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【文字起こし】バリアフリー演劇特集 Part 2「バリアフリー演劇『メゾン』+インタビュー」

アフター6ジャンクション

この記事は2020年3月18日(水)放送の「エンタメの多様性。「バリアフリー演劇」をラジオで実演【聴く演劇】」を文字起こししたものです。

また、前編となる「【文字起こし】バリアフリー演劇特集 Part1 TA-net 廣川麻子さんインタビュー」と合わせてご覧下さい。

■20:00。特集コーナースタート

日比麻音子アナウンサーのナレーション:時刻は夜8時、『アフター6ジャンクション』。お聞きの皆さま、これから間もなくバリアフリー演劇が開演いたします。Radiko、ワイドFMなどでヘッドホンやイヤホンを使ってお聞きいただくと、より作品が楽しめます。それでは間もなく開演です。

(開演のブザーが鳴る)

檀:皆さん、こんばんは。バリアフリー活弁士の檀鼓太郎です。目の見えない方が舞台を楽しむための音声ガイドを担当しています。通常は客席内のみに流れるミニFMなどを使って音声ガイドを聞いていただきますが、本作品では目の見えるお客さまにも音声ガイドを知っていただくために、舞台上の客席から見える位置で音声ガイドを行ないます。まず開演前に、舞台を見ることができないお客様のために舞台の広さや舞台装置について説明をしたいと思います。今日、上演を行なうスタジオ、場所はTBS第6スタジオです。客席には宇多丸さん、日比アナウンサー、そして廣川さん、中村中さんなどがいらっしゃいます。

で、私がは今、宇多丸さんから見て左側。下手前に立っています。ここから上手側。右方向に向かって歩いてみます。1、2、3、4、5、6、7歩で上手前まで来ました。今度は奥へ行ってみます。1歩半……奥行きは1歩半しかありません。上手側です。ここからさらに下手奥側。角度が20度ぐらい奥に向かって進んでいきます。1、2、3、4、5歩。5歩で下手奥になりました。

で、また舞台前に戻ります。1、2、3、4歩で元の下手前の位置に戻ってきました。この先のかけた三角定規みたいな狭いエリアで今日はお芝居を行ないます。で、舞台中央には4人がけの小さなテーブルが置いてあります。その両側に丸い椅子が2脚ずつ置かれています。このテーブルのある場所がマンションの一室。ここが主な舞台となります。続いて、登場人物。登場人物は父、母、息子の3人です。名前はありません。息子は赤ちゃんから大人までを1人で演じます。衣装は全員、現代の普通の部屋着で、途中の着替えはありません。

劇中、カメラのシャッター音が鳴ります。この音が鳴ると時間が一気に飛びます。舞台上にもう1人登場するのは手話通訳者です。手話通訳者は舞台の中まで入ってきて、登場人物の近くで手話を行ないます。音声ガイドが舞台と客席の間、下手側で行います。それではそろそろ物語を始めたいと思います。バリアフリー演劇『メゾン』、『アフター6ジャンクション』バージョン、どうぞお楽しみください。

一同:(拍手)

■『メゾン』開幕

 

(やさしいピアノの曲)

ガイド テーブルの前に息子が登場。

その両側に父と母、そして手話通訳が横一列に並び、一同、礼。

(音楽、小さくなってゆき──)

息子 ここは実家です。僕はこの家の息子で、そして、ここにいるのは父と母です。

父 父です。

母 母です。

息子 僕みたいな子どもがいる割には若い……というか、無理ある感じです。どう見ても同世代。勘の良い方はお気づきだと思うんですが、ここにいるのは若かりし頃の父と母です。

父 アラフォー突入です。

母 ギリ、アラサーです。

息子 ここは実家とはいえ、分譲のマンションで、僕が生まれた時に、両親ががんばって買ったマンションです。ちなみに、三五年ローンです。

父 おまえが三五になるまでローンは続く。

母 繰り上げ返済すればいいじゃん。

父 簡単に言うけどさ、君が仕事辞めてて、こいつにも金がかかって、俺の給料上がらないんだよ? どうすんの?

母 ……切り詰めるよ

父 じゃあパンパースやめない?

母 はぁ?

父 西松屋のあのやっすいやつでいいじゃん。

母 そしたらお尻がかぶれちゃう。合わないんだよ、あのやっすいやつ。

父 それでも……もうちょっと安いのがあるでしょ。

母 知らないと思うけど

父 なによ

母 試したからね、全部。

父 全部?

母 全部! マミーポコ、ムーニー、グーン、全部通って、結局パンパースに行き着いたの!

父 あいつ、尻グルメだな

母 繊細なんだよ

          (SE:シャッター音)

ガイド 赤ちゃんが、つかまり立ちから、ヨチヨチヨチ……

父 お……おおお……!

