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宇多丸、『新感染半島 ファイナルステージ』を語る!【映画評書き起こし 2021.1.8放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

今週評論した映画は、『新感染半島 ファイナル・ステージ』(2021年1月1日公開)です。

 

オンエア音声はこちら↓

宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する、週刊映画時評ムービーウォッチメン。今年最初に扱うのは、1月1日から全国公開されているこの作品、『新感染半島 ファイナル・ステージ』

(曲が流れる)

2016年制作、2017年に日本でも公開された韓国のゾンビパニック映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』の続編。人間を凶暴化させる謎のウイルスが韓国を襲ってから4年後。香港へ逃げ延びていた元軍人のジョンソクは、隠された大金を回収するため、荒廃した韓国へ戻る。しかし、そこには大量の感染者だけではなく、凶暴な人間たちが待ち受けていた。

主人公のジョンソクを演じるのは『MASTER マスター』や韓国実写版『人狼』などのカン・ドンウォンさん。あとね、『義兄弟 SECRET REUNION』とか、いろいろとありましたね。『1987、ある闘いの真実』とかね、いっぱいありますけども。脚本・監督は前作に引き続き、ヨン・サンホさんが務めました。

ということで、この『新感染半島 ファイナル・ステージ』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。

メールの量は、「多い」。やっぱり、あれですかね。前作の『新感染 ファイナル・エクスプレス』が非常に好評だったとか、あとまあ、お正月一発目でね、新作公開ということで、期待されていた方も多いんじゃないでしょうか。メールの量は非常に多いです。ありがとうございます。

賛否の比率は、褒める意見がおよそ半分。あとは「よくなかった」と「普通」という方が2対1ぐらい。褒める意見としてあったものは、「前作とは違うが、これはこれでよし」「前作からストーリーもアクションアップデートされており、満足度が高い」「お正月映画にぴったり」などがございました。一方、否定的な意見としては、「本当に続編? 前作にはまるで及ばない」とか、「テーマもないし、どこかで見たような映像やアクションばかり」「スローモーションもくどいし、ゾンビの描き方もご都合主義的で萎える」などがございました。

■「2020年代はこの映画が基準になる」byリスナー

代表的なところをちょっと抜粋しながらご紹介してきますね。ラジオネーム「季節の変わり目ソルジャー」さん。季節の変わり目ソルジャーさんは、1月1日に電話出演していただいた方ですね。「元日のアトロク前に『新感染半島 ファイナル・ステージ』を見に行きました。感想は『マッドマックス 怒りのデス半島』……つまり、最高でした。1人では全員を救えない罪悪感とか、自分の子を助けたい親の気持ちとか、本当に怖いのはゾンビよりも人間、など極限に追い込まれた人間をあるあるで描きつつ、カーチェイスやストーリーがアップデートされていて、2020年代はこの映画が基準になるという予感をビンビンに感じました。

アップデートを感じた箇所ですが、女性や子供がクールに活躍する場面よりも、エンディングの『自己犠牲ではなく、みんなで助かろう。助かっていいんだ』というシーンです。前作の『新感染 ファイナル・エクスプレス』のコン・ユ演じるキャラクターの自己犠牲というものを踏まえ、続編という次のステージに到達するためにラストが必要だったと思います」という風に仰っています。

とりあえず仰っている部分、なるほどな、そういう読み取り方、面白いな、と思いましたけど、普通に見れば、(ジョージ・A・ロメロ監督の)『ゾンビ』のオマージュだと思いますけどね、あのエンディングのバランスはね。まあでも、こういう読み解き方も面白いかなと思います。あとはラジオネーム「ちり」さんも、やはり同じようにラストについて、前作の自己犠牲に対しての今回のエンディング、というところに納得したみたいなことを書いていただいております。

