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放送中

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メダルを取ってから騒いでもいいでしょう?

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
8月13日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、馬術の元オリンピック代表・井上喜久子さんをお迎えしました。日本馬術界の生ける伝説ともいえる方。91歳の今もそのお姿、お話しになる言葉、とても素敵でした。

井上喜久子さん

井上喜久子さんは1924年(大正13年)東京生まれ。浅野財閥の創始者・浅野總一郎のお孫さんというお嬢様。お父様は東京帝国大の馬術部、お母様もアメリカ留学中に馬術をたしなみ、井上さんが小さい頃から家では馬やロバが飼われていました。お父様が馬を飼いたいばかりに港区三田のお屋敷から目黒村(現在の東京・中目黒)に引越しました。当時の中目黒は一帯が野原と竹やぶの田舎だったそうです。そして休日になるとご両親は馬、井上さんはロバの馬車に乗って、神宮外苑や銀座まで出かけたそうです。どれも今では想像できないエピソードですね。

井上さんは5歳で乗馬を始め、7歳の時に競技会デビューしたのがバロン西(西竹一。1932年ロサンゼルスオリンピックの馬術大障害の金メダリスト)の凱旋帰国を歓迎する馬術大会(東京・日比谷公園)。8歳か9歳の時に千葉・習志野の練兵場でバロン西に再会した井上さん、長身で颯爽とした姿にすっかり見惚れてしまったそうです(当時を振り返る井上さん、少女の顔になっていました)。

子供時代の井上喜久子さん

その後、11歳の時に全日本馬術競技会で優勝。天才少女と呼ばれ、その後、多くの大会で活躍。1964年の東京オリンピックで、日本馬術史上初の女性代表選手として出場(39歳)、馬場馬術団体の部で6位入賞。さらに1972年のミュンヘンオリンピックで2度目の出場(47歳)。そして3度目となる1988年ソウルオリンピックの時には63歳9ヵ月で出場。これは今も(2016年現在)日本女性の最年長出場記録になっています。3度の五輪出場も大変なことですが、1950年代から1990年代まで長年に渡って国内トップの地位を維持し続けていたことのほうが実はすごいことではないでしょうか。しかも馬術は男女の区別も、年齢や体重の区別もない競技です。つまり井上さんは日本のあらゆる馬術選手の中で長年トップだった、文字通り第一人者なのです。

スタジオ風景

馬場馬術はフィギュアスケートに例えると理解しやすい競技だと、井上さんは言います。フィギュアスケートには以前「規定演技」があり、氷の上で決められた課題の図形をいかに正確になぞって滑れるか、その正確さを採点して競われました。馬場馬術はまさに、馬術の中の「規定演技」。20m×60mのフィールドの決められた場所を正確になぞりながら、決められた課題(30種類ほどのさまざまなステップ)をいかに正確に、しかも美しく、クリアしていくかが採点されます。

スタジオ風景

ただしフィギュアスケートと違うのは、動物と一緒に競技するところ。選手の技術がいくら優れていても、馬の調子が悪かったり、気分が乗らなければ勝つことはできません。「人馬一体」と簡単に言いますが、馬は道具や機械とは違います。気持ちを持った生き物です。相性だってあるでしょう。馬と騎手が一体になることがいかに難しいことか。ですから馬術は、馬とのめぐり会いが非常に大きいのです。そして、いい馬とめぐり会って、納得のいく動きができたとしても、どうしても勝てないのが馬術なのです。外国選手の馬と比べるとどうしても越えることのできない力の差が歴然としてあるのだそうです。

3度のオリンピック出場を経験した井上さんは、それを大会が始まる前から「メダル、メダル」と騒ぎ立てる風潮には批判的です。「選手の身になってみてください。大変なプレッシャーですよ。それに努力しているのは日本人だけじゃありません。世界中の人がみんな努力してるんですから」。確かに、騒ぐのはメダルを取ってからでもいいかもしれませんね。

井上喜久子さんのご感想

井上喜久子さん

久米さんとのお話の中でひとつ言い忘れたことは、私は馬に乗っていて自分が呼吸しているのを忘れている時があるんです。そういうことは馬とうまく合った時でないと感じないんです。そういう時は必ず調子がいい。ずっと馬に乗っていても何回かしかありません。それが私の場合、東京とソウルのオリンピックの時だったんです。今までできたこともない課題がその大舞台でできたんですから、本当に嬉しかったですね。

久米さんとはもしかしたらずっと以前にお会いしたことがあるかもしれませんが、初めてお会いした方とは思えませんでしたね。ああいうタイプの方、私は好きです。久米さん、大好き(笑)。今日は楽しませていただきまして、ありがとうございました。