宇多丸、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』を語る!【映画評書き起こし 2021.8.20放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

オンエア音声はこちら↓

宇多丸:

さあ、ここからは、私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、8月13日から劇場公開されているこの作品、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』

(曲が流れる)

『バットマン』や『スーパーマン』などを生んだDCコミックスの悪役(ヴィラン)たちのチーム、スーサイド・スクワッドを、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などのジェームズ・ガン監督が独立した作品としてリブート……でも、多少関係はある、っていう感じだけどね。ハーレイ・クインをはじめ、ブラッドスポート、ピース・メイカー、キング・シャークなど、強烈な個性を持った悪党たちが、減刑と引き換えに、危険な独裁国家から世界を救うというミッションに挑む……まあ、あるいは脅迫というかね。

出演はマーゴット・ロビー、イドリス・エルバ、ジョン・シナ、ジェイ・コートニー、マイケル・ルーカー、などなど。またキング・シャークの声をシルヴェスター・スタローンが担当した、ということでございます。

ということで、この『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)を、メールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「多い」。そりゃあそうでしょうね。ジェームズ・ガンがこれをやるって言ったら、それは行くでしょう。

賛否の比率は、「褒め」の意見が8割以上。主な褒める意見としては、「笑えるし、泣けるし、熱い。人を選ぶかもしれないが、自分は大好き」「ジェームズ・ガン監督、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』よりさらに攻めていてすごい」「アメリカ政府の描き方や、どんな人間にも尊厳があるというメッセージ性がとても今っぽい」などがございました。

一方、否定的な意見としては、「悪くはないが予想の範囲内」「必要以上の露悪趣味が鼻につき、スカッとしない」などがございました。

■「“予想通り、予想以上”の大傑作」byリスナー

代表的なところをご紹介しましょう。「愚鈍なグドン」さん。

“予想通り、予想以上”の大傑作でした! 前作『スーサイド・スクワッド』が出来なかったこと、そしてガン監督が『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で出来なかったことがふんだんに詰め込まれており、矢継ぎ早に見せられるトロマ魂あふれるゴア、悪趣味描写はまさに圧巻の一言」。まあ、トロマ。後ほど、お話しますけども。

「キャラ描写も手際よくかつ魅力的で、前作での課題だったヒーローとヴィランの描き分けもクリアしていると思いました。さらに、“前作とは別物である”と強調されがちな本作ですが、本質としてはデヴィッド・エアー作品における“過酷な現実を生きるしかなかったはぐれ者たちの生き様の美しさ”をしっかり描いている点もさすがの手腕だと思います。話の骨格が、アメリカの負の部分に思いの外鋭く切り込んでいくのも壮観で、クライマックスは弱者たちの力で世界を変えていく、世の中に無駄な命など存在しない、という、非常に今日的なメッセージも浮かび上がっていきます。悪趣味で不謹慎でやりたい放題なのに、正しくて、真っ当で、普遍的なメッセージをこのバランスでやり遂げるアメコミ映画はこの監督しか作れないのでは? と本気で思ってしまいます。文句なしの今年ベスト1です」という。

あとですね、毎回すごく鋭いメール送っていただいてる「コーラシェイカー」さんもですね、ちょっと要約が難しいぐらい長大、かつ、非常に論旨がきっちり固まっていて、要約しづらいんで。コーラシェイカーさん、これは自分でどこかに発表した方がいいと思うよ、すごく。特にですね、非常に複雑になりかねない構造なんだけど、非常に整理されていて分かりやすいのはなぜか?という分析において、メンバー同士の関係性の描き方が、割とロマコメ的なと言うか、それぞれの関係性……「家族」みたいなところに父権を匂わせるファミリー物の語り口ではなく、あくまで独立した個人間の関係性を描く、ロマンス物の語り口を使っているというという、そういう読み解きの部分であるとか。

あるいは、そのネズミであるとか、その「小さき者」というのをどういう風に使ってるか、みたいな、非常に鋭い読み解き。それをした上で、これちょっとネタバレしないように伏せますけども、エンドクレジットの最後に出てくる「あの人」はなぜ生き残ったのか、という部分の読み解きなんかも含めて、非常に鋭い読み解きで。ありがとうございます。ちょっと要約しきれなくて、ごめんなさいね。

