お使いのOS・ブラウザでは、本サイトを適切に閲覧できない可能性があります。最新のブラウザをご利用ください。

放送中

放送中


  • 放送ログ
  • 音声あり

【音声配信・完全版&文字起こし】特集「ジャズピアニスト・海野雅威さんインタビュー~ニューヨークでの集団暴行、アジア系への人種差別、ヘイトクライム」2020年11月11日放送分(TBSラジオ「荻上チキ・Session」平日15時半~)

荻上チキ・ Session

TBSラジオ『荻上チキ・Session』(平日午後3時半~生放送)
『荻上チキ・Session-22』から続く、新世代の評論家・荻上チキと南部広美がお送りする発信型ニュース番組。

▼2020年11月11日(水)

▼16時30分〜 Main Session

特集「ジャズピアニスト・海野雅威さんインタビュー~ニューヨークでの集団暴行、人種差別、ヘイトクライム問題」

今年9月末、アメリカで活躍するジャズピアニストの海野雅威(うんの・ただたか)さんが、ニューヨーク市内の地下鉄の駅で
複数人から暴行されて重傷を負いました。

海野さんの怪我は快方に向かっているということですが、今回の事件は、海外メディアでも大きく報道されました。この事件は、アジア系への人種差別やヘイトクライムの可能性もありますが、現在までに容疑者は逮捕されていません。

きょうは、この事件が投げかけたものは何なんなのか、当事者の海野さんと共に考えました。

海野雅威さんを支援するコンサートはこちら。2020年11月15日(土)開催です

出演

▼NYで活躍する、ジャズピアニストの海野雅威さん

今回のインタビュー、放送ではカットしたものを含めた完全版になります。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

今回の完全版インタビューを文字起こしをして下記に掲載します。(担当:山本ぽてと)

荻上:ゲストは、ジャズピアニストの海野雅威 (うんの・ただたか)さんです。

海野:こんにちは。よろしくお願いします。

荻上:現在のケガの状況はいかがですか。

海野:事件にあってしまってから1カ月たつので、手術も無事終えまして、回復はしています。ただ術後の痛みと戦っていて、強い痛み止めがないと、手が痛みます。右手が使えないんですね。強力な痛み止めなので、飲むと目まいがしたり、そういう繰り返しなんですけど。少しずつ良くなっていると思います。

荻上:現在は退院されて、ご自宅にいらっしゃるわけですか。

海野:はい。もう家におります。

荻上:普段はどういった生活をされているんですか。

海野:4カ月前に、第一子の息子を授かりました。子育てが大変な時期なのですが、私は赤ん坊を抱っこすることもできずに、妻が本当に一人でやってくれている状況になってしまって。家は本当に大変ですね。

荻上:今はどういったケガの状態なのでしょうか。

海野:全身を殴られてしまいました。特にひどい損傷は、肩と腕の部分です。肩の中の骨が衝撃によって、ぐるっと中で回転してしまったそうで、とても痛い。そこを切り開いて手術をしました。幸い手術は成功して、とても素晴らしいお医者さんに見てもらうことが出来た。ただリハビリが、これからどれだけの期間かかって、もとの生活が出来るようになるのか。もっと言うと、私の本業であるピアニストとして、ピアノがいつ弾けるようになるのかが未定な状況なんですよね。

荻上:手を動かせないので、赤子を抱っこすることも今は困難なのでしょうか。

海野:はい。もう少ししたら出来るようになったらいいなと、希望を持っていますが。

荻上:海野さんはニューヨークで活動されていますが、もともとはどのような活動をされていたのでしょうか。

海野:4歳からピアノを、9歳からジャズピアノを始め、18歳のころから、ジャズピアニストとして日本で活動を始めました。日本の様々なミュージシャンと共演し、かわいがっていただいて。日本で10年ミュージシャンとして活動してきて、2008年の6月19日に渡米しました。ジャズの本場、ニューヨークには世界中からミュージシャンが集まります。ジャズを生んだ文化に触れたい。いま会わないと亡くなってしまうかもしれない、80代や90代のジャズを築いてきた世代のレジェンドミュージシャンに会って、心の交流がしたい、一緒に演奏したい、そんな思いから渡米を決意して移住してきたんです。

荻上:ニューヨークで活動するようになってもう12年経つということですよね。

海野:そうですね。はい。

▼海野さんは誰に襲われたのか?

