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宇多丸、『JUNK HEAD』を語る!【映画評書き起こし 2021.4.2放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

今週評論した映画は、『JUNK HEAD』(2021年3月26日公開)です。

オンエア音声はこちら↓

宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは3月26日から劇場公開されているこの作品、『JUNK HEAD』

(曲が流れる)

この音楽もね、堀貴秀さんがご自身で作られて、ということですよね。すごいことですよ。ということで、孤高のクリエイター堀貴秀が監督・脚本・撮影・編集・デザイン・声優……他にも、たとえば衣装とかデジタル処理とか音楽もそうですし。あと、たぶんこの劇場パンフもきっとこれ、手作りだよね。もうほぼ1人で担当し、7年かけて制作した本格SFストップモーション・アニメーション……これ、いかにこのいま言ってるこの2行が、めちゃくちゃなことか(笑)っていうのも、後で説明しますけど。

絶滅に瀕した人類を救う方法を探すため、1人の男が、地下世界へ調査に向かう。そこには、かつて人類が生み出し、独自の進化を遂げた人工生命体、マリガンが生活していた。男は人類再生の鍵を握るマリガンを探すため、広大な地下を旅することになる……こう言うと、なんかすごい堅い話みたいにも思えるけども(笑)。カナダ・モントリオールで開催されるファンタジア国際映画祭で最優秀長編アニメーション賞を受賞するなど、世界的に高く評価されている作品です。

ということで、この『JUNK HEAD』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は「普通」ということですけども。まあ、公開規模とかを……まあ大ヒットを受けて拡大公開、なんかシネコン系でも拡大公開が決まっているようですけども、最初はね、ミニシアターだけの公開だったということを考えると、結構これはいいんじゃないですかね。

で、賛否の比率は、およそ8割が褒め。非常に評判がいいです。主な褒める意見としては、「すごい作品と出会えた。堀監督が7年かけた苦労と狂気が詰まっている」「世界観もキャラクターも魅力的。エンタメ映画としても楽しいのが嬉しい驚きだった」などがございました。一方、否定寄りの意見としては、「すごいとは思うが、音楽の使い方や中盤の展開がダレるなど、惜しいところもある」「セリフが多すぎて疲れてしまった」などもございました。ただし、全面的に否定するような意見はもちろんございませんでした。

■「ギレルモ・デル・トロやティム・バートンのような射程で活躍できる大型新人と確信」byリスナー

ということで、代表的なところをご紹介しましょう。「ロヂャー」さん。「1人の映像作家のウン年がかりの執念の力作、というのは、意欲は買えるけど諸々未熟だし、独りよがりでゴニョゴニョ……的な感想になりがちなのですが、本作は違いました。ビジュアルやデザインのクセこそ強いものの、とても明快でユーモアたっぷりに進行するメジャー志向の純娯楽映画であったことが嬉しい驚きでした。ビザールでエッジーで、時にはグロテスクでありながら、間口と射程がとても広くて、誰でも抵抗なく楽しめる内容に仕上がってると思います。『小規模な環境で1人で作って偉いね。それにしてはよくできてるね』というゲタは本作には必要はありません。

隅々まで作り込まれ、さらに奥行きとスケールを十分に感じさせるリッチな世界観と、すでに神話のような風格のある物語に身を任せているだけで115分があっと言う間の、世界中どこに出しても恥ずかしくない堂々のエンターテイメントです。堀監督は本作を絶賛したギレルモ・デル・トロや、なんならティム・バートンぐらいに世界射程で大活躍できるスケールの大型新人と確信しています」という。

あとね、いろんな褒めのメールがあって。たとえば「逆さクラゲの飼育員」さん。非常に長いメールを書いていただいたものの抜粋ですけども。「この映画を一言の感想にすると、『令和版ヤン・シュヴァンクマイエル悪ふざけバージョン』。国も作風も違いますが、根底に流れる肉グチョグチョイズムはヤン・シュヴァンクマイエルを彷彿とさせます」という。ヤン・シュヴァンクマイエルはチェコの有名なストップモーションアニメ作家ですね。あとは「愛すべきキャラクターたちが非常によかった」とかね、いろいろ書いていただいて。ありがとうございます。

一方、ちょっと否定的なご意見もね、代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「空港」さん。「アップリンク京都で『JUNK HEAD』を鑑賞してきました。平日にも関わらず、半分ぐらい埋まっていました。正直な意見として『“すごい”が“面白い”に勝ってしまった。完璧には世界に入り込めなかった』という感じです。特に一番強い感想は『ちょっとみんなしゃべりすぎでは……?』

