次は、どうしてもバナナマンがいい【連載エッセイ「TBSラジオ、まずはこれから」】

JUNK

エッセイストの中前結花さんが、さまざまな番組の魅力を綴るエッセイシリーズ「TBSラジオ、まずはこれから」。

先月末、最愛の『バナナマンのバナナムーンGOLD』をちょっと贅沢に聴くためホテルをとった中前さん。今回のおはなしは、チェックイン後、深夜に起こったまさかのできごとについて。

 

ほんの小さな旅

そんな予定はこれっぽっちも無かったのだけれど、突然「どこか」へ行きたくなって、急遽ひとりでホテル泊をしてみることにした。
本当は飛行機にでも飛び乗って、遠くまで行ってしまいたい気分だったのだけれど、このご時世では止むを得ない。家からほんの数分の、川のよく見えるホテルだ。
思い切って二泊にした。ひと晩はよく眠って、もうひと晩は夜更かしをすると勝手に決め込む。ダブルサイズのピンと張ったシーツの上で『バナナマンのバナナムーンGOLD』が聴きたかったのだ。

わたしにとって「バナナマン」とは、日常であり憧れであり、どんな時もいちばんの友だちだった。

けれど、“ご時世”はそんな些細な贅沢さえも許してくれない。
よく眠ってよく働いて、迎えた金曜の25:00。バナナマンのふたりが喋っているのだけど、いつもとはなんだか様子が違う。どうやら電話越しに話しているのだ。
そして明かされる、ふたりの欠席。ワクチンの副反応による発熱で、どちらもスタジオに訪れることができないという。
「おい!!」
ベッドの上で大の字になり、思わず天井に向かって叫ぶ。
「居ないんかい!!」
楽しみにしていた旅行に肝心の友だちが訪れない、寸分も違わずそんな気分だ。
台無しじゃないか、という嘆きと、数週間後には自分も同じ目に合うことがすっかり決まっていることの憂鬱で、わたしはなんだか泣き出したくなる。
「副反応とは、そんなに辛いのか……」
「お大事に……」
川が見えるはずの大きな窓は夜色で、ベッドのライトとわたしだけをポツンと映している。

 

バナナマンの居ない夜

さて、バナナマンのふたりがダウンしているという、この何よりもの緊急事態を『バナナムーンGOLD』はどう乗り切るのか。
しかし、そこはさすがの作家・オークラさんだ。長年バナナマンと、仕事と時間を共にしてきた“3人目のバナナマン”ことオークラさんが「この夏見てほしいバナナマンのコント10選」を発表してくれるのだという。そして、その聞き手として急遽登場してくれたのが、なんと東京03の飯塚さんなのである。今や、コント界の宝だ。
「くーーっ!!」
思わず、ずっしりと重い枕を抱き寄せ顔をうずめて足をバタつかせる。とんだご褒美だとわたしは思った。
何かもがうまくいかずに辿り着いたホテルで、(バナナマンには悪いけれど、)こんなドキドキとする展開が待っているなんて。

すこし滑舌の甘いオークラさんの説明を聴きながら、わたしは
「わあ、『LAZY』でしょ『secretive person』でしょ……あのバイトのやつは何だっけ、『hasty』か。それから……』
と自分が好きだったバナナマンのコントをあれこれと思い浮かべてみる。
けれど、オークラさんが10選として並べたのは単に「おもしろい」「笑える」だけが基準ではないようにも思えた。もちろんどれも名作に違いないのだけど、オークラさんがふたりの留守中に本当に語りたかったこと。
それは、彼らがいかに一線を画した才能を持つ素晴らしい存在であるのか。彼らがどのような道をたどり、すぐ傍に居ながらふたりにどれほどに魅了されてきたか。そして何よりも、そんなバナナマンと自身が重なり合い刻んできた歴史について、であるようにも感じられたのだ。
オークラさんはネタを通して振り返る。
名前を知った当初は、同じ演者として彼らをライバル視していたこと。
けれどそれも束の間、出会ってすぐに「敵わない」と感じてしまったこと。
使いこなせもしないMacまで手に入れて「僕、こんなことできますけど」と言わんばかりに見せつけ、一緒にライブをしようと誘ったこと。
その夜、設楽さんにネタのVHSを見せてもらい、震えて、笑いさえ出なかったこと。
そして演者を降り、作家として仕事を始めたこと……。
バナナマンという存在に出会い、惹き込まれ、自らダイブし巻き込まれてここまでやって来たオークラさんという人の半生が、バナナマンのネタ紹介を通して、そこにそっと浮かび上がってくる。
出会ったときから共同製作者となった今も変わらず、間違いなく、オークラさんは惚れ惚れと熱く彼らに恋をしているのだ。

普段は、「誰がカレンダーをめくるのか」を賭けて争っているような、まるで小学生の放課後みたいなバナナマンの放送。けれどそんなふたりが、今日はやけに偉大で、立派で、遠い人のように感じる。けれど、CMのたびに聞こえてくるふたりの声のジングルがあまりにもバカバカしくて、やっぱりバナナマンに会いたくて仕方なくなってしまうのだ。