あと、ダメだったという方。「ワイルドコブン」さん。「良かった点は2点。冒頭のチームの上陸作戦のところと、ハーレークインの花びらアクションシーン。それ以外は、個人的には残念でした。全体的にテンポが悪く冗長で、詰め込みすぎに感じてしまいました。あと、前作同様に「悪党チーム」と銘打っておきながら、ろくな心理描写もなく物語に善悪を持ち込むのはやめてほしい。あくまで損得勘定で動くべき。そして、この映画のハーレークインの位置はこれで良いのでしょうか」。

あと、ハーレイ・クインがちょっと特別な存在になりすぎているんじゃないか?とか、「それに対して露悪ギャグ尽くしの『デッドプール』がいかに丁寧に作られているかを実感した。ジェームズ・ガンをやりたい放題させると万人向けではないと改めて実感」というのがワイルドコブンさんのご意見でございました。

というところで皆さん、メールありがとうございます。

■2016年のデイヴィッド・エアー監督版『スーサイド・スクワッド』の出来は……

私も『ザ・スーサイド・スクワッド』、今回はT・ジョイPRINCE品川のIMAX字幕で2回、見てまいりました。なぜなら、この作品は……部分的にIMAXシーンがあったりするのはね、『ブラック・ウィドウ』とかいろいろありますけど、『TENET テネット』とかありますけど、これ、全編がIMAX仕様なので。なおかつ、IMAXの画角をちゃんと計算して作っている画面が、非常に多いので。これはIMAXでやっぱり見るのが、正道でしょうね。

ただ、吹き替え版もね、日本では上映されていて。吹き替え版でも僕は改めて見直したいな、という風に思っておりますが。入りは正直、もうちょっと入っててもいいんじゃないかな、って思いましたけどね。はい。

ということで、改めて説明しておくならば、僕のこの映画時評コーナー、2016年9月27日に取り上げたDCコミックス映画、デヴィッド・エアー監督の『スーサイド・スクワッド』という作品がありまして。

興行的には一応これ、成功を収めましたし。あとはなにより、やっぱりマーゴット・ロビー演じるハーレイ・クインという、その後、単独のスピンオフ、これは2020年6月19日に扱いました『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』という作品なんかも作られてゆくような、決定的な人気キャラクターを生み出したことなど、もちろんいいところ、功績もある作品だと思います。あと、個人的に私、デヴィッド・エアーは普通にファンな監督なので。

なんですが、ただ正直これ、出来上がった中身的には、いろいろ理由は考えられるけども、とにかく諸々がちぐはぐだったり、中途半端だったり、あんまり出来がいいとか、完成度が高いとか、すごく面白い!とは、決して言い難いものになってしまっていたのも事実かと思います、その2016年の『スーサイド・スクワッド』は。先ほど言ったそのマーゴット・ロビーのハーレイ・クイン以外は、なんか「なかったこと」にされてる感じ、みたいな作品でもあって。

まあ詳しくは僕の当時のね、映画評書き起こし、最近ちょっと検索しづらい、TBSラジオのホームページのリニューアルでちょっと見づらくなっちゃってたりしますけど、ようやくある程度は見れるようになったので、ちょっと参照していただきたいですけど。

■マーベル/ディズニーから解雇されたジェームズ・ガン監督を最高待遇で迎えたDC

その一方で、DCコミックスのライバルである、そのマーベルというアメコミ会社の映画シリーズ、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のその中でも、一際輝く大傑作、スーパー愛されシリーズである『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』二作。これ私、一作目は2014年10月14日、そして2017年5月81日に『Vol.2』をやりました。

この『Vol.2』の方は書き起こしが残ってます。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』二作を手がけたジェームズ・ガン監督がですね、2018年7月に、過去の不謹慎ツイートというのが、主に彼のその反トランプ的な政治的スタンスを快く思わない右派の動きによってわりと問題視されて──もちろん、書いてある内容もよくなかったんですけどね──過去のそのツイートが問題視され、マーベルの親会社であるディズニーから、即解雇!っていう事態になったわけです。

現在はですね、いろんな……もちろん本人もきっちり謝罪をしたりとか、あとはいろんな嘆願運動、あるいは俳優たちが「もうジェームズ・ガンがやらないんだったら俺はやらない」っていうような声をあげたりとかして、その効果もあってか、無事『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.3』、2023年公開作品を、ジェームズ・ガン監督が再び作る、ということが決定しており。これはまあ、よかったよかった、という感じなんですけど。