独自の言語を話すというアイデア、またその会話のトーンもすごく面白いのですが、広がる世界の仕組みや感情などをかなりの割合で字幕で知らせるのは正直ムムム……でした。全編会話なしとまでは言いませんが、身振り手振りなどのアクションで見ている側がそれを汲み取るというのは、個人的にストップモーションアニメにおける醍醐味だとは思うので(『ひつじのショーン』とか)。作品から与えられる情報に対して受動的になりすぎてしまったのがエンジョイしきれなかった要因でした。

もっと言うと中盤、会話シーンが続く際にははっきり『長い』と感じてしまいました」という。でもまあ、「非常にキャラクターもよかったし、いろんなところが本当に鳥肌が立つほど最高だった」と書いていただきつつも、「あえてメールさせていただきました」というね。でも、「とにかく監督には尊敬しかありません。こうして多くの劇場でかかってること自体が奇跡的であることは間違いありません」といったご意見でございます。

あとですね、ラジオネーム「ヤーブルス」さん。この方もいろいろと不満……「すごい作品なのはわかるけど、不満もある」ということで。「たとえば音楽の使い方がちょっとひと昔前のサイバーパンク的で鼻白んでしまう。制作年2017年とのことで、そのへんを加味してももう少し今っぽい変化をつけてもよかったのではと思ってしまいました」というご意見があったということも一応、言っておきたいと思います。はい。ということで皆さん、メールありがとうございました。

「とんでもなく“ヤバいの”が来た!」

『JUNK HEAD』を、私もですね、3月24日にこの番組でやった「ストップモーションアニメーションの逆襲」特集に備えて、まずは拝見して。そもそもその2年前、やはりそのストップモーションアニメーション特集をやった時に、今回の長編の元になった30分の短編『JUNK HEAD1』というもの、こちらも見ていたわけですが。

でですね、劇場にも当然、行きました。アップリンク渋谷に見に行って。ちなみにこの作品、2017年には完成してね。ちょっとしばらく公開まで時間がかかってしまった作品ですけども。ようやくの今回の劇場公開タイミング、アップリンク渋谷で僕は見てきましたけど。やはりね、若い人たちを中心に、めちゃくちゃお客が入っていてですね。皆さん、ちゃんと「これは見ておかないと」というものに対して、きちんとね、嗅ぎ分けてキャッチしていらっしゃるんだな、って。とてもこれ、嬉しくなりました。はい。

でね、そのパンフも、すごい売れていて。おそらくこのパンフ自体も自主制作的なんでしょうね。これ、1500円。非常に解説が詰まったパンフも、めちゃめちゃ売れているということで。それも当然だなと思いますね。ちなみにこのアップリンク渋谷には、劇中で使われた本物の人形たち、パペットたちが、ずらりと展示してあって。これはたぶん、シネマ・ロサとかアップリンク吉祥寺もそうなのかな? はとにかく、貴重な実物が直接見られる機会でもあるということで、これは皆さん、ぜひぜひ劇場でウォッチください! もう今日はこれで終わらせていいんじゃないか、っていうぐらい(笑)、僕が四の五の言うより、とにかくちょっと、「今、見とけ!」っていう。

後々、リアルタイムで映画館で見たことを、何年も自慢できる代物なので。いいからこれは行っとけ!っていうことなんですよね。歴史的にも、世界的に見ても、ちょっとこれは非常に稀なというか、類例がないタイプの一作ですね。「とんでもなく“ヤバいの”が来た!」という言い方を私、させていただいておりますが。とにかくこの、堀貴秀さんという方のクリエイター魂。ほとんど狂気を……これ、「狂気」っていう言葉を使っている人が多いですが、その狂気っていうのは、要は狂気を感じさせるまでの、クリエイターとしての根性ですね。もう本当にただ事じゃないわけですね。

まあ、パンフに書かれているこのプロフィールによれば、「高校卒業後、バイトを転々としながら芸術家を目指し、29歳の頃にアートワーク専門の仕事で独立。商業施設に壁画やエイジング」──エイジングっていうのはだから経年変化的な塗装とかですかね──「エイジング、造形物等の施工多数」という。だから、ご自身のアート的なセンスとか技術とかっていうのを、生かしながらの手に職、というか、そういうお仕事ではあったんだろうなっていうのが伝わってきますけども。