 

必要とされること

一生懸命に語る傍で、それに聞き入る飯塚さんの相槌がまた本当に心地いい。
「そうだよね」
「そうなの?」
「喋りたいことは喋ろうよ」
「しょうがない、慣れないもんね」
あの飯塚さんが。おぎやはぎの小木さん曰く「コントが好きすぎて、おぎやはぎのコントの練習に入ってきちゃう」ほどに、コントと聞いちゃじっとはしていられない、そんな熱い飯塚さんが、完全なる「聞き手」としてオークラさんに相槌を打ち続ける。
それが、とてもとてもやさしかった。

わたしは、つたって髪に落ちる涙を何度も拭いながらその様子を聞いた。
本当はその夜、とても辛くてしょうがなかったのだ。
フリーになり「書く仕事」に専念するようになった。原稿に向かえど向かえど、世間はこの状況。そしてオリンピックのこと。開会式のこと。
「書く」とは「読む」とは、なんだかあまりにも不要不急に感じられ、はたして何の役に立っているのかがよくわからなくなっていた。そして自分の「書く」が、誰かを傷つけ、また遠い先の自分を傷つけることさえあるのかもしれない。
プライベートの些細ないくつかの出来事も重なって、わたしは「なんと役立たずだろうか」と胸が苦しくなった。誰かの役に立ったりしたいのに。必要とされる人でありたいのに。
そんなことを考え始めるとこらえられなくなって、わたしは最低限の荷物だけ抱えて、ただ、わけ無く流れる川を眺めにきた。そしてその傍のホテルに泊まることとなったのだった。

けれど、オークラさんは話してくれた。
2012年に行われた、バナナマンの単独ライブの話だ。この年、設楽さんは帯番組のMCを始めた。もちろんそれ以外にもテレビでは引っ張りだこで、バナナマンは充分に認知され、十二分に人気者になっていた。ただ足りないのは時間だけ。それほどにふたりは忙しくなっていたのだ。
けれど、ふたりは恒例となった夏の単独ライブを休むことはなかった。ひとり喋りのパートも非常に多い構成だ。
「なんのために単独ライブをやるんだか」「本来、こんな忙しい時期にやるような内容ではない複雑なネタを、なんのために無理をして制作し、頭に入れて披露するのか」「なんのために、やり続けているのか」。
そんな葛藤を抱えながらもネタと向き合い、真摯に取り組むバナナマンの状況と、ライブのエンディングテーマであった星野源さんの曲「日常」の歌詞が、偶然にも合致する。

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無馱なことだと思いながらも
それでもやるのよ
意味がないさと言われながらも
それでも歌うの

星野源 / 『日常』

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9年前の8月4日。わたしはそれをその会場で聞いていた。

 

どうしてもバナナマンがいい

エンタメとは娯楽とは何なのか、「必要」とは何なのか。そんなことを考えていた。
けれど、これほどに身近な人に、同じ演者に、そしてファンに作品を届け続け、みんながみんな語りたくなる。彼らのネタについて、いつまでも話したくてしょうがなくなる。
コントだって音楽だって、線引きをすれば不要不急だ。けれど、充分に充分にわたしたちの心を救ってくれる。わたしたちをつないでくれるものに違いない。
素晴らしいものは、ずっとずっと求め続けられる。
何かを作って届けたいなら、そこを目指すしかないのだ。

またわたしは、バナナマンから大切なことを学んでしまった。
こんなに愛されているなんて、いいなあ。
「次に生まれ変わるなら、バナナマンに入りたいよ」
そう思いながらも、仲間に入ってしまえばバナナマンのコントを劇場で見ることができないことに気づく。それはそれでとてもつまらないように感じられた。
会場で見るゾクゾク感といったら、本当に格別なんだから。
生まれ変わらなくても、バナナマンにはなれなくても。わたしはわたしの仕事と向き合い続け、ひとりでも誰か「この間、こんなものを読んだよ」と話してくれる人があれば。それだけで、生きていけるような気もする。
そんなことを考えながら、薄暗いままの部屋で天井を見上げる。そうしてホテルで過ごす最後の夜は過ぎていった。

 

翌日は、ほんのすこしだけ気分が軽くなっていることに気づいた。
「川でも見ながら仕事するか」とチェックアウトする。
昨日の放送、やっぱりすごく良かったなあ。

さて、またもホテルに泊まることになったなら。今度はもっと楽しい気分で訪れたいし、もっともっと非日常をどっぷりと贅沢に楽しでみたいと思う。
けれど、チェックインは今度も絶対に金曜日にするぞ、とわたしは誓うのだった。
次は、どうしてもバナナマンと一緒の夜がいい。


 

中前結花/エッセイスト・ライター。兵庫県生まれ。『ほぼ日刊イトイ新聞』『DRESS』ほか多数の媒体で、日々のできごとやJ-POPの歌詞にまつわるエピソード、大好きなお笑いについて執筆。趣味は、ものづくりと本を買うこと、劇場に出かけること。

llustration:stomachache Edit:ツドイ

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