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【映画評】宇多丸、映画『日本で一番悪い奴ら』を語る!(2016.7.9放送)

ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル
「映画館では、今も新作映画が公開されている。
一体、誰が映画を見張るのか?
一体、誰が映画をウォッチするのか?
映画ウォッチ超人、“シネマンディアス”宇多丸がいま立ち上がる——
その名も、週刊映画時評ムービーウォッチメン!」

帰ってきたヒトラー

宇多丸、映画『日本で一番悪い奴ら』を語る! by「週刊映画時評ムービーウォッチメン」(2016.7.9放送)

宇多丸:
今夜扱う映画は先週「ムービーガチャマシン」(ガチャガチャ)を回して当たったこの映画……『日本で一番悪い奴ら』!

(BGM:テーマ曲が流れる)

この音楽の感じがちょっとさ、伊丹(十三)映画チックっていうかさ。そのワクワク感もちょっとありますよね。

2002年に発覚した、日本警察史上最大の不祥事とも言われる「稲葉事件」をコミカルなテイストを交えつつ映画化した実録犯罪物。主演は綾野剛、YOUNG DAIS、ピエール瀧、お笑いコンビ・デニスの植野行雄など。監督は、こちらも実際の事件をモチーフとした映画『凶悪』でも知られる白石和彌監督ということでございます。この映画を見たよというリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)、メールなどでいただいております。ありがとうございます。メールの量は「普通」より、ちょい少なめ。おい。そうか。そうですか。あらあら……。

感想は、およそ6割の人が大絶賛。「暴力、笑い、エロとエンターテイメントの要素が全部入っている」「大笑いしたけどこれ、実話なんだよなと思ってゾッとした」「綾野剛、いい! YOUNG DAIS、いい!」などの声が目立った。ただし残りは、「いいところもあるけど、悪いところもある」。もしくは「長くて退屈」「良さが全然わからない」など、好き嫌いがぱっくり分かれる傾向が見られた。ああ、そうですか。俺、これは分かれないと思ったんだけどな。そういうもんかね? 代表的なところをご紹介しますね……。

(メール紹介、中略)

……はい。ということで『日本で一番悪い奴ら』、私もですね、実はガチャが当たる前にすでに見ておりましたし、新宿バルト9などでね、計3回見てまいりました。監督の白石和彌さん、前作のメジャー進出作ということですかね、『凶悪』。2013年のこのコーナー「ムービーウォッチメン」……その時は「ムービーブッコメン」っつって、「ブッコミ! ブッコミ!」って連発してましたけども。劇中で連発されるセリフね。絶賛させていただきましたけどもね。『凶悪』も素晴らしかった。

今回の『日本で一番悪い奴ら』も、同じく実際にあった事件をベースにしたフィクション。実録犯罪物ということなんですけども。先ほども言いました、いわゆる稲葉事件。まあこれはご本人、稲葉圭昭氏が出所された後に書いた『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』っていう、こちら出ておりますのでぜひお読みいただきたいんですが。これが原作。今回の映画はこの原作というか、実際のことをベースにしたご本人が書かれた手記を元に、キャラクター描写は完全に映画オリジナルな部分が多いんですね。たとえば女性をめぐる描写とかは完全オリジナルだったりとか。主人公とその周りの人たちの関係性みたいな、そういう描写は映画完全オリジナルなんです。つまり、物語的な部分っていうかな、ドラマティックな部分はだいたいオリジナルなんです。でも、起こったこと自体、事件性の部分は、割と事実に忠実な映画化になっています。はい。

たとえば、ああいう風に名刺を配りまくるとかね。で、その名刺に「正義の味方、悪を断つ」って書いて回る。あれ、全部本当にご本人がやってらっしゃることだとか。やらかしていることは全然、あれでも一部ですからね。埋めてある拳銃を掘り起こして見つけるっていう自作自演のはずが、見つからないと。なので、自分で掘って入れて、また掘る。で、「やけに新しいですね、この銃」みたいな、そういう超面白い話とかあったりするんですけど。まあとにかく、非常に事実そのものには忠実な映画化でございます。

