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「レンタル開始! 映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』をより楽しむための音楽ガイド」(高橋芳朗の洋楽コラム)

ジェーン・スー 生活は踊る

音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム(2020/06/12)

「レンタル開始! 映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』をより楽しむための音楽ガイド」

高橋:本日はこんなテーマでお送りいたします。「レンタル開始! 映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』をより楽しむための音楽ガイド」。

恒例の映画の劇中で使われている音楽を解説するシリーズ、今回は10日からレンタル開始したDCコミックス映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』を取り上げたいと思います。もともとは3月20日の劇場公開に合わせて扱う予定だったのですが、ちょうど新型コロナウイルス感染拡大防止のための外出自粛要請が出たタイミングだったため、こうしてレンタルのスタートを待った次第です。見たくても見られなかったという方、きっと多かったのではないでしょうか。

まずは映画の概要を紹介しますね。「2016年公開の映画『スーサイド・スクワッド』でマーゴット・ロビーが演じて注目を集めたDCコミックスの人気ヴィラン、ハーレイ・クインが主人公のアクションムービー。恋人だった悪のカリスマ、ジョーカーと別れて束縛から解放されたハーレイは、ワケありの女性たちと異色のチームを結成して街を牛耳る巨悪ブラックマスクと戦う。監督を務めるのは、中国生まれの新鋭女性監督キャシー・ヤン。敵役ブラックマスクをユアン・マクレガーが演じる」。スーさんはご覧になったんですよね?

スー:見ました。私、昔の『バットマン』とかはともかく最近のDC映画はこれが初めてかも。だからぜんぜん予備知識がないなかで見たんですけど、まあ後半からのぶち上がりぶりが最高でした。前に番組で「Say So」を紹介したドージャ・キャットの「Boss B*tch」がかかったりして。

高橋:そう、サウンドトラックはヒップホップやR&Bが中心なんですけど、劇中でメインに使われているのはハードロックやファンクなんですよ。

内容的にはよく言われているように手法や構成など『デッドプール』との共通点が多くて、全体の雰囲気も似ているところがありましたね。主演のマーゴット・ロビーは製作にも携わっているんですけど、彼女曰く「ポップでカラフルでバカバカしい映画」。今年は2月にリブート版の『チャーリーズ・エンジェル』が公開になりましたが、マック・Gが監督した旧『チャーリーズ・エンジェル』のノリを継承しているのは案外こっちかもしれないですね。

スー:うんうん、そう思った。

高橋:それから、主人公がきつい失恋を経験したあと女友達との交流を通して立ち直って自立する、というストーリーがとてもいまっぽいと思いました。ここ数年、ポップミュージックの世界でも女性シンガーによる「元気が出る失恋ソング」がトレンドになっているじゃないですか。デュア・リパの「New Rules」だったり、アリアナ・グランデの「thank u, next」だったり、リゾの「Truth Hurts」だったり。そういう潮流を意識させる「#MeToo」ムーブメント以降のエンパワメントムービーといった印象を受けました。

スー:あとさ、プロデューサーも監督も脚本も女性でしょ? それでこういうバカバカしくてちょっとバイオレンスもある映画というのがまたよかったな。

高橋:今年は『ワンダーウーマン 1984』とか『ブラック・ウィドウ』とか、女性が監督を務める女性のスーパーヒーロー映画が続々と公開になりますからね。『ハーレイ・クイン』はそのへんも含めて注目の一本でしょう。

映画は冒頭からジョーカーとの恋に破れた傷心のハーレイ・クインの姿が描かれているんですけど、そこにオーバーラップしてくる曲がジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツの「I Hate Myself for Loving You」。1988年のヒット曲です。歌詞の大意を紹介しましょう。「あんたに夢中の自分にうんざり。あんたのやることなすことからどうしても逃れられない。歩いて去っていくつもりが、またあんたのところに駆け寄ってしまう。あんたに夢中の自分にホントうんざりするよ」。これが未練タラタラながらも、なんとかこの状況を抜け出そうとするハーレイ・クインのもどかしさを完璧に代弁しているわけです。