あとはですね、いまいちだったという方もご紹介しましょう。ラジオネーム「かるぼなーら」さん。「映画の感想に関してですが、結論としては否です。アクション部分はよくできているものの、テーマ性が薄く、全く印象に残らない作品でした。作品としての出来が悪いとまでは言いませんが、今後どんな作品が出てきても今年のトップテンには間違いなく入らないです」という。それで前作と比較して、前作はこういうところがよかった、みたいなことを書いていただいて。

「ところが今作は、アクション面でははるかに進歩しているものの、作品を通じて表現されるテーマらしきものがほとんどなく、あまりの変わりように監督が変わったのかと思いきや、同じ監督だったので驚きました。前作は予算のない中でいい作品を作ろうと工夫した結果、テーマ性のある作品になっていたのに、今作は恐らく予算が増えた一方で中身のない作品になってしまったのではないかと思います。特に終盤の『マッドマックス』オマージュの展開は既視感がありすぎて完全に冷めてしまいました」というようなご意見。

あとはですね、こちらは「ラジオできるかな」でもご紹介というか、特集もやっていただきました、ラジオネーム「ジョン@営農とサブカル」さん。この方、ジョンさんも、「ちょっと物足りなさを感じる映画でした」という風なことを書いていただいて。

「感動的なシーンのスローモーションがクドいのは韓国娯楽映画の伝統芸能みたいなものなので、そういうものだと諦めるとして。『マッドマックス』ばりの縦列カーチェイス、痙攣を多用する狂牛病みたいなゾンビの動き、カン・ドンウォン演じるジョンソクのCQB(近接戦闘)シーンなど迫力があってよかったです。ただ、私が期待していたのはヨン・サンホ監督の、ジョージ・A・ロメロのゾンビ映画に通じる、現実社会の問題が映画の背景に見て取れるところだったので、そのへんが薄くてちょっと残念でした」という。で、ヨン・サンホ監督の過去作にはこういうところが反映されていた、というのをいっぱい書いていただいて。

「今作は、現代韓国の行き過ぎた競争社会がテーマとして入ってるのかなと見ながら思っていました。出るのも留まるの地獄な、『ヘル朝鮮』と自嘲されることもある現代韓国社会のようにも思います。そんな劇中の半島の状況でも、『家族でいたからそんなに悪い世界ではなかった』とイ・レ演じるジュニが語るのはとても泣ける言葉だなと思いました。ただ本作はそういう背景に見え隠れするものが薄く、アクションがモリモリで面白いは面白いのですが、『面白かった! 泣けた! 終わり!』で済んでしまうような映画になっているのが前作を楽しんだ者としては残念です。ちなみに農業描写については潔いぐらい生活描写がなかった映画なので、話せることがありません

……と言っていただきつつも、先ほどちょっと(金曜パートナー)山本さんと話したことですけど、「残っている物資を食いつぶしたらそれ以上生きてはいけないのに、半島の外に出ることも、持続可能な生活をすることもできない半島の生存者ととると、現実の韓国社会に住む人々の暗喩のようにも取れるかと思います」というような読み解きを……「ちょっと考えすぎかもしれないけど」と言いながら書いていただいています。皆さん、メールありがとうございました。

■「ゾンビ映画」のフォーマットを韓国映画なりのやり方で生かし切ってみせた

ということで、私も『新感染半島 ファイナル・ステージ』、この日本タイトルがつく前に、『半島(Peninsula)』という原題がついてる段階で、例によって『週刊文書エンタ!』というムック本で星取表、ガチンコシネマチャートをやるために、一早く、去年の時点で見させていただいております。そして、TOHOシネマズ日比谷で、IMAXでも見てきました。これ、韓国映画で2本目になるのかな? IMAX撮影をしたという作品らしいですけどね。部分的にね。

ということで、とにかく先ほどから話題に何度も出ております、韓国産ゾンビ映画の傑作にして……何よりやっぱりここですね、ゾンビ映画としても面白かったけど、あまりにも美味しすぎる役柄のハマりっぷりも相まって、(火曜パートナー)宇垣さんも今やぞっこん、マ・ドンソクが完全にスター化していく大きなきっかけとなった、2016年のみんな大好き、日本タイトル『新感染 ファイナル・エクスプレス』、元は『釜山行き』というタイトルですけれども、その作品の、4年ぶりの続編であると。