荻上:ニューヨークの自宅のそばで、今年の9月に暴漢に襲われたと聞きました。どういった状況で暴力を受けたのでしょうか。

海野:いまコロナ禍で、ミュージシャン、エンターテイメントは仕事がほとんどない状況です。ですが、その日はたまたま日本の落語家さんとコラボレーションをするためのビデオ収録のお仕事があり、出かけていました。午後1時からはじまり、午後7時くらいまでやっていて。その帰りに電車に乗って、私の住んでいる最寄りの駅で降りたときに、駅の出口で8名の黒人の少年少女が出口をブロックする形でたむろしていた。私は出口から出たいので、そのグループを避けて出ようとしたときに、言いがかりをつけられて、うしろから押されて。殴られた。

荻上:その言いがかりとはどのようなものだったのでしょうか。

海野:私は誰にも触れてないのですが、「お前、押しただろう」と言われて。黒人の女性が、「この人に押された」と言った。それは完全なる嘘なんですけど。それを真に受けた一人の男が、「俺の女は妊娠しているんだぞ。どうしてくれるんだ」と。完全な言いがかりで、一方的に急に殴られた。まず押されてから、殴られた。逃げても逃げても追いかけてきて。地下の駅から、地上に上がっても追いかけてきて。地面に叩きつけられて。私、こんなことで、こうやって死ぬのかと思ったほど、ひどく激しい暴行を受けました。

荻上:そのグループは何人組だったんですか。

海野:8人だったと記憶しているんですけど。男性、女性、混じっています。

荻上:その8人のうち、暴行に加わったのはどれくらいだったのでしょうか。

海野:駅の改札を出たかったのは私で、彼らは駅の構内側にいたんです。彼らだって次の電車を待っていたんだと思うんですけど、私を殴るためにその駅から出てきて、追いかけてきて。私は反撃もしていませんし、とにかく、相手に背中を向けている状況で逃げていたので。うしろから、とにかく頭を殴られたりとか、肩を殴られたりとかしまして。実際何人が私を殴ったかちょっとわからないですけど。もちろん、主犯の男はなんとなく覚えてます。でもそれをサポートする形で、他の男たちも駅から出てきて、私を殴ったのは確かです。

荻上:その黒人の少年少女というのは、何歳くらいに見えましたか?

海野:「妊娠しているんだ」ということを言っているので、10代後半から20代半ばくらいのグループだと思っています。いまコロナ禍で、本当はマスクをしないと電車に乗ってはいけないんですね。そのグループは誰一人マスクをしていませんでした。見るからに大声で喋ってましたし、出口をブロックしていましたし。ちょっと怖いなという感じはありましたが、出口はそこしかないので私は出口に向かったんですけど。事件に巻き込まれてしまいました。

荻上:その暴行はどれくらい続いて、何をきっかけに止まったのでしょうか。

海野:地上にあがってきてから、私は通行人に、黒人のおばさんと黒人のおじさん二人、二人は他人同士ですけど、別々の方に助けを求めました。けれど、無視されまして。「知らん」って感じで。おじさんは、「あっち側にパトカーがいるから、あっちに行けばいい」と言って、見るからに自分は関わりたくないというのを感じた。そのおじさんの言ったことを私は信じて、道路を渡って。道路中も、道路でも殴られて。反対側の道路に行った時に、まだ7時半だったので、公園がありまして、その公園ではたくさんの人がバスケットボールをしていたりしていた。野次馬というか、私が暴行を受けているときの目撃者がいっぱいいたんですよね。その人たちに、「助けてくれ!」と叫んで、助けを求めたんですけど。ひとりヒスパニックの女性が、私の横に来てくれて、警察に電話してくれて。ということで、犯人がそこから立ち去ったんですね。それで暴行は止まりました。だいたい10分から15分前後の話だと思います。

荻上:目撃者が大勢いるなかでの、公的な場所での暴行だったんですね。

海野:そうです。

荻上:路地裏とかそうしたようなところではなくて。まさに駅から道路を挟んで公園ということになるわけですね。

海野:駅構内は地下はたまたまそのグループと私しかいなかったんですよね。改札も無人の改札なので、ただそこは防犯カメラついているので、警察は見ていると思うんですけど。地上に逃げてからは、目撃者がたくさんいます。私はジャズピアニストで、仕事が始まるのも、通常であれば遅い。深夜3時や4時や5時に帰宅するようなことも、コロナ以前はあったんですよね。だから午後7時半なんていうのは、私にとってはまだ何も始まっていないような夜の時間なんですけど。そういう時間にもかかわらず、治安が悪くなって、そういうことが起きてしまうんだなと実感しました。