ちなみに、警察汚職ものというか、日本警察の暗部もので言うと、この番組でも2010年にチラッと話をしたことがあるかな? 『ポチの告白』という作品がございまして(※宇多丸訂正:劇場公開タイミングの2009年の間違いでした)。高橋玄さんという方の監督作品。警察汚職ものっていうのは近年はね、タブー化——あんまりいい傾向とは思わないけど——タブー化しているのか、あんまりないですけど。この『ポチの告白』は映画としてちょっと垢抜けないようなところもあるんだけど、あとすんげー長い、195分あるんですけど、僕は大好きな映画で。『ポチの告白』なんていうのもありましたけどもね。はい。

まあ、今回も警察汚職ものというかね、不祥事ものでございます。ただですね、今回、『凶悪』の白石和彌さんがまた実録物っていう並びで見れば、「ああ……」っていう感じ、するかもしれませんけど。これは間違いなく、題材の差というかですね。たとえば、人死にの数とか、事件の陰惨さの度合いの違いから来るものでしょうけども。『凶悪』、基本的には非常にシリアスなトーン。なんだけども、あまりにも卑近で身も蓋もない悪のあり方っていうものにうっかり笑えてしまうというような。それ故に、余計に恐ろしさが増すというような。だから、うっかり笑えちゃう。たとえば、もう簡単に人を殺したり、なんかするのも全部、「じゃあ、ぶっこんじゃおうか?」ってね。「面倒くさいから片付けちゃおうか」みたいな感じで、「おう、ぶっこんじゃおうか?」みたいな感じでやる。2013年を代表する名フレーズ「ぶっこむ」とかにうっかり笑ってしまう感じはあるけども、基本的にはシリアスな作品というトーンだった『凶悪』とは、今回実はガラッと趣を変えていると言ってもいいと思います。

ガラッと趣を変えて、今回の『日本で一番悪い奴ら』はですね、もうはっきりエンターテイメント映画です。「楽しんでください」という姿勢が全面にあふれ出している映画でございます。まあ、逆に言えば『凶悪』でこの今回ぐらいのトーンでやるのは難しかったと思います。というのは、あまりにも人死にが出すぎているし、陰惨すぎるのでこのトーンは難しかった。要するに、題材に応じてだと思いますけども。今回ははっきりエンターテイメント。もっとはっきり言えばですね、特にこの役者陣の演技の方向性、デフォルメ具合がもう完全にそうだと思うんですけど。基本的には、思いっきりコメディです。今回は、もうコメディ映画だという風に言い切っていいと思います。もう最初の、綾野剛が登場した瞬間の顔つきで「これはコメディだ」っていうことですね。はい。

で、コメディでもある、と同時にですね、ストーリーの基本的な骨格は——これは私の表現でございますが——みんな大好き「ヤングファミリー興亡史もの」という。これ、こういうジャンルがTSUTAYAの棚とかにあるわけじゃなくて、僕の言い方なんですけど。「ヤングファミリー興亡史もの」。どういうことか?っていうと、要は夢はあるけど金もコネもないっていう奴らが擬似的な家族、つまりファミリーという風になっていって、で、独自のKUFU(工夫)を重ねていくことによって次第に成功を遂げていく。が、大抵その幸せの絶頂を迎えたシーンの直後に、あるポイントでボタンの掛け違いが始まって転落が始まっていき、最終的にはみんなバラバラになる。なんなら、敵同士にまでなってしまう、というような話。

なんかみなさんね、「ああ、そういう話か!」って、わかるでしょう? で、最終的には敵同士になってしまったり、なんなら殺しあったりとかするんだけど。「ああ、なにも持っていなかったけど、楽しかったあの頃、あの懐かしい日々には二度と戻れないんだな」という感慨が残る的な。当然、つまり青春映画的な色合いも濃くなることが多いジャンルだと言っていいと思うんですけども。要はのし上がっていく話ですから、ギャング物とかが多いわけです。たとえばそれこそ、『スカーフェイス』は完全にこういう話ですし、『スカーフェイス』に準じたああいう、『ニュー・ジャック・シティ』とか何でもいいですしね。まあ当然『グッドフェローズ』、そして『グッドフェローズ』的な物語である、これはポルノ業界ですけども『ブギーナイツ』とか。あと、最近だと『ストレイト・アウタ・コンプトン』は完全にそのヤングファミリー興亡史物ですよね。

