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「追悼 ビル・ウィザース~困難な時代を生き抜くための歌」(高橋芳朗の洋楽コラム)

ジェーン・スー 生活は踊る

音楽ジャーナリスト高橋芳朗さんによる洋楽コラム(2020/04/10)

「追悼 ビル・ウィザース~困難な時代を生き抜くための歌」

高橋:本日の特集はこちらです。「追悼 ビル・ウィザース~困難な時代を生き抜くための歌」。

スー:うーん、亡くなってしまいましたね。

高橋:アメリカのソウルシンガー、ビル・ウィザースが3月30日、心臓疾患の合併症のために亡くなりました。81歳でした。ビル・ウィザースは1971年にデビューして1985年に引退するまでグラミー賞を三度受賞。2015年にはロックの殿堂入りを果たしています。スーさんも大好きなアーティストですよね。

スー:いやー、人はいつか亡くなってしまうわけだけど……でもちょっとショックでしたね。

高橋:びっくりしましたよね。ビル・ウィザースがポップミュージックの歴史やアメリカ社会のなかでどんな存在だったのかは、バラク・オバマ前アメリカ大統領がTwitterに投稿したビル・ウィザースの追悼コメントにわかりやすいので引用したいと思います。

「ビル・ウィザーズは真のアメリカの巨匠だった。労働者の日々の生活の喜びや悲しみに根差した彼の音楽は、魂がこもっていて、賢明で、人生に前向きになれる、困難な時代を生き抜くための完璧な強壮剤だった」

我々アメリカ国民はビル・ウィザースの音楽に励まされ続けてきました、ということですね。

スー:まさにいま、このタイミングで必要な歌だったんだよね。

高橋:まったくその通り。ソウルミュージックにお詳しい方なら、このオバマ前大統領のコメントからビル・ウィザースのある特定の楽曲を連想すると思います。スーさんはわかりますよね?

スー:わかります。

高橋:その曲は、1972年にリリースされた「Lean On Me」。当時アメリカのチャートで1位になった大ヒット曲にしてポップ音楽史に残る名曲です。この「Lean On Me」のタイトルは「僕を頼って」という意味になるんですけど、歌詞はビル・ウィザースが生まれ育ったウェストバージニア州スラブフォークというアメリカ南部の小さな炭鉱の町で暮らす人々にインスパイアされたそうなんです。まずはどんなことを歌っている曲なのか、歌詞の大意を紹介したいと思います。

「生きていれば誰だって痛みや悲しみを抱えるときがある。だけど僕たちは学んできた。明けない夜はないということを。強くいられないとき、弱気になってしまったときは僕を頼ればいい。僕が君の友達になって前に踏み出す手助けをするから。どうか僕を頼ってほしい。きっとそう遠くないうちに僕も頼れる誰かが必要になるから」

スー:持ちつ持たれつ、ということだよね。

高橋:そう。困ったときはお互いさま。支え合い、助け合いの大切さを説いた歌なんですよ。「Lean On Me」は1972年にリリースされて、ベトナム戦争やさまざまな社会運動を経て疲弊しきっていた当時のアメリカ国民の心の支えになったと言われています。そして先ほど紹介したオバマさんの「困難な時代を生き抜くための完璧な強壮剤」という言葉通り、以降なにか有事が起こるたびに歌われて人々を励ましてきた曲で。それはアメリカ同時多発テロのときだったり、ハリケーンカトリーナのときだったり。

そしてさっきスーさんが言っていたように、まさに現在、たったいまですよ。新型コロナウイルス禍のなかでも、この「Lean On Me」が希望と連帯のアンセムとして歌われていたところだったんです。オバマさん言うところの「完璧な強壮剤」としての「Lean On Me」の力に改めて注目が集まっていたタイミングでビル・ウィザースが亡くなってしまったから、それだけにショックも大きくて。いまこそあなたの歌が必要なときだったのに。

スー:そうだね。でも、歌は残るからね。

高橋:うん。今日はそんな「Lean On Me」を1973年、ニューヨークのカーネギーホールで収録されたライブバージョンで聴いていただきたいと思います。いままさに必要とされている歌です。