なおかつ、いろんな創作活動とかもいろいろとされては来た、ということが書いてあるんですけども。まあ、それがひとつ、ドンという形は成していなかった、というような。少なくとも、映像作家だったわけではないわけです。映像作品は作ってないし、まして、ストップモーションアニメーション作家だったわけじゃないわけですね。で、映画はお好きだったということですけども、自分で作るという発想はなかった。そんな堀さんが変わったのは、「映画って1人でも作れるんだ」ということに気づかされた、とある一作……皆さんご存知、新海誠監督2002年の、まあ鮮烈な作品でしたね、『ほしのこえ』。度肝を抜かれました。「これ、1人で作っちゃったの?」っていう。

それでやっぱり一念発起してこの堀さんも、2009年から、その内装業のお仕事をしながら、さっき言ったその短編の『JUNK HEAD1』の制作を開始したという。

■「壮大なスケールの実写SF」を作るために選んだ手法。すべてが独学と手作り。

で、そのストップモーションアニメという手法を選んだのも、前からその手法のファンだったというわけじゃなくて、堀さんの頭の中にあるその「壮大なスケールの実写SF」的なイメージを、しょぼくない画として、しょぼくない実写映像として、現実に成立させる手段としてのそのストップモーションアニメ。あとはまあ、元から操り人形制作などはされていたということなので、まあある種、逆算的に……たとえばそのキャラクターたちに、「目」があんまりないわけですね。目がないキャラクターたち。レンズだったりしてるわけですけど。というのも、そのリアリティー表現の上で、目を作らない、目がないキャラクターであるっていうのはこれ、堀さんのはっきりした計算の上で、だったりするということなんですね。リアリティー表現的に。ということで、逆算的に今のこの方法論が選ばれた、ということらしいんですね。

だから非常にクレバーではある。なんだけど、同時にそういうストップモーションアニメーション、しかも長編映画を実際に作るノウハウ、人脈……誰か教えてくれる人とか、そういうのが全くいない状態からのスタートでもあるわけです。そういう意味では、たとえばその『PUI PUI モルカー』の見里朝希監督の、藝大に行って、伊藤有壱さんの教えを受けて……っていうルートとはかなり対照的というか。本当にストリート、野育ちの、っていう感じですね。

で、堀さんはとにかく恐ろしいことにですね、そのノウハウがない中で、人脈も何もない中で、全てを独学で……たとえばそのストップモーションアニメーション用に、まずパペット、人形を作るわけですけど、そのパペットひとつ取っても、骨組み、アーマチュアというその金属の骨格とか、それの外側を作るのは、石膏で型取りして、フォームラテックスで整形していくわけですけど、そのフォームラテックスの作り方とか、フォームラテックスの調合の按配とかまで、自分で調べて、試行錯誤してやる。あるいはその、パペットアニメーションを作っていく、動きを作っていくにあたってですね、アナログなモーションキャプチャーというかね(※宇多丸註:というよりはむしろ”手作りロトスコープ“とでも言うべきところでしたが、放送時はその言葉が出てきませんでした、すみません!)。

実際にそのライトを体の各所に付けて、自分で実際に動いた映像を撮って、それに重ねて動きを付けたりとか。そういうこともご自分でやってたりとか。あるいは、やはりこれもパンフレットに載ってるあれなんですけども、ストップモーションアニメーションを効率的に撮影するための、オリジナルの器具まで創作して、その効率を上げたりとか。あるいは、当然必要になってくるデジタルによるその画像処理、ポストプロダクション的なこと、などなど……っていう。あとは声とか、効果音とか、音楽ですね。さっきから言っている音楽などなど、もうすべて独力で学び、作り、撮って、積み重ねてきた。そして4年の月日が経った……っていう(笑)。30分の短編『JUNK HEAD 1』が、4年かけて、ようやく2013年に完成したという。

ちなみに今回の長編版ですね。頭の30分ほどがほぼその『JUNK HEAD 1』なんですけども、最初の方に出てくる、後に「生命の樹」に育っていくというあの野生マリガンっていうののくだりと、あと、主人公が地上での暮らしを回想するというくだりが、今回の長編には加えられています。要するに、「より大きな世界観を提示する要素」というのが今回、後から加えられているわけですね。