実録犯罪もので、なおかつコメディタッチで、ヤングファミリー興亡史物というこのバランス。いちばん連想させるのはやはりですね、先ほど『グッドフェローズ』と言いましたけど、もちろん『グッドフェローズ』もそうだし、その『グッドフェローズ』の株の世界版、お金の世界版の、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』……特に『ウルフ・オブ・ウォールストリート』は近い気がします。途中のね、「ヤクをキメすぎ顔演技」が後半の見せ場になるあたりはかなり『ウルフ・オブ・ウォールストリート』だと思いますけどね。ただし、その『グッドフェローズ』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のトレードマークであるボイスオーバー(ナレーション手法)は使わないタイプの映画、ということだと思いますけどね。

ちなみにですね、白石和彌監督の前作『凶悪』も、あれ、犯罪者集団側は擬似家族化していくっていう話ですよね。擬似家族ですよね。「もう君は家族なんだからさ」って言うじゃないですか。何度もあの「先生」がさ。だけど、あっちは実はもっとこれは寒々しい関係なんですよっていうのが……要するに物語の時系列をいじってありますので。後ほど、もう思いっきりひどい殺され方をするってわかっている奴が、「はい、家族です」って迎え入れられる瞬間、こっちは見ながら、「ああ、お前は利用されて捨てられるだけだよ」って先にわかる構造になっているので。ちょっと僕がいま言っているヤングファミリー興亡史的なものとは全然違う。ただ、擬似家族が崩れていく話っていうのは同じだと思いますけどね。

ということで、まあ今回の『日本で一番悪い奴ら』は基本、エンターテイメント。笑える、楽しい作品です。もう、言い切ってしまいます。楽しいです。楽しい。しかも、その楽しさの質がですね、これは私、うれしくなってしまったところですけど、やっぱりまさしく東映三角マークに相応しい……今回、東映ですから。最初に波のあれ(オープニング映像)が出て、三角(東映マーク)がドーン!っていう、昔からの、要するに東映ヤクザ映画とか実録犯罪物に相応しい、アナーキーで猥雑なパワーに満ちているっていう、これが本当にうれしいあたり。どういうことか?っていうとね、まあたとえばですよ、ベッドシーン。ベッドシーンっていうより、これは二代目しまおまほばりには、やはり”濡れ場”と言いたいようなセックスシーン。これ、セックスシーンが物語上、非常に重要な濡れ場が何箇所があるわけですね。

そして、そこも逃げないねちっこさ。もちろん、おっぱいきっちりね。よかったね。二代目ね。逃げないねちっこさ、いやらしさを打ち出している。濡れ場がいっぱい入っていて、しっかりやってるっていうのはもちろんのこと、それだけじゃなくて、お話とは直接関係ない、ちょっとしたエピソードの隙間。シーンとシーンの隙間みたいなところにも、なぜかエロっていうか、「性欲!」みたいなテンションを感じさせる描写が、当たり前のようにちょいちょいちょいちょい放り込まれてくる。たとえば最初の方、喫茶店で主人公諸星が「S」、つまりスパイに初めて会う場面がありますよね。そしたらそのチンピラが、なぜか向こうの方にいる女の客のパンチラをずーっと見てて……で、そのパンチラが結構アップになったりするわけですよ。で、「おおう……」って。そのチンピラが「うん、トルコ(風呂)行こう」とか言うわけです。当時、まあソープじゃなくてね。「トルコ行こう」とか言うわけですよ。こんなの、なくてもいいわけじゃないですか。こんなのがポーンと入るとか。

