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宇多丸、『トムとジェリー』を語る!【映画評書き起こし 2021.3.26放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

今週評論した映画は、『トムとジェリー』(2021年3月19日公開)です。

オンエア音声はこちら↓

宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今夜扱うのは、3月19日から劇場公開されているこの作品、『トムとジェリー』

(曲が流れる)

一応これ、エンディングでかかるアンダーソン・パーク feat. リック・ロスの「Cut Em In」っていう曲をかけています。まあ、今回はこんな感じなんですね。

猫のトムとネズミのジェリーがドタバタ劇を繰り広げ、世界で愛されているカートゥーンアニメーション、『トムとジェリー』が、実写映像と融合し映画化。世界が注目するセレブのウェディングパーティーを控えるニューヨークの高級ホテルを舞台に、トムとジェリー、そして新人スタッフのケイラが大騒動を巻き起こす。人間側の主人公・ケイラを演じるのはクロエ・グレース・モレッツ。監督は『バーバーショップ』や『ファンタスティック・フォー[超能力ユニット]』などのティム・ストーリーでございます。

ということで、この『トムとジェリー』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は「少なめ」。あらま。なんかちょっとね、注目感が低い感じも正直、感じなくはないもんね。賛否の比率で言うと、全体の半分が「いいところもあるが、悪いところもある」。残りは、褒める意見がややけなす意見を上回っていた。全体的なテンションはちょっと低め、ということですね。

主な褒める意見としては、「意外としっかりとトムジェリしていた」「2Dアニメと実写の融合も違和感ない」「俳優たちの演技もあえて分かりやすくしており、それが良かった」「クロエ・グレース・モレッツがかわいい」などがございました。一方、否定寄りの意見としては、「想像の域を超えない。可もなく不可もなく」とか「主人公の自業自得で話が進む」。これはクロエ・グレース・モレッツの主人公がそうなのかな。「話に乗れない。どうでもいい」「『トムとジェリー』の世界観からかなり離れてしまった」などがございました。代表的なところをご紹介しましょう。

■「“お約束”の数々は、それなりに古いファンへの接待として機能していた」byリスナー

ラジオネーム「みーちゃった、みちゃった」さん。この方、すごく長く書いていただいているんで、ちょっと、相当端折りながら(の紹介)で申し訳ございません。とにかく、『トムとジェリー』に非常に詳しく、ずっとちゃんと見てきて、大ファンだ、という前提のことを書いていただいて。「そもそも『トムとジェリー』は出自的に『子供向け』ではなくMGMの一般的な長編映画の前座の短編映画だった前提があって、それゆえの自由さやデタラメさが大きな魅力だったと思っています。食うか、食われるかの関係がありながら、根本的にトムはジェリーを本気で食おうと思っていない節があって。その面倒くさい友情のようなものにグッとくる、というような構図があったように思えます。

ただし現在、『トムとジェリー』の新作を作る上で、それはもはや一般的には余計な魅力になってしまっていて。あくまでファミリー向けに制作をすることが前提になることは承知しています。そういう期待で本作を見てみると、いや、思ったよりも悪くない。というか、支持できるというと偉そうですが、少なくとも版権を確保して有名なキャラクターで商売するという目的よりは、誠実な印象を受けました」「とにかく観客にストレスを与えないことに危惧した節があって、暴力や破壊から極力、後ろめたさを取り去った感があります」。要するにこのスラップスティックコメディならではの、付きまとう暴力性とかに対して、いろいろとちゃんと計算が働いている、という。

「一方、動物、それも同じ種類の猫やネズミすらしゃべるのに、トムとジェリーは問答無用で無言。スパイクやブッチなどのゲストの登場。オリーブを丸呑みするとその形まんまの胴体になるジェリーの、『見せないよ』からのトムの眼球殴打、などといった過去作引用のお約束の数々は、それなりに古いファンへの接待として機能していたと思います」という。あと、その実写版の俳優たちも非常に魅力的的だったし、バランス取りも非常にできている、というようなことも書いていただいております。

