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放送中

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究極の「火星ごっこ」に臨む日本人!

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
8月20日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、アメリカの火星協会が進めている模擬火星生活実験の最終クルー、“火星に一番近い日本人” 村上祐資(むらかみ・ゆうすけ)さんをお迎えしました。

村上祐資さん

村上さんは大学で建築を学んでいましたが、おしゃれな建物やかっこいい建築には関心はありませんでした。そんな時、アメリカのアリゾナ砂漠に造られた広大な実験施設「バイオスフィア2」のことを知って興味を惹かれました。それは建物の中に熱帯雨林やサバンナ、海までも作り、世界中の動植物を集めてきて、地球の生態系を再現した、いわばミニ地球とでもいう施設で、人類が宇宙空間で生活したりほかの惑星に移住する時にヒントになる施設として知られているものです。宇宙で人類が暮らすための建築――。村上さんの研究テーマが定まりました。20歳の時です。

宇宙空間を、探査や冒険するところではなく、「生活」するところと考えた場合、どんな建築が必要になるのか。そもそも宇宙で暮らすとはどういうことなのか。それを知るためには、地球上で最も厳しい環境、極地で生活してみれば分かる。そう考えた村上さんは、大学院在籍中の25歳の時(2004年)、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の筑波宇宙センターで、完全に閉鎖された空間で一週間過ごす実験に参加。30歳の時(2008年)には南極観測隊・越冬隊に参加し、昭和基地に13ヵ月滞在。さらに富士山の測候所やエベレストのベースキャンプでも長期滞在するなど、さまざまな極地で「体験生活」を重ねました。

そして今、関わっているのが「火星」。世界では火星への有人探査や移住に向けた動きが活発で、アメリカのNASA(航空宇宙局)や民間団体がプロジェクトを進行中なんです。村上さんはアメリカのNPO「マーズ・ソサエティ」(火星協会)の火星有人探査・火星移住に向けたプロジェクトに応募し、「模擬火星生活実験」に参加する最終クルー7人の中に、アジアからただ1人選ばれているんです。「火星に一番近い日本人」と紹介されるのはそういうわけなんです。

スタジオ風景

ところが村上さんは「多分僕は、クルーの中で一番火星に行きたくない人間なんです」と言います。

火星を目指す人たちはみんな「自分こそが火星に行くぞ」とやる気満々。そのためにはどんなに厳しいミッションもクリアしてみせるという強い意志も持っている。確かに未知の火星に行くためには意志の力が試されます。でも、火星で長期間「生活」するとなると、強い意志の力だけではもたない。意志はどこからで折れるときが来る。そんな時は意志よりも、気分のほうが重要になってくる、と村上さん。こんなものの見方をしているのは最終クルーの中でも村上さんぐらいなんだそうです。でもそれが村上さんが選抜された理由かもしれませんね。

「僕は、ほかのクルーが何に無関心かをみるんです」。火星のプロジェクトに参加する人たちは当然、宇宙には関心があります。では何に関心がないのか。それが極地での生活では非常に問題になってくるんだそうです。関心がなければそこに考えが及ばないので、問題が起きてから気づくことになります。

宇宙ステーションに行った人に話を聞くと、宇宙ステーションに女性はいるけど「お母さん」がいないと言うんだそうです。「お父さん」はいるんです。リーダー的な役割の人です。地球を飛び出して宇宙ステーションにたどりつくまではお父さん的な役割が必要とされます。ところがステーションに着いて滞在期間が長くなってくるとお母さん的な役割が要るということに気がつく。でも地球を出発する時には誰も気がつかない。つまり、お母さん的な役割が要るということにはみんな無関心だったということなんです。普段の暮らしでは特段大きな問題にならなくても、極地での生活となると無関心事が大きなリスクになる可能性があるのです。人類が火星に行く時にはこうした「忘れ物」がきっとあると、村上さんは言います。その忘れ物にいくつ気がつくことができるか。それが村上さんの役割かのかもしれません。

スタジオ風景

村上さんは2016年9月からアメリカ・ユタ州の砂漠で80日間、そして2017年夏には北極圏で80日間、合計160日間の火星生活シミュレーションに参加します。いわば究極の「火星ごっこ」をどれだけ本気でやれるか。そこが実は大きな問題なんです。

ユタ州の砂漠を火星に見立てて、7人のクルーは基地の外では常に宇宙服を着て作業します。ところがもしクルーが大けがをしたらどうするか? ユタの砂漠は1時間ほどで町に出ることができるので、実験を中止してそのクルーを町の病院に連れて行くべきか。それとも、あくまで火星生活シミュレーションなのだから、ケガもその場で手当てをするべきか。もし手当てをするなら、実験で着ている宇宙服を脱がせて早急に手当てをするべきか。でも本当の火星だったら宇宙服を脱がせたらクルーは死んでしまいますから、ここでは宇宙服を着せたままで手当てをするべきか…。

こんなふうに命にかかわることが起きても、あくまで擬似火星体験を続けるのか。「だってここは本当の火星じゃないだろう? 地球じゃないか!」もし誰かがそう言った瞬間、この壮大な実験は破綻します。そう考えると、むしろ本当の火星より模擬火星生活実験のほうが精神的にはキビシイですね。

実は村上さん、火星協会のプロジェクトのほかに、NASAが支援するハワイ大学の有人火星探査プロジェクトの模擬実験「HI-SEAS(Hawaii Space Exploration Analog and Simulation)」の最終選考メンバーでもあるんです。一番火星に行きたくないと言いつつ、やっぱり一番火星に近いのかもしれません。

村上祐資さんのご感想

村上祐資さん

久米さんがすごくいろいろ調べて話しているのがすごいと思いました。僕もラジオのパーソナリティをやっていて、放送では言わなかったんですが、実は9月に行く模擬火星生活実験(アメリカ・ユタ州の砂漠で80日間、来年夏には北極圏で80日間)の時にもそこからラジオ放送をやるんです。ただ、ディレイ(音声が遅れて聞こえてくること)が6分から40分ぐらいあって、そういう中でちゃんと時間を守りつつ、何が伝えられるのか考えているところなんです。

久米さんは僕について調べてくださったことを、堀井さんに向けて話したり、リスナーの方に向けて話したり、いろいろな方向を同時にみていて、それが勉強になるなあと思って聞いていました。ラジオはいろいろな人がいろいろな聞き方をしているので、どうやって伝えればいいのか。もし久米さんが火星からラジオをやるとしたら、何をどうやって伝えるのか。そのためにどういう準備をするのか。そのことを久米さんに聞きたかったです。

火星生活実験から帰ってきたら、またぜひ呼んでいただけたらと思います。ありがとうございました。