あるいは、主人公たちがボウリング場にいるシーン。あの頭の部分ですね。みなさん、わかりますかね? なぜか、女のケツのアップから始まるなと思ったら、その女のケツをずっとカメラが追っていって、そのカメラの目線はYOUNG DAIS演じる太郎くんの目線だったという。で、そこからボウリングのシーンになるんだけど。これ、なきゃないでストーリー上なんの問題もないはずの、いい意味でしょうもないサービスポイントみたいなのがちょいちょい放り込まれることで、ストーリー上はいらないんですよ。いらないんだけど、なんか映画全体のテンションがたしかにグーッと高いまま維持されるっていう感じになっていて、これは非常に正しく東映イズムを感じさせる作りだなという風に思ったりしました。「アホやなー」と思いながら。「なんでここにケツを」って(笑)。そこはすごくうれしくなるあたりだったりしました。

あと、もちろんですね、主人公たちがやっていることは紛れもない悪事なんだけど。特にこの本作『日本で一番悪い奴ら』の場合ですね、見ていてとにかく楽しい。なんなら清々しくすらあるのはですね、特に綾野剛演じる主人公がですね、全く邪心がないというか。むしろ、ものすご〜く素直な人なわけですよ。先ほど、(感想メールで)「狂人化」って書いてあったけど、僕は狂人じゃなくてあの人は真面目なだけだと思いますね。要は、組織や周囲の期待に応えようと、実はひたすら真っすぐにがんばっているだけですよね。一言で言えば、「バカ」っていう(笑)。一言で言えば、素直なバカっていうことなんですよ。で、これね、綾野剛さんが演じているのがすごくよくて。

綾野剛さん、割といままでは僕、「受けの演技、引いた演技が綾野剛さんはいつもいいよね」って言っていたけど、今回はグイグイグイグイ押していく演技で。決して達者な感じの演技じゃないんだけど、全身で、もう体ごとぶつかって行って。本当にこの役に賭けているっていう感じでもう……要はがんばっている感じ。不器用ながらもがんばっているっていう綾野剛さんの役者としての本作における取り組み方っていうのが、この役柄とばっちり合っていて。だから、たとえば突然、先ほどのメールでもあったように、「あれ? 俺、すすきのの顔になっちゃった?」みたいな。で、グーッとカットが巧みな感じで変わったら、彼がもう風体からして変わっている。服からして変わっている。で、チンピラ化しているわけだけど、そのチンピラルックの微妙な様になってなさとかも含めての、この役柄っていうか。だから綾野剛さんはベストキャストっていうか、素晴らしいという風に思いますけどね。

まあとにかく、綾野剛さん。もう綾野剛さんが登場した瞬間——さっき俺言いました。柔道が強い。柔道しかやってない人なわけです——もう登場した瞬間に、柔道バカ感。ねえ。「ウスッ、ウッス!」みたいなね。あれもたまらないですし。まあ、要するにこの話はですね、1人の素直だけが取り柄なバカが、状況に適応しようとしすぎるあまり、どんどんどんどん適応していくあまり、変わっていってしまい、引き返せない深みにはまっていってしまう話なわけですよ。だからこそ、彼と周囲の人間にとっての常識っていうのがですね、いつの間にかとんでもないところまで行っちゃっている。なのに、本人たちは全く……「お前ら、話してること、おかしいぞ!」っていうのに本人たちは全く気づいていない感っていうのがめちゃくちゃおかしいということなんですよね。

と、同時にこれ、やっぱり普遍的な空恐ろしさを感じさせられる話だと思うんです。というのは、ここは警察の話ですよね。つまり警察が、警察内部の中で成り立っていて。傍から見ると、「えっ、それおかしくないですか?」っていうことに疑問を持っていないという話なんだけど。これ、大抵の人は笑えないと思うんですよね。っていうのは、誰だって多かれ少なかれ状況に適応して、普段はそこは疑わずに生きているわけじゃないですか。たとえばサラリーマンの人がね、「いや、うちの業界はこうやってやっていますんで。前から慣習でこうなんで」ってやっていたのがある日、「それは不正です」ってお縄頂戴みたいになるって、絶対にあるでしょ? 普通に俺、ニュースで見ていて、たまに「何かの不正・隠蔽で捕まりました」って、「この人はたぶん前からこうしていた前任者のやり方を受け継いだだけの人だったりするんじゃないのかな? 『なんで俺だけが?』って思っていると思うよ」みたいな。だから、非常に普遍的な話であるというね。

