お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

放送中

放送中


  • お知らせ
  • 放送ログ
  • 音声あり

宇多丸、『ウィズアウト・リモース』を語る!【映画評書き起こし 2021.5.14放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

オンエア音声はこちら↓

 

宇多丸:

さあここからは、私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今週は配信映画を評論する特別企画、配信限定ムービーウォッチメンです。今夜扱うのは、430日からAmazonプライムビデオで配信されているこの作品、『ウィズアウト・リモース』

(曲が流れる)

トム・クランシーのジャック・ライアン・シリーズのスピンオフ作品。原作『容赦なく』を、『クリード』シリーズのマイケル・B・ジョーダン製作・主演で映画化。海軍特殊部隊員のジョン・ケリーは、あるミッションに参加したことをきっかけに武装集団に襲撃され、妊娠中の妻を殺されてしまう。復讐を誓ったケリーは、犯人を追ううちに恐ろしい陰謀に巻き込まれていく。共演はジェイミー・ベル、ガイ・ピアースなど、でございます。

監督と脚本を務めたのは『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』の監督・脚本コンビ、ステファノ・ソッリマ監督と脚本のテイラー・シェリダン。あともう一方、実は脚本の方がいるんですけども。それはちょっと後ほど、お話ししますね。

ということで『ウィズアウト・リモース』、もうAmazonプライムで見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は「普通」。まあ、でもみんながみんなAmazonプライムに入ってるわけじゃないという中でね、見ていただいて送っていただいて、ありがとうございます。

賛否の比率では、褒めの意見が3割ちょっと。残りが普通といまいちで半々ぐらい。主な褒める意見としては、「現代の娯楽アクション映画として申し分ない出来」「トム・クランシー原作作品にしてはダークな雰囲気がよい」「マイケル・B・ジョーダンの肉体美がすごい」などがございました。一方、否定的意見としては「テイラー・シェリダン脚本、ステファノ・ソリマ監督ということで期待していたが、あまりの凡庸さに拍子抜け。」「どこかで見たようなシーンや展開の連続」「今どき、あの国際感覚ってどうなの?」などがございました。

■「洗練された高低の演出と、原作者の思想がうまく融合した快作」byリスナー

ということで、代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「コーラシェイカー」さん。

「抑制的な音の演出が冴えるアクションと、主人公のタフさに十分に説得力を持たせる、少し鍛えすぎじゃないか?と思わせるほどのマイケル・B・ジョーダンの肉体美を楽しめる快作でした。そして、縦軸の移動が印象的な映画でした……これ、非常に面白い読み解きをしていただいて。

「この映画は、タールのように黒い水の底から主人公たちが出てくるところから始まります。それは、彼らが汚れ仕事を請け負っていることともに、のちに判るのですが、彼ら兵隊が、国家の重要度では下層に位置するということも表しています。この映画、主人公たちが高いところに移動すると、とにかくろくな目に合いません。飛行機に乗れば。ビルをのぼれば。自宅の二階に上がれば。まるでなにかの力で叩き落とされるかのように悲惨な目にあいます。逆に『下に降りてくる』ことで信頼を勝ち得るという描写も多いように思います。冒頭、主人公は見捨てられそうになる仲間を、更に下層に降りて助けることで、この人物が紛れもない主人公であることを観客に証明します。中盤以降、共に上空から落ちた仲間同士では、コードネームを解除するほどの信頼ができあがります。ちなみに上空から落ちた際、一番下層まで移動するのは主人公です。

このように、この映画は高低という縦軸になんらかの意味を込めて作られていると思います。最後のシーンになりますが、高みでたかをくくってる奴を下層に引きずり込む、そしてその下層は、個人の尊厳を知る場です。名前を知ることで個人を信頼し、名前を知ることで自分がないがしろにした命を知る。一貫した名前に対する演出がみてとれます。この映画、洗練された高低の演出と、原作者の思想がうまく融合した快作だったと思います」ということで。非常に面白いし、実際この演出意図って全然、本当にその通りだと思います。そういう風にやっていると思います。この読み解きは見事なものだと思います。

一方、ダメだったという方。これもね、気持ちはわかるんですよね。「Mr.ホワイト」さん。

「映画を観始めた90年代、ジャック・ライアン・シリーズは私の楽しみの一つでした。原作も何冊か読みました。そのジャック・ライアンのスピンオフ・シリーズで、かつ、マイケル・B・ジョーダン主演&テイラー・シェリダン脚本となると、否が応でも期待が上がります。劇場に掛からないと知ったときは怒りすら感じました。

