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「スパイク・リー最新作! 映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』をより楽しむための音楽ガイド」(高橋芳朗の洋楽コラム)

ジェーン・スー 生活は踊る

音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム(2020/06/19)

「スパイク・リー最新作!映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』をより楽しむための音楽ガイド」

高橋:本日はこんなテーマでお送りいたします。「スパイク・リー最新作! 映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』をより楽しむための音楽ガイド」。

映画の劇中で使われている音楽を解説するシリーズ、今回は先週12日からNetflixで配信がスタートしたスパイク・リー監督の映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』を取り上げたいと思います。

スー:すごい話題になってますよね。

高橋:ご覧になられました?

スー:まだ見てない。堀井さんも首を横に振っています。

堀井:いま目が寄っていました(笑)。

高橋:フフフフフ、では映画の概要を紹介しますね。「ベトナム戦争からほぼ半世紀を経た現在。共に戦った4人の黒人退役軍人が、戦死した仲間の遺骨と埋められた金塊を探し出すためにかつての戦場へと舞い戻る」というお話。監督は2018年の『ブラック・クランズマン』でアカデミー賞監督賞にノミネートされたスパイク・リー。出演は『ブラック・パンサー』のティ・チャラことチャドウィック・ボーズマンなど。

内容としてはベトナムを舞台にした戦争映画であり、チームで一獲千金を目論むケイパームービーの要素もあるんですけど、柱になっているのはアメリカの最大の暗部といえるベトナム戦争と黒人差別。この題材をあのスパイク・リーが2時間35分かけて描くわけですから、当然とんでもなく骨太な一本に仕上がっています。

スー:ベトナム戦争とアフリカ系アメリカ人というと、最前線に送られたのはいったい誰だったのか、必ずそういう話になってきますよね。

高橋:まさにそこを深く掘り下げていく映画でもあるんですよ。前作の『ブラック・クランズマン』がそうであったように、差別問題の過去と現在を見事にシームレスにつなげてくる。しかも、いまのこのタイミングじゃないですか。

スー:ねえ!

高橋:うん。ジョージ・フロイドさん殺害事件を受けて全米/全世界に「Black Lives Matter」運動が拡大しているいまだから、ただでさえヘヴィなテーマが余計に重くのしかかってくるんですよ。

スー:ご覧になった方は皆さん衝撃受けているようですね。

高橋:この公開タイミングがこの映画をより強力なものにしているところは確実にあると思います。もう映画のど頭からいきなり引き込まれるんですよ。オープニングは1960年代後半から1970年代前半のアメリカ、ベトナム戦争と公民権運動に揺れるアメリカを当時の映像や写真をコラージュにして見せていくんですけど、もう本質的にはいまニュースで流れているアメリカとそうたいして変わらないんです。その映像にオーバーラップしてくるのが、まさに当時の混迷するアメリカの社会情勢にインスパイアされてつくられたマーヴィン・ゲイの1971年リリースの名盤『What’s Going On』収録の「Inner City Blues」です。歌詞の大意を紹介しますね。

ぜんぜんいまでも有効な歌ですよね。このタイミングだからこそそう受け止めてしまうところもあるのかもしれませんが、50年前の映像と音楽を使っているにも関わらず、アメリカがいまもなお同じような問題を抱え続けていることを示唆したオープニングになっています。

M1 Inner City Blues (Make Me Wanna Holler) / Marvin Gaye

高橋:この映画、実は脚本の段階では主人公は白人だったんですって。でも脚本を気に入ったスパイク・リーが「大勢の黒人がベトナム戦争に従軍していたのに彼らに焦点を当てた映画がほとんど存在しないのはおかしい」と考えて黒人の主人公に変更したという経緯があります。

スー:なるほど。

高橋:実際、当時のアメリカの人口のうち黒人の占める割合は11%だったのに対してベトナムに従軍した兵士の32%が黒人だったそうで。この実態を考えると、確かにスパイク・リーが問題提起しているように黒人兵を主人公とするベトナム戦争の映画はもっとあってもいいと思うし、事実その一方でベトナム戦争を題材にしたソウルミュージックはたくさんつくられているんですね。

これがその裏付けになると思うんですけど、イギリスのレコードレーベル「エース」からベトナム戦争をテーマにした60年代/70年代のソウルミュージックの反戦歌を集めたコンピレーションシリーズがリリースされているんですよ。タイトルは『Vietnam Through The Eyes of Black America』。「黒いアメリカを通して見るベトナム戦争」みたいな意味になるでしょうか。


次の曲は映画の挿入歌で、かつこのベトナム戦争反戦歌のコンピレーションにも収録されている曲を紹介したいと思います。フレッダ・ペインの「Bring The Boys Home」。1971年の作品です。タイトルは直訳すると「少年たちを家に返して」という意味になりますが、歌詞はこんな内容です。「大切な息子たちが無意味な戦争で無駄死にしていく。これ以上死者や負傷者を出したくない。いますぐ武器を置いて船を引き返させてくれ」。曲調からくる印象はちがった、切実なプロテストソングです。

M2 Bring the Boys Home / Freda Payne

高橋:この映画には熱心なソウルミュージックファンであれば気がつくかもしれないある仕掛けが施されていて。主役の4人の黒人帰還兵の役名が、ポール、オーティス、エディ、メルヴィン。彼らに動向することになるポールの息子の名前がデヴィッド。これは1964年から1968年の黄金期のテンプテーションズのメンバーの名前と同じなんですよ。