で、とにかくですね、その短編を作ったと。で、当然作品としては世界的に高い評価を得て、賞を取ったりしたんですけど、途中でそのクラウドファンディング失敗、とかですね。ハリウッドからのオファーを堀さんが断っているとか(笑)、いろんな経緯を経て、最終的にその続編というか、続きを作る資金を得て。まあ堀さんが元々仕事で使っていたという工場を改造して、撮影用の、これはなかなかでかめなセット。これ、縮尺がね、6分の1ですから。それを作って。

これ、ちなみにエンドロールでちょろっと出てきてね。「おおう……!」っていう感じがしますけども。で、そこで今度はこれ、この番組の特集でご出演いただいた時も仰ってましたが、その残りの70分とかは、3、4人体制で。2年4ヶ月、朝7時から夜9時までぶっ通しで、休みなしで作業して。ご自身はそのスタジオにした工場跡の2階に住んでいるので、もう切れ目なくやって。ついに2017年、今回の長編完成にこぎつけた、ということなんですよね。

■世界的に見ても規格外の達成。にしては内容はコテコテのエンターテインメント!

で、これ、改めて言いますけど、とんでもないことをやっているわけです。確認をしておくと、ストップモーション、コマ撮りアニメーション。1コマ1コマ、1秒間に24コマですよ?

24コマ、こうやって動かして撮る。人形を動かして撮ったりするアニメーション。それも長編。なおかつ、壮大な背景とか舞台を使った、しかもアクションシーンとかまであったりするような娯楽作品、というのはですね、もう想像してみればわかると思いますが、もう気が遠くなるような、むちゃくちゃな手間がかかる。で、手間がかかるイコール、普通の映画制作のシステムで言ったら、めちゃくちゃお金もかかるわけですよ。普通は。

だからこそ、たとえば今、定期的に長編ストップモーションアニメを作っている会社ってのはもう、ライカとアードマンの2社ぐらいですよね。だいたい、たぶんね。それももう、何年かに1度ですよ、ライカの新作なんかが来るのは。もう何百人、何千人体制で作ってそれですから。たとえば、私が昨年11月20日に評しました、ライカの『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』。僕、もちろん大好きな作品ですけどね。100億円かけて作ったりしているわけですよ。それでコケちゃったりしているわけですよ! それがだから、その長編のストップモーションアニメーション映画を作るということの一種、「常識」なわけですよね。めちゃめちゃお金もかかるし、手間もかかる。まして日本でとなると、これは本当に、長編ストップモーションアニメ自体が少なくて。これ、構成作家の古川耕さんもいろいろと言っていましたが、2005年の川本喜八郎さんの『死者の書』、あとはさかのぼって1979年、これ、藤井隆さんも大好きなサンリオの『くるみ割り人形』、まあ、そんなもんかな?っていう感じだし。

しかも、今回みたいに完全オリジナル企画の、SFアクションダークコメディ、壮大かつグロテスクかつユーモラスな……基本その全てを、美術、人形制作、編集、声、音楽、音などなど、ほぼ全てを全部自分でやって、独力で作りました! なんていうのはもう、規格外も甚だしい。本当に文字通り、考えられない達成なわけですよ。考えられない!

しかもこの『JUNK HEAD』、さっきのロヂャーさんのメールにも近いですけども、「1人の孤高の天才アーティストが作り上げたヤバい一作」っていうことは間違いないんだけど、それが、アートアニメ的に難解な作品、っていうことでもない。どころかどっちかというと、しょうもないギャク満載だし、ストレートにアツい展開もあったりする、あるいはものすごく分かりやすくアガるアクションシーンがあったりする、要するにエンターテイメントとしてはむしろ明快な、コテコテという言い方すらできるような、分かりやすさに満ちた一作でもあって、ということなんですね。

■個々のディテールの元ネタは親しみやすい。しかしそれらが集積した世界観は独特

で、これは監督があちこちのインタビューで挙げられている、影響を受けた作品たちっていうのがあって。たとえば1986年、これ、旧ソ連時代のカルトSF『不思議惑星キン・ザ・ザ』。あれの、SFなのに人懐っこい、オフビートなユーモア感とか。あとはもちろん、もう誰がどう見てもそれは『エイリアン』、あるいは『ヘルレイザー』もお好きだなんて(ことは推察できる)、まあモンスターの造形であるとか。あと『イレイザーヘッド』って言っていて、「ああ、なるほど!」と。要するに『イレイザーヘッド』の、生き物、生命そのものの生々しい不気味さ、キモさ……「生きるってキモくない?」みたいな、あの感じとか。

