短編小説の名手、アメリカの作家、オー・ヘンリーは、
「自分の書く物語の筋書きは、街のどこにでも転がっている」と言いましたが、
それを可能にしたのは、彼の街や人を見る目のあたたかさです。
そして同時に、ニューヨークという街が彼に想像の羽をさずけてくれました。
彼は、「スランプのとき、どうするんですか?」と記者に訊かれたとき、こう答えています。
「三か月の間、一行も書けないときは、書こうとはせずに、街に出て、ぶらぶら散歩する。
群衆の中に入っていくと、生きる鼓動が、人生の意味がひしひしと伝わってくる。
それがやがて物語になるんだ」
「最後の一葉」
ニューヨーク、グリニッジ・ビレッジに、若い絵描きの男女がルームシェアしていた。
トムとジャンジー。彼らは意気投合し、少しでも家賃を浮かせるために一緒に住むことにした。
ある日、ジャンジーが肺炎にかかり、命の炎が弱っていく。
「向かいの壁の蔦の最後の葉が落ちたら、私は死ぬんだわ」。
嵐の夜、最後のひと葉は、落ちた・・・そう誰もが思ったが、葉はしっかり残っていた・・・。
「桃源郷の短期滞在客」
ニューヨークの格式あるホテル『ホテル・ロータス』
そこにやってきたのは、マダム・ボーモン。
彼女はいかにも高級ホテルを使い慣れた感じでホテルマンたちに応対する。
ひとり宿泊する彼女が知り合いになったのは、やはりひとりで泊まりにきていた青年紳士ファーリントン。
桃源郷のようなホテルで出会った二人には、ある秘密があったのだが・・・。