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宇多丸、『パブリック 図書館の奇跡』を語る!【映画評書き起こし 2020.8.14放送】

アフター6ジャンクション

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

今週評論した映画は、『パブリック 図書館の奇跡』2020717日公開)です。

オンエア音声はこちら↓

 

宇多丸:

さあ、ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する週刊映画時評ムービーウォッチメン。今週、扱うのは717日に公開されたこの作品、『パブリック 図書館の奇跡』

(曲が流れる)

80年代にはね、『ブレックファスト・クラブ』とかね、『ヤングガン』シリーズとかもありますしね。あとは『セント・エルモス・ファイアー』とかね……などなどで知られる、俳優のエミリオ・エステベスが製作・監督・脚本・主演を務めたヒューマンドラマ。記録的な大寒波に見舞われたオハイオ州シンシナティの公共図書館に、行き場を無くしたホームレスが立てこもる。

図書館員のスチュアートは、代わりの避難場所を求めてデモを始めたホームレスたちと行動を共にするが、メディアの報道などで危険人物に仕立てられてしまう。エミリオ・エステベスのほか、アレック・ボールドウィン、クリスチャン・スレーター、ジェフリー・ライト、ジェナ・マローンなど、豪華キャストが脇を固める、といったところでございます。

ということで、この『パブリック 図書館の奇跡』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、残念ながら「少なめ」といったところらしいんですけども、賛否の比率の、「褒め」が8割。主な褒める意見は、「抑制の効いた上品なコメディ。ただしラストには度肝を抜かれた」「日本の図書館と随分違うことが分かって勉強になった」「声を上げろ(Make Noise)というメッセージは今の社会に必要なもの」「監督もしているエミリオ・エステベスをはじめ、クリスチャン・スレーター、アレック・ボールドウィン、ジェナ・マローンといった懐かしい俳優たちの出演が嬉しい」などなどございました。

一方、批判的な意見としては、「ラストの決着はあれでいいの?」「女性の登場人物たちが魅力に欠ける。ホームレスに女性が1人もいないのが不自然」「エピソード、ちょっと詰め込みすぎ。やや消化不良など」がございました。

■「映画を、文学を、人を、自分を、いろんなものを信じたくなる映画」byリスナー

代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「ペニー」さん。

「毎年、お盆のこの時期、新宿中央公園の夏祭りでは、路上で死んでいった仲間たちの追悼式が行われていました。祭壇の隣で納涼映画祭、カラオケ大会と盆踊りで大いに盛り上がり、冷たい飲み物と素麺やウナギ丼などの炊き出し、喧嘩にならない程度のお酒も振る舞われます。ホームレスであってもなくても、大きなブルーシートに並んで座り、一緒に飲んで食べて楽しむことができました。隣に座ったヒゲもじゃのアイヌのおっさんは羽振りの良かった頃を自慢します。下品なおっさんでしたが、出稼ぎで上京し、怪我をして路上生活に至るまでを屈託なく話してくれて、とても嬉しかった。

そんな夏祭りが2013年を最後に開催されなくなり、新宿中央公園はどんどんおしゃれ化が進んでいます。相変わらず公園内のベンチには(寝れないようにする)ホームレス排除の肘掛けが施されたままです。政治家やメディアが弱者を量産して危険なものに仕立て上げ、権力を行使して排除する。『パブリック』が描いていることはまさに今、世界中で起こっていること。映画は極寒のシンシナティが舞台でしたが、猛暑の新宿。あのアイヌのおっさんはどうしてるんだろう? 非力さを突きつけられ、絶望しかかっている。それは私です。

映画を見ながらスチュワートに、ホームレスたちにこれ以上悪いことが起こりませんようにと両手を握りしめて、ただただ祈っていました。そしたらですよ、主人公のスチュアートが、ビッグ・ジョージにメガネをかけさせるとI can see clealy now.……」。これ、劇中で歌われる歌のタイトルでもありますが。「『パブリック』の邦題には『図書館の奇跡』という副題が添えられていますが、映画で起こったことは奇跡なんかじゃない。1人ひとりが自分の目でものを見れば世界は変わる。丸腰が一番強いんじゃ! そう思わせてくれました。映画を、文学を、人を、自分を、いろんなものを信じたくなる映画。大好きな映画です」ということで。