で、配信日に早速見ての感想………あれ? 面白くない……

本作は「復讐」が目的という内容上、ポリティカル・サスペンスよりはアクションの色合いが強いです。しかし、そのアクションに面白味がない、むしろ退屈とさえ言えるのは最大の弱点だと思います。アクションが盛り上がらない大きな理由として、敵の設定をあやまっていることが挙げられます。

ロシアでの脱出戦において、主人公ジョンは次々と敵兵をほふっていくのですが、後半は陰謀とは無関係の国内治安部隊の人達が相手であり、どう見ても悪いのは、自己都合で国内騒乱を起こしているジョンたちです。これではカタルシスの得ようもありません。マイケル・B・ジョーダンについては、確かに刑務所の肉体披露シーンは喧嘩の準備も含めて面白かったですが、全体的には借りてきた猫のように世界観に馴染まず、ただそこにマイケル・B・ジョーダンが居る、という感じでした。演出の問題だと思います。

私は『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』でのステファノ・ソッリマ演出はそこまでとは思っておらず、今回で大幅に評価を下げました。サスペンスとしても、黒幕は配役と台詞で一目瞭然という安易さ。黒幕をトイレで……って配信アクションで何度も見た気がします。既視感が有りすぎです。結論、55点」というね。まあでも、55点は取っている、という言い方もできますけどね。

「午後のロードショー」感覚で観たら意外と光るところがあったよ的一本

ということで『ウィズアウト・リモース』。皆さん、メールありがとうございました。私もアマゾンプライムで配信開始されて早速見て、そしてまた何度か見ております。でもね、ちなみにこれ、最初からAmazonが作った作品じゃなくて。元々はパラマウントの製作配給映画として、本来は普通に20209月劇場公開する予定だったのが、ご多分に漏れず、コロナウイルス感染拡大に伴う劇場の休館、公開延期を重ねた挙句、Amazonに配給権が売却されたという。そういう意味ではちょっとかわいそうだった作品ではある。

ただね、これちょっと先ほど(番組6時台)も言いましたけど、僕は結果的にはこれ、(テレビ東京の)「午後のロードショー」感覚と言いますか。テレビでたまたま……まあタダじゃないんだけども、タダ同然で見れたジャンル映画が意外と豪華だったよとか、意外と光るところがあったよ的な、トクした感じに、ちょうどよくはまっているところもあると、個人的には思ってます。はい。Amazonは今、ドラマシリーズでジョン・クラシンスキー主演の『ジャック・ライアン』もやっているから、いずれそことのクロスオーバーも見込んだ上での買い取り、というような目論見も、ひょっとしたらあるのかもしれないですね。

ということで、ジャック・ライアン・シリーズでおなじみトム・クランシーの、日本では『容赦なく』というタイトルで上下巻、新潮文庫から翻訳が出ているやつ。現在は絶版でね、私も古本で取り寄せましたけど。93年に出た小説が原作。要は、ジャック・ライアン・シリーズに登場する、ジョン・クラークという、元の名前はジョン・ケリーなんだけど、ゆえあってジョン・クラークと名乗るようになる……映画化されたものだとですね、たとえば1994年の、フィリップ・ノイス監督の『今そこにある危機』で、ウィレム・デフォーが演じた役。

あとは2002年の『トータル・フィアーズ』で、リーヴ・シュレイバーが演じていたあのキャラクターですね。要するに、元は白人キャラクターなんですけど。で、そのジョン・クラークの前日譚。時系列的にはそのジャック・ライアン・シリーズ、原作小説の中でも、一番前にあたるスピンオフなんですね。ものすごくざっくりした要約の仕方をするならば、ヴィジランテ物、自警団物ね。要するに、ある人が復讐のために自ら暴力を、公権力の力を借りずに振るうという……復讐物とヴィジランテ物、だいたい重なりますけども。ヴィジランテ物、復讐物という要素と、ぶっちゃけまあ、『ランボー』な要素ですよね。

そのベトナム戦争の時に取り残されて、いまだに囚われの身になっているアメリカ兵を救い出しに行く、という『ランボー2』な要素を合体させた話。ヴィジランテ物+『ランボー2っていう、そういう話。そこにジャック・ライアンのお父さんの刑事が絡んできたりする。で、ちなみにこの元の小説だとジャック・ライアンは、1歳ですから。

