「爆笑問題」は解きはじめたばかり【連載エッセイ「TBSラジオ、まずはこれから」】

エッセイストの中前結花さんが、さまざまな番組の魅力を綴るエッセイシリーズ「TBSラジオ、まずはこれから」。3回目は、近頃その魅力にどっぷりハマってしまったという『JUNK爆笑問題カーボーイ』について。

 

 

本当はちっとも笑いごとじゃないのだけど、
「俺はあいつ(田中)とあんまり電話できないんだよ。俺と話すと絶対怒るからね」と、爆笑問題の太田さんが愚痴でもこぼすように話すから、なんだか思わず笑ってしまう。
『火曜JUNK 爆笑問題カーボーイ』での一幕だ。
聞き手をやっているのは、代役で出演したハライチの2人。
今年1月にくも膜下出血、脳梗塞と診断された田中さんが療養中の放送だった。
血圧を上げさせないよう、刺激せぬよう、太田さんは電話でも会話を控えさせられていたらしい。
いつもの調子で口を尖らせ、拗ねるように話している太田さんの姿がありありと目に浮かぶ。

田中さん不在の1ヶ月間は、たくさんの豪華な顔ぶれが代役を務めたけれど、どの回でも太田さんは散々と好き勝手に喋り散らし、最後にはみんな「田中さん帰ってきてください……」と、絞り出すように音(ね)を上げて、賑やかに幕は閉じていった。
幸い、田中さんの状態も良好であったから、スペシャル月間のように過ぎていった最高におもしろい4週間だったけれど、もちろん田中さんの穴をぴったりと埋めることは誰にもできない。

何をしでかすか予想もできない“壊し屋”のような太田さんと、それを辛抱強くなだめ、注意し続ける田中さん。

『爆笑問題カーボーイ』を聴き始めるまで、わたしの中の「爆笑問題」のイメージも、まさにそんな、テレビでお馴染みの構図だった。
けれどリスナーとなってしばらくが経った今は、こんなエピソードのひとつをとっても、さらにもう少し深くにある「本当のところ」が、ほんのちょっと垣間見れているような気分になっていたりするから「ラジオ」というものの距離感は、本当におもしろいものだなあと改めて思う。
誰より気を遣っているのは、きっと太田さんなんだろう。

以前からテレビではよく見ていたし、さすがは東の漫才の雄、お正月の寄席で実際に2人の漫才を間近で見たときには、
「今朝の芸能ニュースを、こんなに上手く取り入れているなんて」
とその名人芸には本当に驚かされたものだった。
けれど正直に言えばこれまで、爆笑問題の2人がわたしにとって何か特別な存在であったか、というと別段そういったことではなかった気がする。

ところが「書く仕事」をしていると、時に仕事先で思わぬ影響を受けることがある。
とある取材で刺繍作家さんのご自宅にお邪魔したときのことだ。
その方は、とても丁寧にきれいな言葉で話す素敵な人だった。
刺繍仕事はいつもラジオを聞きながら、針を進めているのだと言う。
「音楽ですか?」
と尋ねると、
「それが、芸人さんの深夜ラジオが好きなんです」
との答えに、あら!と驚く。
「バナナマンとか、あとはハライチだとか……」
と続くものだから、嬉しくてすぐに意気投合してしまう。
けれどそこに、
「それから爆笑問題。『爆笑問題カーボーイ』が本当に好きで」
と言われて、
「ああ、火曜日は聞いてないんです……」
となんだかばつが悪かった。
「爆笑さんって、テレビで本当によく見ているから、」
なんて、今思えば呆れてしまうようなことをわたしが言うと、
その人は、
「テレビとは、なんだか役割が違うんですよ」
と嬉しそうに教えてくれた。そして、
「オープニングトークは、どんなに疲れていても聞いてから寝ようと思うんです。そのぐらい楽しみで」
と、きらきらとした目と囁くような声がまた、とっても上品だった。

それからは「オープニングだけでも」と聞くようになる。
すると、わたしにもその意味はすぐにわかった。
渦中の話題に触れたりして、「まあまあ」とたしなめられているのはたしかにいつもの太田さんなのだけれど、話も深まってくると、行動が変わっている・気が回らない・あれじゃあ後輩が可哀想じゃないか……と諭されているのは、なんといつも田中さんの方なのだ。

田中さんはと言えば「そんなことは気づかなかった」「俺にはわからない」と、どこか少し開き直っているようでもある。
あるときには「俺じゃない。それは俺の脳が悪いんだ」だなんて自ら言ったというから、今となっては、よくできたブラックジョークにまでなってしまった。

そしてそんな田中さんに、太田さんはわがまま放題のようでいて、どこか気を損ねられぬよう、しっかりとラインを守っているようでもある。
実際、今回の療養中の代役にしても「田中が嫉妬してしまうんじゃないか」「(代役が)上手くやりすぎると田中が怒るんじゃないか」なんて、ずいぶんと気を回している様子でもあった。

そんな太田さんに、なんだかわたしは自分を重ねてしまったりもする。
どちらかと言えば、危なっかしくて、友人たちにはよく注意なんかをされながら、叱られてばかりいる人間だ。
だけど、こんなわたしにだって、それなりの「配慮」がある。
財布を無くしてしまったときだって、会社を辞めるときだって、報告する順番、すなわち「叱られる順番」にも、細心の注意を払っているのだから。
危なっかしく生きるにも、節度と愛嬌と気遣いが必要なのである。

「あの野郎」「代打で大変なんだよ」とどれだけ文句を言っていたって。
ついに田中さんが復帰した放送で、復帰後初めての舞台を踏んだことを報告しながら、ふっと真面目なトーンで、
「あれでようやくほっとしたよな。漫才やるまで不安だったけど……」
と漏らした太田さんの言葉に、いくつもの気遣いと安堵、それから喜びが滲み出ているように感じた。

太田さんほどの、“危なっかしく、どうにも世話の焼ける男”だって、“田中裕二”というスペシャルな人に、気分良く、機嫌を損ねさせず、これだけ長きにわたり世話をしてもらうのは、実は何かと大変なのだ。

積み重ねられた年月と、意外にも一筋縄ではいかない2人の関係性。じゃれ合うような言葉の応酬には、そんないくつもの味わいが旨味となって溢れ出ている。
「オープニングだけ」と耳を傾けてみても、今夜もついつい時間を忘れ、気づけば番組もエンディングに差し掛かっている。
「爆笑問題」という深い魅力には、わたしはまだ触れはじめたばかりだ。

llustration:stomachache

 

中前結花/エッセイスト・ライター。兵庫県生まれ。『ほぼ日刊イトイ新聞』『DRESS』ほか多数の媒体で、日々のできごとやJ-POPの歌詞にまつわるエピソード、大好きなお笑いについて執筆。趣味は、ものづくりと本を買うこと、劇場に出かけること。

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