日本のね、ホームレスの問題というか、扱いというか、そういうものも当然ありますよね。ホームレスに限らず、そういう社会的弱者に対する扱いとかね。その、公園に居づらくさせる(仕掛けが各所に仕込まれている)とかね。あとは、一気にあのブルーシートのあたりを、オリンピックに向けて、もう全部根こそぎ排除しちゃったとかね。ああいうような、このご時勢とも全く関係ない話じゃないですよね。

一方、ちょっと批判的なメールもご紹介しましょう。ラジオネーム「敵のミス待ちはしない亀」さん。「課題作の『パブリック 図書館の奇跡』、見てきました。テーマ性は非常に良いと思うのですが、展開や構成については不満を感じる1本でした。僕は小学校時代から本が好きで、学校の図書館も公立の図書館もどちらも大切な場所でした。また有川浩先生の『図書館戦争』シリーズのファンであり、単なる貸本屋では無い、市民の権利を保障する機関としての側面も認知していたつもりです。

その意味で、警察に屈さず、行き場のない人のために図書館を提供するという主人公たちの姿勢は熱く映りました。しかし、最終的な決着は納得がしにくかったです。映画としてのインパクトや面白みはありましたし、自分たちをそう見せる意味合いも『武器を持たない弱者である』という意味合いで理解したつもりです。しかし図書館という場所の意義に沿った解決ではありませんでしたし、彼らの行動による変化も断片的にしか示されなかったように思います。

せっかくならば図書館という場所の意義に沿った解決や行動の影響を見せてほしかったと感じました。また本を引用してのスピーチも海外文学に詳しくない人間にはやや分かりにくく感じました。アメリカの文学ファンにはちょうどいい描き方なのかもしれないので、良し悪しのジャッジはしにくいですが」。アメリカの文学ファンというか、アメリカの……要するにこの作品が主に向けられたアメリカの観客には、ちょっとある種、一種常識というか、みんな読んだことはある1冊、というところもあるので。それはその、日本の観客に分かりづらいのは当然だと思いますが。ちょっと後ほど、そのお話をしますけど。

「とはいえ、見どころの多い映画であったのもたしかです。図書館の多彩な役割の見せ方。声を上げる(Make Some Noise!)」。これはヒップホップのライブだと「騒げ!」的な意味ですけども、今回は「声を上げろ」という意味。「……声を上げることの重要性。明かされる主人公の過去と現在の行動の結び付きなどは印象的でした」という。まあ全面的にダメだと言っていた人はね、そんなにいなかったという感じです。

■脚本・監督・製作・主演は、俳優としても有名なエミリオ・エステベス

さあ、というところで皆さん、メールありがとうございます。『パブリック 図書館の奇跡』。私もですね、TOHOシネマズ日本橋と、あともう輸入Blu-rayが既に出てたりするので、それで何回か見返してまいりました。ただ、まあちょっと、入りはそんなにね、芳しくなかった雰囲気でしたかね。脚本・監督・製作・主演は、エミリオ・エステベス。もちろんね、俳優として非常に有名な、あのエミリオ・エステベスさんです。

ハリウッドスターで監督業にも進出する、という例が、近年はいよいよ増えてきましたけども、彼は割と早い段階……1987年の『ウィズダム/夢のかけら』という作品からこっちですね、主に脚本・主演・出演を兼ねる形で、意外とたくさん……今回で7作目ですけどね、劇場用映画を作ってきた。あと、テレビシリーズなんかも、これは完全に裏方的に作ったりしてきた。『CSI』なんかもね、ちょっとやったりしてますけどね。事実上のベテラン監督でもあって。しかも、実は今回の2018……これ、2018年の作品です、『パブリック』だけは、ちょっと例外なんだけども。

これまでは、基本的にですね、常にお父さんのマーティン・シーンとか、弟のチャーリー・シーンとの共演で映画作品を作ってきた、という。また、これは今回の『パブリック』もそうだけど、自分の子供たちがスタッフとして関わっていたりもするという。だから要は、家族経営の店、みたいな感じの映画を作ってるわけですね。特にですね、監督としては前作にあたる、10年前の2010年の『星の旅人たち』という、『The Way』という作品とかはですね、マーティン・シーンと親子役。

これは1996年の『THE WAR 戦場の記憶』以来の親子役であり……そのお父さんが亡くなってしまった息子に代わって巡礼の旅に出る、というロードムービーなんですけども。この話自体も、エミリオ・エステベスの息子さんとおじいさんのマーティン・シーンの、本当の巡礼旅行が製作のきっかけにもなっている、ということで。まあとにかく、まさしくファミリームービーの極み、みたいなのが前作だったわけです。