そして、そんな彼らの精神的支柱だった戦死した兵士、これはチャドウィック・ボーズマンが演じているんですけど、彼の名前はノーマンで。おそらくこれは、テンプテーションズのメインプロデューサーだったノーマン・ホイットフィールドから取られたのではないかと思います。

これはスパイク・リーのちょっとした遊び心だと思うんですけど、金塊を求めてベトナムのジャングルを誘惑(テンプテーション)と格闘しながらさまよう5人の名前がテンプテーションズから取られていて、彼らを導く男がテンプテーションズのプロデューサーと同名のノーマンというのがおもしろいですよね。

これからかけるのは劇中では流れない曲ですが、この映画のキャストの設定に応じて、ノーマン・ホイットフィールドがプロデュースを務めたテンプテーションズの名曲、ポール、オーティス、エディ、メルヴィン、デヴィッドからなる黄金期のテンプスの名曲を一曲聴いてもらいたいと思います。雨模様な今日の天気に合わせて選んでみました。1967年のヒット曲です。

M3 I Wish It Would Rain / The Temptations

高橋:このように『ザ・ファイブ・ブラッズ』はたくさんの音楽や音楽ネタが仕込まれている映画なんですけど、劇中で大々的にフィーチャーされているのは冒頭でも紹介したマーヴィン・ゲイの1971年の名盤『What’s Going On』です。劇中のところどころにさまざまなかたちでアルバムからトータルで6曲も使われているから実質この映画のサウンドトラックといってもいいと思うんですけど、一貫しているのは『What’s Going On』の大きな音楽的な魅力になっている甘さ、メロウさ、心地よさには一切ひたらせない使い方をしています。

今日はそんななかから「What’s Happening Brother」を選んでみました。この曲はベトナムからの帰還兵が母国アメリカの混乱ぶりに「俺たちの国はいったいどうなっちまったんだ? いったいこの国になにが起こっているのか教えてくれ!」と困惑している様子を歌った歌詞になっています。

この映画で特に印象的だったのが、ベトナム戦争当時に現地のラジオのプロパガンダ放送を通じてアメリカ軍兵士に反戦メッセージを送っていた実在のアナウンサー、ハノイ・ハンナが登場するシーンで。彼女が戦地の黒人兵にピンポイントでたびたび訴えかけるんですよ。「いまアメリカではマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が白人に暗殺されて、それを受けて皆さんのソウルブラザー/ソウルシスターが全米各地で抗議の声をあげて戦っている。なのにあなたたちは異国の地でいったい誰と戦っているのだ。本当の敵は誰なんだ」と。これは兵士たちの厭戦感情を煽ること、戦意を喪失させることを目的としている放送なんですけどね。

そのハノイ・ハンナの問い掛けに対する黒人兵たちの葛藤を、マーヴィン・ゲイの「What’s Happening Brother」が代弁しているようなところがあって。当然、これは「Black Lives Matter」運動が広がるトランプ政権下のいまのアメリカにも向いてくるメッセージでもあるわけです。

M4 What’s Happening Brother / Marvin Gaye

高橋:肝心の「What’s Going On」がどういうタイミングでどうやってかかるのかはここではあえて伏せておきますね。

というわけで『ザ・ファイブ・ブラッズ』にちなんだ音楽を4曲紹介してきましたが、いまこうして話してきたのはこの映画のある一側面にすぎません。ベトナム戦争を題材にした過去の映画のオマージュもふんだんに盛り込まれていますし、重層的な構造をもったすさまじい情報量の映画です。なおかつエンターテインメント性もばっちりあるんですよ。まちがいなくいま見てなんぼの一本だと思うので、お時間ある方はこの週末にぜひチェックしてみてください。

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当ラジオ番組では「日々の生活に音楽を」をコンセプトに、音楽ジャーナリスト・高橋芳朗さんによる洋楽選曲を毎日オンエア。最新1週間のリストは以下です。

6月15日(月)

(11:06) Where・Did・You・Come・From / Larry・Carlton
(11:24) Every・Little・Step・I・Take / George・Duke
(11:36) What’s・On・Your・Mind / George・Benson
(12:15) Is・It・You? / Lee・Ritenour

6月16日(火)

(11:03) Thompson Twins / Hold Me Now
(11:38) The Psychedelic Furs / The Ghost in You
(12:13) Orchestral Manoeuvres in the Dark / So in Love
(12:24) A B C / Be Near Me
(12:50) 米米CLUB / トラブル・フィッシュ

6月17日(水)

(11:05) Wild Wild Life / Talking Heads
(11:26) Let’s Work / Mick Jagger
(11:38) Big Time / Peter Gabriel
(12:12) We’ll Be Together / Sting
(12:24) I Didn’t Mean to Turn You On / Robert Palmer
(12:50) ふりむけばカエル / 矢野顕子

6月18日(木)

(11:04) Triste / Joao Gilberto
(11:16) Love City / Sergio Mendes & The New Brasil ’77
(12:16) Love, Love, Love / Quarteto Em Cy
(12:51) 蜃気楼の街 / 大貫妙子

6月19日(金)

(11:03) Oops Here I Go Again / Edna Wright
(11:25) I Think I’m Falling in Love / Leroy Hutson
(11:36) When a Little Love Began to Die / The Friends of Distinction
(12:14) Journey Into You / Leon Ware