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コロナや災害対応に緊急事態条項は必要? 永井幸寿さん(弁護士)

久米宏 ラジオなんですけど

TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
6月6日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、災害復興や被災者支援に携わって25年という弁護士、永井幸寿(ながい・こうじゅ)さんをお迎えしました。

永井さんは1955年、東京都生まれ。早稲田大学法学部を卒業し、1990年に弁護士登録。1993年から兵庫県・神戸を拠点にして活動しています。阪神・淡路大震災(1995年)で被災したことをきっかけに被災者支援に力を注ぎ、10万件にのぼる無料法律相談を行いました。東日本大震災では福島第一原発事故の復興支援や、災害対策の法整備に尽力しました。

災害に関する法令に詳しい永井さんに今回伺ったのは、「緊急事態条項(国家緊急権)」のお話。「災害や新型コロナを『ダシ』にした緊急事態条項・改憲は間違いです」と永井さんは言っているのです。

コロナで浮上した「緊急事態条項」


緊急事態条項(国家緊急権)というのは、とんでもない非常事態に陥って普段の統治機構ではとても対処できないというときに、国家権力が国家の存立を維持するために、憲法が定めている人権の保障や権力分立を一時的に停止する権限です。とんでもない非常事態というのは、戦争や内乱、恐慌、そして大規模な自然災害などです。こうしたときには公益(国民の命)を守るために国に強大な権限を一時的に持たせて、個人の権利(人権)をある程度犠牲にするのはやむを得ないという考えです。その緊急事態条項、日本国憲法には盛り込まれていません。その前の大日本帝国憲法には盛り込まれていて80回も発動されました。「その結果、戦争に突き進むことになったという反省から、日本国憲法にはあえて緊急事態条項は盛り込まなかったんです」(永井さん)。

「緊急事態条項はやっぱり必要ではないか」――東日本大震災のときにそういう声が上がりました。緊急事態条項が憲法の中にないために救助作業に様々な支障が出て犠牲者が増えてしまった、だから憲法を改正するべきだという主張です。その後、各地で大きな自然災害が起きるたびに同じことが言われました。

そして今回の新型コロナウイルスです。政府の対応の遅れが批判される中で緊急事態条項の話が浮上しています。政府は改正新型インフルエンザ対策特別措置法で緊急事態の措置を取っていますが、自粛要請にとどまり、罰則は設けていません。その結果、十分に感染拡大を抑えられないというのです。感染症対策の役に立つのなら憲法改正もいいのではないか…。でも永井さんは、新型コロナ感染が広がったのは憲法や法律のせいではないと言います。

法律で対応できる


まず新型コロナの感染拡大を防ぐためには水際対策が重要だったわけですが、永井さんは「入国管理法で入国拒否の措置がいつでも取れるのに、政府は1月の時点では何もせず、4月に入ってやっとアメリカや中国からの入国を拒否しました。これは緊急事態事項は関係ありません。政府は3月下旬になってもまだ東京オリンピックをなんとかやれないかを考えていて、延期を決めなかった。対応が遅かっただけです」と指摘。また、はじめにクラスターが起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客への対応についても、検疫法には診察・検査権もありますし、患者の隔離も強制できたと言います。「ほかにも感染症法やインフルエンザ対策特別措置法で十分対処できたはずです」(永井さん)。

また永井さんは、緊急事態条項によって政府に強大な権限を集中させても的確な対処ができるとは限らない、むしろ対処できないと言います。

「『災害には顔がある』といわれています。発生場所や災害の性質によって取るべき対策は全く違ってきます。都市部か山間部か沿岸部か。噴火、津波、地震、雪害…。さらに、その地域の高齢化率とか。そういうことによって対処は全部違うんです。その情報が直ちに入ってくるのは地元です。市長村長や知事は地元に密着しているから全部情報が入ってきます。だからいちばん効果的な対応の方法も分かる。ところが国だったら、情報は入ってこないし、やることは画一的になってしまう。ですから災害対策基本法は、災害に対する第1次的な権限は市町村長に与えて、都道府県がそれを後方支援して、さらにそれを国が後方支援するという構造になっているんです。これは正しい考え方です」(永井さん)