で、それに対して今回、約8年ぶりの監督作となるこの『パブリック』はですね、どっちかというと、さらにその1個前、前々作に当たる、2006年の『ボビー』という作品があって……だからあれですね、監督業はいっぱいやってるけど、結構飛び飛びではあるんだけど。前々作の、2006年の『ボビー』という作品に、より直接連なる作品と言えるんじゃないでしょうか。

これ、『ボビー』はですね、ジョン・Fじゃない方のケネディ、弟のロバート・F・ケネディの暗殺事件を題材にとったという、割と珍しい作品で。まあ事件の舞台になったアンバサダーホテルという、実際にあるホテルに居合わせた人たちの、まさに劇中でも言及されますけど、『グランド・ホテル』形式ですね、それを追ったという群像劇。これ、シャロン・ストーンがすごいよかったですね。シャロン・ストーンとデミ・ムーアがよかったな。なんですけども、要はある限定的な場所、日時を象徴的な舞台として、エミリオ・エステベスが考えるアメリカ民主主義の理想と、その現実との軋轢、衝突を、さまざまな人々の視点から一点に集約して描いてみせる、という作品。

まあ、この意味においてやはり今回の『パブリック』、監督エミリオ・エステベスのフィルモグラフィー上、明らかにその2006年の『ボビー』と連なる作品と言えるんじゃないか、と思います。非常に作りは似てると。

■11年越しで実現させた本作は、より成熟した「善意の立てこもり物」。

ただですね、その『ボビー』という作品が、良くも悪くも、その理想主義のあり方の捉え方というのが、ある意味、非常に無邪気というかですね……要はその、ロバート・F・ケネディさえ生きていれば、みたいな感じの、ちょっと無邪気な感じの理想主義であるのに対して、今回の『パブリック』は、その象徴性の集約のさせ方みたいなものが、より成熟してるというか、独特の、オリジナルな味わいを獲得している。要は明らかに監督エミリオ・エステベス、ちょっと一皮むけた感みたいのが今回あるかな、という風に思います。

話としても、作品の規模としても、とても小さな、こじんまりした、まあ小品なんだけども、内包している、あるいは伝えようとしているテーマは、実はものすごく大きい、普遍的なものでもある、というあたり。ジャンルとしてはね、これは『狼たちの午後』が一番有名で代表的でしょうけど、言ってみれば「善意の立てこもり物」って、たまにあるじゃない? 立てこもり犯が、でも悪い人じゃなくて……っていうパターンね。たとえば『その男ヴァン・ダム』とかもまあ、善意の立てこもり物、と言えると思うんですけど。

まあ、ああいう感じのだと思ってください。そこに、さっきから言ってるような、そのエミリオ・エステベス一流の社会意識、問題意識というのが、象徴的に織り込まれていく、というような。元は、2007年にロサンゼルスタイムズに寄稿されたエッセイ。これ、ソルトレイクシティ公共図書館に勤めていた方が、今、図書館というものが、ホームレスなど社会的に居場所がない人にとってのシェルター代わりになっている、という事実を書いたエッセイがあって。まあ、エミリオ・エステベスがこれを読んでインスピレーションを得て、随分前にその脚本を書いて、11年越しで実現させた企画、っていうことになっていますね。はい。

■冒頭から繰り返し流れるライムフェスト「Weaponized」など、読み取り甲斐がある仕掛けが随所にある

順を追っていきますけども。まずその冒頭。あれは1950年代とか60年代とかなんですかね? アメリカの古い、白黒の教育用フィルムみたいなのが流れて。図書館と図書館員の存在意義、その基本の「き」みたいなことが示されるわけですね。で、タイトル『The Public』っていうのが、シンプルに出る。舞台となるのはオハイオ州シンシナティの公共図書館なわけですけど、大きく言えば、この図書館という施設の持つまさにその「公共」性ですね。公共性、公共的な意味、意義。で、ひいてはそれが担保する民主社会の理想、というね。「民主主義最後の砦だ」なんて言ってましたけど。というのが本作のテーマとなってくるわけです。

だからまあ、タイトルはシンプルに『The Public』という。公共、公共性みたいなことですね。で、まずは最初に、そのシンシナティの街の様子、特にその道端にいるホームレスの皆さんの姿が、次々と映し出されていきつつ……早速、非常に本作において重要な役割を果たす、ある1曲が流れます。これ、流れるかな? さっき、頭の方でも流したから、ちょっと流そうか。