で、このタイミングで、その元の『新感染 ファイナル・エクスプレス』、僕も改めて見返しても、やっぱりたとえばその「列車内」という、限定的かつ位置関係が明確な、つまりやはり明らかに映画的な舞台だてを最大限に有効活用しつつ……あの「○号車まで行かなきゃいけない」「今いるのが×号車で、○号車に行かなきゃいけないけど、間にこれがあって……」みたいな、その位置関係が非常に明確というこの舞台だてを最大限、非常に有効活用しつつ、「恐怖と疑心暗鬼から、助け合うどころか蹴落とし合いになり、自滅していく人間たち」であるとか。

「身内が目の前で怪物化してしまう」その切なさ、悲しさ、などなど、言っちゃえばゾンビ映画の定番ですね。定番なんだけど、やはり大事なポイントというのを、丁寧に描き出していて。決して目新しいことをやってるわけじゃないんです。新しいことをやってるわけじゃないんだけど、「ゾンビ映画」というフォーマットを、韓国映画なりのやり方で正攻法で生かし切ってみせたという、なるほどこれはやはり本当によくできた1本だな、という風に改めて見ても思いました。

■元はアニメーション作家だったヨン・サンホ監督は実写のほうがアニメ的ケレン味たっぷり

脚本・監督のヨン・サンホさん。元々はアニメーションの作家さんなんですね。で、その『新感染 ファイナル・エクスプレス』とほぼ同時期、ちょっと1ヶ月ぐらい遅れて韓国では公開された、『ソウル・ステーション パンデミック』という、これはその『新感染 ファイナル・エクスプレス』の前日譚というか、共通するキャラクターがいるわけではないので、要はそのゾンビ蔓延状況の初期段階を描いたアニメーション作品もあったりなんかして。なので一応、今回の『ファイナル・ステージ』というこの作品は、三部作の三作目、という位置づけになっているということですけども。

で、とにかくそっちの『ソウル・ステーション パンデミック』は、本当に救いゼロ、人間の醜さ全開の、ダークな内容で。本当にアンハッピーエンドで、結構キツめの中身の映画なんですけども。あるいは、その『ソウル・ステーション』とか、僕はこのタイミングで遅まきながら見た、2013年の『フェイク 我は神なり』という作品があって。これは、もうすぐダムに沈んでしまう予定の田舎の集落に、本当は詐欺師がバックにいる宗教団体が入り込んできて……という。日本だったら入江悠監督に実写でリメイクしてもらいたいような(笑)、どよーんとしたノワール群像劇というか、そんな感じの話で。

あと、僕はこれ、現時点では見られてなくて申し訳ないんですけど、そのさらに前の長編デビュー作『豚の王』という、これは韓国アニメ界初の大人向け残酷スリラーということらしいんだけど。アニメとしてはね。やっぱりあらすじとか評価を読む限り、韓国社会のそのリアルな闇を浮き彫りにするような、ハードな作品みたいで。要はこのヨン・サンホさんという方、元々のフィールドであるアニメーション作品では、より突き放した、完全に大人向けの、どよーんと暗い作品をずっと作ってきた人なわけですよ。

で、それがこの方は、不思議なもんで実写作品になると、若干モードが変わるわけです。それこそ、むしろこちらの方が本来の意味で「アニメ的」と言っていいような、ケレン味たっぷりにデフォルメされたVFXアクションを駆使して、たとえばその『ファイナル・エクスプレス』であればゾンビ物、あるいは、日本ではNetflixで配信となった2018年の『サイコキネシス 念力』というリュ・スンリョンとシム・ウンギョンさん主演の超能力物、といったように、そのジャンル物エンターテイメントを現代韓国映画として、しかもケレン味たっぷりにやってみせる、というような、わりと開かれたスタンスになる傾向があるように思えます。実写の際のヨン・サンホ作品は。