ガイド ……ペタン(息子、力尽きて座る)。

父 ねえ!

母 なに?

父 歩いた。

母 見逃した。

父 一瞬だったから……

         (SE:シャッター音)

息子 ボウケンレッド!

ガイド ヒーローごっこ!

息子 びしゅんびしゅん!

父 ぐわぁ! やるなぁ

母 あのさぁ

父 おー

母 ランドセルどうするよ

父 おふくろ張り切ってたけど

息子 おふくろ! たまぶくろ!

母 やめんか

息子 げはは!

父 「出させてちょうだい!」って言ってたよ

ガイド コチョコチョコチョ…

母 いや〜、それは助かるんだけどさぁ。

父 なによ

息子 ボウケンパンチ!

母 う〜ん

息子 お父さんやられて!

父 ぐわぁ! どした?

母 ねえ、ランドセル何色がいい?

息子 レッド!

父 レッド!?

息子 レッド!

父 レッドかぁ

母 わたしはそれでもいいけどさぁ、

ガイド 「お義母さん」

母 が何か言うんじゃないかなって。

父 あ〜……

母 でもさぁ、あんな何万もする鞄買ってもらえるのは助かるし

父 まあそれは俺が何とかするよ。ほんとに赤がいい?

息子 レッド! おしっこ!

父 いってこーい。

息子 もれるもれる〜

ガイド 二人、ランドセルのカタログを見る。

父 いじめられたりしないかね

母 わかんない

父 勝手なこというやつはいっぱいいるからねぇ

母 色に性別はありません! って言って回りたい

父 そもそもランドセルの必要あるんですか! ってのもね

母 わたしもこんな値段の鞄持ってないのに

父 俺も持ってない

母 わたしさぁ、働くね

父 おお。

母 繰り上げ返済もしたいしね。あんな値段の鞄も欲しいしね

父 そういうの興味あったっけ

母 いんや〜

 (SE:シャッター音)(息子出てくる。)

息子 僕のランドセルは何らかの圧力が働いたのか、黒でした。事情はよくわかんない。僕は子どもでしたから。ただ、縁取りは深い赤でしてあって、多分、ここが歩み寄りポイントだったのだと思います。今では。

          (SE:シャッター音)

ガイド キャッチボールを始める。

     父が投げる。息子が投げ返す…

父 学校どうだ

息子 楽しいよ

父 誰と仲いいんだっけ

息子 え〜……みんな

父 みんなって

息子 言ってもわかんないじゃん

父 そんなことねぇよ

息子 じゃあ俺のクラスのやつ誰がいるでしょう

父 え〜……とね

息子 じゃあ先生の名前はなんでしょう

父 鈴木!

息子 それ四年生のときだよ。去年。

父 そっか

息子 お父さんさぁ

父 うん

息子 俺受験したい

父 受験?

息子 うん。

父 なんで?

息子 誰もいない学校に行きたい

父 え?(投げかけて止まる)

息子 (泣くのを我慢しながら)俺、学校行きたくない……

父 ……行かなくていい

息子 ……ほんと?

父 おう。受験もしよう。

息子 ごめんなさい

父 何を謝ってんだよ。こういう時は

息子 ありがとう

ガイド 父が息子の頭をなでる。そして優しく肩を抱く。

息子 同じマンションに同級生が多かったので、僕の不登校と学校への抗議はすぐに話題になり、両親は多分、針のムシロだったんじゃないかなって思います。幸い隣の学区に転校ができ、そこで友だちができました。

 友だちと塾へ通い、あいつらと同じ中学になりたくない一心で受けた中学受験は、成功しました。

ガイド 母が合格通知を手に取る。

母 入学金がえらいこっちゃ

父 見せて

母 授業料半年分一括だって

父 えらいこっちゃ

母 やべえ

父 やべえ

母 三五年ローンが縮まんねぇ

父 馬車馬モード入るしかねぇな

母 馬車馬モード入ろう

          (SE:シャッター音)

息子 中学に上がって、僕は両親とあまり話さなくなっていきました。そもそも両親は多忙で、僕も部活に入って忙しくしていました。部活は、クイズ部です。たくさんの知識を頭に詰め込むのはもちろん、早押しのために腕立てしたり、走り込みもします。僕の生活の中心はもはや、家の中にはありません。体育祭も文化祭も両親が来るとちょっと…

父 おぅい。

ガイド 父が手を振る。

父 おおいっ!

ガイド まだ振ってる!

息子 …かなり、恥ずかしい。若い僕にはやがてこの家から出て行き、そこで居場所を見つける未来ばかりを見ていました。

                  (SE:シャッター音)

ガイド 母が書類を見ている。

母 どうしよう…わたし、ガンかもなんだって

父 嘘でしょ

母 嘘じゃないんだなこれが。

父 え、治るでしょ

母 わっかんない

父 え

母 また話聞きに行くから

父 俺も行く

母 うん

父 あいつには、言う?