劇中であの「目からレーザービームが出ちゃう」という妄想に取りつかれている、ジョージというホームレスの男性……これ、ちなみに、さっき言ったソルトレークシティ公共図書館に勤めていた方のエッセイにも、その居場所がないホームレス、図書館がシェルター化している中で、やっぱりホームレスの方の中には、精神的疾患を抱えてる方も多いという、そういう意味でも助けが必要な人たちなんだ、ということが書かれていたらしいんですけども。

そんな感じでですね、まあジョージという、ちょっと精神疾患を抱えているらしいホームレスの男性を演じている、ライムフェストという……皆さんご存知ですかね、シカゴ出身のラッパーがおりまして。これ、まあアンダーグラウンドでずっと活動をしてきて、カニエ・ウェストと曲を作ってたりとかして、それなんかで非常に有名ですけども。そのライムフェストさん。今、後ろで流れてます、ライムフェストさんの「Weaponized」っていう曲が、これ、頭で流れるわけです。直訳すると「武器化する」っていうかね。

これが冒頭と、後でも言いますけど非常に重要な局面で、更に2回、流されるんですね。全体で3回、流れるんですけど。これ、日本語字幕も頑張って、歌詞の内容をね、何とか拾おうとしてたんですけど、ちょっとまだ伝わりづらいところもあるかと思うので、一応ね、補足しておきますと、要はこの「Weaponized」という曲は、「酒か、ドラッグか、自殺か」というところに逃避するしかないほど出口なしの人生を余儀なくさせられている、見捨てられた人々という立場から……つまり、劇中のホームレスたち。

あるいは、その主人公エミリオ・エステベスが演じるスチュワート・グッドソンのかつての立場から、そこを抜け出すために、知識や知性……つまり「知」こそを武器として、ささやかな平和のための戦いをするんだ、というようなことをラップしてる曲なわけですよ、大まかに言えば。あと、最後の方でですね、「エレベーターに乗ってケネディやロスチャイルド、ガンジーに会いに行くぜ」みたいなラインがあるんですけど、それはまさにその、図書館的な知の集積のことを歌っている。「知の集積にアクセスできる。それが強みなんだ」っていうことを歌ってもいる、ということで。まさにその本作のテーマ、メッセージ、あるいはストーリーを集約した1曲なんですね、この「Weaponized」という曲は。非常に重要なんです。

後で流される2回の場面では、今、後ろで流れているようなラップのバースじゃなくて、バックトラック、この「♪♪♪♪」っていうトラックと、「Weaponized♪」っていうこのサビのフレーズのみが流れるので、まずはこの冒頭で、よーくこの曲を頭にたたき込んでおくことが重要です、という。で、そこから、主人公を取り囲む人々と図書館員たち……単に本を整理するだけではない業務などが、テンポ良く無駄なく描かれていくんですけど。

エミリオ・エステベス監督、本当に抜かりがないというか、さすがなのは、そこにですね、後に生きてくる伏線……たとえば、元はジョニー・ナッシュの「I Can See Clearly Now」。先ほどのメールにもありましたね。セリフでも出てくるし、あとこの「I Can See Clearly Now」というこの歌が出てくるわけですね。これも2回、出てくるわけです。最初とね、クライマックスで、2回出てくる。これ、ちなみにジミー・クリフのバージョンが有名ですけどね。『クール・ランニング』で使われたというのがありますから。

まあとにかく、後に生きてくる伏線などはもちろん、非常に読み取り甲斐がある重層的な仕掛けを、背景にいくつも配してるんですね、実はね。たとえばですね、あの「ホッキョクグマの剥製を今、預かっておくんだ」なんて出てくるじゃないですか。で、最後の最後もしっかり、ホッキョクグマの剥製でこの映画は終わるわけです。劇中でさりげなく言及される通り、これは要するに、ともすれば絶滅の危機に瀕しかねない、だからこそ意識的に守って受け継いでいかなければならないもの……つまり、その民主主義の理想、その砦としての図書館というものの、メタファーなわけですね。もう明らかにそれはそうなわけですね。

■まさにこれしかない! と引用されるジョン・スタインベック『怒りの葡萄』

またですね、これはあのエミリオ・エステベスが、美術チームに発注して、わざわざ……元々あのシンシナティの図書館にはなかったものを作らせたというですね、館内のあちこちに貼られている、アメリカの偉人たちの肖像と言葉シリーズ。これがあちこちに貼られていて。で、ちょいちょいそれが目に入るわけです。特に、割とはっきりと読み取れるレベルで目立つのは、主人公たちが立てこもる部屋のドアの外側の、右の方に貼られた、フレデリック・ダグラスさんという方の肖像と言葉。