わりとベタなというか、コテコテの笑いとか泣かせとかもちりばめていたりして、そのへんも、アニメ作品とははっきり作風を変えてきている、というようなあたりだと思います。ただし、そのアニメ作品と実写作品、陰と陽というような違いはあるんだけども、共通しているのは、どちらもですね、やはり現実の韓国社会の問題とか歪みといったものが、常に背景に敷かれている、というところは割と一貫して、共通している。

全体としてはそのコテコテのコメディ感の方が強いと言ってよかろう、さっき言った『サイコキネシス』とかもですね、話のベースとなっているのは、たとえばヤクザを使った地上げであるとか。あるいは、なんとあのチョン・ユミが、本当に嫌な感じに見える悪役を演じてるんですけど、それも、言っちゃえば例の「ナッツ・リターン」でおなじみの、「ナッツ姫」的な、格差社会の酷薄さみたいなものが反映されてるような感じだったりとか。

さっきから言ってるその『ファイナル・エクスプレス』、ゾンビ物なんですけども、そこで最も悪役的に見えるおっさんたちの振る舞いっていうのも、僕は、やっぱり2014年のこのセウォル号事件とか、そういうのに対する社会の怒りがどこか反映されてるんじゃないかな、少なくとも韓国の観客の方はそういう風に連想するんじゃないかな、みたいな風に思って見てましたけど。

■『ファイナル・エクスプレス』『ソウル・ステーション』と合わせた三部作だが関連性は低い

その意味で、その『ファイナル・エクスプレス』の物語から4年後、ゾンビがあふれ返って、それ以外の世界からは完全に隔絶した場所となったその韓国、朝鮮半島の南の方ということで。原題は『半島(Peninsula)』というものがついておりますが。極めてそのフィクション性が高い設定の本作、ヨン・サンホさんがこれまで作ってきたどの作品よりも、その現実的な社会風刺要素は、わりと薄めですよね。やっぱりね。架空の世界が舞台になっていますし。

起こってしまった事態の深刻さとか、ディザスターの規模の巨大さとは裏腹に、今回は、言っちゃえば結構思いきりポップというか、ヨン・サンホ作品としてはぶっちぎりで気軽に楽しめる、エンタメ性が高い一作、という風に思います。だいぶモードをこっちに振り切ってきた、という感じがしますね。

ちなみにその『ファイナル・エクスプレス』、『ソウル・ステーション』、っていうこのゾンビ物、一応三部作という位置づけですけども、いずれもその共通するキャラクターはいないし、話的な関連性も、「ゾンビ的な感染症が韓国に蔓延しましたよ」という状況以外は、全く関連はないので。それぞれ独立した作品として普通に見られますよ、ということなので。ご安心してこの作品から見ていただいていいと思います。山本さんも実はその『ファイナル・エクスプレス』の方はご覧にならずにこっちを見て、「面白かった」という風におっしゃっているのでね。

■正統派ゾンビ物なのは冒頭10分だけ。それが前作の凝縮版になっているのがうまい!

ということで、今回の『新感染半島 ファイナル・ステージ』ですけども。順を追っていきますけども、まずタイトル前、アバンタイトル、10分ほどあるんですけど、そこで前作『新感染 ファイナル・エクスプレス』でやったようなゾンビパニック物の定番的要素を、実はこの10分間で、一通り押さえてくる。言ってみれば最初の10分で、前作でやってきたことを凝縮して見せるわけですよ。

極限的な状況下で出てしまう人間の利己性であるとかエゴであるとか。その一方で、愛する者が目の前で怪物化してしまうその絶望。そして、そこで残された者が取る選択の、いずれにしたって悲しくて辛い選択、みたいな。しかも、それが最終的には「突き当たりの部屋とドアを挟んだ廊下」という、限定的かつ直線的空間の中で展開されるわけですよ。これ、完全に『新感染 ファイナル・エクスプレス』の凝縮版なんですよ。最初の10分は。これ、うまいですね。だから要するに、前作までのあらすじとかじゃなくて、映画そのものの展開として、前作までやったことを凝縮して見せている。「うまいな!」と思いましたけどね。鮮やかな手際だと思いました。