でも、とにかく一旦ジェームズ・ガンはMCUをクビになっちゃった。そのジェームズ・ガンに、「だったらうちでやってください!」と手を挙げたのが、このライバルであるワーナー傘下のDCエクステンッデッド・ユニバース。前にもザック・スナイダー監督が作りかけていた『ジャスティス・リーグ』を、『アベンジャーズ』でおなじみジョス・ウィードンが引き継いだ、という例はありますけども。なんでもジェームズ・ガンさんをお誘いするにあたって、DC側はですね、完全無条件、白紙委任……「どの作品、どのキャラクターを、どう扱っても構いませんので! ひとつ、よろしくお願いします!」っていう、まさに破格の最高待遇で迎えた、というね。

ということで、実はジェームズ・ガンは、何を作ってもよかったんです。ですけども、結局彼が選んだのは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』同様の、元々のアメコミの中でもマイナーキャラ、はぐれ者、日陰者キャラのチームが奮闘する、という『スーサイド・スクワッド』の、引き継ぎというか、リブートというか……みたいなものを選んだということですね。

まあそもそも、その2016年の『スーサイド・スクワッド』も、特にこれ、私の映画評でも言いましたけど、本編のトーンを大きく変えることになった、トレーラーパークという会社が作ったクイーンの「Bohemian Rhapsody」を大フィーチャーした予告編以降、明らかにより『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』的な方向を目指されていた作品でもあったわけですけど。

ともあれさっき言った通り、正しく白紙委任状態で、「好きなように作っていいよ」と言われたこのジェームズ・ガンさん。正直、「いや、『ガーディアンズ』は見たいけど、『スーサイド・スクワッド』は、いくらジェームズ・ガンでもそんなに見たいかな?」みたいに……まあ前のね、2016年版の印象が悪すぎて、私も正直そう思ってしまってたんですが。

ほとんど奇跡な「100億円かけたトロマ映画」!

実際に出来上がった本作、『スーサイド・スクワッド』、じゃなくて、ややこしいですけども『ザ・スーサイド・スクワッド』はですね、結論から言いますと、あの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』がちょっと大人しい、よそ行きの作品に思えてくるほど、ジェームズ・ガン本来の資質……彼の過去の監督作の、『スリザー』というホラーであるとか、『スーパー!』というこれはちょっとメタ的なヒーロー映画、2011年8月20日に私、映画評しました。もっと言えば、さらにその前の『トロメオ&ジュリエット』などですね、彼が常にルーツとしての敬意を示してきた……要するに彼が育ってきたという風に自認する、いわゆるZ級映画の帝国、トロマ映画というね、トロマ・エンターテインメントという会社があります。

そのトロマ映画の精神……今回もですね、あのクラブのシーンで、そのトロマ社長のロイド・カウフマン、カメオ出演しているっていう。まあ一瞬だけなんでなかなかちょっと確認しづらいですけども。あと、これも画面で確認するのが結構難しかったですけど、クレジットを見ると、『悪魔の毒々モンスター』、トロマの代表作ですね。それが一瞬、クラブのところで映っているらしいです。ちょっと僕もまだここは確認しきれてないんだけど。まあ、そのトロマ映画の精神をですね、トップレベルの予算と技術、メジャーど真ん中で全面展開させた、とんでもない、ほとんど奇跡的な一作です! 100億円かけたトロマ映画です、これ(笑)。こんなこと、ないから!

間違いなく言えるのは、ディズニー傘下となったMCUではこれ、絶対にできないタイプの面白さに満ちた作品です。MCUでは到底戦えない戦い方をしてる、というかね。具体的には、とにかくスプラッター級の人体破壊描写ですね。完全にトロマ映画イズムですね。同時にですね、先ほどジェームズ・ガンさん、過去のそのツイート……やっぱり書いてあることはあんまりよろしくなかったわけです。いくら冗談とはいえ。特にその、小児性愛に関する倫理に反したジョークツイート、過去の過ちへの反省を、作品の中で示す!と言わんばかりにですね、繰り返し、その「子供に手を出すようなやつは、問答無用で逝ってよし!」っていうようなくだりが、繰り返し、繰り返し出てきたりする。

一方でですね、過去にはその犯罪に手を染めたり、悪事を働いた、後ろ指をさされてるような人間がですね、せめてもの良心を振り絞って、自らの良心に従って善行をしようとする……罪滅ぼしの話でもある、というわけで。そのジェームズ・ガンにとっては、非常に自己言及的な作品にも見えますよね。正直ね。

