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「映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』をより楽しむための音楽ガイド」(高橋芳朗の洋楽コラム)

ジェーン・スー 生活は踊る

音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム(2020/08/21)

「映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』をより楽しむための音楽ガイド」

高橋:今日はこんなテーマでお送りいたします。「本日公開! 映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』をより楽しむための音楽ガイド」。

映画の劇中で使われている音楽を解説するシリーズ、今回取り上げるのは本日21日より公開になる青春映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』です。まずは映画の概要を紹介しましょう。

「『her/世界でひとつの彼女』や『リチャード・ジュエル』の出演で知られる女優オリヴィア・ワイルドの初監督作品。成績優秀な優等生であることを誇っていた親友同士のエイミーとモリーが卒業前夜、遊んでばかりいたはずの同級生もハイレベルな進路を歩むことを知り自信喪失。失った時間を取り戻すべく卒業パーティーに乗り込むことを決意する」というお話。この映画はスーさんもすでにご覧になっているんですよね?

スー:うん、推薦コメント書いてるからね。ヨシくんもパンフレットに寄稿してるんでしょ?

高橋:そう。まさに劇中で使われている音楽に関するコラムを書いています。

スー:じゃあ『生活は踊る』リスナーなら絶対に見に行かなくちゃね!

高橋:先週の放送でチケットプレゼントをしたときには「学園映画の最前線や!」みたいな感じで盛り上がりましたけど……いかがでしたか?

スー:いまはいろいろなことが圧倒的なスピードでアップデートされているじゃないですか。学園映画はものすごくおもしろいんだけど、やっぱり娯楽映画としてはステレオタイプを描いていかないと話が進んでいかないところもあって。我々もさんざんっぱらそれを笑ってきて、いまになって振り返るとマズいことも多々あるわけじゃないですか。そのあたりが圧倒的なスピードで刷新されていることがよくわかる映画でしたね。

具体的なところでいうと、だいたいアジア人の学生はつい最近まではギークだったりナードだったり……要するにガリ勉だったりオタクだったり、そういうスパイス的なキャラで描かれていたんですけど、この映画に出てくるアジア人は普通にイケメングループのひとりなんですよ。そこに特に注釈もなく、それが日常として普通に描かれてる。そういう部分も含めて、すべてがチューンアップされていることにびっくりしましたね。

高橋:そういう人種やセクシャリティも含めた多様性もそうだし、あとは『ブレックファスト・クラブ』や『クルーレス』に代表される80〜90年代の学園映画のわかりやすいスクールカーストがもう存在してないんですよね。

スー:そうなんだよね。それは去年公開された『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』もそうだったじゃん?

高橋:うん。ふたりで監督のボー・バーナムにインタビューしたよね。

スー:そう。「もう昔のようなスクールカーストはない」って監督も言ってたよね。またそこにきてさ、美しいという意味で良い思いも悪い思いもたくさん経験してきたであろう女優のオリヴィア・ワイルドの初監督作品がこれっていうのが熱い!

オリヴィア・ワイルド監督

高橋:グッとくるよねー。この映画はさっきもあらすじで紹介したように卒業式前日の一夜を描いているんですけど、そういう「一夜もの」はジョージ・ルーカス監督の『アメリカン・グラフィティ』を起源としてこれまでにたくさんつくられていて。『ブックスマート』はそのスタイルの最新にして最良の成果のひとつと言っていいでしょうね。そしてすでにいろいろなところで指摘されいる通り、青春映画の「一夜もの」の傑作『スーパーバッド 童貞ウォーズ』との共通点がめちゃくちゃ多いんですよ。

スー:非常に多いですね。ただ、まったく違うんですよね。『スーパーバッド』は女性としては見ていて陰鬱とした気持ちになってくるけど、『ブックスマート』はそういうのがぜんぜんない。

高橋:『スーパーバッド』のガールバージョンでありアップデートバージョンですよね。『スーパーバッド』を彷彿とさせる要素はいろいろあるんですけど、それは音楽に関しても例外ではなくて。『スーパーバッド』は青春映画/学園映画にファンクを持ち込んだことが画期的だったわけですが、この『ブックスマート』も冒頭からいきなりファンクサウンドが飛び出してきます。

BGM: To Whom it May Concern / Sam Spiegel feat. CeeLo Green, Theophilus London and Alex Ebert