母 いーいー。まだ、うん、治ったら言おう。サプライズ的に

父 サプライズ。

母 ガンでした! が、治りました! 的な

父 ……いいね、それ

母 治りましたーって

父 てってれーって

母 治らなかったらどうしよう

父 治るよ

母 こっわ。こっわい。まじ超こわい。こっわ。

          (SE:シャッター)

息子 何も知らされていなかった、僕です。母は時々家にいるようになって、今思えばそれは通院のだったのですが、僕は、なんか、うっぜぇ、

って思ってました。家にいて、なんか足腰痛がって、ぼんやりしている母のことを。

母 お母さんさぁ

息子 ……

母 出張行くことになったわ

息子 へー

ガイド 息子は本を読んでいる。

母 結構長くなるけど

息子 行ってくれば

母 うん。行くんだけど。大丈夫?

息子 は? なにが

母 晩ご飯とか

息子 てきとーにやるし

母 洗濯とか掃除とか

息子 わかってるようるせぇなぁ

母 ちゃんとやれよー

息子 さわんなよ

ガイド と、母の手を払いのけ……息子は自分の部屋へ。

母は、出かける支度をする。

父 じゃあお母さん送ってくるから。

息子 ……

父 おい、顔出せよ

母 いーよいーよ。行ってきます!

ガイド 父と母が、家を出る。

          (SE:シャッター音)

息子 思春期は、敏感で、鈍感で、なんだかいつもと違う気がするけど、いつもと同じ態度を取って、見送りもせず、部屋にいました。時間になったら学校へ行って、部活して、友だちとカラオケ行ったりして、帰ってきて、まだ誰もいなくて、冷凍チャーハン温めて、クイズ番組見ながら適当に食って、風呂入って寝る。何かが違うことはわかる。だけどそれが何かわからなくて……

ガイド 父と二人、テレビを見ている。

息子 いつ帰ってくんの

父 誰が

息子 母

父 ん〜、いつだったっけか

息子 知らねぇの?

父 おまえも知らねぇじゃん

息子 知ってるわけないじゃん

父 なんか仕事次第で長引くとか言ってたけど

息子 それでもひと月以上経ってるじゃん

父 お母さんがんばってんだから、ゆっくり待とう

息子 いきなりこんな長い出張おかしいじゃん

父 なんだよ、今日はよく喋るな

息子 ……家出?

父 なにが。

息子 母さん、家出した?

父 はぁ?

息子 なんかあったの?

父 ……なんもないよ

息子 嘘だ

父 なんもねぇ。俺と母さんは今でも仲いいし、愛し合ってるし

息子 きもちわりぃ

父 愛の結晶が何言ってんだ。

息子 本格的に気持ちわりぃ

        (SE:シャッター音)

母 ただいま

父 おかえり

息子 ……

父 おかえりは

息子 おかえり

ガイド 母が、息子を抱きしめる。

息子 離せよ

母 やだ! 寂しかった?

息子 は? 何言ってんの?

母 わたしは寂しかった!

息子 もう、なんだよ、はなせよー

ガイド 母が離れると……息子は自分の部屋へ…

父 サプライズしなくて良かったの

母 五年生存率九〇パーだよ

父 じゃあしてよかったんじゃないの

母 わたし変にくじ運いいじゃん

父 おお

母 こういう時に確率低い方引いちゃう人生だと思うわけ

父 まだ内緒?

母 まだ内緒。あの子が大人になったら……生きてられるといいけど

父 生きてよ

母 生きたい

父 あのさあ

母 うん

父 愛してるよ

母 ……やめてよぉ死ぬみたいじゃん

父 死なないでよ

母 生きる生きる。

父 生きる生きる。

息子 そして、父と母の大きな隠し事に気付かないまま、僕は大学受験に失敗しまして。

ガイド 両親、ガックリ…

息子 一浪しまして。大学に進学しました。もちろん、

ガイド と眼鏡をかけ、

息子 クイズ研究会に入りました。クイズはスポーツだ。いつか、クイズ出題者になって本を出版したい、みたいな夢を描いて、二十歳になりました。

ガイド 父が風船を膨らませている。数字の「2」と「0」の二つ。

息子 なにやってんの

父 パーティしようぜ~

ガイド 20~!

息子 いやいやいや、もうよくない?