逆に言えばですね、今回の『ファイナル・ステージ』で正統派ゾンビ物的なのは、この冒頭10分だけ、と言ってもいいと思います。で、タイトルが出て本編。その4年後。さっき言ったように外の世界から隔絶され、中ではたぶん無数のゾンビがあふれ返っているであろうという、かつての韓国にですね、香港のですね、なんか白人のおっさんが仕切っている雑な感じの犯罪組織から送り込まれる形で、決死の里帰りをすることになる、カン・ドンウォン演じる元軍人の主人公と、これは火曜日の韓国映画特集でも岡本敦史さん一押しでした、ひどい目にあうのがよく似合う(笑)キム・ドユンさんなどなど、が送り込まれる。

要は、韓国に放置された大金、お宝を、鳥目気味なゾンビたちは比較的夜はおとなしいっていうことで、「夜の間に取り戻してこい」というミッションを、なんだかんだで請け負ってくるという。で、仁川港から市内におそるおそる忍び込んできて。ここまでが約20分なんですよ。非常に序盤のテンポが快調で。「いいね!」っていう感じなんですね。廃虚と化したその街並みをこわごわと進んでいく中で、主人公が目にする、ある異様な光景。月明かりに照らされて、その異様な光景の全貌が現れていく、というスリリングなくだりがあるんですが。

ここが、単にビジュアル的な見せびらかしに終わらない作りに、ちゃんとなってるあたり。ヨン・サンホさん、やはりたしかな腕を持ってるな!っていうのは、特に見終わると、「ああ、やっぱり本当にヨン・サンホ、うまいな!」っていう感じがするあたりでございます。

『ニューヨーク1997』+『マッドマックス2』+『ゾンビ』!

で、とにかくなんやかんやあってですね、その目当ての現ナマが詰まったトラックを発見する、という。しかしですね、ここで……やはり、あれですね。こういうところで、「楽勝だったな!」なんてことを言うと(笑)、これはいかにもフラグと言わざるをえない。「楽勝だったな!」なんてことを言った途端にですね、当然これ、主人公たちにとってはすんなりと帰られそうもない、不測の事態が次々と起こることになるわけです。

ただし、もちろん直接的な脅威はね、そのうじゃうじゃいる……そして、ここがポイントですよね、やっぱり。「光と音」に強く反応して、全力疾走で迫ってくるゾンビたち。それが直接的な脅威ではあるんだけど、実はこの「楽勝だったな」から先、不測の事態が起こってくる、ここから先は、急速にですね、ゾンビたちは、「単なる設定上の危険」に後退していきます。つまり、二幕目からは、「今回はゾンビ物ではないんですよね」っていう感じになっていく。「今回は別のジャンルなんすよね」っていうことが、このあたり、だいたい30分目ぐらいからはっきりしていく。二幕目から。

じゃあ、それは何なのか? まず、外側の世界と隔絶した、その封鎖された地域。そこは、極悪なボスに束ねられた暴力的集団が支配する、無法地帯と化していて。主人公はその中に入り込んで、お宝をゲットし、時間内に脱出しなければならない、というこの基本ルール。これがまあ、これは『文春エンタ!』の寸評にも書きましたけど。まあ、ずばり『ニューヨーク1997』ですよね。これね。ジョン・カーペンターのね。

で、ヨン・サンホさんは『ニューヨーク1997』は見ていなくて、続編の『エスケープ・フロム・L.A.』しか見てない、って言ってたんだけど、まあ話は同じことなんで。というか、まあ非常に定番的なセッティングなんですね、これはね。まあ「『ニューヨーク1997』型」とさせていただきますけど、非常に定番的なセッティング。そしてもちろん、そもそもその、崩壊後の世界を舞台にした、いわゆる「ポスト・アポカリプス物」というジャンルは、一大ジャンルで。これも山ほどありますね。