でね、その世間的常識・良識と主人公たちが考えている俺たちのルールとの信じがたい乖離がものすごい浮き彫りになる……これ、先ほどのメールにもありました勝矢さんという役者さんが演じる“次長”の視点が入るくだりが僕は特に大好物で。もう、最高です。たとえば、要は拳銃(チャカ)を摘発するために、チャカを買うっていうね。ヤクザから拳銃を買って、それを摘発して、「はい、10丁挙げました!」って。で、いつの間にかもうチャカの仕入れの話になっちゃっているっていう。もう見ていて、「えっ、なんの話をしているの? なんの業種なんですか、あんたらは?」って当然思うような場面。で、その主人公たちに次長が、「えっ、拳銃、買うんですか?」って(笑)。それに対して綾野剛演じる主人公は、「ええ、そうです。そうしないと、挙がりませんから」みたいなことを言うっていうね。

要は、「えっ、拳銃、買うんですか?」っていう至極真っ当な突っ込みが大爆笑を誘う。俺、最近こんなに正論を言ってるのに爆笑をするっていうのは久々でしたけどね。「えっ、麻薬、いいんですか?」みたいな感じですね。「チャカと覚醒剤、どっちが大事だと思ってんすか?」「いや、そういう問題じゃ……」って(笑)。その、「そういう問題じゃ……」で爆笑ができるというね、素晴らしい。次長のシーン、大好きですけどね。

もちろんこれね、なんでこんなことが起こるかって言えば、元凶は明らかに、警察内部のノルマ制。ねえ。犯罪でノルマ制っておかしいですよね? その分、犯罪を見つけて来いってことになっちゃうし。あるいは、点数制。この犯罪を捕まえてくると点数が高いですよってことになる。そして後に導入される、拳銃を持って自首すると罪状が減免される。無罪になったり軽められたりするという制度。これによって非常に本末転倒な不正が、もう必然的に量産されるような構造になっちゃったというね。これは本当にもう明らかな問題だと思いますけど。

まあでも、とにかくね、主人公はその、「拳銃をもう数挙げりゃいいんですよ」と。「チャカを挙げりゃ他は関係ねえ」っていう上司から求められている目標に向かってある意味合理的に、「じゃあ、こうやって仕入れましょう」みたいな。ある意味合理的だし、同時に目をキラッキラさせて情熱を持って。「楽しい! 拳銃いっぱい挙げて褒められるの、楽しい! チヤホヤされてうれしい!」っていう、その目標に向かって邁進する。つまり、これはこういうことですね。思わず、応援したくなるという(笑)。その意味でやっぱり青春映画でもあり、ビルドゥングスロマン(成長物語)でもあるということですよね。

で、じゃあ青春映画でいちばん大事なものは何か? と言えばですね、やっぱり役者陣のアンサンブル。“あいつら”ですね。あいつらっていう感じがちゃんと成立させられるか?っていうことなんですけど、ここもこの『日本で一番悪い奴ら』は本当に間違いなく素晴らしいあたりでございまして。まず、あの兄弟分。主人公の相棒になる黒岩というキャラクターを演じる中村獅童がですね、もう登場の瞬間……この映画、だいたい登場の瞬間からいい人ばっかりね。「はい、こんちは〜」ってね。「はい、こんちは〜」。気持ち悪いな、そのテンション(笑)。「はい、こんちは〜」っていう、あの「こんちは〜」の言い方、いいな〜。最近、真似したくなるセリフが多くてうれしいですね。「はい、こんちは〜」。あの出会いからして最高。