荻上:暴行をする際に、少年少女らが海野さんに対して言ったことはあるのでしょうか。

海野:殴られている最中で、誰が言っていたのかは、グループのうちの一人なのか、数人なのかはわからないですけど……。とにかく私、逃げていて、背を向けているので、見えない。あと、一発目に殴られた衝撃で、私は目が悪いんですけど、眼鏡が飛んじゃって。なおさらその犯人の特徴やグループのことが見えなくなってしまった。ただ、”Chinese”とか”Asian Guy”、”Chinese Mother Fucker”って言われていましたね。

▽警察の対応はどうだったのか?

荻上:そうした中で、ヒスパニック系の方が通報してくださって、警察がそのあとは到着したんですか。

海野:はい。それも少し時間がかかったと私は感じています。近所なので警察署がどこにあるのかも知っていますけど、けっこう時間かかって到着した。10分くらい待ったかな。2台パトカーが来まして。そのあと、救急車が来た。私が第一声で伝えたのは、これはヘイトク
ライムだと。

荻上:アジア系、あるいは中国系とみなされての暴力だったと。

海野:コロナ禍になってから、中国の人がマスクをして電車に乗っていたところ、黒人に殴られたという事件が実際に起きていました。コロナの最初のころです。その時からアジア人がコロナウイルスを持ち込んだとか、そういうようなことを考える人が出てきて。実際の事件について私も聞いていたので、いざ自分の身にそうしたことが起こった時に、まず直感でそう思った。ああこれは、聞いていたやつだなと。アジア人だったら殴ってもいいんだと思っている連中なんじゃないか。ニューヨークは治安が昔からいいところではないので、物取りや強盗など、お金を取って立ち去ることはあったようなんです。私は幸いこの12年、そんな目にはあったことはないん
ですけど。ニューヨークの先輩方に聞くと、そういうことは昔からあるよと言っていました。でも今回の場合は、とにかくストレス発散、そこにいるアジア人をムカムカしたから殴ろう、そういうゲーム感覚なんです。それで殺されかねないような状況の暴行だったので。今でも思い出してしまいますね、状況を。

荻上:その時に、金品を奪うというようなことはなかった?

海野:まったくないんですよ。それが怖い。いつまでこの暴行が続くんだろう。相手の気が済むまで。気が済むまでのあいだに、私が意識を失ったり、死んじゃったら話にならない。だから本当に怖くて、自分はこうやって死ぬのかなとも思った。でも、父親になったばかりですから、こんなところで死ねないと思って。そんなことを思っているときに、スパニッシュの女性に助けられたんです。

荻上:警察にヘイトクライムだと伝えたあとの、対応はいかがでしたか?

海野:犯人は武器を持っていたのか? ということを一番気にしていました。私は素手で殴られていたので、武器は使われていない、持っていたかどうかわからないけれども、おそらく持っていないんじゃないかという話をして。それがわかると急に、そこまで緊急じゃないんだなというような態度になりましたね。警察の到着が遅かったのも「今日もいろんな所で事件が起きているから」と言ってまして、手が回らないというようなことも聞きました。救急車で病院に運ばれて、夜はそこで検査をしたり、全身を調べました。病院を出る明け方、家に帰る時には警察がエスコートしてくださるという約束をしていたんですけど。結局は「今は人手が足りないから出来なくなった」と言われまして。だから警察の対応には、不信感を持ちました。

荻上:その時、犯人たちの特徴は伝えたんですよね。

海野:もちろんです。

荻上:その後、捜査はどうなったのでしょうか。犯行グループは逮捕されたんですか?