またですね、アメリカが他国に行なってきたさまざまな所業……陰に日向に行なってきた所業の数々。今のそれこそアフガンの状況とかを見るとね、なかなかタイムリーな感じになっちゃってますけど。ひいては、アメリカに代表される、そのやっぱりアメリカ的な男性性、マッチョ性、「強さ」っていうものへの痛烈な批評、パロディっていうものを含む……つまりその、非常にしょうもないギャグをやりながら、同時に非常に鋭い政治性が同居しているっていう、これがまさにやっぱり、トロマ映画の精神、スタンスなんですね。トロマっていうのは、実はものすごく政治的な映画だったりするわけです、どれも。で、それに対して、もっとも見下げられた、差別された、日陰の存在こそが、最も強く、尊く、美しいことを行ないうるのだ、というテーマへと最終的に着地してゆく、という。で、気付くと猛烈に感動させられ、泣かされる、という。これもやっぱりトロマ育ち、ジェームズ・ガン映画のイズム、その真髄である、という風に言えると思うんですよね。

■映画冒頭10分ちょっとは「目を疑う展開」+「開いた口が塞がらない」の連続

で、ちなみにこれ、言っておきますと、『スーサイド・スクワッド』の前作を見ていなくても全然大丈夫ですし、もっと言えばDC映画を一切見てなくても、というかアメコミ映画を一切これまでに見てなくても、全く問題ない作りです。完全仕切り直しなので、全く、ほぼ大丈夫な作りになっています。独立した1本となっていますね。まあとにかく、もちろん大枠は2016年の『スーサイド・スクワッド』と同じく、言っちゃえば『特攻大作戦(The Dirty Dozen)』という映画がありますが、『特攻大作戦』型の、「はぐれ者不良チーム物」……まあ『ワイルド7』とかね、そういうような類の作品、いっぱいありますけど。いわゆる『The Dirty Dozen』型、はぐれ者チーム物ね。

今回、そこにですね、「独裁小国家に潜入する傭兵チーム物」っていうジャンルもあるわけです。それはたとえば『戦争の犬たち』とか、それこそスタローンの『エクスペンダブルズ』の一作目なんかも特にそうですけどね……的な要素。ここにやっぱり、ポリティカルな批評性、みたいなものが入り込んできたりするわけですけど。そういう要素と、あと、そういう連中……傭兵とか兵隊が、そびえ建つ要塞を攻略するという、まあ『荒鷲の要塞』であるとか、言わば、これもジェームズ・ガンがインタビューで言っていますけども、「戦争ケイパー物」。このケイパー物っていうのは「チーム強奪物」ということですけど、戦争を舞台にしたチーム強奪物の要素。これも、70年代にはすごく流行った映画ジャンルなんですけど、その要素も色濃く入ってきていて。

ゆえに、たとえばオープニングのクレジットのあのフォントとか、「タランティーノっぽい」って感じた人は多いと思いますけど。あれは要するに「70年代ジャンル映画感」ですよね。それがビンビンだし。特に序盤ですね、やたらとズームを多用する、あえての安っぽいカメラワーク。やたらとガーッと急激なズームがあったりする、っていうのもあれ、やはり70年代アクション映画風のカメラワークですよね。そういうものを、全編IMAXで、そういう70年代の一番安っちい映画のカメラワークをやってみせる、という……贅沢というか、なんというか、という。

で、とにかくそのジェームズ・ガン映画常連のマイケル・ルーカーがですね、ジョニー・キャッシュの曲に乗って、貫禄たっぷりに登場する冒頭から、これ2016年版でも一種お約束的にやっていた、「異色チーム全員の顔合わせ」、からの、「横一列並び歩き」……の、ちょっと残念バージョン、みたいな(笑)。それぞれにちょっとずつかっこ悪いっていうバージョン、みたいなのを経て……とにかく皆さん、この映画は、たぶん開幕10分ちょっとですかね、ちょっと時間を測ってないんでわかんないんだけど、たぶん10分ちょっと……できれば情報とか一切入れず、あなた自身の目でたしかめていただきたいんですけど、とにかく文字通り、目を疑う展開の連続です(笑)! 本当に、「目を疑う展開」とはこのことです。「開いた口が塞がらない」とはこのことですね。本当にね、ぜひ見ていただきたい。

