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宇多丸、『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』を語る!【映画評書き起こし 2020.5.8放送】

アフター6ジャンクション

 

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。

今週評論した映画は、『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』2019920日公開)です。

オンエア音声はこちら↓

宇多丸:

さあ、ここからは週刊映画時評ムービーウォッチメン改め、最新映画ソフトを評論する新作DVDBlu-rayウォッチメン。今夜扱うのは、415日にDVDBlu-rayが発売されたばかりの、この作品です。『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』

(曲が流れる)

この、なんかちょっとポップなシンセ使いみたいなのも印象的ですよね……A24作品って、こういうチープなシンセの使い方をした音楽の作品が多い気がしますけどね、はい。生まれた時からウェブサイトやSNSが存在する「ジェネレーションZ」世代のティーンたちのリアルな姿を描く青春ドラマ。中学卒業を1週間後に控える中、「クラスで最も無口な子」に選ばれてしまったケイラは、高校生活が始まる前に不器用な自分を変えようと奮闘するのだが……。主人公のケイラを演じるエルシー・フィッシャーさんは、第76回ゴールデングローブ賞の主演女優賞コメディ・ミュージカル部門にノミネートされた。監督と脚本を務めたのは、YouTuber出身という人気コメディアンで、俳優としても活躍するボー・バーナムさん、ということでございます。

ということで、この『エイス・グレード』をもう見たよ、というリスナーのみなさま……昨年、9月に公開されていますから、劇場でご覧になった方もいらっしゃるでしょうし、このタイミングでいろんな形で見たという方もいらっしゃるでしょう。<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。ありがとうございます。メールの量は、「普通」です。賛否の比率は絶賛意見が8、否定的意見が1割、中間が1割といったところ。

主な褒める意見は、「過去の自分を見てるようで辛い。イタすぎてほとんどホラー」「主人公ケイラを演じたエルシー・フィッシャーがリアルすぎて悶絶」「安易な解決策を示さないのか誠実だし、見終わった後は自然と勇気が湧いてくる」など。悲鳴のような絶賛評が多かった、ということです。一方、ごくわずかな否定的意見、批判的意見としては「リアルだとは思うが、平坦で盛り上がりに欠ける」などの声がありました。

「二度と見たくない大傑作」(byリスナー)

ということで、代表的なところをご紹介しましょう。ラジオネーム「T.I.S.M」さん。「タカキ、恨みます!」。先週ね、ガチャを回したのが山本匠晃さんでしたからね。「なんでこんな映画、当てたんですか。宇多丸さんは『1万円、使っていい』と言ったじゃないですか。回避、回避! ホラー映画より悲鳴をあげてしまうシーンのオンパレードで1分ごとに一時停止って悶絶してから深呼吸しないと先が見れません。悶絶死させる気ですか? それでもこの映画が素晴らしいのは、彼女を奈落の底に落とすような決定的な失態や、彼女の救世主を登場させて救い出したりしないところです。

嫌な人も良い人も、それぞれちゃんと距離感を持って描かれます。お父さんですら、ただ見守ることしかできません。あくまで主人公のケイラの自問自答、七転八倒として向き合わせます。だから辛い。そして最後も彼女は周りからの影響を少しずつ吸収しながら一歩だけ、半歩だけでも自分の力で先に進みます。何があっても時間は過ぎていくし、問題を解決したり、しなかったりして、もがきながら進むしかない。思春期という誰にも訪れる青春時代を残酷なまでに誠実に描いた作品だと思いました。二度と見たくない大傑作です!」っていうね。褒めながら悶絶、というね。

一方で批判的な意見。ラジオネーム「モンゴリアンチョップ」さん。「結論から言うと、『あまりにリアルでイマイチ』という感想です。残虐ないじめ描写は出てきませんが、序盤からいわゆる共感性羞恥を感じさせる場面のオンパレードで、下手なホラー映画なんか目じゃないくらい、『もう見てられない!』とこちらの心をザクザクとえぐってきます」。まあ、ここは褒めているわけですね。

「どんな時代でも起こりうる普遍的でリアルで丁寧に作られた作品だと感じました。ただ、あまりにもリアル過ぎるためか、過剰な演出も少なく、終始カタルシスを感じることがなく、個人的には盛り上がるところがなくエンディングを迎えてしまいました。ちょっと期待しすぎていたのかもしれないです」というモンゴリアンチョップさんのご意見でした。皆さんメールありがとうございましたね。