あとはこれ、漫画ですけども、弐瓶勉さんの『BLAME!』っていうSF作品。Netflixでアニメ化もね、近年されましたけど。あの巨大な階層都市、階層世界の中で、細々と、しかしたしかに命を繋いでいく者たち、的なイメージ。あと、マスクのデザインとかもちょっと『BLAME!』的だったりしましたね……とかもそうですし。あと、さっき言ったようにね、あの樹木化するマリガンっていうね、あれはちょっと、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のグルートっぽい感じもあったし、とかね。あれをどうやって撮っているかとかね、あれメイキングで見るとね、「ああ、なるほど!」っていう。見れば、タネ明かしをすれば「ああ、なんだ」っていうことなんだけども、工夫して撮っていたり。

あとは、これはIGN Japanのインタビューの中で、こんなことを仰っていて。NHKの人形劇『プリンプリン物語』。あれに出てくる「ルチ将軍」というキャラクターがいて。それを受けての「ドクター・ルーチー」、あの博士のやつ。あの後頭部がビヨーンと伸びているのはあれ、ルチ将軍オマージュなんだ、っていうね。まあ、たしかにそのデフォルメされたキャラクターたちの、異形感、ダークコメディ感。ドタバタなんだけど、社会風刺感が満ちている感じ。非常に『プリンプリン物語』っぽいかもな、って思いましたね。はい。

あと、クライマックスの3人のあのチームアクション。あれはもう(『機動戦士ガンダム』の)ジェットストリームアタックでしょう!とかね。まあ、そんなこんなで、個々のディテールそのものは、特に僕は堀さんとほぼ同世代であることもあって、「ああ、あれが元ネタかな?」みたいな感じ、意外と親しみやすいネタ感、みたいなのもあったりするんだけど……それらを集積して組み上げた巨大な世界観というのがですね、やっぱりものすごく独特な味わいで、面白いわけです。

■ドメスティックな笑いのツボも含めて、意外と「セリフ劇」的

個人的にはやっぱりですね、これは堀監督ご自身にも言いましたけど、「クノコ」と呼ばれるですね、この世界での高級食材の採取システムの、エグいユーモアセンスを含めてですね、この作品全体が、「食べ/食べられる」というそのサイクル、食物連鎖的なサイクル、それも、「排泄」まで含めて……先ほどもチラリと言いましたが。それを序盤で見せることで、要するに「食べられる」ことってどういうことなのか、消化されてウンチになっちゃうことなんだ、っていうことまで、生々しく実感させる。

つまりその「食べ/食べられる」、食がつなぐ生のサイクルというのが、非常に全編にわたって芯になっているあたりが、この世界全体に異様な実在感、生々しさを与えていたりする。これも非常に特徴的だし。あと、本作特有の面白ポイントとして、やはり劇中で話される、もごもごした架空の、複数の言語体系。その、まずは単純に語感的なおかしみみたいなもの。これもやっぱり、『不思議惑星キン・ザ・ザ』感覚ですね。「(ホッペを2回叩いて)クー!」っていう感じがあったりする(笑)。特に、日本語的な響きと微妙に重なるところが醸す、なんともしょうもないおかしみ。これが非常に印象的で。食べ物を乞う目がバツ印のあの2人の子供。最初はしおらしく、「チケチケチケチケチケ」とか言っていたのが、お恵みがないと知るやいなや……のあの感じであるとか。

でも、この場面は実は、ちょっとコワ悲しい余韻があるシーンだったりしますけどね。あと、あの「バルブ村」と言われるね、そのバルブが入り組んでいる巨大空間があるんだけど。そこの「職長」と言われるね、その上司と部下のね、「ねー職長♡」って言っているところの、なんか「パップンチョ!」みたいな(笑)、あの語感の繰り返しのおかしさとか。あと、さっき言ったその「クノコ」採りのお使いの結果、「カピカピやないか!」みたいなことを言われてる時の、「カピカピ○※△○!」みたいな。「もう“カピカピ”って言ってるじゃん!」みたいな(笑)、その感じとかも含めて、笑っちゃう。ただ、同時に非常に、たしかにドメスティックな笑いのツボではあるのかもしれない。

演出そのものは、つまりサイレント的というよりはやはり、意外とセリフ劇的な面もあって、という感じがしますかね。で、この声はもちろん、堀さんがほとんどやってる中で、一部はストップモーションアニメ作家でこのスタッフとして入られた、三宅(敦子)さんという女性の方が、女性のキャラの声を当てられたりしておりますけども。

