差別と向いあう中学校教師を描く映画「かば」

人権TODAY

今回のテーマは…大阪市・西成区の中学校を舞台にした実話をもとにした映画「かば」を紹介します。動物映画のようなタイトルですが、「かば」は主人公の中学教師の名前に由来しています。

映画が描くのは1985年、被差別部落出身、在日コリアン、沖縄にルーツをもつ家の子など差別や偏見を受けやすい立場の生徒が多く通う中学校です。物語はその中学に臨時教員として赴任した新人の加藤先生と彼女の先輩教員の蒲、通称「かば先生」や、同僚教師たちの視点で校内で起きる騒動や、放課後の生徒たちの日々を描いていきます。

赴任して間もない授業中、加藤先生はある生徒から 「この学校にはな、部落か在日か沖縄しかないんや。どれでもないよそ者はひっこんどけ!」とすごまれ、自信喪失します。しかし学校の帰り、彼女はかば先生に「あいつの父親はやくざで刑務所にいる。でも、父親のいない間に生活の足しにと新聞配達や、家業のたこ焼き屋の手伝いをしてる」と教えられ、ただの不良少年ではなかったと自分の視線を問い直します。かば先生から「ただの教師と生徒の関係ではアカンねん」と諭された加藤先生は生徒たちと正面から向き合い、教師としてのあり方を模索します。

今から約30年前、1985年の大阪が舞台なので、当時多かった校内暴力や男子生徒のケンカなどのシーンもあり、教師たちも時に生徒たちを厳しく叱り、指導します。ただ、そうした激しい場面ばかりではありません。登場する生徒たちは地域差別や生い立ちに対する偏見、そこから生じるいじめを受ける辛さに加え、父親がアルコール依存症で無職であるとか、刑務所で受刑中で家庭に働き手が少ないなど貧困や家族問題を抱えています。先生たちは授業の枠を越えて、生徒の家庭に入っていき、ひたむきに子供や親たちと話し合い、困難に負けないよう励まし、支えます。

かば先生はケンカばかりして不登校の在日コリアンの生徒の家を何度も尋ね授業に出なくてもいいから民族文化サークルに参加するよう勧め、少しずつ彼に心を開かせていきます。学生時代にソフトボール選手だった加藤先生は部活動で本格的な野球の指導をし、目標を持つことや連帯することの大切さを教えます。かつて彼女にすごんだ生徒も、加藤先生を見直し、慕っていきます。

西成区で人権教育に尽力した中学教師がモデル

監督の川本貴弘さんに製作のきっかけや映画の狙いを聞きました。

蒲先生という方がいるから、自伝映画を撮ってくれないかと。取材したら、西成でバリバリ人権教育を頑張ってたというのがだんだん判ってきて、同僚の先生たちも含めた群像劇ならやれるかなと思って。徹底して取材させてもらって、基本、脚色せずに事実を描いています。舞台の中学は被差別部落が隣接する大阪の西成区で、もしもその土地に生まれたなら、そのせいで差別される人もいる。そうなった時、先生だけではなく、大人がしっかりと子供たちの話を聞いてあげる。地域の大人たちみんなで、いかに子供たちと向き合ってあげるかが大事。そこをテーマにしてます。」(映画「かば」監督の川本貴弘さん

この実話をもとにした映画のモデルになったのは蒲 益男(かば・ますお)さんという方です。1951年に岐阜県で生まれ、京都の高校講師などを経て、82年に大阪市の教員に採用され大阪市西成区の鶴見橋中学に国語教師として赴任して、熱心に人権教育をされました。学校の仕事のほかに、地域での識字教育などもされたそうです。2010年に58歳で病気で亡くなられますが仲間の先生たちが、映画化を提案され、この作品で実現しました。

川本貴弘監督はプロデューサーも兼ねており、映画の製作資金をクラウドファンディングで募るため、まず初めに短いパイロット版を作り、全国各地で巡回上映しました。それを見た人の中からは、「寝た子を起こすように、差別を映画でむし返さない方がいい」という否定的な意見も出されたそうです。川本監督はそうした意見も理解した上で「あったことをなかったことになしない、隠さず出して、その上で議論をするのが大事」との意識をもって映画を完成させました。

卒業式のシーンを描かなかった意図とは

川本監督は映画に込めたメッセージをこんなふうに語っています。

の映画って、劇中の時間、たった2カ月しか描いてないんですよ。なぜかというと僕は卒業式のシーンを描きたくなかったんです。差別というものが卒業してなくなる問題ではないという表現をしたかった。舞台になる学校はほとんどの生徒が被差別部落や在日コリアンなどの家庭でだから中学校にいる間はみんな同じ立場だから差別されないんですよ。それが卒業してちがう校区の高校に行ったり、社会に出て就職するとその地域に生まれたというだけで差別にあうから、社会に出る時に負けるなよ、心が折れんなよ、立ち上がれよという教育をしていたというのを聞いたんです。先生たちは中学の3年間でそれを教えるんだと言ってました。だから映画では卒業を描かず、中学を出てから、この子らの最大の試練があるというように描いています。」(映画「かば」監督の川本貴弘さん

映画では舞台になる中学校の卒業生が就職したあとにボーイフレンドから日常会話の中で出身地を悪く言われ、つきあいを断られてしまうシーンがあります。私たちが深く考えずに発言している言葉でも、実はとても嫌な思いをしている人がいることに気づかせてくれます。そうしたシーンは私たちが日常的な行動や意識を改めて考え直す役にたちます。特定の地域の問題ではなく私たち自身が生活する場所のこととして考えたい映画です。 

差別や偏見の問題を多くの人に知ってもらいたい

主人公の「かば先生」を演じた俳優の山中アラタさんは、かば先生についてこんなふうに語っています。

当時の同僚の先生方とお会いさせていただく機会をつくっていただいて、そこで蒲先生どんな方でした? 演じるのに癖なかったですか?とそういうことをいろいろ聞いて、先生方がみなさんおっしゃってくれたのは、スーパー・ティーチャーじゃないと。ヒーロー像みたいにならないよう、大阪のどこにでもいるオッサンに見えるようイメージして役作りしました。映画で伝えたいのは、気づく、向き合う、寄りそってあげる人がいる、そういうことが鍵になると思います。今も現実にある差別や偏見の問題を少しでも多くの人に分かっていただいて、減ってゆく、なくなってゆくということになれば最高だと思ってます。」(俳優の山中アラタさん)

川本監督や山中アラタさんもおっしゃっているように、この映画は差別や偏見について多くを気づき、学べる内容ですが、学園ドラマ、熱血教師ものとしても楽しめます。「3年B組金八先生」や「スクール・ウォーズ」を思い出すような懐かしさや感動がある娯楽度の高い映画なので、ぜひ多くの方に見てほしいと思います。

映画「かば」は東京都内では7月24日から新宿K'sシネマで公開しています。8月以降、アップリンク吉祥寺ほか、各地で順次上映されます。

監督・出演のみなさん 前列左が川本監督、後列中央が主演の山中アラタさん

映画「かば」公式サイト https://kaba-cinema.com/

映画「かば」予告編 https://www.youtube.com/watch?v=Q63nTrV5HsY&t=1s

新宿K'sシネマ https://www.ks-cinema.com/

(担当・フリーライター 藤木TDC)

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