「たしかに邪悪な暴力が過ぎる実写版『ピーターラビット』みたいな作品だったら個人的にはめちゃくちゃ嬉しかったですが、やっぱりあれが異常なんだと思います。正直、『パディントン』シリーズの絶妙な落とし所には及ばなかったのは残念ですし、決定打と言うにはちょっと難しいですが、十分に楽しんで見ることができました」という、なかなかのヘビーファンの方。ただ、この方は大きな不満として、「音楽が不満。スコット・ブラッドリーによるテーマ曲、メロディーというのが、せめて部分的にとか、最後のファンファーレとか、1発でも鳴らしてくれなかったものか……」というようなことも書いていただいております。非常に勉強にもなるメールで、ありがとうございました。

一方、否定的なご意見もご紹介しましょう。「ドレミ仕様」さん。「画面で一生懸命動き回っても、観客の心は掴めない。実写とアニメキャラの融合。適度に立体感もあるアニメキャラで見事と言えるのではないでしょうか。ただ、ストーリーがごちゃまぜで、何が起きても観客の心が動かされていない感じ。ジェリーがトムにちょっかいを出す基本構造ですが、トムとジェリーが連帯する行動原理について、短編だと気になりませんが、長編だと原理原則に基づいた理由にしないとストーリー展開の都合に見えてしまいます」。

たしかに、ご都合主義的なストーリー運びはもう全く、その通りで。「その場の勢いまかせだったように思えました。ウエディング(結婚式)にしても、成功するかどうかは問題でさえなく、キャラを動かすための方便になっていてどうでもいい感じ」というような感じでございます。ということで、皆さんありがとうございました。否定的な意見もすごく長く、説得力があるご意見もいっぱいいただきました。ありがとうございました。

■説明不要の一大ポップアイコン、トムとジェリー

ということで、時間もあるので行ってみましょう。『トムとジェリー』、私もTOHOシネマズ六本木で……ちょっとね、今回は時間がどうしても合わず、吹替版が見られていなくて申し訳ございません。字幕版を同じ六本木で2回、見てまいりました。でもね、大きいスクリーンではなかったけどね、昼の回にしては結構入ってるな、っていう感じがありましたけどね。

ということで『トムとジェリー』。改めて言うまでもないことですけど、一応やっぱり確認しておくならば、ウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラ、いわゆる「ハンナ=バーベラ」のコンビですね。それが1940年にMGMで作り始めたシリーズ、ということですね。猫とネズミが追っかけっこしあう、スラップスティックコメディ。同じMGMのカートゥーンキャラクターで、あの天才テックス・エイヴリーの『ドルーピー』が、今回もお約束的にカメオ出演していたりしましたけども。

で、いろいろと権利の変遷を経て、今はワーナーに在籍をしている、という感じです。まあとにかく、始まって80年以上経過した2021年現在も、おそらく場所とか世代を問わず、説明不要!っていう一大ポップアイコンであり続けている、という。これは驚異的なことですよね。カートゥーンキャラクターで……「トムとジェリーみたいな関係」というような言い方が、今も普通に通用するわけですから。「ローレル&ハーディみたいな」って言ってもなかなか通じなかったとしても、「トムとジェリーみたいな」っていうのは今も、普通の人に通じるわけだから。これってすごい。

ちなみに、これはパンフレットに載っている神武団四郎さんという映画ライターの方が書かれた……「実写とアニメキャラ、夢の共演史」という、非常に勉強になるコラムを書かれていて。これは要するに、今回みたいな2Dと実写のハイブリッドの映画史。非常に実は古くから試みられているよ、っていうのをちゃんと書かれていて、これが非常に勉強になるんだけど。『トムとジェリー』は特にですね、1945年の『錨を上げて』っていう映画でジーン・ケリーと共演したのを皮切りに、わりと今回のような実写とのハイブリッドを、早い段階からやっているようなキャラクターでもあるよ、というのがこれでわかったりする。