しかもそこで、「武器としての改造車を駆る悪党集団」まで出てくるわけですよ。これはもう、言わずもがなね、当然『マッドマックス』、それも『2』以降、ということになってくる。当然のようにクライマックスは、主人公たちの車とそれを追う暴走集団との熾烈なカーチェイス、という。で、こういう感じの、『ニューヨーク1997』+『マッドマックス2』というと、私は2009年10月10日に評した『ドゥームズデイ』なんていう映画がありましたけども。まあ本作も、そこにさらにゾンビ要素をプラスした……『ニューヨーク1997』+『マッドマックス2』+『ゾンビ』、みたいな感じなんですけども。

■オーソドックスな世界観に足された独自要素や独自キャラクターが偉い

ただし、この『ファイナル・ステージ』……僕はここにすごい感心する。さすがヨン・サンホというべきか、そのベースとなる設定・世界観こそ決して目新しいものではないけども、むしろ散々やり尽くされて、手垢がつきまくったものなんだけど、そこにいくつかの独自要素、あるいは独自のキャラクター的な掘り下げなどをミックスすることで、定番要素からまた新鮮な表情をちゃんと引き出している、っていう。これ、『ファイナル・エクスプレス』もそうでしたけど、今回もやっぱりそこはちゃんとあるな、と僕は思ってます。

たとえばですね、僕が今回の作品で一番面白かった要素は、意外や意外、80年代キッズムービー的な要素が、途中から急に濃くなりだす。「えっ、これ、キッズムービーなの?」みたいな。個人的にはここが一番意外で、面白かったですね。さっきのね、メールにもありました、イ・レさん演じるジュニさんの、大人びたハンドルさばきとか、アニメ的にデフォルメされた車の挙動、アクションなんかも込みで、非常に荒唐無稽なんだけども……荒唐無稽ゆえの楽しさですよね。「んなわけ、あるかい!」っていう楽しさ。要するに、子供向け映画ならではの飛躍の楽しさ、みたいなのがあったりする。

さらに、そこから出てくる小さい女の子、イ・イェオンさん演じるユジンという女の子が操るあのガジェット。あれなんか、もう本当に80年代キッズムービー風、っていう感じがします。まあ、バカバカしいはバカバカしいけど、楽しい。ただ、これもですね、実は序盤……要するにこれがね、まあ言っちゃえばラジコンの車なんだけど、それが光と音を発してるんだけど、序盤、主人公の甥っ子が持っていたスーパーボールが、よく似たような光を発している。つまり、その「子供」というところで、実は悲しい過去とも呼応するようにできている、っていう。これはさりげなくもうまいディテールですね。

で、キッズムービー要素があるっていうのがひとつと、あともうひとつ、面白要素。今、言ったその、「光」の要素。とにかく何かキラキラ、ピカピカしたもの。あるいは照明弾やライト、などなどと、「音」を出すもの……つまり、要するにゾンビが反応する要素っていうね、「音と光」というのが、要所でギミック的に生かされていくのが、これがメチャメチャ楽しいんです。特にクライマックス。この光のギミックが、まあケレン味たっぷりに……これもね、リアリズム、理屈からすると、「ちょっとそれ、おかしくないか?」って思うような使い方なんだけれども(笑)、非常にケレン味たっぷりに、次々と投入されてね。レイヴ的にアガるというか(笑)、「フゥーッ!」っていう感じでアガる!っていうね。

で、とにかくそういう、いろんなアイデアを投入してくる偉さが、まずある。僕はもうこの時点で……定番ジャンルなんだけどちゃんとアイデアを投入してる、ここがもう、僕は偉いと思います。