YouTuber出身の初脚本・初監督作品

ということで、私も『エイス・グレード』、このタイミングでBlu-rayを買いまして、それで2回、見たりとか……あとは音声解説、ボー・バーナムさんと主演のエルシー・フィッシャーさんの音声解説で見たりなんかしました。ということでね、ちょっと時間がかかりそうなのでいろいろ予定していたのを端折りながら行きますが、これが長編映画監督デビューとなるボー・バーナムさん。1990年生まれ、2006年にYouTubeに上げた動画が話題になって、以降コメディアン、ミュージシャン、俳優として活躍中、という。

まあ、言ってみれば最初期のYouTuberにして最初の成功例、という感じじゃないですかね。まさに新世代マルチアーティスト、っていう感じだと思います。『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』なんかにも出ていましたし。彼のスタンダップ・コメディショーはですね、Netflixで『ボー・バーナムのみんなハッピー』というのがあって、これ、めちゃめちゃ面白いんで。ぜひこれ、ちょっと見ていただきたいと思います。

とにかく、こんなボー・バーナムさんが、初めて自ら脚本・監督を務めたこの長編映画『エイス・グレード』なんですけども。面白いのは、いわゆるそのデジタルネイティブ世代、SNS世代の若者を描く、という意味では、当然のようにそのYouTuber出身というボー・バーナムさん、ご自身のキャリアを連想させるものでありながら、たとえばご本人は、パフォーマーではあるわけなんだけども、本人が主演とか、出演もしない。

どころか、各種インタビューでも繰り返し答えていらっしゃるように、よくあるティーンエイジャー物のように、作り手の記憶を反映したものにはしたくなかった、自分の過去を反映したものにはしたくなかった、というのは記憶と現実は違うはずだから……自分では美化してしまっていたりするから、ということで、むしろ自分とは全く異なる存在である今の少女というものを主役にした、要するに自分とは違う存在だからこそ主役にした、と言っていて。

で、脚本を書く際にも劇中の主人公たちと同じくらいの年齢の子たちがネットに上げている動画を大量に見たりして研究を重ね、実際にその年代の子たちをキャスティングし、彼らが普段してるしゃべり方や仕草をさらに逐一、そのセリフなどにフィードバックしていった、ということで。要はですね、年長者の、わかったような視線ではない若者像。ドキュメンタリックなまでに、生の、リアルな若者の世界というのを非常に丁寧に観察し、そして作品に落とし込んでいる、という。で、その結果として、むしろたとえば僕のように、年齢から立場からまるで違う観客にも、かつて感じていた……あるいは今もひょっとしたら時には感じているのかもしれない、「あの気持ち」「あの時の気持ち」っていうのを、極めて生々しい感触とともに想起させもする、という作りになっていて。

そんな風にですね、若者の今現在っていうのを誠実に、ありのまま見つめたら、結果普遍的な共感、共振度が高まった、という例として、キャラクターの年齢とか諸々はもちろん全然違うんだけども、僕はこのバランスはね、『桐島、部活やめるってよ』をちょっと連想しました。あれもね、吉田大八監督が「自分がセリフを書くと嘘っぽくなるから」ということで、様々な俳優さんたちに時間をかけてエチュードをさせたりとか、いろんな形でリアルな若者像というのを描いた結果、すごく普遍的な青春映画になりましたよね。それに近いバランスを感じました。

大人と子供の本当の意味での境目、それが「13歳~14歳」

で、それはともかくですね、この『エイス・グレード』には、もうひとつポイントがありまして。なんと言ってもそれは、タイトルにもなってるこの、8年生」という年齢設定ですね。日本で言えば中2に当たる年齢ですけども。まあ13歳から14歳といったところ。アメリカの学年制度ではこれ、州によっては違うところもあるみたいですけども、基本的には、小学校1年生から624制で小・中・高と分かれている、という。つまり、本作で描かれる8年生最後の1週間というのは、ただでさえ13から14というね、本当に文字通り子供と大人の境目であると同時に、中学生と高校生の境目でもある。全く新しい、一段上の大人な領域にこれから足を踏み入れる、手前のその瞬間、ということですね。