まあジャック・ライアンが、最終的にはですね、大統領にまでなる人なんですね。「日米開戦」って小説とかで。ジャック・ライアンは大統領にまでなるような、基本そのお堅い、陽の当たる場所にいる、割と「公」性が高い人物なのに対して、このジョン・クラーク、元ジョン・ケリーさんは、元々もちろん特殊部隊、シールズの隊員だっていうこともあって、要するに直接的に手を下す立場、なんなら積極的にダーティーワークというか、手も汚していく立場……要はダークヒーロー的なニュアンスがジャック・ライアンよりも強い、という。だからそういう意味では、むしろ動かして面白いのはこっちの方、っていう感じもしますけどね。

■原作者のトム・クランシーは今やビデオゲームの原作で有名。ところどころゲームっぽい描写も

で、この『容赦なく』というその原作小説。アメリカでの刊行直後から、これはもう当然のことながら、映画化の話はガンガンあって。最初に脚本を書いたのはやっぱり、ジョン・ミリアスなんですよね。ジョン・ミリアスはやっぱり、思想的にはたぶんトム・クランシー本人と一番近い、まあゴリゴリの右派というか、反共主義者で右派、という感じなので。まあ、その脚本版というのもあって進んでいたりとか。あるいは、2010年代になってからかな? 今やトム・クルーズの相棒として定着しちゃいましたけど、クリストファー・マッカリーさん版の話があったりとか、いろんな話が浮上しては消え、2018年に、今の形になった。マイケル・B・ジョーダンが主演で、『容赦なく』と、あとは『レインボー・シックス』という、この二部作構想というのが発表された。ちなみにこのジョン・クラークさん率いる『レインボー・シックス』という、この多国籍特殊部隊というのはですね、今やトム・クランシーという名前はこっちの方の原作者としての方がね、むしろ今の若い人とかには絶対知られてると思うんですけど、要はビデオゲームのシリーズ、ゲームのシリーズが大変有名で。

特にこの『レインボー・シックス』シリーズはですね、数あるFPSシューティングゲームの中でも、ひときわシビアなことで知られています(笑)。私がやってる『マイゲーム・マイライフ』でも度々、話題になってます。とにかくもう、弾が当たると終わりです! で、とにかく今回のジョン・クラーク二部作構想というのをですね、エンドクレジットが始まってから、いわゆるMCU型のね、ちょっと今後の匂わせおまけシークエンスが付いたりするんですけど、そこでも明らかなように、『レインボー・シックス』に続く、っていうのが明らかにされるわけですけれども。

まあ現在のビデオゲームシリーズとしての『レインボー・シックス』ファンの取り込みを狙っている、ということが間違いなくあってですね。で、実際に、これからお話ししますそのテイラー・シェリダンさんと並んで、脚本にクレジットされているこの、ウィル・ステイプルズさんという方がいて。これ、インターネット・ムービー・データベースによれば、これまでテレビゲームの脚本をずっと手がけられてきた方なんです。近いようなラインで言うと、2011年の『コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア3』をやっていたりする方なんですね。

なので、割とゲーム人気ありき、そこを当て込んだ企画、っていうのは明らかだと思います。たとえばですね、そういう意味ではちょっとゲームっぽいところが多々あって。その銃器描写も、本当の意味でリアルか?っていうと、ちょっと……っていうところがある。たとえば序盤、あの狭い廊下の向こう側から敵が現れて、RPGをドーン!と撃ってくるっていう。これ、あんな狭いところでRPGを撃つのはありえない描写なんですけど。でも、ゲーム的な、敵が急に出てきて、なんかをドーン!って撃つとかは、ゲーム的と考えるんだったら、これはたしかに「っぽい」かもな、っていう感じがするような、そういうリアリティーラインだったりしましたね。

