お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

放送中

放送中


  • 放送ログ
  • 音声あり

アメリカ初の女性副大統領誕生へ〜カマラ・ハリスをめぐる女性シンガーたち(高橋芳朗の洋楽コラム)

ジェーン・スー 生活は踊る

10月から第2/第4木曜日にお引越し!

音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム(2020/11/12)

「アメリカ初の女性副大統領誕生へ〜カマラ・ハリスをめぐる女性シンガーたち」

アメリカ初の女性副大統領誕生へ〜カマラ・ハリスをめぐる女性シンガーたちhttp://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20161010040000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)

高橋:本日はこんなテーマでお届けいたします! 「アメリカ初の女性副大統領誕生へ〜カマラ・ハリスをめぐる女性シンガーたち」

高橋:日本時間の8日未明、アメリカ大統領選挙で民主党のジョー・バイデン前副大統領の当選が確実になりました。それに伴って、彼の指名を受けていたカマラ・ハリス上院議員が女性として史上初の副大統領に就任する見通しです。

スー:やったね!

高橋:今日はそんなアメリカの次期副大統領、カマラ・ハリスを取り巻く女性シンガーの楽曲を4曲紹介したいと思います。ではさっそくいってみましょうか。まず最初は「R&Bの女王」の異名をとるメアリー・J.ブライジ。蓮見さんもご存知ということで。

蓮見:はい、わかります!

高橋:そんなメアリーの2007年のアルバム『Growing Pains』収録の「Work That」を聴いていただきましょう。これはカマラ・ハリスが日本時間の8日未明に歴史的な勝利宣言を行なった際、ステージに上がるときに流していた曲ですね。実はこれ、カマラが去年の6月にSpotifyで公開したプレイリスト「Kamala’s Summer Playlist」の1曲目に選ばれているんですよ。

高橋:そのあと副大統領候補に指名された今年8月の民主党大会でも入場曲としてこの曲を使用していたから、もう実質的にカマラ・ハリスのテーマソングと考えていいのではないかと思います。出だしの歌詞はこんな内容です。

「女の子のなかには逃げてばかりのコもいるみたい/でも、困難を乗り越えればきっと美しい女王に成長できる/私の手のひらをのぞいてみれば、嵐がうずまいているのがわかるはず/私の自伝をひもといてみれば、耐え抜いてきたのがわかるはず/髪の長さや肌の色を批判されたとしても、さあ顔を上げて/だって、あなたは美しい女性なのだから/ランウェイを颯爽と歩いていこう。前進あるのみ/ガール、思いきり人生を楽しもうよ」ーーなんかもうカマラ・ハリスに当て書きされたような歌詞だと思いません?

スー:ねえ。「作詞:カマラ・ハリス」って感じ!

高橋:ホントホント。彼女のテーマソングとして完璧な曲だと思います。

M1 Work That / Mary J. Blige

スー:素晴らしいですねー。この曲にのせてカマラ・ハリスが出てきたときのかっこよさったら!

高橋:かっこよかったねー!

スー:選挙権ないのに盛り上がっちゃったもん。でも、超大国が変わっていけばおのずと世界も……ね。

高橋:うん。きっと波及していくと信じましょう。

スー:隠されたメッセージは広がっていくからね。いいんです、それで!

高橋:ちなみに、メアリー・J.ブライジは前回2016年のアメリカ大統領選のときにはApple Musicの企画でヒラリー・クリントンと対談しているんですよ。その際にはヒラリーの手をとってブルース・スプリングスティーンの「American Skin (41 Shots)」ーー1999年に無抵抗の黒人男性が4人の警官に41発の銃弾を受けて射殺された事件を題材にしたプロテストソングをアカペラで歌うという強烈な一幕もあって。今回もこうして大統領選のタイミングで存在感を発揮しているあたりは「女王」の面目躍如といえるのではないかと思います。来年1月の大統領就任式でのパフォーマンスも期待できるかもしれませんね。

では2曲目にいってみましょう。続いてはテイラー・スウィフトです。蓮見さん、テイラー・スウィフトは?

蓮見:はい、もちろん存じ上げています!