フレデリック・ダグラスさんの、「ダメな大人を正すより、強い子供を育てる方が簡単だ」という有名な格言(が書かれている)。彼、フレデリック・ダグラスさんというのは、元奴隷で、たとえばですね、また別の名言で、Once you learn to read, you will be forever free.っていう、要するに「一度、読むということを学べば、その後は永遠に自由になれる」っていう言葉を残していたりして。要は、さっきのその「Weaponized」で歌われているような本作の精神を、体現するような人物なんです。

で、それがさりげなくも、でもあえてしっかりと画面の一角に、はっきりと読み取れる形で捉えられていたりする。これも周到な仕掛けですよね。あるいはですね、そのジェナ・マローンさん演じる同僚の図書館員のマイラさんがですね、「私のヒーロー」と言っている、ジョン・スタインベック。そしてそのジョン・スタインベック、言わずと知れた代表作で『怒りの葡萄』というね。ジョン・フォードの映画版なんかも有名ですけど。この『怒りの葡萄』はですね、中盤。また大変重要な局面で、主人公によって引用されるわけですけど。

これ、もちろんね、その見捨てられた人々、貧しい人々の心の叫び、という点はもちろんそうなんですけど。これはですね、僕は、時事通信社編集委員の小菅昭彦さんという方がこの映画について書いた記事で、「ああ、なるほど」と、僕も改めてこれ、知ったことなんですけど。この『怒りの葡萄』って要は、出版された後に、内容が共産主義的だっていう風に批判されて、一時は図書館から撤去しようなんていう動きもあったらしいんです。ちなみに、さっきから言ってる「Weaponized」の、イントロのしゃべりは、そういう「気に入らない考えや本なんかは燃やしちまえ(Burn the books)」っていう、そういう考え方を冒頭で「Weaponized」は表現しているわけですけども。

まあ、とにかくその『怒りの葡萄』は一時期、図書館から撤去されるっていう動きがあったんだけど、それに反対する形で、図書館の自由と利用者の保護を謳う「図書館の権利宣言」というのが生まれた、という。つまり、この本作で「コンテクスト(文脈)は何だ?」って聞かれた主人公が、分かる人には分かるというやり方で引用するこの『怒りの葡萄』というチョイスは、まさにこれしかない!っていうチョイスなわけですね。もうバチッと、まさにコンテクストがはまった一作が選ばれている、とかですね。

あとは途中でね、コネチカット州の図書館員の、いわゆる愛国者法が違憲だという裁判をやった件とかが出てきたり、とか。そんな感じで、物語上、ストーリーテリング上必要な情報を、伏線などを含めてポンポンとテンポよく、過不足なく提示しつつ、より大きなテーマ性、メッセージを、周到にその中に織り込んでいく、というですね。これ、エミリオ・エステベス、非常に、本当に真面目なインテリなんでしょうね。めちゃめちゃ真面目なインテリにして、同時にやっぱり、さすがはエンタメ業界のベテラン、非常に手練の語り口で、それらをポンポンポンと放り込んでいく、というあたり。

■万事休すとなった最後の最後、主人公やホームレスたちがとった行動とは?

ということで、ともあれそのオハイオ州シンシナティ。まあ、元々寒いんでしょうね。で、さらに大寒波が来てて。これもね、アメリカではよく聞く話ですけどね、そのシェルターに入れる人数がやっぱり限られていて、そこに入りきらなかったホームレスたちが凍死していく、という痛ましい事態。よく聞くニュースでもあるんだけど、同時に、よく聞くニュースなのに誰も実効性のある手を打とうとしていない、という恐るべき現実があるわけですね。

で、それに対してホームレスたちが、Occupy Wall Streetっていう、あのウォール街占拠ができるんならば、俺らにだってできないことはない!っていうことで、ついに立ち上がる、という。で、その、ついに立ち上がるというそのスタンスが明らかになる瞬間。さっきから言ってるように、冒頭で流れていたライムフェストの「Weaponized」のサビが、静かに再び流れ出す、という。つまりそのまさに、ささやかな平和のために知を武器にした戦いを始めようとする者たちの、テーマソング、っていうことですね。