M1 Lean On Me(Live) / Bill Withers


※リンクの動画はスタジオバージョンです

スー:繰り返しになっちゃうけどさ、本当にいまこそ必要な曲だよね。

高橋:そうね。「Lean On Me」は『生活は踊る』でも番組開始直後の熊本地震のときにオンエアしているんですよ。つい先日、今年の3月11日にも東日本大震災から9年を迎えたタイミングで選曲したばかりで。本当に有事に必要とされる歌なんですよね。

ビル・ウィザースには、この「Lean On Me」のようなここぞというタイミングで力を発揮する歌、日々の生活のなかで力を与えてくれる曲がたくさんあって。基本的に市井の人の視点を持ったシンガーだったんですね。そんな彼の数ある傑作のなかから次に紹介したいのは、1977年にヒットした「Lovely Day」。

スー:名曲だね。

高橋:CMソングとして使われていたり、いろいろなアーティストにカバーされたりサンプリングされたりしているから、きっとご存知の方も多いと思います。この曲のタイトルは「素晴らしい日」という意味。歌詞はこんな内容になります。

「朝がやってきて目が覚めると陽射しが痛いぐらいにまぶしくて、なんだか急に重いものが心にのしかかる。目の前にある一日を過ごすことがとても耐えられないように思えてきて、いつも自分以外の誰もが答えを知っているような気分になる。でも、君を見れば僕の世界はもうなんの問題もない。君を見れば今日が素敵な一日になるということがわかるんだ」

スー:「Then I look at you♪」だよね。

高橋:そうそう、まさにそれ! ここで歌われている「君を見れば今日が素敵な一日になるということがわかる」の「君」は別に恋人や家族じゃなくてもいいと思うんですよ。たとえばペットでもいいし、ベランダの植木でもいい。

スー:自分の推しのアイドルでもいいよね。

高橋:まさにまさに。お気に入りのラジオ番組でもいいと思うんですよ。

スー:おおっ、いいこと言う!

高橋:フフフフフ。だからもしこの状況のなかで不安な気持ちにさいなまれるようなことがあったら、自分が好きなものや愛するものに触れるなり思いを馳せるなりして、なんとか一日を乗り切っていこうという。ビル・ウィザースが「Lovely Day」で歌っているのは、そういうメッセージだと解釈しています。

M2 Lovely Day / Bill Withers

高橋:堀井さん、なんか盆踊りみたいな振りで踊っていませんでした?

堀井:この曲に合わせて炭坑節を踊っていました(笑)。

高橋:アハハハハ!

スー:いやー、今日の天気にぴったりだね!

高橋:やっぱりこの曲は無条件で気分が上がるよね。ちなみに「Lovely Day」は『生活は踊る』で過去2回オンエアしたことがあるんですけど、それが2017年と2019年の新年最初の放送なんですよ。

スー:おおっ!

高橋:ビル・ウィザースの曲はここぞというときにかけたくなるものが多いことを改めて痛感しましたね。

さて、ここからは現在の音楽シーンにおけるビル・ウィザースの影響力について触れておきたいと思います。ビル・ウィザースに関する直近の大きなトピックとしては、2018年9月にふたりのシンガーが偶然同じタイミングでビル・ウィザースのカバーアルバムをリリースしているので紹介したいと思います。いずれも夜に家で過ごすときのBGMとして最適なロマンティックなラブソングを選んでみました。

*まずはミネアポリス出身のシンガー、ホセ・ジェイムスがジャズの名門ブルーノートから発表したアルバム『Lean On Me』から、ビル・ウィザースがジャズサックス奏者のグローヴァー・ワシントン・ジュニアと共演した1981年のヒット曲「Just The Two of Us」のカバーを聴いてもらいたいと思います。これは90年代に久保田利伸さんもカバーしていた曲ですね。

M3 Just The Two of Us / José James

スー:いやー、名曲しかない!