これは新型コロナの場合も同じです。地域の感染状況や、医療機関の人的状態・物的状態、医師会との連携といったことは地元でなければ分かりません。国に権限を集中してその指示を待っても的確な対処はできない、というのが永井さんの考えです。

「後方支援は、よく『人・モノ・カネ』と言いますが、国がやるのはまずカネです。それから専門家を派遣するといった人の支援。モノだったら、例えばワクチンや検査キットを送る。いちばんはお金です」(永井さん)

緊急事態条項は「泥縄式」対応


「事前に準備していないことはできない」というのが災害対策の原則だと永井さんは言います。法律の整備や制度の運用について事前に準備をしていなければ、いくら政府に強大な権限を集めても対処はできないということです。例えば、東日本大震災のときの福島第1原発事故を振り返ってみます。災害対策基本法という法律で国や自治体は防災計画をつくったり防災訓練をすることになっているのですが、日本では地震による原発事故は起きないことになっていたので、具体的な避難ルートや避難車両の確保、市民の避難場所や避難生活といったことを策定していませんでしたし、事前の訓練もありませんでした。

「法律があっても、それに従った事前の準備がなければ、いくら政府に強大な権限を持たせたとしても何も対処することはできません。緊急事態条項は災害が発生してから泥縄式に権力を政府に集中する制度ですから、これさえあれば災害対応もコロナ対応も遅れないということはありません」(永井さん)

コロナや災害をダシにした改憲論はスジ違い


もし緊急事態条項(国家緊急権)が日本国憲法の中に盛り込まれ、それが災害のときに発動されたら、政府は国会での審議を経ずに政令を制定できます。国民の目に触れることもなく、国会のコントロールも及ばないまま、法律ができるということです。これは非常に危険な可能性を孕(はら)んでいます。

ドイツのワイマール憲法は、当時、世界で最も民主的な憲法といわれました。それでもナチスの独裁が合法的に可能になったのは、国家緊急権の規定があったからだと永井さんは言います。ナチスはその強力な権限を利用して、対立していた共産党議員の身柄を拘束し、国会に登院できないようにしておいて、全権委任法を強行採決しました。人間は強力な権限を持つと、それを濫用してしまうことがあります。

「まずは法律を運用することで対処できないかを考える。それが難しければ、法律を改正したり、新しくつくる。それでも難しい場合に、憲法解釈を考える。それでもだめなら、そこで憲法改正を議論する。こうした手順を踏まずに、コロナ対応が遅れたのは憲法や法律のせいだと言って改憲を持ち出すのは、スジ違いです」(永井さん)

永井幸寿さんのご感想


すごく楽しかったです。30分間むちゃくちゃ楽しくて、私がいちばん楽しんだんじゃないかと思います。ただ、前日、前々日と2日間かけて用意した対談用の原稿はほとんど役に立たなかったです(笑)。でも、いちばん重要なことはお伝えできたと思います。

また出たいなという気持ちになりました。今度はもうちょっとまじめに話したいと思いますけど(笑)。ありがとうございました。




「今週のスポットライト」ゲスト:永井幸寿さん(弁護士)を聴く

次回のゲストは、田中眞紀子さん

6月13日の「今週のスポットライト」には、元衆議院議員の田中眞紀子さんをお迎えします。久米さんとは早稲田大学演劇サークルの同期の仲。そしてこのコーナーには13年半ぶりの登場。いまの社会、政治にズバッと直言! が聞けるでしょうか。お楽しみに!


2020年6月13日(土)放送「久米宏 ラジオなんですけど」http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200613140000

radikoで放送をお聴きいただけます(放送後1週間まで/首都圏エリア無料)