要は、Black Lives Matterならぬ、Homeless Lives Matterっていう、「ホームレスの命を軽視するな」運動っていうことを始めようとするわけです。で、実は元はホームレスでジャンキーで、逮捕されたこともあるし、精神医療施設に2度も入れられたことがある、という主人公……ちなみにあそこで「セカンドオピニオンがほしくてね」っていうあの返しも、なかなか粋なもんがありましたけど。エミリオ・エステベスが自ら演じる主人公の図書館員グッドソンさんも、その彼らに共感し、図書館占拠に参加する、という。

で、図らずもスポークスマン的な役割を担うことになるが、良かれと思ってメディアに渡したその映像情報が、はなから偏見込みのフィルターを通されることで、また嫌な感じで使われてしまう、というような展開。これも、コミカルに誇張されてるけども、まあ生々しい話ですよね。ただ、今時は僕、あの場面は、直接SNSに上げれば済む話では?っていう風にちょっと思ってしまった部分もありますが。ということで、さまざまな思惑、力学が交錯する中ですね、クライマックス、ついに警察が突入を決定し、万事休す!と思われたその瞬間……さっきから言っているようにジョニー・ナッシュの「I Can See Clearly Now」という歌、あるいはさっきから言ってる「Weaponized」というこの曲が、またしても使われるわけですが。

一体、主人公のホームレスたちは、何を武器として戦い、そしてその「視界が晴れていく」のか? というあたり……これはまあぜひ、本作最大の驚きと、チャームがここにありますので、ぜひこれ、ご自分で見ていただきたいんですが。ベテラン俳優でもあるエミリオ・エステベス、役者たちの生かし方はさすがに上手い。たとえば、古くからの盟友でもあるクリスチャン・スレーター。ともすれば、単色のね、非常に単純な悪役にもなってしまうところを、ちゃんと人間的な体温みたいなものをしっかり感じさせる演出になってたりするのも、さすがだなという風に思います。他の役者さんたちも、みんな生き生きしていていいんですが……

■女性キャラの扱いや消化不足も確かに感じる。だが満足度は高い

ただ、これですね、RHYMESTERマネージャーの小山内さんも指摘していて、「ああ、たしかに」と思ったのはですね……「あのオチ」に向けて作っているため、なんでしょう。その事情は分かるんですが、やはりメールにもあった通り、女性キャラクターが、結局割と蚊帳の外というか、主人公たちを「見守る」立場っていうところに収まっちゃっていて。結局「男たちの話」ね、っていうことになっちゃっているというのは、やっぱり気になるあたりですね。

ホームレスにもね、当然女性が一定量いておかしくないっていうか、それが当然なはずなのに……最初に出てきたあのおばあさんだけですよね。しかもあのおばあさんは、その図書館にすごくいたい人なのに、占拠には参加してない、っていうのは、何かちょっと不自然な感じがいたしますし。あとはあの、アパート管理人のアンジェラさん。これ、演じている『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のテイラー・シリングさん、非常に魅力的なんですけど……彼女は彼女でスネに傷持つ身、という、これはお話上はプラスだと思うけど。

彼女と、あんな唐突に性的な関係になるっていう展開……要ります? まあ僕は、明らかにこれは要らんだろうっていうか、なんか変だなっていうか、取って付けたような感じがするな、と思っていたんですけども。これ、作り手自身もそこが照れくさかったのか、異常に早いフェードアウトで終わるっていう(笑)。エミリオ・エステベス監督作、実はこの『パブリック』だけじゃなくて、異様に早いフェードアウト、他の作品でもちょいちょい散見されるので、ちょっとしたクセなのかもしれないですよね。

あと、あの市長候補。クリスチャン・スレーターともう1人、こっちは割と善人の候補みたいなのが出てきて、みたいなくだりとか、いろいろと要素はあるんだけれども、たしかにそれらが、ちょっとバラけたまま回収されない感じ……ただ、それが逆になんか本当っぽさっていうか、それを担保している気もしなくはないのですが。ということで、ちょっと言いたいことがある部分がないわけじゃない作品ですけども、題材的にもテーマ的にも、はっきり言って、すごくこの番組と親和性が高い作品なのは間違いないし。

非常に周到な作り……ラストのあの静謐な余韻、タイラー・ベイツの音楽、ピアノの美しさも相まって、非常に満足度を高めてくれます。ということで、この番組『アトロク』リスナーはぜひ、劇場でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週の課題映画は『海辺の映画館キネマの玉手箱』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

 

◆過去の宇多丸映画評書き起こしはこちらから!◆TBSラジオ『アフター6ジャンクション』は毎週月-金の18:00~21:00の生放送。