で、まあいろいろとね、短編もずっと放送され続けてるし、あとオリジナルビデオ(OVA)の長編は一応脈々と作り続けられてはいるものの、劇場用長編映画としては1992年、これ、50周年記念作品という位置づけでしたね、『トムとジェリーの大冒険』以来となる、今回の新作というね。あれ、ちなみに『トムとジェリーの大冒険』は、ヘンリー・マンシーニのたしか遺作ですよね。でもあったりするという。なんだけど、あれはね、トムとジェリーが普通にしゃべりだす作りだったりしてね、ちょっと諸々失敗作、という位置付けにせざるをえない感じだったんですけど。

で、今回はどうかという。ちょっと順繰りに行きますね。

■ア・トライブ・コールド・クエスト「Can I Kick It?」が流れる冒頭。「今回はこのノリで行きますよ」

まず、冒頭ですね。その映画会社のクレジットが出て、こんな曲が流れだすわけですね。まあ、ある曲のイントロ。(曲がかかり始める)「ああ、ルー・リードの『ワイルド・サイドを歩け』かな?」って思う人もいるかもしれないですけども、しばらく聞いていくと、ビートが重なっていくんですね。はい。ビートが重なってくるので、「ああ、これはア・トライブ・コールド・クエストの『Can I Kick It?』だな」っていうことがわかる、っていうことですね。ビートが入ってきますよ。行ってみよう!(ビートが流れ出す)

はい来た!っていう感じでね。先日、ちょうど番組でも特集的にインタビューをさせていただきました、テイ・トウワさんがマニピュレーターを務めていた。ネタの提供なんかもしていた、ジャングル・ブラザーズのセカンド、からのこのア・トライブ・コールド・クエスト、1990年の言わずとしれた『People’s Instinctive Travels and the Paths of Rhythm』、ファーストアルバムの収録曲でございます。まさにヒップホップクラシック!っていう感じですけどね。ヒップホップが好きでこの曲を知らない人はいない、っていうような曲ですけども。

で、これがただ流れるだけじゃなくて、ニューヨーク上空……これは実景ですね、その実景のニューヨークの上を飛ぶ、3羽の鳩がいる。これは2D風……トムとジェリー側の世界観、2Dアニメーションで、その鳩たちがきっちりとリップシンクと、あと体の動きも合わせて、ミュージックビデオ風というか、この「Can I Kick It?」一番のいま歌っているQティップのパートを、まるごとラップするんですよね。要はそれによって、「今回はこのノリで行きますよ」っていうのを宣言している、っていう感じですよね。

で、そのまま、カメラがグーッと列車に寄っていくとですね、車両の間と間に、猫のトムがキーボードを抱えている。で、なにか街を歩きながらジョン・レジェンドの看板を見て、そこに自分の未来を夢見る、っていう、ちょっとかわいいくだり。これだけでセリフなしでも、「ああ、ミュージシャン志望なんだな」っていうのがわかったりする。で、このまま、「Can I Kick It?」のトラックがずっと流れ続ける中、その上に重なるように、セントラルパークでこのトムが、キーボードを弾き始める。

まあしかも、ちょっと悪質なことにね、サングラスをして、「盲目ですよ」っていう……要するにスティービー・ワンダー風。まあ、名前もちょっとそれ風でしたよね。そんな感じになっている。で、通りかかった人が、「ピアノを弾く猫だ。珍しいわね」なんて言って、チャリーンと投げ銭をしてくれたりするという、この冒頭の場面なんですけども。要はここでまず、本作における世界観というか、ルール設定を、サクッと線引きしてみせているわけですね。1988年の『ロジャー・ラビット』であるとか……僕も大好きです。