海野:まだ逮捕されていませんね。私の事件が知られるようになったのは、私の親友の黒人ドラマーが心配してくれて、クラウドファンディングを立ち上げてくれたからです。保険に入ってたとしても、アメリカの医療費は本当に莫大な想像を絶する額ですから。そのことで、私のこの事件を知ってくれた方がアメリカでまず多くて、続けて日本や世界中にも広がった。この広がり方を見て、CNNやアメリカのメディアからも取材を受けたり、日本では朝日や読売の取材を受けました。その中で、警察もちゃんと扱わないといけない、本腰を入れなきゃみたいな感じになったのではないか。

荻上:注目をされたから、対応しないと批判されるなという。

海野:もしこれが何もなかったら、本当に泣き寝入りに近いというか、人知れず、ただの暴行事件で終わっている。捜査する気もさらさらないみたいな。そういう状況を感じます。この事自体がアジア人軽視だとも感じました。

▽取材と、言葉の切り取られ方~メディアの問題

荻上:複数のメディアの取材を受けたということですけれども、入院中から取材対応はされていたんですか。

海野:もちろん最初はできません。暴行を受けていることがトラウマになっているので、メディアに同じような話を何回もするのは、精神的に辛い。ステイトメント(声明)という形で、文章をつくって、それを報道機関にメールで送りました。もちろん事件のすぐあとはできませんでしたけれども、友人の協力も得ながら、ステイトメントをつくってというのを、1週間ちょっと経ってから行いました。

荻上:そのいただいた質問に対するステイトメントを送って、各社の報道のあり方というのはどうでしたか?

海野:これがまた……。予想通りと言いますか……。アメリカの社会情勢が本当に不安定で、大統領選挙がいま控えている状況ですけれども(※この収録は2020年10月下旬に行いました)。CNNですと、私が書いたことに対して、黒人による犯行だったのですが――ここで私が黒人と言ったからといって、黒人差別をしているわけではなく、犯人の特徴を言っているだけなんですけれども――そこをセンシティブに捉えて、黒人ということをまずメディアは取ってしまうんですよね。

荻上:削除する、カットするってことですね。

海野:カットして、「少年少女8人による犯行」だと書く。この事件に対して、なぜこういうことが起きたと感じましたか? という質問もありました。私は、大統領が”ChineseVirus”とアジア人の差別を助長しているかのような発言をしていることが、関係している可能性は否定できない、加えて、BLM(Black Lives Matter)の中で、――黒人の仲間と、私はジャズを演奏しているんで、とても理解するし賛同するんですけど――それを隠れ蓑としてなんでもやっていいんだと暴動を起こしたり、物を取ったり、人を殴ったり、暴動化する一部の黒人がいて、その事も影響している可能性は否定できないとも答えました。黒人は今まで虐げられてきたから、今こそその仕返しだというように考えるような人もいるので。もしかしたら僕を襲った少年もそういうことろで、強気になって襲った可能性があるかもしれない。このようなことも含めて、声明を出しているんですけれども。黒人ということはもちろんカットされて。あるいは、私は「大統領の発言に影響があるかもしれない」と柔らかく
言っても、そこは「トランプが」とあえて強調されて。

荻上:”president”と書いていたのを、”Trump”に変えられたと。

海野:”Trump”に変えられまして。同じと言ったら同じですけれども。やっぱりCNNとしてはトランプ不支持ということなんだと、私は鮮明に感じました。一方で、BLMは賛成だと。ですから私の答えたBLMの部分はカットされていました。CNNとしては触れたくないのでしょうね。

荻上:海野さんの中には、大統領の扇動への懸念がある。それに加えてBLMが、アジア蔑視や攻撃につながらないよう改善を期待したい思いもおありになるということですか。

海野:もちろんそうですね。

荻上:ただ、その一面の方を取り上げて、もう一方のメッセージは取り上げないというようなことが、いくつかのメディアであったということですね。

海野:そうですね。バイデン支持者の場合ですと、「ほれみたことか、トランプの発言によってアジア人が襲われたぞ」となりますし。トランプ支持の人にしてみたら、「BLMというものは怪しい、そんなのは嘘だ」という形になる。両方のサイドに、彼らの主義主張を証明するために、私の事件が使われている印象がありました。あるいは、中国の方をよく思わない人が、「だから中国は……」みたいなこと言ったりとか。大坂なおみさんに対して、「なぜ日本人が襲われているのに、なにも言わないんだ、助けないんだ」と私の事件を使う人が出てきたり。私は、そういうことはなにも思っていないんですけど。そのように、一部の人の犯罪でも、「ほれみたことか、○○は悪いんだ」「○○人はダメだ」というふうに一体化してしまうことを危惧しています。