■全体が3パート構成になっている独特の語り口。だが本作の魅力はやはりキャラクターと世界観

でですね、これちょっとこの作品全体、構成も変わっていて。本来、『JUNK HEAD1』から『10』までの連作として作る予定だったのが、結局長編三部作計画になったという、それもあるのかもしれないですけども。ちょっと、語り口も独特で。普通の三幕構成ではあるんだけど、設定上、主人公のアイデンティティーが、その三幕ごとにガラッと変わるわけですよね。もっと言えば、その最初の短編にあたる最初の30分、一幕目の中でも、その主人公の人格が、いきなりどんどん変わっていくという話なので。最初はちょっとどの視点で話に乗っかっていいのか、ちょっと乗りづらいところも、最初は感じるかもしれない。ただ、今回の長編版では、さっき言ったように主人公のバックボーン描写がちょっと足されていたりするので、一応そこの補強もされていたりはする。

とにかくね、その地上、人間世界から、地下世界へ調査のために送り込まれたはずが、記憶をなくし、子供のようなボディに改造された主人公が、更なる奈落に落ちていくまで、という一幕目。そしてそこから、さらに小間使いロボットに改造され、さっき言った「クノコ」の買い出しのお使いに出かけるも、この地下マリガン世界の様々な闇に遭遇していく、そしてどんどん散々な目に遭う、という二幕目。そしてラスト、ラスボス的な巨大生物との対決という、まあ一大アクションも用意されているクライマックスの三幕目、という。ストーリーを整理すればそういう、三幕というか、「3パート」物っていう感じですね。

なんだけども、本作の魅力はやはりですね、その物語を織りなす、キャラクターたちや世界観、その、すごくキモいしグロいけど……さっき山本さんも仰ってました、みんな必死で生きて、そして死んでいく、健気でかわいく、愛おしくもあるそのディテール、存在感そのものにある。たとえばその生き物たちの、質感。あるいは、そのモノたちの質感ひとつひとつに、「本物」の手触りが感じられる。この、こうした感触こそが、やっぱりストップモーションアニメのキモでもあるわけですよね。まあその魅力的なキャラクター、あれはよかったこれはよかったなんて言っていると、キリがないんですが。

とにかく本作は、様々に出てくるそうした「マリガン」と呼ばれる地下生物たち……どんな辺境の、底辺の場所にも、それでもたしかに根付いて、今日を生き抜こうとする人々、モノたち、生命たちとの、その出会いと別れっていう。だからこれこそが……その人類救済のための鍵探し、という大きなストーリーの柱以上に、いろんな人々との出会いっていう、そこの味わい。これがメインテーマの作品と言っていいかもしれない。そしてそれはやっぱり非常に、『不思議惑星キン・ザ・ザ』的な味わいですよね。

「いいから今、見とけ! 後々、自慢できるぞ!」

ただ、もっとも本作はですね、さっき言ったように、実は三部作の一作目。二作目は1000年前に話が遡って、物語の発端的なことをやるのかな? そして三作目は、今回の続き、そして『2』とも接続する、という、そういう計画らしくて。なので今回はあえて、まだまだ小さな話にとどめている段階かもしれない、という。当然、現実の制作条件、制約もあったことでしょうから。つまり、二作目以降を我々が見るためには、この一作目が、きっちり大ヒットしてもらわないと困る、ということなんですね。

あの、たしかに音楽とか、もっと作りを洗練する余地はある作品だと、僕も思います。ただですね、これ、たとえば音楽を外注とかしてですよ、「整えた」として……本シリーズにとってそれはプラスなのか?っていうと、僕はそれはすごく、疑問だと思います。なので僕は、このまま堀さんが信じるように突き進むのが一番……まあ、そんなことはね、たぶん堀さんは、誰が何を言おうと突き進むと思いますけども(笑)。言われなくてもやると思いますが。ぜひ皆さんね、メイキング映像なんかもセットで見るとより、このすごみ……でも、そういうゲタを抜きでも楽しいってのはもちろん、その通りだと思いますし。1粒で2度おいしい。いや、3度おいしい! という作品じゃないでしょうか。

ということで、まず最初に言ったことを繰り返します。「いいから今、見とけ! 後々、自慢できるぞ!」という一作でございます。今、「見ない」という選択はない。ぜひぜひ劇場で……絶対におすすめです。劇場でウォッチしてください。

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は……『ミナリ』のカプセルが出たあと、吉田大八監督がゲスト出演した際に置いていった1万円で再チャレンジして出たカプセル、『騙し絵の牙』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。