■トム・クランシーの原作小説とは全く違う、そしてテイラー・シェリダン脚本作として観ると……

でですね、一方その映画ファンとしてテンションが上がる部分では、みんな大好きマイケル・B・ジョーダンの主演、っていうのはもちろんなんですけど、やはり何と言ってもね、先ほどから何度も名前が出てます……『ボーダーライン』『最後の追跡』『ウインド・リバー』という通称「フロンティア三部作」、この3つとも、いずれ劣らぬ傑作でした。我々の心を鷲掴みにした、テイラー・シェリダンさんの脚本と、イタリアの監督さんです、『バスターズ』『暗黒街』、そして、テイラー・シェリダン脚本でその世界観を、前作にあたる『ボーダーライン』のドゥニ・ヴィルヌーヴから受け継いだという……で、また独特の熱いテイストの『2』、「こういう『2』もいい!」っていうね、『フレンチ・コネクション』に対する『フレンチ・コネクション2』もいい、という感じの『2』、『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』を撮り上げた、監督のステファノ・ソッリマさん。このコンビが、本作『ウィズアウト・リモース』で再タッグを組んでるっていうのも、映画ファン、特にハードなアクション映画、バイオレンス映画好きとしては、非常にアガれる座組でもあるわけです。

で、ちなみにその『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』。僕は20181123日にこのコーナーで評しているんですけど。これ、公式書き起こしがあるので、ぜひ皆さん読んでいただきたいですが。その中でね、パンフレットに書いてあったこととして、「このステファノ・ソッリマさん、『コール オブ デューティ』の監督として非常に有力視されているらしい」なんてことを言ってるんですね。まあ、たぶんそれが今回の『ウィズアウト・リモース』なんですね。『コール オブ デューティ』じゃないっていう。

で、このテイラー・シェリダンさん、ウィル・ステイプルズさんのコンビ、共同脚本が今回の映画用の脚色なわけですけど。ただ、これがですね、原作小説ファンはそれなりに激怒するのは、まあそうでしょうね、っていうぐらい、復讐物×敵地潜入というお話のぼんやりした骨格と、一部キャラクター名に名残りがあるぐらいで、トム・クランシーの原作小説とは基本的に全く違う……ほぼ跡形も残ってない、ぐらいのものではあって。もちろんね、今時そのベトナムに取り残されてるアメリカ兵を救いに行くって、これは『ランボー2』だから、そのまんまの映画を作るわけにはいかない。これは当たり前のことだし。

ちなみに今回の出来上がった『ウィズアウト・リモース』を見ると、でも『ランボー2』要素はあるんですよ。『ランボー2』要素はつまり、敵地に潜入して苦労していくんだけど、国っていうか、実はその指令そのものに騙されている。で、「無事に帰った暁にはテメエ、仕返ししてやんぞ!」っていう、ここは『ランボー2』要素、あったりするわけですけど(笑)。でもとにかく、『ランボー2』をそのまんま今どきやるわけにはいかないし。

前述したように、そもそもビデオゲームとしてのその『レインボー・シックス』シリーズの人気を踏まえた企画である以上、そのトム・クランシー……トム・クランシーっていう人の思想そのものも、今時の感覚からすると、結構問題があるところもいっぱいある作家さんでもあるので。その90年代の小説を、まんまやるわけがなくてですね。当然、今風にめちゃくちゃアレンジして作る、っていうのは想像がつくことではあるんだけれども……でもまあ、もちろん当然の如く原作小説ファンは、アメリカとかでも本当に激怒しまくっていてですね。

まあそもそもトム・クランシー、生前もですね、自作の映画化作品に対して、割と不満を漏らしまくり、っていうところもあったんですけどね。ただ、そういうこととは別にですね、たしかに、特にテイラー・シェリダン脚本作として考えると、過去作と比べると、かなりアレなところが多いのは間違いない。まあ、雑だったり、あまりにも不自然だったり、何より類型的な、あるいは表層的な人物造形や展開が際立っている、という感じは、正直あるとは思います。

『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』のレベルを期待するとがっかりするのもわかる

たとえばですね、復讐劇なわけですけど、奥さんの描写って、すごい薄いですよね。だから、その後の主人公の怒りっていうのもやっぱり、「まあ、そうであろう」っていう、一種観客の忖度に大きく頼ったような展開にもなっているし。あるいは、先ほどのメールにもあった通り、「黒幕」って割と、そのまんまですね。意外性は全くない感じですしね。「あの人」がそういう役をやりすぎている、っていう問題もあると思いますけど(笑)。あと、もちろんロシアに潜入、そして脱出……まあドッカンドッカン、すごく派手なことは起こる割に、「あっ、そこはスルッと行けちゃうんだ。そこは行けるんすか?」みたいな感じで、割とご都合主義が過ぎたりとか。そういうのがいっぱいある。