いまBGMでかかっているサム・スピーゲルの「To Whom It May Concern」が主人公のエイミーとモリーの通学シーンで流れてくるんですよ。

スー:エイミーとモリーは白人の女の子だもんね。

高橋:そうそう。この80年代ファンクのオマージュみたいな曲をバックにふたりでロボットダンスを踊ったりして。

スー:ね。かわいいんだよー。

高橋:オープニングからいきなり楽しいよね。そして『スーパーバッド』というと劇伴をジェイムズ・ブラウンやジョージ・クリントンといったファンクレジェンドのベーシストだったブーツィ・コリンズが手掛けているんですけど、『ブックスマート』ではそのブーツィがメンバーに加わったジョージ・クリントン率いるパーラメントの名曲が使われているんですよ。どんなタイミングで流れるかはお楽しみにしておくとして、一曲目はこの曲からいってみましょう。

M1 Give Up the Funk (Tear the Roof Off the Sucker) / Parliament

高橋:このパーラメントがまさにそうなんですけど、『ブックスマート』は意図的に学園映画のセオリーから逸脱するような選曲をしている節があって。それがこの映画の体裁をフレッシュにしている大きな要因のひとつになっているんですけど、劇中の挿入歌のだいたい3分の1ぐらいはヒップホップなんですよ。

スー:だってダン・ジ・オートメイターだもんね。

高橋:そう、そもそも映画の劇伴を90年代から活躍している日系のヒップホッププロデューサー、ダン・ジ・オートメイターが手掛けているというね。そんなわけで挿入歌として流れるヒップホップもとんがったアーティストばかり、しかも女性ラッパーが中心になっていて。なかでも2曲使われているのが、いまBGMで流れているブルックリン出身のレイケリ47です。

BGM: Money / Leikeli47

レイケリ47は覆面ラッパーで素性がほとんど不明なんですけど、アルバムのテーマに「美とエンパワメントとアイデンティティの探求」を掲げるフェミニストにしてLGBTQフレンドリーな活動を身上としていて。まさにフェミニストな主人公のふたりのプレイリストに入っていそうなアーティストなんですよ。

スー:うんうん。映画自体そういうところがあるからね。

高橋:ほかにも女性ラッパーのパイオニア的存在、ソルト・ン・ペパの懐かしいヒット曲が使われていたり。

スー:フフフフフ、あれはおもしろかったね。すごくくだらないシーンで流れるんですよ。

高橋:そんななかからここで聴いてもらいたいのは、今年のグラミー賞で主要4部門すべてにノミネートされたリゾの「Boys」。主人公ふたりがパーティーに乗り込んでいくときにかかる曲ですね。リゾといえば定型化された美しさにとらわれることなく自分らしい体型を愛そうという「ボディポジティブ」のアイコンとして知られていますけど、主人公のエイミーの部屋には人工妊娠中絶制限の合法化に反対するスローガン「MY BODY MY CHOICE」(私の体は私が決める)のポスターが貼ってあったりして。さっきのレイケリ47もそうですが、主人公の思想と流れる曲のアーティストの思想が一致しているのが素晴らしいですね。

スー:うん。ちゃんと主人公が聴いてるっぽい曲が選ばれているんですよね。

M2 Boys / Lizzo

高橋:3曲目はこの映画のベスト音楽シーンですね。パフューム・ジニアスの「Slip Away」。この曲はホームパーティーのシーンで流れるんですけど、主人公のエイミーはレズビアンであることをカミングアウトしていて、同級生のスケーターの女の子ライアンに片思いしているんですよ。それでパーティーに行ってみたらちょっとしたきっかけからライアンと意気投合して、彼女に庭のプールに行こうと誘われて。

スー:うんうん。そこからがな……もう……うう……心臓が潰される……。

高橋:そしてライアンがプールに飛び込んだら、エイミーも彼女を追いかけるようにしてプールにダイブして。そんなシーンで流れてくるのが、これから聴いてもらう「Slip Away」なんですよ。

このパフューム・ジニアスはマイク・ハドレアスのソロプロジェクトになるんですけど、彼もゲイであることをカミングアウトしているんですよ。この曲はそんなマイクが愛の解放をテーマに歌ったラブソングで、歌詞は「ためらわないで。自由になりたいんだ。神様があなたの体中で歌っているよ。私はそのサウンドにさらわれていく。振り向かないで。自由になりたいんだ。あいつらが来るのが見えなければ隠れる必要なんてないんだよ」という内容になっています。