あとは『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』、これは素晴らしい。2003年、たぶん実写2Dハイブリッドで結構大掛かりなもので言うと、これが最後ですよね、本作の前だとね。『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』、2003年。ジョー・ダンテ。もう最高!っていう感じですし。あとは、これはもうちょい大人向けですけども、ラルフ・バクシの『クール・ワールド』っていう1992年の作品。もうどれも大好きなんですけども。

過去のその実写2Dアニメのハイブリッド長編映画、特にその成功をしているものは……『スペース・ジャム』とかは僕はあんまり上手くいっているとは思わないんだけども、これもなんか新作、二作目が作られるらしいですけども。上手くいってるやつは、カートゥーンキャラクターと実写の人間が絡むことに、一応きっちりと説明がつく設定が、わりとあった感じだと思うんですね。だから、「アニメキャラたちは俳優でもあって、我々が見ているこれまでの作品は、そこに出演をしていたんだ」っていう設定がつくことが多いんですけど。自己言及的な設定がつくことが多いんだけど。

今回はもうストレートに、「この世界の中の動物は全部2Dアニメーションです!」。人間的なコミュニケーションも時には取れるけど、直接会話したりはしない。だから動物同士でセリフが出てくることはあるけども、人間とは会話したりはしないし、もちろんトムとジェリーはしゃべれない、っていう。あくまでもその、人と動物の関係っていうのを保っている状態、ってことですよね。そういうその線引き。これはもう本当にサクッと……「あの、今回はそういうことなんで! ねえ。これ以上は疑問、持たないでください!」っていう(笑)。「もう、こういうことなんで!」みたいな感じで済ましておいてからの、そのトムの路上ピアノライブに割り込んでくる、ネズミのジェリーという。

■実写+2Dの「気持ち悪さ」=クラクラする異常さ。十何年に一度は見たい。

で、案の定始まるドッタンバッタンの追いかけっこ。皆さんご存知の『トムとジェリー』的な構造。で、ここも実は、『トムとジェリー』の改めての仕切り直しとして、とても実はちゃんとした手順を踏んでいる、と言えて。要はそのピアノ、鍵盤を弾くトムと、そこに絡んでくるジェリー、っていうのは、『トムとジェリー』、いろんな場面とかいろんな仕掛けがありますけど、一番定番的な、一番『トムとジェリー』らしい構図で。『素敵なおさがり』とかね、あとはずばり、『ピアノ・コンサート』っていう、要はピアノを弾いて……という、いろいろとそのエピソードがあるわけです。

だからこそ今回の映画では、そのトムとピアノ演奏、で、そこに絡んでくるジェリー、っていうのが、本当にもう最初からラストまで、繰り返し、一貫したものとして出てきますよね。しかもそのうち1曲は、Tペインがレイ・チャールズの「Don’t You Know」を歌うっていう……Tペインの歌唱でっていう、ヒップホップ時代の伝統主義、というような感じも入ってきたりもするということで。

で、その中でやっているギャグも……これ、さっきのメールにあった通りです。そのトムの手のひらの中にいるジェリーが、何か手を丸めて中を覗いている。「何かな? 何かな?」ってトムが見たがっていると、ドーン!って殴られ返す、っていうギャグは、元は『ネズミ取り必勝法』っていう1940年代のオリジナル。それの忠実な再現なんです。要するにザ・トムとジェリークラシック!っていうのをやってみせているわけです。だから、言っちゃえばサンプリングですよね。直接的なサンプリングというのを、要所でやっていて。

要はその、『トムとジェリー』としての正統性も、実はものすごく律儀に継承している作り。まあ、なんかヒップホップ世代っぽいっていうか、サンプリングをしてるっていうかね、リスペクトの表し方というのがヒップホップ世代っぽい感じ、ではありますよね。あと、メインの舞台がね、ニューヨークのその格式ある老舗高級ホテル、っていう風に設定されているのも、絶妙だなと思っていて。まずその、『トムとジェリー』的2Dカートゥーンアニメーションの持つそのクラシカルなムード。やっぱり元は1940年代から始まってますから。そういうムードともフィットするし。