父 だめだめ、二十歳のお祝いだし。

息子 それは先週してもらったじゃん

父 あれは寿司屋バージョン。これは家バージョン

息子 一回でいいよ

父 目出度いことは何度やっても目出度いだろ

母 じゃーん。

ガイド 母は、ケーキ型の帽子を被っているイチゴとローソク付き。

父 かわいい

息子 気持ち悪い

母 ほめてよ

父 かわいい

息子 痛い。なに息子の誕生日にはしゃいでるの。

母 はしゃぐでしょうが。あんたが二十歳なら、わたしも母歴二十歳じゃん。

父 あ、俺も父歴二十歳じゃん。

母 えー偶然

父 ハッピバースディ、トゥー……

母 ウィー(we)

ガイド 私たち~

父 ウィー(weとハンセン)

ガイド それは、スタン・ハンセン!

両親 ウィー!

ガイド と、二人でハンセン!

           (SE:シャッター音)

息子 この日、母のサプライズは行われませんでした。何も知らないまま今年で三〇です。就職したし、結婚を意識している恋人がいます。母は……大学在学中に亡くなりました。ガンでした。父は僕の前で一回だけ泣いて、会社を定年まで勤め上げました。

ガイド 父がビールを差し出す。

父 ほんとはさ、おまえが三五になる頃までローンあったんだけど。今月で、完済。

息子 おお、おめでとう

父 いずれおまえのものになるね

息子 ああ、まあ、そう言うのは気にしないでよ

父 結局、五年繰り上げただけか。あんまり出世しなかったし。

息子 いやいや、お疲れ様でした。

父 お母さん、ガンだったんだよ。

息子 うん? 知ってるけど……

父 でも治った!

息子 は?

父 てってれー

         (音楽、優しく始まる)

息子 父さん、何言ってるの?

父 やりたかったなぁ

僕 退職して一年も経たないうちに父は亡くなりました。そして、ここは僕のものになりました。僕のものになったけど、一人きりになってしまった。両親の気配が残るリビングで、僕は眠ります。

ガイド 息子はテーブルの上で横になる。

僕 ここは僕の実家です。いつか家族を持ちたい。そして両親がしてくれたように、愛したい。両親がしなかった長生きをして、孫とかみてみたい。その日も、僕はここで暮らしているのでしょう。

ガイド 息子は体を丸め、眠りにつく。

    そこに父と母が現れ、家族写真の数々を息子の体の上に振りまく…

    …紙吹雪のように。

    息子が目を覚まし、テーブルから降りる。

    三人が横一列に並び、お客様にお辞儀。

         (音声ガイドと手話通訳者も列に加わる。)

ガイド カーテンコール。それでは、出演者をご紹介します。

    まず一番左にいるわたくし、音声ガイド・檀鼓太郎。

    続いて父・森尾繁弘。

森尾  ありがとうございました。

ガイド 息子・赤澤涼太。

赤澤  ありがとうございました。

ガイド 母・田中千佳子。

田中  ありがとうございました。

ガイド そして、作・演出と舞台手話通訳・米内山陽子。

米内山 ありがとうございました。

ガイド 『メゾン』を最後までお聞きくださり…

全員  ありがとうございました!(一礼)

幕。

■バリアフリー演劇『メゾン』を終えて直後の感想

宇多丸:……はい、ということでありがとうございました〜。

日比:ありがとうございました。

宇多丸:僕、もうすっかり今、お客気分になっていまして。自分の番組を……いや、素晴らしかったですね。グッと来てしまいました。まず、なんか途中からバリアフリー演劇だからどうこうということでなく、普通に感激、感動をしてしまいましたという感じですね。

日比:本当に濃厚な20分でした。

宇多丸:でも演じられている皆さんはこの距離感とこの人数感、いかな緊張感のもとにやられていたのかと思いますけども。

日比:なかなかのコンディションの中でだったと思いますが。お家、見えました。35年ローン、5年早く繰り上げ返済したお家が見えました(笑)。

宇多丸:後ほど、お話をうかがうのが楽しみで。今、僕が普通に楽しんでしまったんだけど、どういうところがバリアフリー演劇として工夫されている部分であるかというあたりをぜひ、構造の面とかも含めていろいろとうかがってみたいなと。

日比:お客さんの皆さんもよかったら……中村(中)さん、いかがでしたか?(編註:この日19:00からライブコーナーでスタジオライブを披露していたシンガーソングライターの中村中さん。その後残ってスタジオ内で観劇されていました)

宇多丸:ああ、そうだ。お客さんの皆さんも感想もね。中村中さん、いかがでしたか?

中村:いやー、楽しかったです。私も途中から音声ガイドがあることとか手話があることを忘れてました。でも、あの誕生日のシーンで誕生日の時は手話の方も音声ガイドの方もそのパーティーに加わってる感じが楽しかったです(笑)。

宇多丸:うんうん。一部になっていたというね。廣川さん、いかがでしたか?

廣川:はい。改めて面白かったな、よかったな、いい作品だなという風に感じました。

宇多丸:ということで、ありがとうございます。

日比:ああ、楽しい(笑)。楽しかったー!