で、ここからですね、タイトル、オープニングクレジットが出るあたりまで、要は心の中で、「最低!……つまり、最高!」みたいな、「最っ低! 最っ高!」みたいに快哉を心の中で叫べないようであればですね、ひょっとしたらこの映画、そもそも根本的に合わない可能性があるかなと。はい。ここで心の中で大拍手をできない人はもう、ちょっとやめてもいいかもしれないぐらい、人は選ぶと思います。僕も、少なくとも母には勧めません。聞いてる? お母さん。『ザ・スーサイド・スクワッド』は見なくていいからね、あなたはね(笑)。

■見た目も残念な「ヒーロー」たちがチーム化していく様子を丁寧に描く

あるいは途中ですね、その「敵」とされた人たちをですね、イドリス・エルバ演じるブラッドスポートというキャラクターと、ジョン・シナ演じる……この人はプロレスWWEのスターですけど、ジョン・シナ演じるピース・メイカーという、言っちゃえば「ピカピカ便座白ブリーフもっこりマン」ですね(笑)。という、いずれ劣らぬ殺人マシーンの2人がですね、どれだけ派手で「面白い」殺し方ができるかを競い出す、っていうくだりがあるわけですよ。

まあ非常に笑えると同時に、まあもちろん毒っ気ありすぎ! なシーンなんですけど。かようにこれ、2016年版の『スーサイド・スクワッド』が、いかにも腰が引けたスタンスゆえにですね、「なんか単に普通よりいい人たちにしか見えないんですけど?」みたいになっていたところを、そのスーサイド・スクワッドの面々の、悪人性、犯罪性、なんなら殺人者性っていうところまで、要はきっちりと残酷なものは残酷なものとして、ある種、身も蓋もない率直さで示しながら……まあ、あとは、暴力じゃなくても、自分の娘と面会室で「ファックユー!」って怒鳴り合うお父さん、っていうのもなかなかなもんだったりすると思うんですけど。

でも、まあそんな人たちなんだけど、見た目もぶっちゃけ、やっぱりちょっぴり残念感が……まあ、言っちゃえばアラン・ムーアの『ウォッチメン』的な、「スーパーヒーローのパロディ」感すら漂うその彼らの、人間性にこそ、気づけばしっかりと思い入れてしまうようになっている、というあたり。これは先ほどのコーラシェイカーさんのメールが詳しく分析してましたけど、やっぱりその、彼らの中にある倫理っていうところが、ちゃんと劇中で明快なんですよ。そこに関しては。それゆえに、だと思いますけどね。

そして、彼ら同士の関係性というのも、ちゃんとチーム化していく必然性を感じさせる描写を、丁寧に描き出しているわけですね。そういうあたりをね、前作がやっぱりいつの間にかなんか「家族だ!」みたいなことを言い出していて、なんか気持ち悪いな、みたいになってたのが、これもコーラシェイカーさんが丁寧に読み解いていました、個対個の関係性を丁寧に描くことで、きっちりそれぞれの……でもベタベタはしきっていない感じ、というかね。やはりジェームズ・ガン監督、凡百のアメコミ映画、ビッグバジェット映画とは、本当に一味も二味も違う腕前だと思います。

それぞれのキャラクターも、本当にだから、やっぱり結局、すごい大好きになっていっちゃう。僕はやっぱりね、さっき言ったピースメイカーみたいな、『ウォッチメン』で言うとコメディアンとかみたいな、『ザ・ボーイズ』で言うとホームランダーみたいな、ああいう「ファシストヒーロー」が、どうしても興味を引かれるんですよね、やっぱね。ファシスト型ヒーロー、僕はすごい面白いなと思っちゃいましたし。

あと、シルヴェスター・スタローンが声を演じるキング・シャークなどは、もう出てきた瞬間からかわいいし。ちなみにですね、このキング・シャークが登場時に、逆さに読んでる本。あれはウィリアム・ジェイムズの『宗教的経験の諸相』というですね、日本では岩波文庫に入っている本ですけども。あれはですね、実は先ほど言ったジェームズ・ガンの監督作『スーパー!』の、言っちゃえば原作、まあ発想の元になったという風にジェームズ・ガンが公言している、宗教心理学の古典なんです。実はね。だから『スーパー!』のオマージュでもあるんです、あそこは。とかだったりするんですけどね。

■不謹慎・悪趣味、なのに人間キャラクターの描き方にはきちんと愛が込められている

あと、デヴィッド・ダストマルチャン演じるポルカドットマンの、「なんじゃ、そりゃ?」な感じの第一印象と裏腹に、非常にやっぱり、おかしくも哀しいそのサイコな内面描写。「おい、ノーマン・ベイツ!」なんて言われていましたけども。それもすごくキュートっていうか、思い入れざるをえない感じになっていくし。あと、ダニエラ・メルシオールさん。これ、ポルトガルの方なんですね。演じるラットキャッチャー2、彼女が、ある種このチームの人間関係の中心というか、キーになっているわけですけども。