高橋:いつ聴いてもうっとりしちゃうよね。続いては、これもホセ・ジェイムスの『Lean On Me』と同じ2018年9月にリリースされた作品。アトランタ出身のR&Bシンガーでグラミー賞にもノミネートされたことがあるアンソニー・デヴィッドのアルバム『Hello Like Before: The Songs Of Bill Withers』より、ビル・ウィザースの1977年の作品「I Want You To Spend The Night」のカバーを聴いてもらいたいと思います。これはブラジリアンなアレンジに注目していただけたらと。後半のサンバに転調するところがめちゃくちゃ気持ちいいんですよ。

M4 I Want You To Spend The Night / Anthony David

高橋:ビル・ウィザースについてはまさに昨日、ヒップホップバンドのザ・ルーツのメンバーのクエストラヴが『Rolling Stone』に寄稿した追悼文が公開になっていて。非常に印象的だったのは、クエストラヴは以前より「ビル・ウィザースはアフリカンアメリカンのアーティストとしては稀有な『普通の人』だった」と言っているんですね。「私たちアフリカンアメリカンのアーティストは超人的な才能、原始的な才能を求められることが多く『普通』でいられることがむずかしいのだが、ビル・ウィザースは違っていた。彼は黒人にとってのブルース・スプリングスティーンのような存在だった」と。

これはクエストラヴの指摘通りで、実際ビル・ウィザースはショウビジネスの世界と肌が合わなくて1985年にリリースしたアルバム『Watching You Watching Me』をもって引退しているんですよ。だから実質的な活動期間はわずか14年。隠居してからはロサンゼルスで大工仕事などをしながら家族とのんびり過ごしていたそうなんですけど、とにかく俗気がない人で。今回いろいろなアーティストのビル・ウィザースに寄せる追悼コメントでを見ていても、やっぱり「謙虚」という言葉が目立つんですよね。

そういうビル・ウィザースの平凡な一市民の目線で歌うソウルミュージックは、きっと皆さんの生活の素晴らしいサウンドトラックになると思います。この機会に、ぜひ彼の音楽に触れてみてください。

―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ―― ◇ ――
当ラジオ番組では「日々の生活に音楽を」をコンセプトに、音楽ジャーナリスト・高橋芳朗さんによる洋楽選曲を毎日オンエア。最新1週間のリストは以下です。

4月6日(月)

(11:06) Let Me Be The One / Carpenters
(11:23) Last Night I Didn’t Get to Sleep at All / The 5th Dimension
(11:36) Jolie / Tony Orland and Dawn
(12:11) Fly On / Al Kooper
(12:21) Feelin’ Stronger Every Day / Chicago
(12:51) 生まれた街で / 荒井由実

4月7日(火)

(11:06) Aretha Franklin & George Michael / I Knew You Were Waiting (For Me)
(11:30) Steve Winwood / Higher Love
(11:38) Fine Young Cannibals / She Drives Me Crazy
(12:10) Terence Trent D’Arby / Wishing Well
(12:22) Simply Red / The Right Thing
(12:48) チャゲ&飛鳥 / 恋人はワイン色

4月8日(水)

(11:06) John Lennon / Stand By Me
(11:25) Ringo Starr / Only You (And You Alone)
(11:37) Wings / Listen to What the Man Said
(12:09) George Harrison / You
(12:21) Billy Preston / My Sweet Lord

4月9日(木)

(11:03) Rhythm of The Blues / Lord Creator
(11:35) Luck Will Come My Way / Winston Samuels
(12:09) How Many Times / Owen & Leon Silvera & Roland Alfonso
(12:18) Sit Down Servant / Jackie Opel
(12:49) A Little Dance Ska / EGO-WRAPPIN’

4月10日(金)

(11:07) Message in Our Music / The O’Jays
(11:22) Tell the World How I Feel About ‘Cha Baby / Harold Melvin & The Blue Notes
(11:36) I Swear You’re Beautiful / Archie Bell & The Drells
(12:09) This Song Will Last Forever / Lou Rawls