宇多丸:このままね、「楽しかったね!」って本当に終わりたいところなんですが、ぜひちょっとこの後ね、皆さんにお話をうかがっていきたいと思います。では、一旦お知らせです。

(CM)

 

■CM明け、あらためてメンバー紹介

宇多丸:はい。3月18日(水)時刻は今、夜の8時22分ですね。ラジオでお聞きの方もRadikoでお聞きの方もこんばんは。TBSラジオをキーステーションにお送りしている『アフター6ジャンクション』、パーソナリティのライムスター宇多丸です。

日比:水曜パートナー、TBSアナウンサーの日比麻音子です。

宇多丸:さあ、ということでここからは「聞けば世界がちょっと変わるといいな!」な特集コーナー「ビヨンド・ザ・カルチャー」。今夜の特集、すでに始まっておりますがこちらです。

日比:「演劇の多様性は今、ここまで来ている。バリアフリー演劇ってどんなもの?」特集! はい。これまでたびたび、高校演劇など、やっぱり演劇の裾野。ひいては演劇の多様性について探ってきたこの水曜日の『アフター6ジャンクション』ですが……。

宇多丸:今夜はまず、6時半からバリアフリー演劇推奨団体TA-net(ター・ネット)の廣川麻子さんにバリアフリー演劇とは何か? その概要としてそして今、日本でどういう状況なのか? お話をうかがいました。そしてたった今、実際にバリアーフリー演劇とはどういうものなのかということで、バリアフリー演劇『メゾン』という舞台の、元々は19分とかある作品を……あ、25分ですか。それを今、17分ぐらいに縮めていただいた『アフター6ジャンクション』バージョンというものをこの第6スタジオで生で実演していただきました。ということで、改めて皆さん、お疲れ様でした!(拍手)

一同:お疲れ様でした!(拍手)

日比:本当にありがとうございました!(拍手)

宇多丸:これはやっぱりね、まずこの空間、この人数感によるやりづらさたるや……(笑)。

日比:本当ですよ(笑)。役者の皆さんもさぞかし……今、もう公演後なので、もうたまり場だと思ってしゃべっていただければ(笑)。

宇多丸:皆さんはもう打ち上げて結構ですので(笑)。ビールもあったようですし(笑)。いや、本当にお疲れ様でした。ということで、じっくりとたった今、拝見した『メゾン』を含めて、バリアフリー演劇について改めてお話をうかがいたいと思います。

日比:では皆さんをご紹介しましょう。今日の出演者のご紹介です。まず1人目。ゲストはバリアフリー演劇『メゾン』の作・演出を手がけ、舞台では手話通訳も務めていただきました、劇作家の米内山陽子(よないやま・ようこ)さんです。

米内山:米内山です。よろしくお願いします。

日比:よろしくお願いします。

宇多丸:お疲れ様です。米内山さんのその運動量がね……だって、もう最初から最後までやっぱり全てを司るというか。本当に指揮者のごとくと言うかね、その舞台上で起こっていることの全てをある意味体現される役でもあるから。すごいですよね。

米内山:そうですね。やはり、疲れました(笑)。

宇多丸:すごいと思いながら拝見していましたね。

日比:また、この狭い中での立ち振舞いというのは難しかったと思うので。

米内山:そうですね。ちょっと事故も起こったりして(笑)。

日比:いやいや、それはでもね、アドリブというかね(笑)。

宇多丸:ちょっと後ほど、それもうかがいましょう。そして……。

日比:はい。先ほどの『メゾン』で音声ガイドを担当していらっしゃいました「バリアフリー活弁士」の檀鼓太郎さんです。

檀:はい。檀鼓太郎です。よろしくお願いします。

宇多丸:よろしくお願いします。最初のあの空間説明がね、「ああ、なるほど!」というのが最初からありました。歩数で表現されるあたりとか、たしかにイメージしやすいし。特に今回は音響でステレオ感もあったりしたので。皆さんがたぶん聞いているだけで空間が捉えられると嬉しいなというような感じでしたよね。

日比:「先の欠けた三角定規のような」っていうのは「なるほど!」って思ってメモしちゃいました(笑)。

宇多丸:そして、役者の皆さん。

日比:はい。ご紹介いたします。まずは息子役を演じられました赤澤涼太(あかざわ・りょうた)さん。

赤澤:赤澤です。よろしくお願いします。

宇多丸:よろしくお願いします。お疲れ様です。

日比:続いて、父親役を演じられました森尾繁弘(もりお・しげひろ)さん。

森尾:森尾繁弘です。ありがとうございました。

宇多丸:お疲れ様でした。

日比:そして母親役を演じられました田中千佳子(たなか・ちかこ)さん。

田中:田中千佳子です。ありがとうございました。よろしくお願いします。

宇多丸:お疲れ様でした。ありがとうございます。はい。ということでまず、もう普通に演劇として感動してしまいました。この短い時間に……でも短い時間だからこそなのかな? なんかこう、過ぎ去ってみるとあっという間だったっていうのは家族なんかきっとそうだと思うんだけど。まあ、僕は子供いないですけど。「ヤベえ、母親に電話しなきゃ……」って。そんな気持ちになった次第です。まあ、これを聞いているんで別に電話をする必要はないかな?