まあ、主要登場人物の中でこの黒岩というキャラクターがいちばん内面を見せないキャラクターだけど、それを絶妙なデフォルメ……でも、非常に抑えた感じ。黒岩はほとんど表情を変えないですから、抑えた演技で。僕はもう中村獅童、ベストアクトじゃないかなっていうぐらい素晴らしかったと思いますし。で、さらに素晴らしいのが、その下に付く下っ端2人ですよね。まずはなにしろYOUNG DAISが本当にね、素晴らしかったですね。もちろん園子温監督の『TOKYO TRIBE』での彼、本当に素晴らしかった。『TOKYO TRIBE』最大の功績は彼を発掘したことと言っても過言ではないぐらいじゃないかと思うんだけど。本作でYOUNG DAISくん、完全に俳優としての立ち位置を確立したんじゃないでしょうかね。

彼もやっぱり登場した瞬間からいいですよね。「ああ俺、ヤクはやらないっすよ。シャブとか、やんないっすよ」って、こうやって白い錠剤を並べてポツポツ食っていて。「じゃあ、それはなんだよ?」「あ、これはハルシオンっす」っていう(笑)。でもあれ、ちなみにハルシオンばっかりボリボリボリボリ普段から食っているのは実際のキャラクターの本当のディテールなんです。はい。ちなみに白石監督の前作『凶悪』で五十嵐くんっていうピエール瀧さんの舎弟になるキャラクター。これ、今回も小林且弥さんという方、最初にシャブのガサ入れを受けるあの人で出ていますけども。あの五十嵐というキャラクターと同じく、やっぱりね、ヒップホップの若手にいそうな感じなの。まあ、YOUNG DAISはもちろんヒップホップの若手なんだけど。なんかね、目がキラッキラしてる感じなんだよね。とにかく、本当に見事な……今回の作品で言えば、見事な舎弟感を演じていたと思います。

あと、このYOUNG DAIS演じる太郎くんというのは原作……事実にはない、映画オリジナルの物語の部分を担う重要な役割でもあるわけです。つまり、主人公が最終的になぜ逮捕されるのか? というあたり。もちろん、現実でもあの太郎くんに当たる人がチクるというか、告発するんですけども。その動機、兄貴を思うあまり……みたいなところは映画オリジナルなので、それも見事に。それこそ、ちょっと加齢した状態なんかも見事に体現して、素晴らしかったと思いますし。

あと、なにが驚いったって、デニスの植野さんですね。ラシードというパキスタン人。デニスの植野さんはさ、見た目はああだけど、パキスタン関係ないもんね。ブラジルとのハーフだっけ? パキスタン、なんの関係もないのに……。で、まあ実際にパキスタン語(※宇多丸補足:正確にはウルドゥー語、ですね)の発音とかがネイティブの方から聞いてどういうレベルなのかは僕らにはわからないけども、とにかく半端無く「ぽい」ですよね。めっちゃ、「ぽい」。デフォルメと自然の塩梅が本当に絶妙で。笑いの取り方もちゃんと映画の間とか、映画のテンションの笑いの取り方をしていて本当に素晴らしいと思う。このあたり、演出がすごいのか、まあ植野さんが素晴らしいのかわからないけど、とにかく舌を巻きました。このラシードは。

で、この4人のチーム、ファミリーの醸し出すそのボンクラなグルーヴ感。あいつら感が大変心地いい。故に、後のファミリー崩壊もより切なくなっていくというね。さっき言ったヤングファミリー興亡史のいちばん守らなきゃいけないところ。これはきっちり醸し出されているんじゃないでしょうかね。あと、主人公にとってのもうひとつのファミリーである警察チームも最高ですね。岸谷さんっていうのを演じるみのすけさん、絶妙ですし。「ねえ、そうだよね。難しいね!」みたいなあの軽い感じとかも素晴らしいですし。あと、もっと偉い部長の猿渡さん。田中隆三さんのあれのなんか黒〜い感じ。「どうかぁ〜? どうだぁ〜? いいかぁ〜?」っていうあの感じとかね。あと、税関の職員役の斎藤歩さん。あの顔の感じ。「まあ、ウチらは……道警さんがGOなら……」みたいな、あの感じ。先ほどの次長さんも素晴らしいし、もう本当にいい顔が揃っているなという感じだと思います。もうピエール瀧さんは余裕ですね。あんな役はね。ぐらいな感じだと思います。