実際、そのホテルの歴史っていうのがちょっと劇中で語られるのが、なんかハンナ・バーベラのキャリアとか、その2Dカートゥーンの歴史とちょっと重なるような感じになっているらしいんですけども。あと、その生身の人間による、その実写の方のスラップスティックコメディ、あるいはそのスクリューボールコメディ的なものの背景としても、ホテルってやっぱ、すごい最適ですよね。あるいは、そのさまざまな人種が行き来するのが当たり前の場……つまり、その2Dアニメの動物キャラクターも含め、いろんな人種とかが行き来してて当たり前の場。これ、要はそのポリティカル・コレクトネスが普通の常識、マナーとして前提にある場としての、現代ニューヨーク。

ゆえに、アップデート感も自然に出せる舞台立てでもあったりして。要するに、いろんな人種の人が、いろんな立ち位置でいて、全然普通。そのこと自体が普通っていう、そういうアップデート感も自然に出せるし、っていう。で、実際にまあ、そういう絶妙な舞台立ての中で、カートゥーンに負けじと、大きな表情と動きでドッタンバッタン奮闘してみせる、クロエ・グレース・モレッツ。これ、書かれている方、多かったけど、やっぱり近年のクロエ・グレース・モレッツの中では、一番かわいいっすね。やっぱりね、めちゃめちゃキュートだし、マイケル・ペーニャも、かわいい(笑)。マイケル・ペーニャ、まあとにかくスラップスティック映えする……「ボヨーン!」みたいなのが本当に似合いますよね。なんか、2Dアニメキャラクターにおちょくられるのが本当に似合う、っていう感じだと思いますけど。

というか、僕今回改めて「ああ、なるほど」と思ったのは、実写と2Dのハイブリッド作品特有のね、そのどうかしてる感……僕、最初に予告を見た時は、「うわっ、気持ち悪!」って思ったのね。どうかしてる感。まあ、異なる次元のものが同時にそこにある奇妙さ、クラクラするような異常さ。異常ですよね。その異常さっていうのは、そもそもスラップスティックコメディと、相性がいいんですよね。

だからその、2Dと実写のハイブリッドは……なんなら実写だけより、それこそ2Dアニメそのものよりも、より異常じゃないですか。よりハチャメチャ度が高いと言えるわけだから。なので「ああ、やっぱりこの手法、面白いんだな」っていうのはすごく、改めて気づかされたりもしました。まあ、ずっとそればっかりやっていると、たぶんインフレしてきちゃうけども。やっぱり十何年に1度ぐらいは見たいな、みたいな感じがあったりしましたね。

■ヒップホップ世代の監督が、サンプリングも駆使して『トムとジェリー』を現代的に仕立てる

まあ、そんな今回の『トムとジェリー』。脚本のケビン・コステロさんという方はですね、あれですね、あの『ブリグズビー・ベア』の脚本の方ですね。2018年7月27日に私、評しておりますが。そしてなにより注目すべきは、制作総指揮・監督の、ティム・ストーリーさん。今回、やっぱりティム・ストーリーさんの色がすごく強いと思います。2005年と2007年の『ファンタスティック・フォー』二作、まあこれが非常に有名ですけども。元々はラップやR&Bのミュージックビデオをいっぱい撮られている、アフリカ系アメリカ人の方で。出世作は2002年の『バーバーショップ』ですね。

もう、あのアイス・キューブが、完全にコメディ演技に徹してみせた『バーバーショップ』であるとか。やはりアイス・キューブ主演、ケヴィン・ハートと共演した2014年の『ライド・アロング』……二作目もありますから『ライド・アロング』シリーズであるとか。あと今、日本ではNetflixで見られる、『シャフト』の2019年版。お爺さんとお父さんと息子の三代のシャフトが揃い踏みする、っていうね。息子はあれですよね。『ザ・ボーイズ』のAトレイン(ジェシー・T・アッシャー)ですよね。あの『シャフト』であるとか。

