TBSラジオで放送中の「ACTION」。金曜パーソナリティは、武田砂鉄さん。
7月31日(金)のゲストは、精神科医の星野概念さん。音楽グループ・□□□(クチロロ)のサポートギターを弾かれたご縁で、いとうせいこうさんの精神科の主治医となり、共著で2冊ご本を出されています。今日は『群像』の連載仲間でもある武田砂鉄さんと、「今をゆるく語り」ました。
武田:精神科医のお仕事をされるきっかけになったことかもしれませんが、「小学校のときにハブられている女の子と林間学校のチームで一緒になって、その子が心を開いてくれた瞬間が自分にとって大切な経験だった」と書かれていましたね。
星野:林間学校で肝試しがあったんです。その子のご家庭が少し経済的に貧しいイメージがあって、それで周りから嫌われているんですけど、その嫌われている理由もよく分からなくて。「バリア」って皆やってたんですよ。
武田:小学生の「バリア」って具体的にやりますもんね。
星野:恐ろしいですよね。「バリアってひどいよな」とか思っていて。で、肝試しのペアを組むときに、僕とその子が余っちゃって。それで一緒に肝試しに行って、その肝試しは手をつながなきゃいけなかったんです。でもその子は「私とつながなくていいよ。私とつなぐの嫌でしょ?」って言ってて。「別に嫌じゃないし、つなげって言われてるから」って手をつないだんです。別に良い心で言ったわけじゃないんですが、その肝試しが終わったら「ありがとう」って言ってくれて。それがなんか記憶に残ってるんですよね。
武田:クラスでイジメられている人と、「私が仲良くなりたかったから仲良くなったの」という話をこの番組のゲストで来てくれた人で話してくれた人がいました。神田うのさんです(笑)クラスの「あの人とは喋んないほうが良さそう」という空気をどうしても考えちゃうけど、神田うのと星野概念はそこは気にしないで、「話したいから話す」という素晴らしいお二方です(笑)
星野:素晴らしいと思ってなさそうなんだよなぁ…(笑)
武田:せいこうさんとの共著では、「対話の大切さってあんまり誰も教えてくれないよね」と話されていますが、「傾聴」の大切さはどこで気付きましたか?
星野:人のことって全然分からないですよね。「分かった風」にすることはできます。診断をつけるということも、「〇〇病」「〇〇障害」ってある種、分かった風にすることだと思います。でも分かった風にすると、そこで理解が止まっちゃうんですよね。だからなるべくラベルを貼らずに話を聞いていると、「この人はこんな側面があるんだ」と見えてくることもあります。だからしつこく人の話を聞き続けることは大事だなって知らない間に思ってましたね。
武田:でも「ラベルを貼ってください」と思って来る人もいるじゃないですか。それをしないで話を切り替えることは難しそうにも思えます。
星野:特にメソッドもあるわけじゃないですが、「今診断して、いくつか当てはまるラベルもあるにはあります。でもあなたに一番当てはまることというのは僕も分からないので、今は一旦このいくつかのラベルということでご勘弁ください」という感じで言ってますね。
武田:「お互いに考えていることはそんなにスムーズに伝わらない」という考え方は割と大事だと思います。僕も『わかりやすさの罪』という本を出しましたが、せいこうさんとの対談でも「分かった気になるなよ」という話が通底してますよね。
星野:僕も含めて答えを出したがると思うんですが、それはなかなか出ないですよね。だから考え続けることって大事だなと思います。
武田:せいこうさんが「音楽の歌詞の中で”止まない雨はない”とか”青空が見えるはずだから”とか歌われるけど、青空じゃなくてもいいじゃないか」と。「気苦労は常にある状態だから、ずっと曇天でもいいじゃないか」とおっしゃってて、なるほどと思いました。晴れやかな状態を目指そうとすると、「なんで俺は曇天なんだ」と思っちゃいますが、曇天をキープする選択肢も大いにありだと思いました。
星野:人生にハイライトって実はそんなにないですよね。良くも悪くもない平常運転がほとんどで、その中に波があるだけで。そう感じて生きるほうが楽ですよね。たとえばドキュメンタリー番組でハイライトにものすごくフォーカスする番組とかありますが、その副作用とかあると思います。
武田:そのドキュメンタリーの最後に描かれた晴天の翌日は曇天の可能性だってありますもんね。「この人、ずっと晴天なのかな」と思っちゃいますよね。
星野:見ているときはテンションがずっと上がっているけど、見終わったあとになんでもない自分と対比しちゃうと「自分ダメだな…」って思っちゃうことって多いですよね。それで僕は「平熱大陸」という曲を作りました(笑)
このほか、小さな「ヤッター」を捕まえる話などしました。GUEST ACTION全編はradikoのタイムフリーで。