荻上:そもそも犯人が逮捕されていないので、犯行グループの動機もわからない。他方で一人歩きする「○○のせいだ」「○○が悪いんだ」が、海野さんへのお見舞いの言葉もなしに語られる面もあるんですよね。

海野:仰る通りです。私の事件が、彼らの主義主張を言いたいための道具になっているというか。そういう方は本当に心から「大変だったね」と思ってくれる人は少ないかもしれません。

▽同じ事件が起こらないために

荻上:誰による、どのグループに対するヘイトクライムであったとしても、これは問題である。特に今回、海野さんが、”Chinese”とか”Asian”という言葉を吐かれて攻撃を受けた。アジア系に対するヘイトクライムを改善してほしい気持ちはあるのでしょうか。

海野:非常にあります。12年間、アメリカに住んでいて、アジア人、特に日本人のコミュニティはそんなに強くないと感じています。私はまだ命があっただけ良かったですけれども、2013年にNY市警(NYPD)のパトカーにはねられてなくなった小山田亮さんの事件もありました。これは本当にショッキングな事件で、犯人が警察官でした。いま、黒人が警察に殺されたなら、暴動が起きる世の中ですけれども。まったく同じようなことが日本人に起きてても、特に日本でもそこまで話題にしたり運動が起きない。そもそもバブルのころの、ジャパンバッシングもありましたし、日本人というだけで差別されてしまう事は事実として昔からあります。もっと言うと、戦時下で日系アメリカ人が強制収容所に12万人も入れられてしまったこともある。でも日本国内の人で、ナチスドイツのユダヤ人迫害や、アウシュビッツの強制収容所はご存じでも、このようなことは知らない方も多い。同じ日本人の血を持っている人がアメリカで人権を侵害されていても、日本人自体が闘わないこともあります。ニュースにすらならない。黒人たちは、400年以上前からの奴隷のシステム、社会システムの矛盾に立ち上がって、声をあげ続けている。今は非常に大きなムーブメントとなっています。しかし、まだまだアジア人では、そういうことは出来ていない。それは誰かがやってくれというわけではなく、私自身の話でもあるんですけど。やはりアジア人として、日本人として、ダメなものはダメ。どの民族であっても、人権を大切にする。そういうことが絶対に大事だと思っています。

荻上:今回の事件を、つまみ食いしないでくれと。ある側面だけでトランプ批判につなげたり、ある側面でBLMへの疑問につなげたり。ましてや大坂なおみさんを揶揄するようなことではなく。同様の事件が起きないためにはどうしたらいいのか、という方向にリソースを割こうよという感覚なのでしょうか?

海野:もちろんそうです。私のことをご存じない方も多いと思うのですが、私は2年前に亡くなったロイ・ハーグローヴ(Roy Hargrove)のバンドにいまして、彼はブラックミュージックを代表するようなアーティストだったんですよね。黒人のミュージシャンが憧れ、誇りとする存在でした。その名門バンドの30年の歴史の中で、私初めてのアジア人のメンバーで、私一人だけが日本人で、あとはみんな黒人のメンバーで世界中を周っていました。だから私は、黒人の人には恩があるし、私のやってるジャズは黒人が作ったものであるし、本当にリスペクトしている。だから今回の事件で、「黒人が悪い」というようなことはまったく思っていないんですよね。でもそう「黒人が悪い」と主張したい人が出てきていることに心を痛めています。

▽支援の声は?

荻上:一方で、支援の声や共感の声もあったと思います。

海野:アメリカ人のファンの方からは、「私の国は本当に恥ずかしい。申し訳ない。アメリカの闇であり、いちばん良くない部分であり、こんなことが建国以来ずっと続いている。とにかく変えないといけない」というようなメッセージをいただきました。「本当にごめんなさい、ニューヨークを離れないでください。あなたが必要です」「こういう時こそ音楽はみなさんに必要だから、頑張ってください」という温かいメッセージもありました。日系のアメリカ人の方、中国系の方、韓国系の方からもメッセージを沢山いただきました。「アジア人として、私も似たような経験をしたけれども、警察も扱ってくれなくて、泣き寝入りした」と。だからこの気持ちがよくわかるということでした。それが私はショックで、みなさん言ってないだけ、知られていないだけで、アジア人に対する、この国での生きにくさが本当にあるんだなと心から実感したんですよね。