で、これね、ボー・バーナムさんがあちこちのインタビューでも言っていることでもあるんだけれども、これまではティーンエージャームービーっていうと、やっぱり高校生にスポットが当たることが多かったと思うんです。で、これはボー・バーナムさん曰くですね、それは作り手……これは僕が考えるにおそらく観客の多くも、思い出したがっている時期は17歳とかなんですよね。というのは、僕の経験に照らし合わせても、17歳ぐらいになるとやっぱり、自分がある程度コントロールできてくるから。「楽しい青春」が増えてくるんですよ。

でも、本当に青春の問題なところっていうか、あんまり思い出したくないような……つまり、若さゆえの不安や焦りとかに苛まれて、どうしていいかわかんなかったっていうのは、実はさらにその前の年齢なんじゃないか?っていう。まして、より大人びている今時の若者なら、なおさらその前にこそスポットを当てるべきなんじゃないのか?っていうのが、ボー・バーナムさんの考えで。なので、これまでは実はあまり作られてこなかった、13歳から14歳、大人と子供の本当の意味での境目、そして中学生と高校生の境目という、そこにスポットを当てて、SNS時代ならではの自意識の揺れ動きっていうのを、もちろん笑い混じりに、しかし、本質的にはとても優しく見つめていく、という。それがまあ、今回の『エイス・グレード』という映画ですね。

で、ご多分に漏れずこの映画も、まずはオープニングが何よりですね、本当に的確かつ雄弁に、作品全体のテーマやトーンを物語っていたりするんですけれども。まずね、もはや信頼のブランドA24……本当にもう、傑作を連発ですね。素晴らしい制作会社です。A24のロゴが出て、まず最初、そのエルシー・フィッシャーさん演じる……エルシー・フィッシャーさんはこれまで『怪盗グルー』の声(アグネス)を当てたりとか、子役としてはずっと活躍されてきた方らしいんですが、エルシー・フィッシャーさん演じる主人公ケイラ、真正面のアップで、非常にどアップで、まあブローアップされたように、非常に画質が粗い画面。

で、どうやらそれは、彼女が恐らくYouTubeに定期的に上げているらしい動画で、彼女なりの人生哲学を視聴者に語りかけているんだけど……のっけから言うことが、「えー、まずはですね、ぶっちゃけ視聴数が伸びなくて悩んでるので、チャンネル登録、お願いします」みたいなことを言っている(笑)。これ、後の方でまた別の場面で出てくる画面を見ると、再生回数は10かなんですよ。だから、恐らくは彼女自身が見返しているか、あるいは後で実はチェックしていることが判明するお父さんが見てるかぐらいしか、ほぼほぼ誰も見てない状態、っていうことなんだけど。

ただ実際……我々がこのネットの動画みたいなのをこういう場で話題にする時って、まあ再生数が多いものとか、広く拡散されたものっていうのを話題にしている、あるいは自分が興味あるものを目にしてるわけですけど、ほとんどの、大半の人にとって、あるいはSNSがデフォルトであるような若者にとっては、こういうSNS上からの発信というのは、こうやってごくごく限られた範囲に向けた、個人的なものがほとんどですよね。実はこっちの方が多いわけです。こういうのの方が。

で、なおかつ、このようにかつてなら日記とか、他人を交えるにしても交換日記、文通、せいぜいZINEを作るっていう程度だった、そこで吐き出されてたような私的な内容というのがですね、たとえば現在のSNSでは、同時に公的でもある、人目を意識せざるをえないようなものでもある、っていうことですね。ちなみにボー・バーナムさんの脚本を書く時の調査によれば、女の子は自分の心情について語る内容が多いけど、男の子はゲームの話ばっかりしてるっていうね(笑)。男の子はやっぱり、自分の感情をこういう場で吐露することの訓練を受けていない、慣れていないっていうか、抑圧しちゃう傾向がある、という話をしてましたけど。あとはまあ、単に幼稚っていうことですかね(笑)。

■SNS時代、いい歳した大人だって結局同じことで悩んでる

まあ、とにかく人目を意識せざるを得ない。つまり、プライベートであり同時にパブリックでもあるこのSNSという場に、とりあえず身を投じることが良くも悪くもデフォルトである主人公ケイラたちの世代……これ、いい面と悪い面の両方がありますけど、それがもうどっちにしろデフォルトである、その自意識の揺れ動きを、ここでのケイラの独白というのが如実に表してもいるわけですね。彼女は、「自分らしくいる」とはどういうことか、どうすればいいのか、っていうことを、表面的にはその答えを悟った立場から、画面の向こうの誰かに教え諭しているわけですね。