で、これも先ほどのメールにあった通り、そもそもカタルシスが起こりようがない物語構造を持っていたりして。というところが、だからモヤモヤするし、「面白くない」と感じる人がいるのも、無理からぬ部分はある。明らかにテイラー・シェリダンの過去作、あるいは『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』のレベルっていうものを期待すると、ぶっちゃけがっかりするところがあるのも、非常にわかります。

しかしですね、僕はそれはもう重々分かった上でなお、本作『ウィズアウト・リモース』、最新の技術などを使ったアクション大作として、忘れがたい、キラリと光る瞬間がいくつもある、そこをこそぜひ皆さん、味わってもいただきたいという……「全てがよく出来た」作品ばかりが「面白い」映画というわけじゃないんじゃないか、ということをお伝えしておきたい。

「この映画、好きっ!」となる場面がいくつか

たとえば……僕はもうこの1点があるだけで、「この映画、好きっ!」ってなってしまったんですよ。もう、この場面で。グッと来たポイントがございまして。主人公ジョン・ケリーの自宅に、深夜、プロの殺し屋たちが侵入してきて。で、わけあって気づくのが遅れたジョンと、暗闇の中で彼らが撃ち合いになるという、そういうくだり。その中で、最後に残った1人。この最後の1人は、物語上も大きな役割を果たすことになるわけですが、その敵の男とジョンが、図らずも互いに、うまく動かない身体を引きずりながら、お互いに向き合い、対峙することになる。これ、後の展開を考えれば、この構造自体が非常に象徴的ですよね。要するに、彼らはまあ鏡像関係でもあるわけです。

なんですが、何よりも僕がシビれたのは、ここでのフラッシュライト、懐中電灯の使い方ですね。床の上をコローン……ライトが醸し出す、この異様な緊張感。特に敵の男は暗視カメラをつけているので、これ、光が回ってくると何も見えなくなるので、たまらずカメラを含めてマスクを取る。そこにまた、ライトがクルッと当たる。そこで目が合う2……! 起こっていること自体はとても小さい、ミニマルなことなのに、演出としての効果は絶大。少なくとも僕は、こんなライトの劇的な生かし方は初めて見ましたし、こういうフレッシュなアイデアがひとつあれば、もう僕はね、こういうジャンル映画は「合格!」っていう風に、僕はなるんですよね。なんなら、こういう瞬間に出会うためにいろんな映画を見ている、っていうところもある。「ライトをこう使う? うわっ!」っていうね。

あるいは、まさかの燃えさかる車の中に自ら乗り込んでの超アッパー尋問、っていうね(笑)。それはもう、アッパーですよね。燃えさかっている車で、「オイッ! オイッ!」っていう。まあ、あそこもびっくりしたけども。そこから、一旦警察に捕まった主人公が、ジェイル……プリズンじゃなくてジェイル、郡立刑務所の中で、彼の命を狙っているに違いないロシアマフィア、の息が掛かっているのであろう、その防護服を着た職員たちが、自分の房内に突入してくるであろうことを予感して、戦闘準備をする、っていう場面があります。

これは多くの人が……ここは褒める人がやっぱり多かった。この、刑務所内で、完全に四面楚歌。勝ち目などあるわけがない。だって周り、刑務所だし。向こうは、たとえばその刑務官たちとかは武器を持ってるわけですから。絶対に勝ち目などなさそうなその状況下で、主人公が、でもはっきりと意図を持って主導権を握ろうとする、という。単純にこれ、要するに「どうなるの、これ? 主人公、どうするつもりなの? どんな作戦があるの?」って、単純にワクワクするようなこういう展開。個人的にはこれ、S・クレイグ・ザラーのあの傑作『デンジャラス・プリズン 牢獄の処刑人』2017年)。あれっぽさをすごい感じたんですよね。で、実際にちょっと影響がないかな?っていう風にね……テイラー・シェリダン、S・クレイグ・ザラーを見てないわけがないと思うんだよな、っていう風に、両方のファンとしては夢想してしまうあたりでありますけども。

■娯楽アクション映画としてのケレンがたっぷり贅沢に味わえる

ここね、そのシンクからあふれ出てくる水、そして手に巻くTシャツ、という……テンションを少しずつ高めていく、水の音自体が音楽になっている、みたいな、非常にテンションを高める演出もすごくいいし。更にここ、これももうね、言わずものがございます。本作最大の見せ場。マイケル・B・ジョーダンの、とんでもなく美しいフォルムにまで鍛え上げられた、パンパンの肉体美。