荻上:そうした時に、「アメリカのこの部分のせいだ」でもなく、ましてや「アメリカに行った人たちの自己責任だ」と切り捨てるでもない。「私たちアジア系の人間が旅行で行ったり、滞在したとしても、安全なアメリカになってくれ」という声のあげかたが望ましいと思います。でもそうした声の繋がりには、なかなかなっていない。けれども、海野さんのところには、様々な体験談などが寄せられているのですね。

海野:そうですね。私も大好きなジャズのためにアメリカにいるのですが、例えば日本人として私が逆にもし何か事件を起こすようなことがあったら、「日本人はダメだ」という一体化した差別につながってしまうこともあると思っています。

荻上:言われかねないと。

海野:はい。外国で生きる上で、日本人全体が、大切にされ、尊敬されるような活動をしていく。外国に住んでいる日本人って、それこそ外交官のような役割もあると思うんですよね。日本を出ていって、外国でやっているんだから、自己責任でケガしても仕方ないという人もいるかもしれないですけど。実は外国に住んでいる日本人はそういう貢献をしている。

荻上:文化大使みたいな格好ですか。

海野:だから私はそういう部分を、自然と請け負うことになっているんだろうなと感じますし。そういう中で、日本に住んでる方にも、アジア人差別、ひとたび日本を出ると、アジア人というだけで殴られてしまう可能性があるのだと、心に留めていただいてもいいかなと思うんですよね。世界には日本に対して良いイメージを持つ人がいても、実際にはアジア人としてしか見分けられません。アジア人を標的にした犯罪は現実に今まさに増加していますか
ら。

荻上:例えば、9.11のあとに、イスラムフォビアが話題になったり、戦前から「黄禍論」のようなアジア系に対する蔑視があったり、最近だと”Chinese Virus”という発言が繰り返されることもありました。アジア系に対するヘイトスピーチやヘイトクライムの変化は、ニューヨークで暮らしていてどう感じていますか?

海野:私の生きているジャズコミュニティでは――音楽は人種の壁をこえる素晴らしいものですので――心が通じる仲間と演奏してきました。実際に自分が、出世できないとか、なにかを阻まれたような差別は特に感じて来なかった。ただ、ひとたび何かが起きた時に、こうやって声をあげにくい状況や、よそ者扱いされるようなことがあるのは、日々の暮らしの中でも感じていました。具体的にアジア人だから酷い目にあうことはありませんでしたが、どこか「真向かいに住んでいるお客さん」で、「アメリカを一緒につくっていく人」のようなイメージは持たれていないでしょう。アメリカは、そもそも建国の時から、矛盾をはらんでいます。ヨーロッパから来た白人が「発見」し、先住民を追い出して、奪い取って、我が物顔でふるまっているような国じゃないですか。アメリカの大陸は広いので、アフリカから大量の黒人を奴隷として拉致して、人権を踏みにじって、それで「自由の国」と言っている。建国の精神からして、矛盾をはらんでいて、理不尽極まりない。この社会システムの怒りが爆発しているのが、今のBLMなので。正しくそうやって闘っていることに私も賛同しています。”Make America great again” とトランプが言ってますが、単にアメリカの経済が過去に発展していたことだけではなく、白人中心至上主義の時代がどうしてもちらつきますよね。そういうアメリカの白人至上主義は抜けていない。そして、アジア人から見ると、白人、黒人そしてヒスパニックの人たちの方が地位が高いように感じます。だからアジア人、日本人はかなり下の方ですよね。

荻上:蔑視のようなもの、クライムとかスピーチまでいかなかったとしても、ステレオタイプや偏見や、蔑視というものが実はある。海野さんは幸福にも、そうした経験をコミュニティの中では味わわなかった。でも、そうしたものを経験した方から、「私も」という感じで静かに声が集まっている状況なんですね。

海野:そうなんですよ。心を痛めています。

▽チャリティーライブを開催

荻上:これから海野さんはどう活動をしていくのでしょうか。チャリティーライブも用意されていると伺ったんですけど。

海野:日本のミュージシャンが本当に心配してくれて、11月15日にチャリティライブを私のために開催してくれることになりました。このことに、心が本当に温まる思いで。人生には闇と光とがあると思います。事件にあってしまった闇や、アメリカの差別の闇も闇があった。一方で人の温かさもちゃんとあって、そういうところは純粋にありがたいなと涙が出てくるような思いでいます。