で、その語り口そのものはとても大人びていて、まあ賢い子なんだな、っていうのはすごくよく分かるんですけど。ただ、その時折よどむ口調であるとか、泳ぐ視線から、そう言う彼女自身が、「自分らしく」なんてこと言ってますけど、実はやっぱり人の目を誰よりも気にしていて、自分自身が「自分らしさ」への自信を全く持てないのであろう、ということが痛いほど伝わってくるわけですね。

たとえば、「私は『無口』って言われるけど、そんなことはなくて、話しかけてさえくれれば…………っていうことは、まあだいたいどういう扱いなのか、っていうのは分かりますよね。つまり、本当はこの動画は、彼女の切実な心情吐露でもあるわけです。なんだけど、それらがあくまで他者へのメッセージ、教訓という、外向きの、言わばロールプレイのパッケージングをされている。これがやっぱりSNS時代、っていうところですよね。で、撮影を終えた彼女がパソコンを止めると、カメラがパッと引いて、実は彼女は暗い部屋の隅でポツンといる、という様子が映る。つまり、彼女は必死に呼びかけてはいるけども……という彼女の状況を、ビジュアル的にポンと一発で示す。これも見事な演出ですよね。

という感じで、まずはそのSNS時代の若者の置かれてる状況、その中での心の揺れ動きを端的に表わす、という、本当に見事なド頭のツカミだと思いますし。同時に、ここで彼女が悩んでるその、「自分らしく」いたいけど、他人の目とか評価が気になってしょうがなくて……というか、そもそも「自分らしさ」が何か、私自身がわかってるかどうか疑わしい、でも表向きはそんな不安があるかどうかも押し隠してやっている、っていうこれ、我々いい歳した大人だって、結局同じことで思い悩んでいますよね。このSNS時代ね。ということなんです。

なので、そこの彼女の心情。切実でありながら……自分を抑え込んでいるからこそより切実に見える心情吐露を見るだけで、「ああ、これは私たちの話でもある」っていう風に、感情移入できるわけです。そこから、彼女が登校をする朝の日常と共に、オープニングクレジットなんですけども。まずね、YouTubeで、あのオリヴィア・ジェイド・ジャヌリさんっていう、あの大学不正入学問題で大炎上になった二世インフルエンサーというか、あの人の動画を見ながら、お手本にしながらメイクをしている。それでその洗面台に、ペタペタと、ポストイットにすごい自己啓発的なワードがいっぱい書かれていて。これがまた痛々しくもかわいらしい。

11個、ジョークを覚える!」とか書いてあるわけ(笑)。しかもあの洗面所、お父さんと共同で使っているんだから。お父さんは毎日、それが増えてくるのを見ているわけじゃん? 超かわいいよね!っていう。もう娘が愛おしくてしょうがないだろうね、っていう。

主人公ケイラを演じるエルシー・フィッシャーさんのたたずまいが物語る「14歳」らしさ

で、まあ学校に向かっているわけです。で、その学校に向かっていく彼女を、後ろから追うカメラ。これは何度か出てくるカメラワークなんですけど、とにかくここでの、エルシー・フィッシャーさんのたたずまいね。猫背で、ちょっとふっくらした少女体型。あとは顔にニキビが、すごくこう……これは本物のニキビでしょうね。どアップでもガーンと出てくるという。

で、そういう自分の身体自体に居心地の悪さを感じているようなたたずまいそのものがですね、これもまた何よりも雄弁に、このケイラという……監督の音声解説によると14歳と言っていましたが、その14歳の少女の置かれている立場や心情を物語っていて、圧巻!という感じではないでしょうか。で、彼女がそうやって背を小さく丸めたくなるのもわかるほど、その向かっていく学校、8年生の教室というのがですね、ぶっちゃけ特に男はまだ全然小学生ノリというか、すごい幼さ、無邪気さ、デリカシーのなさ、っていうのを残している年代でもあって、というね。

しかも、そのデリカシーのなさには、性の目覚めも含む、みたいな(笑)。そういう様々な生徒の様子を、ポンポンポンポン、テンポ良く見せて示していく。このあたりも非常に楽しいですね。マジックの匂いを嗅いだり、クレヨンを積んでガチャーンとやったりね(笑)。要は、彼女が自意識過剰でキョドってしまうのも、こうやってその動画を見てから他の生徒の様子を見ると、他の子より彼女がやっぱり賢いからなんだ、っていうね。一足先に大人になりつつあるから、彼女は自意識過剰になっちゃうんだ、っていうのもわかってくる。