高橋:そのテイラー・スウィフトの「Only The Young」です。これは今回のアメリカ大統領選投開票日直前、10月30日に公開されたジョー・バイデンとカマラ・ハリスへの投票をうながすキャンペーン広告に使われていた曲で。

スー:いやー、テイラーもここ数年いろいろあったもんね!

高橋:そのへんを簡単に説明しておきましょうか。この「Only the Young」は今年1月にNetflixで公開されたテイラーのドキュメンタリー映画『ミス・アメリカーナ』のエンドロールで流れる曲で。『ミス・アメリカーナ』がどんな内容なのかというと、共和党支持者/保守層に支えられているカントリーミュージックを出自としているテイラーが、民主党支持/反ドナルド・トランプを表明するまでの動向を追ったドキュメンタリーなんですよ。

スー:テイラーは自分の政治的スタンスを表明しようとするんだけど、周囲のスタッフに猛反対されるのよ。「ファンがいなくなるぞ」「バッシングされるかもしれないよ」って。

高橋:なぜテイラーのスタッフがそういう危惧をしているのかというと、2003年にディクシー・チックスがイラク戦争に踏み切った共和党のジョージ・W・ブッシュ大統領を批判したことで保守層からの激しいバッシングにさらされたように、カントリー出身のアーティストが民主党支持を打ち出すことはめちゃくちゃリスキーな行為なんですよ。それでもテイラーは2018年のアメリカ中間選挙で民主党のサポートを決意するんですけど、彼女が支持していたふたりの候補は結果的に落選してしまうんです。共和党に敗れてしまったんですね。そこで、その悔しさをバネにしてテイラーがつくったのがこの「Only the Young」とういわけです。歌詞の大意を紹介しますね。

「今回は負けてしまった。でも、あの人たちは決着がついたと思っているかもしれないけれど、まだ戦いは始まったばかり。私たちを救えるのは唯一若者たちだけ。若者たちだけが走ることができる。若者たちだけが変えることができる。戦いに疲れたなんて言わないで。もうゴールはすぐそこ。走って、走って、変えるんだ」

こうしてテイラーが政治広告に自分の曲の使用許可を出したのはこれが初めてのことで。このテイラーの好意に対して、カマラ・ハリスは自身のツイッターを通じて「今回の選挙がなにを賭けた戦いなのか、若者たちに示してくれたテイラーに感謝します」と彼女への謝辞を投稿しています。

この「Only the Young」でテイラーが歌った「若者たちだけが変えることができる」というメッセージは、カマラ・ハリスが勝利宣言で語った「すべての少女たちは今夜のこの場面を見てこの国は可能性に満ちた国であることがわかったはずです」というスピーチに通じるものがあるんじゃないかと思います。

M2 Only The Young / Taylor Swift

スー:この曲のメッセージを受けて「若者じゃなくたって変えられるよ!」って言う人もたくさんいると思うんです。だけどそうじゃなくて、これは今日の11時台の生活情報コーナーで蓮見さんが紹介してくれた左利きの道具店と同じ話で。左利きの人じゃないとわからない不便さというものが確実にあるんですよ。そんな社会を変えられるのは、やっぱり左利きの人たちということ。状況を変えられるのはいまそこにいない人たちなんだってことなんだよね。

高橋:うん、テイラーは未来に希望を託しているわけですよね。続いて3曲目はアリアナ・グランデ。彼女は2017年5月に開催したマンチェスターのコンサートがテロの標的にされて、本人にとっては不本意だと思いますがその一件によって日本でも広く名前が知られるようになったという。

蓮見:22名もの方がお亡くなりになりましたよね。

高橋:本当に卑劣な事件でしたよね。アリアナはあの事件以降アクティビストとして精力的に社会活動を行なうようになるわけですが、彼女もテイラー・スウィフトと同様に熱心な民主党のサポーターで。去年の7月には当時大統領選の出馬を表明していたカマラ・ハリスの講演会に出席して彼女と対面も果たしています。

これから紹介するのはアリアナが大統領選投票日の10日前、タイミングとしては大統領選最後の討論会が終わった直後の10月23日にリリースしたニューシングル「positions」です。この曲、サビの「Switchin’ the positions for you」(あなたのためならなんでもするわ)という歌詞に象徴されるように曲単位で聴く限りではセクシーなラブソングといった印象を受けるんですけど……。

スー:そうなんだよね。でもしかし!

