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贋作騒動に美術界激震。なぜ起きてしまった?

森本毅郎 スタンバイ!

今週月曜、「偽物の版画」が大量に出回っているという報道があり、美術界に衝撃が走りました。現在、警視庁は著作権法違反の疑いで調査中ということですが、どんな事件なのか?なぜ起きてしまったのか?対策はないのか?2月11日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。

 

田中ひとみの現場にアタックhttp://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20210211073445

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)

 

まずはどんな事件だったのか?美術作品の流通に詳しい、東京京橋「翠波画廊」の代表、髙橋芳郎さんに聞きました。

★日本画の巨匠の「贋作」流通

「翠波画廊」代表 髙橋芳郎さん
本来、普通に流通している本物の版画と同じものが作られて、本物であると売られてしまいました。東山魁夷、平山郁夫、片岡球子という日本画の著名な方の作品。市場価値も高く、高値で取引されるような作品。高いものだと、小売価格が800〜900万円のものもあったようです。非常に残念。今までだと贋作はポツラポツラ紛れ込んでくると感じだったのが、今回はかなり大がかりに大量に作られていたことが驚きです。
森本毅郎スタンバイ!

京橋にある「翠波画廊(すいはがろう)」。美術品の流通に詳しい代表の髙橋さんに聞きました

今回、偽物が確認されたのは、日本画の巨匠、平山郁夫、東山魁夷、片岡球子の10の作品。平山郁夫の「流沙朝陽」は、美術に疎い私も知っている有名な版画です(ラクダが砂漠を歩く様子が印象的な絵です)。

驚きなのが、流通している贋作の数。報道によると、大阪の画廊が、奈良の工房に8年程前から作らせていたとされていて、その数800枚にのぼるとも言われています。

しかも、それらの贋作が、実際に百貨店などで販売されていた可能性も浮上。大丸や松坂屋を運営する「J.フロント リテイリング」や「高島屋」は、過去販売していたものに紛れ込んでいたのではないかと調査中。「そごう・西武」では、これまで販売した71点、販売額にして5500万円相当の作品が偽物だったのではないかということで、返金手続きを進めているようです。

このように、近年稀に見る規模の贋作騒動。先ほど話を聞いた「翠波画廊」は、今回の事件とは無関係ではありますが、代表の髙橋さんは美術界の信頼を揺がしかねない事態だと心を痛めていました。

★なぜ見破れなかったか?

では、なぜ多くの画商が偽物だと見破れなかったのか。「翠波画廊」の髙橋さんはこう分析しています。

「翠波画廊」代表 髙橋芳郎さん
かなり精巧に再現されていたのではないでしょうか。かつて版画は制作工程が複雑で、同じものを作るのは難しかったんです。反対に水彩、油絵、日本画のような一点物を模して作る方がしやすかったんです。ところが、滲んだり絵具が飛び散ったり、複雑な表現方法を再現できる技術が発達してきたので、今回のような作品が作られたのかなと思います。それと一番大きな理由の一つとして、私たち翠波画廊の場合は「外国の版画」という専門性を持って、自信のあるジャンルしか取り扱わずに、しっかり真贋の鑑定を極めています。ところがそういう美術商が減ってきていて、見抜けなくなっているのかなと、これは懸念材料です。

そもそも版画は、偽物が作りにくいとされていて、通常、版画の元となる「原版」は、決められた量を刷った後、基本的には廃棄処分されており、簡単に刷り増しができないようになっているそうです。しかも、一点一点、通し番号が書かれていて、200枚なら200分の1〜200まで番号がふられ、希少価値を保つようにしています。

その上で「カタログレゾネ」という総目録が作られ、本物かどうか照らし合わせができるようにもなっているようです(カタログレゾネには、何年の作品か、何の紙を使っているか、図版サイズや枚数、どの版元から売られたかというデータが、本に纏められています)。

ところが版画はこれとは別に、予備で刷り増ししておく「EA版」、関係者に謝礼として配る「HC版」と呼ばれるものが存在していて、今回は通し番号のものだけではなく、「EA版」、「HC版」が多く偽造されてしまったそうなんです。そのため、カタログレゾネとの照合もできず、見破れなかった・・・

ただ「翠波画廊」の髙橋さんからは、一番は判定する側の「見る目」の問題です、と言う指摘もありました。髙橋さんは海外の作品を得意とするため、自信を持って鑑定できるものに絞って取り扱っているそうですが、いま美術作品は色んな所で、ジャンルを問わず売られるようになってきたので、きちんとした審美眼を持つ人のチェックを通らないこともあるのではということでした。

★「ICチップ」で作品を管理

そしてこの状況、どうすれば良いのかと思い調べてみたところ、今回の事件を防げたかもしれない、そんなシステムを開発したベンチャー企業がありました。スタートバーン株式会社の代表、施井泰平さんのお話です。

スタートバーン株式会社代表 施井泰平さん
どこが作品を発売したか、どこで作品が作られたかを証明するサービスです。ICチップが内蔵されているシールやカードを発行し、直に作品に貼ったり、証明書に貼ることで、証明書の真正性を担保します。他のコレクターの手に渡ったときには、所有権が移動したという記録が改ざんできない形でネットワーク上に記録されます。美術作品は、100年、200年世界に残っていく。だから当時発行した人が世の中にいない状態になると、未来永劫証明できない。本物であるという情報や、秀吉が使った刀っていう情報が、作品の価値を決める世界なので、そうした情報の管理は、とにかく重要。そこを管理するシステムです
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サービス概要図(スタートバーンホームページより)

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証明書情報を閲覧するビューアイメージ(スタートバーンホームページより)

ざっくり言うと、和牛のトレーサビリティーのように、生産地や流通経路がわかる仕組みです(それが世界中からアクセス可能で、所有者情報などを追記していける!)。

ICチップは1枚1000円で、昨年から売り出していて、著名なコレクターや財団から引き合いがある等、需要は高まっているようです。

実は、施井さんも美術家の一人で、今回の贋作騒動にも当然憤っていました。ただ「1万円札を偽造するより、数万円の贋作の方が効率が良いので、悪巧みをする人は減らない。根深い問題なんです」とも話していて、美術界全体の深刻な問題とも言えそうです。

今後は、こうしたシステムで、作家も、愛好家も、守れれるようになるといいですね。