえかよ!」
「こっちは、ワイルド・スピード見てますから」
「お前それ、ハングオーバー!とかだけにしろよ」
「もうハングオーバー!じゃん」
「ハング・オーバー!みたいなやつだろ?」
と絶妙な作品の喩えを、絶妙なタイミングで入れ、映画の話ばかりしている。
そんなことをされたら、笑うしかないじゃないか。
最高のタイミングで映画のタイトルやシーンを入れ込むなんて、おおよそ、知性に富んだかっこいい大人のすることと決まっている。
わたしだって、何かを『ハング・オーバー!』に喩えてみたい。
本当は喩えてみたいのだ。けれど、そんな機会は1度も訪れやしない。
ちなみにわたしは、『ワイルド・スピード』を1度も見たことがない。
それでも『ワイルド・スピード』の話が出てきたら大笑いしてしまう。いったい、見てしまったならどうなるんだよ、と怯えているわたしが、この先『ワイルド・スピード』を見ることはきっとないだろう。
皮肉なものだ。ふたりはこれほどまでに『ワイルド・スピード』の話ばかりしてきたというのに。これほど称えているのに、わたしは絶対に見てやらないのだから。

 

ふたりの関係性もまた、他のコンビにはない奇妙さがある。
地下イベントによく出ていたふたりは、当時別々のコンビとトリオだった。そんな中でそれぞれに「天才」「神」「売れるに決まってる」(マヂカルラブリー ・野田氏 談)とされていたのがこのふたりで、そこからコンビを組み、ここまで来たのだという。
5歳上の平子さんに敬語混じりで話し続ける酒井さん。その会話に、「兄(あん)ちゃん」と「可愛いボク」のような空気感さえ、未だに感じるものだから不思議だ。

結成から15年。
今年ふたりは「キングオブコント」に挑戦した。
当時の仲間・後輩であるマヂカルラブリーに触発され、「一緒に出ましょうよ!」と語り合い、約束を果たした形だ。
今年は、コンビ同士のユニットやピン芸人同士のユニットなど数多くの曲者が揃っている特別な回になりそうだった。
「いったいどうなるのか」見どころが多くとても楽しみだったし、だからこそ即席のコンビではなく、一か八かの挑戦ではなく。
コントも得意とする「長年のコンビ」である彼らが、決勝に立つ姿を見てみてもいいなと、どこかで本当は思ってしまっていたのかもしれない。 

しかし、決勝進出者が発表され、そこにアルコ&ピースの名前はなかった。
わたしはこのとき、はじめて思った。
「なんで居ないんだよ。なんでファイナリストじゃないんだよ。
楽しみにしていたのに」 

わたしの本音は、本当の気持ちは、どうやら意外なものだった。

今日も『アルコ&ピース D.C.GARAGE』をradikoで3回聴いた。
3回とも笑った。
本当はメールだって送りたいし、Twitterだってすごくフォローしたい。
火曜日が楽しみで楽しみで仕方がないのだ。
だけど別に好きなんかじゃない。
今日だって、ちゃんと「なあんか、いけ好かない」と心の底から思っているはずだ。
けれど。
約束を守って戦いに挑戦する人は、カッコ良くてすごくすごく大好きだ。

 

 

中前結花/エッセイスト・ライター。兵庫県生まれ。『ほぼ日刊イトイ新聞』『DRESS』ほか多数の媒体で、日々のできごとやJ-POPの歌詞にまつわるエピソード、大好きなお笑いについて執筆。趣味は、ものづくりと本を買うこと、劇場に出かけること。

llustration:stomachache Edit:ツドイ

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