M1 I Hate Myself for Loving You / Joan Jett & The Blackhearts

スー:タイトルは「あんたのことが大好きな自分なんて大嫌い!」。こういうふうに思ったことがある方は少なくないでしょうね。

高橋:ハーレイ・クインは元カレのジョーカーから虐待を受けていたこともあって彼とは従属的な恋愛関係になっていたんですけど、彼女に限らず劇中に登場するハーレイ・クインの仲間たちの女性4人はみんな男もしくは男社会からの抑圧を受けていて。その支配からなんとかして抜け出そうともがいているんですね。それが音楽と共に非常に明快に打ち出されているのが、ジャーニー・スモレット・ベル演じるブラックキャナリーが登場するシーン。彼女は敵役のブラックマスクに囲われてる歌手なんですけど、ブラックマスクが経営しているナイトクラブのステージで彼女がどんな曲を歌っているかというと、この曲なんですよ。

BGM It’s a Man’s Man’s Man’s World / James Brown

ジェームズ・ブラウンの1966年のヒット曲「It’s a Man’s Man’s Man’s World」。これは「この世界は男で回ってる。でも女がいなくちゃダメなんだ」という内容の歌だからすごく皮肉が効いているんですよ。ブラックキャナリーはステージから歌を通じてブラックマスクに反発しているということです。

そしてこのJBの「It’s a Man’s Man’s Man’s World」を歌ったブラックキャナリーが仕事を終えて家路に着こうとするとき、彼女は男社会からの支配に対するフラストレーションを爆発させるようにある行動に出ます。それを契機にしてブラックキャナリーが覚醒するんですけど、そんな彼女の解放のテーマとして流れるのがジェイムズ・ブラウン・ファミリーのマーヴァ・ホイットニーが歌う「Unwind Yourself」。1968年の作品です。

これは見事な選曲だと唸ったんですけど、要はジェームズ・ブラウンの「It’s a Man’s Man’s Man’s World」を歌っていたブラックキャナリーを解放に導く曲が、ジェームズ・ブラウン・ファミリー、JBの支配下で歌っていた女性シンガーの歌という鮮やかな流れで。実際、この曲のタイトル「Unwind Yourself」はまさに「束縛からの解放」という意味になります。

M2 Unwind Yourself / Marva Whitney

スー:かっこいいね!

高橋:うん、めちゃくちゃファンキー。この「Unwind Yourself」と共にもうひとつ素晴らしい選曲だと思ったのが、ケシャの「Woman」。これは2018年の作品です。マーゴット・ロビーがこの映画は「#MeToo」運動の影響を受けているとインタビューで話していたんですけど、まさにケシャは音楽業界における「#MeToo」運動の基盤を作った存在で。彼女は18歳のころからプロデューサーに性的暴行を受けていて、多くの女性アーティストからの支援を受けて訴訟を起こしたんです。

この「Woman」はその訴訟を経て作った曲で、まさにハーレイ・クインとその仲間たちのテーマ曲になるような女性賛歌になっています。歌詞は「私は自分のものは自分で買うし請求書も自分で払う。私は超イカした女。強く抱きしめてくれる男なんて必要ない。今夜はレディースたちと楽しむんだから」という内容。つまり女性の自立やシスターフッドを歌った曲なんですけど、恋愛で失った自己肯定感を埋めるのは別にまた他の恋愛じゃなくてもいいということもほのめかしているのではないかと。この映画のコンセプトそのものを歌ったような曲ともいえると思います。

M3 Woman / Kesha feat. The Dap-King Horns

高橋:そしてこの映画のいちばんの山場で流れるのが、アンとナンシーのウィルソン姉妹を中心とするハートの「Barracuda」。1977年の作品です。これはジェーン・スーさんが大好きな曲ですね。

スー:大好き!

高橋:この曲はマック・G版の『チャーリーズ・エンジェル』でも使われていましたが、同じマーゴット・ロビー主演の『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でも流れていて。

スー:ああー、そうか。女性たちのアンセムなんだね。

高橋:そうそう。ちなみに『キャプテン・マーベル』ではハートの別の曲「Crazy On You」がかかるんですけど、主演のブリー・ラーソンがハートのTシャツを着ているシーンがあったりします。

なぜハートの「Barracuda」が女性を鼓舞する曲、戦う女性を後押しする曲として映画で使われる機会が多いのかというと、それにはれっきとした理由があって。この曲は自分たちに舐めた態度をとったレコード会社に対するウィルソン姉妹の逆襲の歌なんですよ。信じられないようなひどい話なんですけど、当時ハートが所属していたマッシュルームレコードが話題作りのためにウィルソン姉妹がレズビアンであることをほのめかすような広告を出したんですね。こちら、プリントして持ってきました。