高橋:そう、ミュージックビデオを見るとこれがダブルミーニング/掛詞であることがわかるんです。どんな内容のビデオかというと、大統領に扮したアリアナ・グランデがさまざまな人種の女性で構成されたスタッフを引き連れてホワイトハウスで職務にあたっている様子を描いていて。つまり、この曲のタイトル「positions」は女性の社会的地位を意味しているんですね。要はラブソングを装った女性の地位向上と社会進出を歌ったエンパワメントソングなんですよ。

今回の大統領選ではアメリカ初の女性副大統領が誕生する見通しになったわけですけど、同時に行われた連邦議会選挙でも女性議員の当選が過去最多になって。そんな歴史的なタイミングで全米チャートの1位についていた曲が、女性の地位向上を歌ったこのアリアナ・グランデの「Positions」だったという。

スー:文字通り「Switchin’ positions」なんですよ!

蓮見:なるほど!

高橋:これ、当然アリアナは狙ってやっていますからね。このタイミングで1位になることを狙ってリリースしているわけです。これぞアメリカのエンターテインメントのダイナミズムですよ。

スー:うん、伊達に長いポニーテールしてないんだよ!

M3 positions / Ariana Grande

高橋:では最後の曲、リゾの「Like a Girl」です。こちらは2019年の作品。リゾは今年のグラミー賞で最多ノミネートを達成した歌手でありラッパーですね。彼女は今年の9月にカマラ・ハリスとInstagramライブで選挙に関するディスカッションを行なっています。

カマラ・ハリスはリゾの大ファンのようで、先ほど触れた彼女が2019年に公開したプレイリスト「Kamala’s Summer Playlist」でメアリー・J.ブライジの「Work That」の次、2曲目に選んでいるのがこのリゾの「Like a Girl」なんですよ。この曲、タイトルの「Like a Girl」は「女の子らしく」という意味なんですけど、歌詞は一般的に女の子らしくないとされていることをひたすら羅列していく内容で。

スー:はい、最高です!

高橋:しかもこれ、曲の出だしがいきなり「今朝は気分良く起きられたから大統領選にでも出馬しようかって勢い/女性大統領の前例がなくたって知ったこっちゃない/スローガンなんて変えちゃえばいい」という一節で始まるんですよ。去年の6月、すでに大統領選の出馬を表明していたカマラ・ハリスがこの曲をプレイリストの2曲目に選んでいた意図を考えると、これはなかなか興味深いものがあるなと。そして「女の子らしく」というタイトルに反して逆説的にウーマンパワーを讃えるこの曲のメッセージも、カマラ・ハリスの勝利宣言のスピーチ、少女たちに可能性を提示したあの素晴らしいスピーチに通じるところがあるのではないでしょうか。さらに付け加えるならば、歌詞のメッセージからすると4年後のカマラ・ハリスのテーマソングは「Work That」ではなくこの「Like a Girl」になっているかもしれませんね。

スー:楽しみですねー。ドラマがございますから!

蓮見:未来も見据えた話なんですね。

M4 Like A Girl / Lizzo

高橋:というわけで、カマラ・ハリスにゆかりのある女性シンガーの楽曲を4曲紹介しました。このカマラのケースに限らず、アメリカでは政治と音楽、生活と音楽が非常に密接な関係にあることをこの一週間で改めて見せつけられましたね。

スー:ねえ。本当に。

高橋:今後も来年1月の大統領就任式に向けて音楽業界でいろいろな動きが出てくると思うので、そのへんもこのコーナーで逐一ご報告できたらと思っています。

スー:あとヨシくんのこういうアメリカの音楽と政治の話がおもしろいと思った方におすすめなのが、ヨシくんの新刊『ディス・イズ・アメリカ 「トランプ時代」のポップミュージック』。好評発売中です!

高橋:2014年から現在まで、激動のアメリカ社会のなかでポップミュージックがどんなことを歌ってきたのかをまとめています。このタイミングにばっちりな一冊なのでぜひチェックしてみてください!