で、後半ですね、ファミリーがどんどん崩壊して主人公がどんどん落ち込んでいく展開。夕張に飛ばされてからの展開も、お話的にテンションが落ちて行きかねないというか、行きがちなところなんですね。僕は普通、その主人公がどんどんどんどん右肩下がりのキャリアを歩んでいく映画だと、後半、やっぱり実際にこういう話だからしょうがないんだけど、映画としてはだんだんどうかな?ってなっていく映画が多いと思うんだけど。この作品の場合、たとえば覚醒剤中毒患者の特徴で水をガブガブ飲みながら車を運転している。で、この車を運転しているところだけ、他のところはいわゆるちゃんと車を動かしながら撮っているんだけど、ここだけ、スクリーンプロセスかな? それこそ、黒沢清風というか、ちょっと人工的に撮って、そこでラジオが流れてくる。高校野球が。そうするとラジオが「エース諸星くん、打たれましたー! 立ち上がれない!」みたいな。要するにここでちょっと、現実感から、映画全体のリアリティーラインからここだけフッと乖離するところが出てきたりとか。なんかそういうのがフッと出てきたりで、ちゃんとこういう展開になってもテンションを落とさない。とにかくね、テンションを落とさないっていうことをちゃんとやっているあたりが素晴らしいなという風に思いました。

あと、やっぱりそれでいてラストのラストに示される現実の展開というか。これが現実だという、ラストのラストに。まあ誰もがみな、「ええ〜っ、そうなの!?」ってやっぱりなる。最近も北海道警、「ああ、こういうの変わってないんだな」っていうような不祥事を起こしましたね。覚醒剤の売人と刑事が公文書偽造かな? なんかあったと思うんだけど。で、僕、知人の元警察にいた方にその話をしたら、「それはあなたね、ちょいちょい不祥事が判明したからって、警察でずーっと続いてきた体質が急に良くなるわけないでしょう? 変わるわけないでしょう。みんな神奈川県警とかを『不祥事のデパートだ』とか言うけど、神奈川県警とかあれはああやって頻繁にバレるだけ、透明性がある組織で、実はいいんですよ。地方とか、それこそ道警とか、相当あるでしょうね。地方とかはそういうのがいっぱいあるはずだ」なんて怖いことを元警察官が、一個人の意見として言っておりましたが……はい。ということでございます。

ということでこの作品、僕、文句とかほぼないぐらいです。本当にこの作品としては。「70年代末に金髪のチンピラっているかな?」とか、そういう細かい話ぐらいですね。とにかく、難しいところは一箇所もない映画です。非常に実は、先ほど言いましたようにオーソドックスな、みんな大好き映画の骨格に沿った、ある意味ルーティンに沿った作りなので。そういう意味では、結構普通の娯楽映画の作りをちゃんとしている映画なので、そこをもって物足りないっていう意見があるとしたら、それはわからないでもないけども。普通に面白いという作りになっているので、そこに関してはあんまり意見は分かれないと思ったんですけどね。

とにかく、これぞ面白い日本映画っていうか、日本映画のエンターテイメント。まだまだ、これができるなら、まだみんなできるでしょ!っていうね、日本映画当たり年をさらにまた象徴するような1本が出てしまったんじゃないでしょうか。エンターテイメント性という意味では、ここんところ大当たりが続く中でもダントツではないでしょうかね。カップルで見に行ったりしても大丈夫だと思いますよ。『日本で一番悪い奴ら』、面白かったです! ぜひ、劇場でウォッチしてください。

(ガチャ回しパート中略 〜 来週の課題映画は『ペレ 伝説の誕生』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

<以下、ガチャ回しパートにて>

「アマレスだよぉ!」って(※中村獅童演じるヤクザ黒岩のセリフ)。あそこの潜入捜査のくだりも本当に最高でしたよね。