加えてですね、キャラクター。特にやっぱり、悪役チームの631部隊。731部隊ならぬ631部隊内の、さっきもちょっと山本さんとも話しましたけども、微妙なパワーバランス。ここが味わい深い。これね、前作『サイコキネシス』でも地上げヤクザを演じていたキム・ミンジェさん。その粗野な感じ、これもすごくいいんですけども。

やっぱりポイントは、このソ大尉と呼ばれる、一応その暴力集団の地位的にはトップなんだけど、実質のトップはやっぱりそのキム・ミンジェさんに仕切られてるっぽい、このソ大尉を演じている、ク・ギョファンさんという方。これ、「DJ松永似」と私、言っておりますが(笑)。彼が、その外の世界に強く思いを寄せている。で、言っちゃえば(線が)細いトップというか。このキャラクター造型、なかなか独特で、すごく印象に残る。なぜなら彼は、「生きてここから脱出したい」という思いは、主人公たちと全く同じだからなんですよね。

だから、やるその手段がひどいんだけども、ちょっと思い入れちゃう。かわいそうな気がしてきちゃう、っていうかね。あとはその、キム・ドユンさん演じる、かわいそうな、被虐的なキャラが似合う(笑)……チョルミンが、あまりにも絶望的な状況を前にして、本当に人が絶望すると「ちょっと笑っちゃう」っていう、ああいうバランスがうまいんですよね。ちょっとしたディテールが。そこにすごく、生きた人間の感じが出ていて。やっぱりさすがだと思いますね。

■言いたい部分がないわけじゃないが、正月一発目には最高の1本!

ということで、定番ジャンルのミックスの中に独自のアイデア、味わいをいろいろ投入していて、基本すごく楽しいし、偉いと思います。あえて言えば、特に終盤。これ、やっぱりよくなかったという方が多かった。愁嘆場になると、途端になんかテンポが鈍重になる。一部の日本映画とも通じる過度のウエットさが目立ちだす、というのはこれ、東アジアの特徴なのかな? 実は『ファイナル・エクスプレス』でもちょっと感じる部分ではあったんだけど。

今回は特にですね、いろんな要素をぶち込んだ作品だけに、終盤さすがに、「いや、もういいだろ? 盛り込み過ぎっていうか、もうそういうのはいいだろう?」っていう風に、ちょっとお腹にもたれてしまったところはあるかな、って思いますね。もっと景気よくね、せっかくレイヴ的にアガったんだから(笑)、景気よくドーン!って終われば「最高!」っていう感じだったんだけどね。まあここは、サービス過多、ということにしておきましょう。ちょっとサービスが行きすぎてしまったという。まあ、好ましい部分でもある。

あとね、ちょっと僕が気になったというか、弱点だなと思うのは、主人公のキャラクターが、ちょっと弱い。要するに「悔恨の念にとらわれている」というだけで、どういう人なのかという個性、パーソナリティーが、実はこのキャラクター、希薄なんですよ。まあ、カン・ドンウォンがかっこいいから、それでなんとか持っていってるけども。ちょっとキャラクターとしては弱いかな、という風にも思いますが。

でもですね、先ほどから言ってるように、要するにパーツ、パーツはみんな大好きなジャンルが集まってるし。その1個1個に、新鮮味をもたらすアイデアも込められていて。あと、非常にその繊細なキャラクターの掘り下げとか、やっぱりその、悪役チームのパワーバランスの不安定性とかは、非常に……だからこそ、この世界にいたくないんだ、というあのソ大尉の感覚、「ここでは生きられない」という感じが生きていたりして。僕はやっぱり、意外と背骨はちゃんとしている、というところも含めて、さすがだなという風に思いました。

まあ、いろいろと言いたい部分がないわけじゃないんだけど、少なくとも正月一発目、劇場でデカい画面でドカンと景気よく見るには、最高の1本ではないでしょうか。ぜひぜひ劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 再来週の課題映画は未定。ガチャは来週回します。)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

 

◆過去の宇多丸映画評書き起こしはこちらから!

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