スー:ああ、当時の広告だ。

高橋:ハートがプラチナムディスクを獲得したことを伝える広告に姉妹が仲良さげに写ってる、ともすれば裸に見えるような写真を使って、そこに「ウィルソン姉妹が告白:私たちそれが初めてだったの」という下衆なキャプションをつけたんです。これに激怒してウィルソン姉妹が作ったのが「Barracuda」なんですけど、その制作経緯がまたすごくて。コンサートが終わった後に例の広告を見て姉妹の関係を詮索してきたプロモーターにふたりがぶち切れて、その足でホテルの部屋に戻って一気に完成させたんですって。

スー:かっこいい!

高橋:「Barracuda」のあのアグレッシブなテンションはそんな背景に起因しているんですよ。ちなみにタイトルのバラクーダは鋭い歯を持ったカマス属の凶暴な魚のことで。サビの歌詞は「草むらの中で低く身構えてるあんた。私たちに襲いかかろうとしてるんでしょ。私たちを支配しようとしてるんだね。バラクーダみたいながめつい野郎だな」という内容になっています。

M4 Barracuda / Heart

スー:この曲は「やってやるぞ!」という気になりますよね。でもね、「#MeToo」的なことも経てのこういう映画だというのもよくわかるんですけど、やっぱりこっち側の人間としては性別が女だというところでいろいろと思い出しちゃうんですよ。別にトラウマティックな映画ではぜんぜんないんだけど、結構それはしんどい部分もあって。「あー、こういうふうに扱われたこともあったよな」って普段忘れていたようなことを引っ張り出されるからいちいち体力をとられるというか。でも「ないことにしていたけどやっぱりちがうよな」と思って、そのたびに「Barracuda」を聴いて「よーし、戦うぞ!」となるわけです。「なかったことにしちゃダメだ!」って。大げさなようですけど、このあとも人類は続いていきますからね。

高橋:ロージー・ペレスが演じる刑事役のレニーの職場での待遇なんかは本当にひどいものがありましたよね。というわけで、さっきもお伝えしたように今年はこの『ハーレイ・クイン』を皮切りに、『ワンダーウーマン 1984』や『ブラック・ウィドウ』など女性監督による女性のスーパーヒーロー映画が立て続けに公開されます。その先陣を切る一本として、『ハーレイ・クイン』は最高の仕上がりになっているのでぜひチェックしてみてください。

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当ラジオ番組では「日々の生活に音楽を」をコンセプトに、音楽ジャーナリスト・高橋芳朗さんによる洋楽選曲を毎日オンエア。最新1週間のリストは以下です。

6月8日(月)

(11:05) Where Is The Love / Roberta Flack & Donny Hathaway
(11:22) We Got to Have Peace / Curtis Mayfield
(11:33) What’s Happening Brother / Marvin Gaye
(12:13) The Needle’s Eye / Gil Scott-Heron
(12:23) You Caught Me / Sly & The Family Stone
(12:48) Lay Away / The Isley Brothers

6月9日(火)

(11:04) Joni Mitchell / Free Man in Paris
(11:38) Steely Dan / Bad Sneakers
(12:15) Phoebe Snow / Fat Change
(12:23) Paul Simon / Have a Good Time
(12:50) センチメンタル・シティ・ロマンス / ロスアンジェルス大橋Uターン

6月10日(水)

(11:05) Go All the Way / Raspberries
(11:24) Know One Knows〜誰も知らない〜 / Badfinger
(11:36) O My Soul / Big Star
(12:14) Just a Smile / Pilot
(12:24) Waysid / Artful Dodger

6月11日(木)

(11:06) Latin Goes Ska / The Skatalites
(11:25) Fever / The Maytals
(12:35) Life / Laurel Aitken
(12:14) I’m So in Love with You / The Techniques
(12:24) Come Down / Lord Tanamo
(12:51) Girls Town Ska / Baba Brooks Band

6月12日(金)

(11:04) Forget Me Nots / Patrice Rushen
(11:27) Love Come Down / Evelyn Champagne King
(11:36) Feelin’ Lucky Lately (Single Version) / High Fashion
(12:15) It Should Have Been You / Gwen Guthrie