一同:アハハハハハハハハッ!

宇多丸:フフフ、最悪の息子っていう(笑)。

■日比アナの感想──「演劇ってどこだってできるんだ!」

宇多丸:日比さん、いかがでしたか?

日比:いや、本当に改めて、「演劇ってどこだってできるんだ!」っていうことを皆さんが証明してくださって。今まで私はカフェの中で朝ご飯を食べながら演劇を見るとか。なんかそういうゲリラ的な、いわゆるフラッシュモブじゃないですけど。ああいうのは見たことがありましたけど、ラジオで! ラジオでやってのけたっていうのはやっぱり革命じゃないかって思いますね。

で、さらにやっぱり、いろいろと質問したいことは山ほどあるのでメモをしたんですけども。本当に手話の通訳、そして音声ガイドが全てが演劇だということを改めて、この『メゾン』という短い形でも、あの新しいスタイル、新しいスタンスっていうものを見ることができたので非常に刺激的でした。役者の皆さんの演技の仕方というのも聞きたいんですけども。1個だけ、先に聞いてもいいですか?

宇多丸:ああ、どうぞ。

日比:今回の演技というのは、この音声ガイドや手話通訳も見ながらやってるんですか? 視点はどうやって、どこを見ながら?

森尾:まず、そのガイドが入らない状態で一度、作ります。で、もう1回作ってから、再度構築をし直す、っていうのを稽古の中で繰り返していきます。

宇多丸:どのあたりを微調整されるんですか?

森尾:やはり視界の中に今まで入ってきてない会話相手じゃない方とかが入ってくると、そっちを見てしまいがちになるんですけども。やっぱり見てはいけないものですし。ただ、空間の中には一緒にはいるから除外してはいけないという。

日比:なるほど。さっき中村中さんからもありましたように、パートナーはみんなでお祝いをしているようだったというのは……。

森尾:その通りです。なので、一度先に作ってからやはりセリフなり何なりの微調整であるとかっていうのは気をつけてました。

日比:センスというか、センサーはもうとんでもない数ですね。

森尾:そうですね。

赤澤:僕はほら、語りが多いから。ロバート・ダウニー・Jr.の映画(『愛が微笑む時』)があったじゃないですか。チャールズ・グローディンとかがずっと周りにいるっていう。僕はあれのチャールズ・グローディンだと思っていて。

田中:ちょっと幽霊的な存在っていうことですよね。

赤澤:そういう感じになるのかな?って。

宇多丸:うんうん。たしかに息子役はちょっと1個だけそのフィクションの段階が違うっていうか。メタ的に語ることができるから。そこはちょっと違うのか。

赤澤:そうですね。場面、場面……語りの場面だとか劇中に入った時とかでちょっと感覚が違う風に捉えてました。

宇多丸:とはいえ、赤澤さんね、正面に出てしゃべる場面が多いから。「完全に今、オレと目が合っている……」みたいな。

赤澤:いや、本当に緊張しました(笑)。僕、本当に番組を聞いてるんですよ。ファンなんです!(笑)

宇多丸:すいません、ありがとうございます(笑)。

日比:それが今日は1.5メートルの距離で演劇をするというね。

宇多丸:でもやっぱり演劇ってなんていうか本当に世界がもうそこに現出してしまうんだなっていうのは思いました。まさに日比さんがおっしゃる通り、どこでも演劇という空間は。

日比:あと、お母さんのお声を聞いてるだけで……私は目をつぶってしばらく見ていたんですけども。声だけで明るくて元気で気丈なお母さんだってことがすごく伝わってきたんですけども。

田中:嬉しい! ありがとうございます!

日比:それもやっぱり意識をされているんですか?

田中:そうですね。できれば全部で取っていただけたらいいなっていうのは思ってるので。動きが見えない方にも声で……まあ、できるだけなんというかドラマチックにはならない、リアルとして伝わるように。でもその性質が出るようにというのはちょっと工夫してやっております(笑)。

日比:あのお母さんの「怖いよ……」っていうあのトーンですよね。明るいお母さんだけども、やっぱり怖さとか恐怖というものをちょっと織り込むあのセリフがもうグッと来ちゃって。「すごい!」って思いました。

田中:嬉しい!