荻上:海野さんを支援する配信コンサートについては、オンライン配信限定なので、チケット購入をすると見られるということですよね。

海野:はい。私はもちろん日本にいけませんので、ニューヨークから楽しませていただこうと思います。日本のジャズミュージシャン45名が集結してくださって、長時間に渡って演奏する。ジャズフェスティバルのような感じです。

荻上:プログラムみたら7時間放送するんですね。フェスですね。

海野:フェスを、私のためにという趣旨でやってくださる。本当に感謝の言葉しかないです。

 

▽内なる差別をなくすために必要なこと

荻上:今後、関連の報道などもいくつか出るかもしれません。そうした報道にこれから触れる、あるいは今回の件をはじめて知ったリスナーの方々に、どのような点を知ってほしい、意識してほしいですか。

海野:先ほどの繰り返しになってしまいますが、なにか一つの事象が起きたときに、ある人種をすべて否定してしまうような社会情勢に急速に傾いているように感じます。一人一人が思いやりを持ち、ちゃんと判断してほしい。先ほども言ったように、ニュースも切り取られたりしますので。一人一人のリテラシーを高めて、日々勉強していかないといけないところもあります。また日本にいればアジア人差別は関係ないと思う方もいるかもしれません。でも例えば、私がニューヨークの街を歩いていて、「ニーハオ」と言われたとして、「俺は中国人じゃないよ、日本人だよ、なに言ってるんだ」みたいな感情が自分の中にあったとしたら、その時点で中国人に対して、かなり軽視しているとか、差別していることになると思います。日本に住んでいる方で、コロナウイルスのことで、中国人に対して軽視するような人が出ているようにも感じています。「俺は中国人と違うぞ」と日本人を誇りに思うことも違うだろうと私は思っています。

荻上:アジアをひとくくりにして”Chinese”と見てくることも相手のステレオタイプだが、それを受けた人が「あんなものと一緒にするな」と反応した段階で、その人の差別も表に出てしまうわけですよね。

海野:まさにその通りなんですよね。自分は差別していないつもりになっていても、心の中では自然と差別してしまうことが日常でもあると思います。それはアメリカに限らず、世界どこに住んでいても起こります。自分は関わっていないような気持ちでも、優越感で誰かのことを下にみたり、差別したりすることは、日常であることでしょう。自己反省して、よりよいポジティブな世の中にしていくためにも、改善すべきことだと思っています。

荻上:今回、この番組のインタビューに応じていただいたわけですけど、Sessionも聞いてくださっているとうかがいました。リスナーの方には、リスナー仲間がそうした目にあってしまったのだと、そうした共感も持ってほしいなと聞きながら感じましたね。

海野:特にコロナ禍にあって、チキさんのラジオを聞いていました。どっち派? とするのではなく、事実を淡々と伝え、ダメなことはダメとちゃんと言って、良いことは良いというような姿勢をチキさんは貫いてらっしゃるので、私は尊敬しています。右か左か、カテゴライズするのが人は好きだと思いますが、本当に世の中を良くしていくために、そういうカテゴリーの中で、生きることをやめる人が出てきてほしいなと思います。

荻上:事件があったことに対して、「○○のせいだ」と簡単にカテゴライズするのではなく、その姿勢に疑問を抱くような受け止め方をしてほしいですね。

海野:まさにその通りです。私の事件を利用して、ご自身の主張を立証しようとする。他の事件でも、皆さんされていることだと思うのですが。個人がそうしてソーシャルメディアで、発信しやすい時代だからこそ、気を付けてほしいですし、簡単にリツイートするのも考えたほうがいいと思います。情報の真意もそうですし、自分の主義主張が、相手の価値観や人権を否定していないかと、私も自戒しつつ、気をつけていかないとと思っています。

荻上:海野さん、お大事にしてください。ありがとうございました。

海野:ありがとうございます。

(了)

★番組では月曜から金曜まで、その日のテーマについてなど、メールマガジンを配信中★
登録はこちらからお願いします
===============================
「荻上チキ・Session」
TBSラジオで平日午後3時30分から生放送!
*ラジオはAM954/FM90.5
*パソコンorスマホで「radiko」でどうぞ。
===============================