この歌詞と照らし合わせたらわかりやすいと思うんですけど、要はエイミーが意中のライアンを追ってプールに飛び込むという行為は、自分の感情の赴くまま愛情を表現するという決意のメタファーになっているんですね。青春映画のパーティーシーンにはなにかとプールはつきものですが、その歴史にまた新しい名場面が誕生したという印象です。

M3 Slip Away / Perfume Genius

高橋:最後はそのエイミーがパーティーのカラオケで歌うアラニス・モリセットの「You Oughta Know」。1995年の大ヒット曲です。

これもめちゃくちゃ素敵なシーンですね。いままでずっと学業に専念してきてまともに同級生と向き合ってこなかったエイミーとモリーは、パーティーに出かけたところで果たしてみんなは私たちのことを受け入れてくれるだろうか、という不安があるわけなんですよ。でもいざ行ってみたらみんなが思いのほか歓迎してくれて、エイミーがその高揚感を爆発させるようにしてカラオケで歌うのが「You Oughta Know」なんです。しかも、エイミーは意中のライアンにうながされて歌うことになるもんだからもう興奮して舞い上がっていて。ただ、アラニスの「You Oughta Know」がどういう曲だったか、どんなことを歌った曲だったか、ということですよね。

スー:フフフフフ、強烈ですよね。当時歌詞を見て「なぬっ!?」ってなった思い出がある。

高橋:これはアラニスが当時交際していたコメディアンのデイヴ・クーリエとの別れを赤裸々に綴った曲なんですよね。そんな「You Oughta Know」の歌詞がなにを示唆しているのか、それはぜひ皆さん劇場で確認していただけたらと思います。

M4 You Oughta Know / Alanis Morissette

高橋:スーさんも曲がかかっているあいだずっとソラで歌ってましたね。いやー、懐かしい!

スー:懐かしいですねー。主人公のふたりにとっては親が歌っていた曲って感じなんだろうな。

高橋:というわけで本日より公開の『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』の見どころを音楽面から紹介してみました。この映画は学園映画/青春映画としてはもちろんなんですけど、バディムービーとしても楽しめるんじゃないかと思います。なんでもオリヴィア・ワイルドは『リーサル・ウェポン』や『ビバリーヒルズ・コップ』を参考にしているそうなので(笑)。

スー:アハハハハ!

高橋:とにかく最高の一本なのでぜひ皆さん劇場でチェックしてみてください!

―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ――
当ラジオ番組では「日々の生活に音楽を」をコンセプトに、音楽ジャーナリスト・高橋芳朗さんによる洋楽選曲を毎日オンエア。最新1週間のリストは以下です。

8月17日(月)

(11:07) Love and Mercy / Brian Wilson
(11:23) Kokomo / Beach Boys
(11:40) Figure of Eight / Paul McCartney
(12:14) Devil’s Radio / George Harrison
(12:49) 夢みる渚 / 杉真理

8月18日(火)

(11:04) Herman / Love The One You’re With
(11:24) The Isley Brothers / Lay Lady Lay
(11:35) Stevie Wonder / Happier Than Morning Sun
(12:13) Linda Lewis / Gladly Give You My Hand
(12:50) はっぴいえんど / 夏なんです

8月19日(水)

(11:05) Club Tropicana / Wham!
(11:24) Right By Your Side / Eurythmics
(11:37) I’ll Tumble 4 Ya / Culture Club
(12:15) Marine Boy  / Haircut 100
(12:50) 避暑地の出来事 / 荒井由実

8月20日(木)

(11:04) So Nice (Summer Samba) / Astrud Gilberto & Walter Wanderley
(11:24) It’s Time to Sing / Marcos Valle
(11:36) Bye Bye Blackbird / Mario Castro Neves & Samba S.A.
(12:19) The Sunny Side of the Street / Quarteto Em Cy

8月21日(金)

(11:04) Brazilian Rhyme / Earth Wind & Fire
(11:28) Dance (Do What You Wanna Do) / Sun
(11:37) Can’t You See Me / Roy Ayers
(12:10) Feel Your Way / Breakwater