要は、ゴリゴリのヒップホップ世代の、ヒップホップ畑のアクションコメディを得意とする人、みたいな感じで。『シャフト』には、メソッドマンが普通に俳優として出てたりなんかしましたから。まあそんな感じで、だからさっきも言ったように、『トムとジェリー』らしさの本質を、直接的なサンプリングを含めて忠実に受け継ぎつつ、その現代的なものとして仕上げる、っていうような、そういうスタンスでやっている方ですよね。たとえば、そのホテルの中に陣取った、ジェリーのその部屋にですね……まずその部屋で流すのがジョデシィの「Come & Talk To Me」っていう、あれを流していて。このへんのセンスも素晴らしいですけども。

まあ、そのトムが、電線を伝って侵入しようとするが、毎度同じように電気ビリビリ、ビターン!っていう、この繰り返しギャグ。いかにも『トムとジェリー』っていうような、もしくはこういうカートゥーンアニメっぽいギャグがあるわけですけど。で、ようやく部屋に入って、本格的な追っかけっこ。そこで渋く……「あっ、そういう選曲、してくる?」って流れだすのが、エリック・B&ラキムの1992年「Don’t Sweat The Technique」っていうね。これが流れ出して。この選曲の妙ですよね。「ああ、そう来る?」みたいな。

で、ここね、すごい場面としても面白くて。縦横無尽に動き回るトムとジェリー。これ、2Dアニメーションですよね。で、それに従って破壊されていく、部屋の中の実景、実際の小道具、もしくはその実際の小道具風に見せたCGIなのかもしれないけども……などが、たぶん恐ろしく複雑かつ高度に、でもパッと見には当たり前のように組み合わされて、シンクロする。全体が「そういうもの」のようにシンクロしている見せ場であって。これ、曲使いのセンスと、あとその、なんかすごいことをやっているのに、「そんなにすごく見せない」感じも含めて、ああ、これはなかなか……っていう感じで、アガりますよね。

■欲を言えば、トムとジェリーと人間がミュージカル的に絡むシーンが見たかった。

まあ、こんな感じでですね、実景、実写とその2Dの絡み、当然のことながら、どんどんどんどん複雑化、巨大化していく。そしてそれに伴って、ディザスターの度合いも──まあ、できるだけむちゃくちゃになるのが楽しいわけですから──巨大化していく。ホテルのバー、ロビーでのね、トムとジェリー、そしてあの犬のスパイク……スパイクもかわいかったね。あのコブのくだりとか、やっぱりもうおなじみですからね。それと、さらにマイケル・ペーニャ、実際の人間も交えた四つ巴の、ホテルのバーからロビーにかけての大破壊であるとか。

そこから先、もう一番大掛かりな、象とか虎とかクジャクとか蝶、これ全部2Dアニメーションですよ……まで入り乱れる、結婚式のシーンまで、どんどん巨大化していく。あるいは、前半でちょっと軽いフリがあってからの回収ともいえる、あのクライマックスの追跡劇。ちょっと派手めの追跡劇。トムとジェリーがちゃんと協力プレイするのはここが唯一の、見せ場になるわけですけど。ここではあのDJシャドウ feat. デ・ラ・ソウルのね、「Rocket Fuel」っていうね、これも選曲として非常にぴったりっていうかね、ヒップホップ選曲であったりするというあたりで。まあ、すごくバランスとして一貫したバランス、ティム・ストーリーさんらしい見せ方、っていうのがありますよね。カラーがね。

まあ、欲を言えばね、ストーリーがご都合主義云々っていうのはそういうものだとして置いておくとしても、トムとジェリーと実写人間が、ミュージカル的に絡むシーン。一緒に踊るとか。もっとそこがあるべきですよね。せっかく、それこそ結婚式の場面とか、最後のシーンでもいいんですけども、ボリウッド的なその舞台立てとかもあったりするわけだから。あそこ、もっと面白くできそうだけど、なんか時間がなかったのかな、みたいな感じも……ちょっとコロナ禍っていうのも関係していると思うんですよね。ポストプロダクション全部、在宅で皆さんやった、っていうことらしいんで。