ただ、なのに学校の人たちは、大人も子供も、彼女を無神経に……要するに「おとなしい子ね。無口な子ね」っていう風にレッテル貼りして、済ませてしまう。「無口賞」って超ひどいなとも思うけど、アメリカでは……って思うかもしれないけど、日本の学校も似たような、そういう無神経なことって、教室ではよくあったと思いますよ。で、そんな彼女の思春期を、オロオロと見守るばかりのお父さん。これね、ジョシュ・ハミルトンさんが本当に見事に……本当に、温かみと深みのある名演だと思いますね。僕はもちろん、このお父さんの立場で見てましたけど。

それで、学校の人たちはレッテルを貼るばかりなんです。で、ケイラとしては、そのSNSに投稿しているような理想の自分像を、自信が持てない自分の実像を飛び越して、周囲に認知してほしい。要は、上手く「再デビュー」したいわけですよ。高校デビューなり、そのプールパーティーデビューをしたいと考えてるわけなんだけど。でも、こういう理想と現実のギャップ、「こう見られたい自分」と実際の「こう見られている自分」との絶望的な乖離、あるいは、一方的に憧れた異性とのキスの練習(笑)、とかね。ああいうのもとにかく、みんなやったことだよね!っていうことだと思います。

ここでね、彼女が憧れているエイデンという男の子が出るたびに、テーマ曲みたいのがダーンって流れ出すのとか、本当に笑っちゃうんだけど。で、そのね、再デビューの絶好の機会にして、理想と現実のギャップを文字通り白日の下にさらされる場でもある、最初のクライマックス。これ、伊賀大介さんも大悶絶、大絶賛していた……一応学年ナンバーワン女子的存在のケネディっていう女の子の、誕生パーティー、プールパーティーのシーン。なるほど名場面!という感じで。

映画史上はじめて写し撮られた「ある瞬間」

まあケイラの動画コメントで、実は「彼女が考える理想的展開」っていうのが語られる中、音楽が、どんどんどんどん不安さを増してですね、本当にホラー的になっていって。着替えに入ったその洗面所のところで、ちょっとパニックに陥っちゃって。で、なんとかあの印象的な緑の水着に着替えてですね、おずおずと、プールにケイラが向かっていくとですね。そこに広がっている、一大スペクタクル。動物的に騒ぐ男子! 大人ぶって気取る女子! どっちにしてもここに上手く居場所を見つけられる気が全くしねー!っていう感じがビンビンの、彼女にとってのデンジャラスゾーンとして、プールサイドが描かれていく、というね。本当にサスペンスだと思いますね。ホラー、サスペンス。

ここでね、後に何気にキーマンになっていく、ゲイブくんと出会ったりする。ゲイブくん、後ほどの食事シーンだと、猫背のケイラに対して、胸張りすぎ!っていうのが逆に挙動不審感を醸すという(笑)。その彼のたたずまいとかももう、本当におかしく愛おしいんだけども。ねえ。あの最初に会った時も、「なんだ、それ?」なコミュニケーション(笑)。これもすごく笑えたりするんですけども。ちなみに僕がこのプールシーンで一番悶絶したのは、ケネディさんにその誕生プレゼントを渡すという……その誕生日プレゼントがスカッちゃう、っていうこともさることながら、その手前の部分。

ケイラが、みんなが盛り上がっている輪に加わろうとして、みんなの盛り上がりに合わせて愛想笑いをしながら、音にならない言葉をパクパクと……あの「輪に加わりきれないパクパク」、俺、子供の頃っていうか、最近もどっかでやった気がするんだよね。輪に入りきれなくてパクパクするの。このね、「輪に入りきれないパクパク」をしっかり写し取った映画は、史上はじめてです! もう画期的だと思いました。僕はここで泣き、おののき……っていう感じでしたね(笑)。

で、ともあれここでね、エイデンくんに思いがけず話しかけられて、強気モードに入ったケイラさん。エイデンくんと一気に距離を詰めようとして、彼女はかなり大胆な行動に出ていくわけですけど……意地悪なことに、この前後からですね、それまでのそのケイラの主観的視点には入ってこなかった、イケメン少年エイデンくんの、まだガキなところ、つまりいくらミステリアスに見えても、内面をやっぱりただのガキ、しょうもねえガキなんだっていうのが、はっきりと示される描写が増えていく。で、ここらへんからね、事程左様に、ケイラと異性、男の子たちとの関係というのが、にわかに生々しい性的な緊張感というのを帯び始めるわけです。

正しく現代的でフレッシュ。青春映画の新たな傑作!