宇多丸:たしかに、その演じ方の按配で、要するに音声。セリフ上だけでも伝わった方がいいけども、でもやりすぎてもダメ。つまり、その情報の差し引きの按配が通常のものよりもさらに繊細になってくるところはありますかね?

田中:たぶん近い分、どうしても遠いとしっかり届けなきゃいけないのでボリュームが大きくなったりとかするんですけども。近い分、より繊細に見ていただけるんじゃないかっていうところで。私たちは近いところでやるからには繊細にやろうという感じで稽古をしておりました。

宇多丸:なるほど。

■手話通訳者はどんな気持ちで舞台に立っているのか

宇多丸:これはまさに今回のその『メゾン』の作を手がけられております米内山陽子さんのご紹介をちょっと軽く日比さんの方から……。

日比:まず、プロフィールからご紹介します。米内山さんは広島県三原市のご出身。1993年より演劇活動を開始されました。そして2012年、女性4人の演劇ユニット「チタキヨ」を結成され、そこで作・演出も担当されていました。脚本のみならず、演出や舞台手話指導、また舞台手話通訳なども行なっていらっしゃいます。

宇多丸:はい。今日、やっていただいた『メゾン』の短縮バージョン、『アフター6ジャンクション』バージョンは元のやつはどこがもっと膨らんでるんですか?

米内山:たとえば、この2人に子供ができた時。この35年ローンのマンションを買おうと決めた瞬間のシーンだったり、まだ平和だった小学校時代、お母さんと一緒に買ってきたお弁当を食べて、音読をして……とか。そういうちょっと平和だった時代がごっそりなくなりましたっていう感じにはなるんですけども。

宇多丸:うんうん。なるほど。面白いですね。出だしが生まれる前なのか後なのかで何かこの話の最後の余韻もだいぶ違いますよね。その家そのものの主題っていうか……まあ『メゾン』っていうタイトルなんだからあれだけども。今、お話をうかがって想像すると、だいぶそれだとまた最後の余韻が違うな、みたいね。面白いですね。で、この『メゾン』という舞台ですけども。元々バリアフリー演劇用に書かれたんですか?

米内山:というわけではなく、6時台に出ていた廣川麻子さんがやっていらっしゃるTA-netで「舞台手話通訳を養成しよう。なり手を増やしていこう」という講座をやってまして。で、舞台手話通訳をやるからには、モノローグ(独り語り)のセリフがあること。2人の対話があること。3人以上の対話があること。あとは固有名詞が入っていて、親近感を抱きやすい家族劇がいいんじゃないかということで。一応、養成のために書いた作品ではあるんですけど。

日比:一応、型というか……。

米内山:型というか、課題がたくさん入っているというか。

宇多丸:たしかに。だからパンパースだのなんだのってね。あのへん。「鈴木先生」とかどうするんだとか思っていたけども。そういう風に何個か、「ここは普通だと難しいよ」っていうポイントが入っているんですね。

米内山:そうです、そうです。そのままやるとたぶん手話の方が長くなって、芝居の尺に追いつかなくなってしまうから、どう翻訳するんだ?っていう課題とか。

日比:ああ、なるほど!

米内山:そうなんですよ。私はもう固有名詞を出さずに「安いの」「高いの」みたいな感じで翻訳するんですけど。

宇多丸:たとえば、そのオムツのところであるとか?

米内山:そうですそうです。でもたとえば子供を育ててるお母さんたちが観客だったら、たとえばそのオムツのブランドのパッケージの絵を見せちゃうとか。その形をやれば、その方が面白いよねとか、たぶん客層によっても翻訳の仕方は変わると思うので。そういう課題がいっぱい入っている作品というオーダーがあって。でもまあ書いてるうちに普通の家族劇を一生懸命書いたという感じではあるんですけども(笑)。

宇多丸:だからこその素晴らしさというのがあるけれども。あと、その会話ですよね。1人……まあ、1人はいいとしよう。2人、3人……もう3人ともなるとどうやって?

米内山:そうなんです。これはもう……手話通訳って見て、視線をやっぱり独占しちゃうんですよね。そうなるとやってるのは全部、手話通訳者って今回だと私なんですけど。たとえば息子をやる時はちょっと上を見上げて子供っぽい視線でやるとか。お母さんをやる時はちょっと肩を縮ませる。お父さんやる時は胸を張るとか、そういう少し記号的な体の使い方をして役を振り分けたりとか。

宇多丸:ああー。じゃあ、まあ落語じゃないけど、演じ分けが手話通訳者の中にもあるわけだ。あっ、それをふまえてもう1回、見たい!(笑)

米内山:フフフ、また呼んでいただいて。

日比:ちなみに、手話通訳の方ってどんな気持ちで舞台に立てっているんですか?

米内山:どんな気持ち……?