ひょっとしたらコロナの影響もあって、そういうところが足せなかったのかな、っていう気もするし。あと、実写の人間で言うとですね、面白いんだけど、『ハングオーバー!』シリーズでおなじみのケン・チョンのキャラクター。まあ、またぞろその、「コミュニケート不能レベルでエキセントリックなアジア人」キャラクターか、またこういう役か……みたいなのもあるし。まあ、結局その彼のキャラクターだけは、フォローがないんですよね。

なんかちょっとそれは……唯一のアジア系メインキャストで、やっぱりすごく気にして見ちゃうから。他の部分がすごく現代的にバランスが取れている部分、ケン・チョンだけなんかあんまり……なんか『ハングオーバー!』からあんまり変わってないな、みたいなのが、ちょっと気になったりもしましたよ。

■不満を持つ人も理解できるが、これはこれで成功作!

でもまあ、概ね、もちろん視覚的に非常に楽しいですし、実写×2Dのハイブリッド……やっぱりこれは、さっき言った2003年の『ルーニー・テューンズ:バック・イン・アクション』っていうのが今のところ一番、これまではすごく一番進んだ形だったと思いますけど、そこから、見比べると分かるんですけど、さらにやっぱり複雑に、かつ自然になっていて。

そういう、目に対する驚きみたいなものも……しかも、それをあんまりすごいことをやっている風に見せない感じも含めて、スマートかな、っていう風に思いますね。なによりもやっぱり、ここまで純粋にスラップスティックに徹した長編コメディを堂々とやれるのは、ひょっとしたらこの2D×実写のハイブリッドだからこそじゃないのかな?って。2Dアニメーションだけでナンセンスなあれをずっと続けるっていうのは、たぶんもう土壌的に……ねえ。『くまのプーさん』もコケちゃったし。なかなか難しいかもしれないし。

実写でここまでめちゃくちゃは──まあフィル・ロード(&クリス・ミラー)のある種の作品はその要素があったりしますけど──難しい。だから、すごくいいのかなと思います。なによりやっぱりね、今時流行りのその、3DCGに起こして、毛のフサフサを再現しましたとか、そういう余計なこところに労力を使わなかったのは、本当に大正解だなという風に思ったりします。あとやっぱり、なんだかんだで一応、もちろん全体のストーリーは美談風に着地はしているけど、「いや、別にいい話に終わらせたいわけじゃないんで」っていうのが、エンドロール後にしっかりついていて。

あの、しっかりがっかりさせてくれるのがついてくるっていうのも(笑)、僕はあそこにも心意気を感じたりもしました。こんな感じなのでぜひ、ワーナーの『ルーニー・テューンズ』の他のメンツ、僕はやっぱりまたあのバックス・バニーと……僕が一番好きなのはダフィー・ダックなんで、それでちょっと一発、あのジョー・ダンテ級の破壊的な、もう頭がクラクラするやつをこの流れで作ってくれたら、もう言うことなしかな、という風に思いますけどね。

でも、先ほどのメールにもあった通り、たとえばそのオーケストレーションについて、「こういうところは付けてくれよ!」っていうのはたしかに……でもそれもね、コロナ禍も関係があるんじゃないかな? オーケストレーション、集められなくて……とか、関係があるんじゃないかな?っていう気もしますけどね。はい。

まあ僕はでも、まずはこれ、これ自体としては成功というか、ティム・ストーリーさんの作品としてもすごく色が出てるし、成功作じゃないかと思います。こういう試み、まだまだ続けてほしいという意味で、気軽に最高に楽しめる一作として、ぜひぜひ劇場でウォッチしてください。

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『JUNK HEAD ジャンク・ヘッド』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。