特にその、タイカ・ワイティティが出てくる過去のエピソード。まさにジェームズ・ガン、「ドブネズミみたいに美しくなりたい」精神の真骨頂ですね。クライマックス、僕は頭の中ではブルーハーツ(『リンダリンダ』)が流れてましたけど。もちろんマーゴット・ロビーのハーレイ・クインが素晴らしい、とかはね、言うまでもなくです。今回はその、ジェームズ・ガン演出のケレンと、やっぱりその、よりクオリティーが上がったハーレイ・クインのアクションが、非常に相乗効果をあげていると思います。あの「Just A Gigolo」が流れるシークエンスとか、本当に白眉でしょうし。

あと、リック・フラッグを演じるジョエル・キナマン。今回はあの黄色いTシャツとか、ハズし感も見事にはまっていてよかった。あと、中では普通のヒーローっぽいイドリス・エルバも、他の作品よりもグッと「疲れきった」感じっていうのが、非常にセクシーでよかったりしましたよね。

で、そういうニュアンスの部分で言うとね、これは細かいところなんですけど、掛け値なしに怪獣映画化していくクライマックスで、あの独裁政権の将軍、もちろん悪役なんだけど、彼が、そのとある事態がドワーッと進行しちゃってるのを見て、「諦めた」表情をするじゃないですか。ああいうディテールがあるかどうかで、こういう映画全体の、重みとかクオリティっていうのが、関係してくるんですよね。

一事が万事、まあジョークはスーパー不謹慎、血ドバ肉グシャの悪趣味バイオレンス、そして、超大掛かりなのに絵面はふざけてるの?っていうぐらい脱力なカタストロフまで用意されているこの大作なんだけど、こと人間キャラクターに関しては、脇に至るまで本当に、愛のないおざなりな描き方はひとりもされていない。ひとりひとりがちゃんと生きてるし、そのひとりひとりの倫理っていうものが描かれる。だからこそ、やっぱりその語られている内容、テーマと、その語り方が一致している、っていうことなんですよね。言行が一致している、っていう感じ。そういうあたりがやっぱり、ジェームズ・ガンが繰り返し愛をこめて描いてきた、はぐれ者、日陰者の物語に、やっぱり説得力と感動を宿らせているんだな、っていうふうに改めて思いましたね。

■これぞジェームズ・ガンの真骨頂。DCの人、この道ならMCUに勝てるよ!

あと、あのヨトゥンヘイムというタワーを使ったアクションの、たとえばあの階ごとガン、ガンと落下してゆく、バスター・キートンからジャッキー・チェンに至るその(落下)アクションの、ある意味大掛かり化したような見せ方の新鮮さであるとか。あと、(湯浅政明監督のアニメーション映画)『マインドゲーム』、クライマックスとかにもあるような、ああいうワーッと来るものを乗り越えていく系アクションを、実写でちゃんとやっている!とか。そういうあたりも非常に新鮮でしたよね。

ということでですね、改めて言いますれば、「100億をかけたトロマ映画」とでも言いたいほど、とにかく超ビッグバジェットにして悪趣味ギャグと毒々ポリティカル視点、忖度なしで大炸裂しつつ、きっちり底辺を生きる者たちの心意気に泣かされる、まさにジェームズ・ガンの真骨頂、集大成。こんな映画は……ちょっと興行的に苦戦しているということなんで、2度と作れないかもしれない。でもこれ、間違いなく長く愛される、なんなら伝説的な1本となってゆくと思いますし。

あのね、DCの人に言いたいのは、MCUに勝てる道が1個、見つかったじゃん? つまり、「大人向け」っていうのはMCUはできないんだよ!っていう、新たな戦い方っていう意味でもすごいですし。個人的にも僕、ヒーロー映画の、かなり上位……実質、2位か3位ぐらいまで食い込んできてる一作です。ということで、先ほども言いましたが、画角など、完全にそれ用に構成されてるところもあるので、全編がIMAXで撮られていますので、IMAXで、前知識なしでも全然大丈夫なので、今行ってない人はぜひぜひ……あ、でもグロいけどね(笑)。劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『シュシュシュの娘』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆過去の宇多丸映画評書き起こしは

こちらから!

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