このエイデンとのやり取りも、SNS時代ってことを考えれば、なかなかちょっと危うさを感じずにはいられませんし。そうした緊張感が極に達するのはもちろん、後半ですね、進学する高校の1日体験で親しくなった先輩のオリヴィアに誘われて、男女2人ずつ、4人の友人グループの輪に、ケイラが同行する、というこの展開。ここで、Blu-rayでね、その音声解説で監督とエルシーさんがしている考察が、すごい面白くて。

ケイラにとって今、憧れの的であるオリヴィアさんも、落ち着きのない話し方、身振り手振りから言って、やはりケイラと似た……元々エイス・グレードの頃はケイラと同じく、キョドり女子だったのであろうと。そして、その後ケイラを車で送っていくことになるライリーという男の子。強がった話しぶりはしているけど、やはり話の輪に今も上手くは入れていない。これもやはり、ケイラと同じような立場の子なんだ、と。だからこそ、オリヴィアはケイラの立場が分かるから、女の子はケイラを助けようとする一方、ライリーは……彼女を分かっているからこそ、最低の形でコントロールし、利用しようとする、という。

この、本当におぞましい……本当に精神的デートレイプとでも言うべき、本当におぞましいシーンですが、ここも、非常に悲しいけど、やっぱりリアルです。男性が、自分が思ってる以上に公使しているかもしれない加害性というものを改めてちょっと突きつけられたような、非常に……特に、ゴリゴリのマッチョな男じゃない男が振るう、セクシャルな、まさにハラスメント、というあたり。本当に恐ろしいあたりで、突きつけられた感じがしました。

で、その傷ついたケイラに対して、やっぱり父親は、基本的には外側からそれをね、オロオロと見守るしかないんですけど。特に性的な経験については、親ができることというのは限られてくる。これは仕方ないんだけど。ただですね、ここまで劇中では、部屋やテーブルの端と端とで隔てられて……しかも、ケイラはスマホやPCの青白い光に照らされてる顔、お父さんは部屋の向こう側にある暖かい電気の光、という風に、光の色合いでも隔てられていた2人が、この事実上のクライマックス、ここで、ある光に照らされるわけです。つまり、人類の営みとして最もプリミティブな明かり。焚き火の炎に、等しく照らされて。

同じ暖かい光に照らされて、初めて正面から会話をする。ここでこのお父さんが、娘にかける言葉……親として、これ以上素晴らしい子供への語りかけってあるでしょうか? 親ができることの、もう最大限と言っていいんじゃないでしょうか。もうここで本当に僕は……やっぱりお父さんの立場でもあり、そしてそういう言葉をかけられる子供、そのどっちの立場でもありで、本当に感動しました。素晴らしい名ゼリフ、名場面だったと思います。あの、エンディングに向けてね、高校卒業時の未来の自分に向けてケイラが語りかける中、車中のお父さんと娘が、劇中ではついぞなかった、笑顔を交わすっていうカットが、1カットだけ入りますよね? ここで、「ああ、彼女はもう大丈夫だ」っていう感じがしっかりします。

そんな感じで、役者陣の本当に自然な演技……若者たちの自然な演技、その素晴らしさを引き出すと同時に、でも同時に、さっき言った光の演出など、純映画的な語り口、構成も、実は非常に巧みです。ストーリー、キャラクターを捉える視点も、フラットな優しさというのかな、非常に正しく現代的で、本当にフレッシュでした。ボー・バーナムさん、本当にすごい作り手が現れたなと。

監督としてもこれから、ますますすごい作品を作っていくんだろうなと思いますし、エルシー・フィッシャーさん、この時ならではの名演、という部分でも素晴らしかったですし。他にも、登場するみんながみんな、もう隅から隅に至るまで味わい尽くしたくなるほど、素晴らしい演技を見せていて。これはたしかにティーンエイジャー映画、青春映画として、この『エイス・グレード』、新たな傑作、クラシックが生まれたと言っていいんじゃないでしょうか。ぜひぜひ、いろんな形でウォッチしてください!

(ガチャ回しパート中略 ~ 来週も最新映画ソフトを評論する『新作DVDBlu-rayウォッチメン』。山本匠晃アナがガチャを回して決まった課題映画はEXIT イグジット』です)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。