もうドッカンドッカンやるよりも、この肉体美が本当に見せ場として用意されている、というあたりですね。もちろんね、もっとはっきりした見せ場、大掛かりな、お金のかかった見せ場……たとえばジョンたちを乗せた、旅客機に偽装したジャンボが、そのロシア領内でミサイルにガーン!って当たっちゃって。で、海上に着水して沈んでいく、という一連のシークエンス。さっきも言いましたように、ここなどまさに、本当に荒唐無稽の極みだし、ご都合主義がすごく、すぎるところもあるんです、たしかに。ミサイルで落とされて着水して、そこにたとえば何も調べにも来ないで、ゴムボートでこっちに普通に行って上陸、とかってどういうこと?って思うけど。それはちょっと置いておいて……そこは「容赦して」(笑)。

でもここね、たとえば、バーン!ってミサイルが当たりました、「ベルトを締めろ!」ってなって、ガーンって着水して、そのまま機内にドーンって(水が)流れてくるまでを、ワンカットで捉えているんですね。ここのショットのド迫力であるとか。だいたい僕、飛行機墜落シーンは結構好物なんですけど、その中で「ああ、またひとつ、新しい見せ方をしてるな」って。水がバーンって入ってくるところをちゃんとド迫力のショットで撮っているし。その沈んでいく機内を、ジョンが潜水して進んでいく、豪華かつ非常にスリリングな水中撮影。

しかも、先ほどのメールにもあった、その物語的な読み解きとしても非常に味わい深いですね。どんどんどんどん、最深部に入っていく。水中撮影としても非常にスリリングだし、やっぱりあれ、丸ごと……やっぱりジャンボジェットのセットがないと無理ですから、豪華だし。わずかな気泡を吸って先に進んでいく、っていう、やっぱりそのサスペンス描写としての面白さも含めて、要するに娯楽映画としての、ケレンですね。ケレンがたっぷり、贅沢に味わえる場面ってことも、やっぱりこれ、たしかにあると思いますし。

■「現代のプログラムピクチャー」感覚で楽しむ分には十分に満足できるはず

あとね、そのクライマックス。そのロシアの街角、そのビルの中での籠城戦も、特にその主人公たちがいる、街の角っこにある建物を起点とした、やっぱりその空間の見せ方の、リッチさというかな……見た人は全員、あれ(舞台の地形)が思い浮かぶわけですよね。角にビルがあって、そこに広場があって、向かいのビルに狙撃者が2人いて。この空間の見せ方のリッチさとか、その空間感覚の(観客の脳内への)入れ方みたいな、やっぱりすごく映画っぽい楽しみにあふれてるし。加えて言うならば、この「ある地点にとどまって、一定時間耐えろ」っていうのは、やっぱりそれ、ゲームっぽいですよね。

実際、『レインボー・シックス』のゲームでもそういう展開があったと思いますけど。っていうところでもあって、まあ「らしい」あたりかなと思います。あとは、たとえば細かいことを言うと、何気に前半、ある人が車に轢かれるところ。車に轢かれるっていうのはよく映画に出てくるけど、たぶん画角の取り方とかがうまいのか、すごくやっぱりショックが倍増してたりして。僕、ステファノ・ソッリマ、やっぱりこういうところ、腕はあると思いますけどね。

ということで、もう僕がいま挙げたような要素で、すでにジャンル映画としては、十二分のサービスだと思うんですね。結局、その期待のレベルをどのぐらいに置くか、ということなんですが。先ほど言ったように、「午後ローでたまたまやっていたやつを見たら、これ結構すごくいい」みたいな感覚で、要はやっぱり「現代におけるプログラムピクチャー」感覚で楽しむ分には、忘れがたい部分がいっぱいあって、十分に満足できるはずだと思います。まあ、「お前、超容赦してるじゃないか」っていう話かもしれませんけども(笑)。でも僕はやっぱり、その光るところがあれば、評価が高くなっちゃいますね。

もちろんその、ステファノ・ソッリマの演出の腕、そしてもちろん、そのテイラー・シェリダンの筆力を考えれば、本来ならばさらに高いレベルを期待したい、というのもこれは当然、わかります。それは次作『レインボー・シックス』が、もしあるならば、そちらに期待したいあたりかなと思います。でももちろん、Amazonプライムにもし入ってるんだったら、これは見ないという手はないと思いますよ。ぜひぜひウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 来週の課題映画は『ファーザー』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。