日比:役者さんなのか、通訳さんなのか……。

米内山:それは、実際にちょっと結構微妙なところで。演じなければいけない必要性はとてもあるんですけど。

日比:はい。表情とかでも語るところ、多いですよね?

米内山:そうですね。でもその演じる元は俳優の芝居なので。自分の解釈の自分の芝居をやってるわけじゃないんですよね。俳優がやってくるトーンとか、俳優が持ってくるこの役の感情みたいなことを伝えるためにやるので。1個、解釈が別のところに挟まって、それをやっているみたいな感じなんですよね。なんていうか、私の身体を濾過して、手話として出てるみたいなイメージが……分かりやすいかどうか、ちょっとわからないんですけども。

宇多丸:うんうん。さっきさ、「指揮者」って言ったけども「逆指揮者」っていうか。起こっていることを受け取って全体を表現している。統括っていうか。最後の窓っていうか。

米内山:ああ、そうですね。たしかに、そうかも。

宇多丸:なんかそういう感じなのかな?

日比:しかも、セリフとかもだいたい覚えていらっしゃるわけじゃないですか。

米内山:そうですね。今回のはでももうずっとやってるので結構覚えてますね。

日比:ただ、通訳はやっぱりセリフの0.1秒とかちょっと後にやっぱり入れている?

米内山:ええと、お客さんの視線がどこを向いているかによって……たとえばその前のシーンで動きが多いシーンだったらやっぱり舞台上の俳優の動きを見てほしいので。そっちに視線を誘導するために何もやらなかったりするんですね。で、そうするとしゃべり始めと同時に手話をやっちゃうと、お客さんの視線がこっちに間に合わないままセリフが始まってしまうので。そういう時は少し遅らせたり。

日比:なるほど!

米内山:でも、これ暗転とかがあるんですよね。舞台だと。だから、しゃべっている途中でバツンと暗転になっちゃうと、これもダメで。なので、いわゆるケツを絶対に合わせなきゃいけないみたいなところでどこを省いて短く出せるか、みたいなことを翻訳上ではすごい気を付けてやるようにしてます。

宇多丸:そして当然、それをやる方はあれですよね。米内山さん以外の方がやる場合は、その尺感みたいなものも練習して、整えていくみたいなことですかね。

米内山:はい。そうですね。

■俳優たちは舞台で何を意識しているのか?

日比:脚本は、あれですか? 「普通の」っていう言い方も変なんですけども。通訳を介さない台本よりもト書きが多かったりはするんですか?

米内山:全然変わらないですね。今回に関しては私が作・演出をするということもあるので、自分で全然稽古場で説明もできちゃうし。ト書きを多くしよう、少なくしようみたいな意識はたぶんほとんどしていないです。

宇多丸:なるほど。これはだからまあ、やりようというか、舞台によってはたとえば手話通訳の方が複数いるっていう手もある?

米内山:手もある。そういう手もあると思います。たぶんご覧になった『ヘレン』とか……ああ、でも『ヘレン』はいろんなバージョンがありますけども。3人立ってるバージョンもあるし、1人のバージョンもあるので。で、3人も入れ代わったり、2人がいて1人がいなかったりとか、いろんなやり方があるかなと。

宇多丸:それはだから、あれですよね。舞台によって表現したいものとか、どこに力点を置いているかによって当然、そこはやり方を変えてもよかろうという部分はあるけどという。ただ、この場合はやっぱりその、あえて難しいところを何個かやってるわけですね。

米内山:そうですね。

宇多丸:考えると、そうか。キャッチボールがあったり、何とかがあったり……そうか。そういう、たぶん難しさのハードル、テキストが重なっていたんだっていう感じがする。見直したい! このタイミングで(笑)。

一同:ハハハハハハハハッ!

日比:あと私、ポジショニングを聞きたいんですけども。ポジショニングはどうやって考えているんですか? 私たち、今見せてもらったので説明をしますと、お母さんの役をする時はお母さん近くにいる時もあれば、さっきもご説明がありましたように逆にお父さんの方にいる時もあったり。机を介す劇の時は机の斜め前にいる時もあれば、机の後ろにいる時もある。ポジショニングもパラパラパラパラと変わる。それはどういう演出をかけているんですか?

米内山:これはまあ、そこの場所が役が2人きりになった方がいいのか、私が入った方がいいのかっていう判断ももちろんあるんですけど。でも離れてしまうと、やっぱりどうしても視線は独占してしまうことが多いので。俳優を見てほしいんですよ。見てほしいのは作品なので。一緒に見てもらえる位置に隙あらば入るっていう感じなんですね(笑)。隙あらば入って……でも、ここはちょっと中に入れない。物理的に入れないとか、シーンの心情的に入れない時は、できるだけ近いけど脇に行くみたいなことを考えてやっています。

日比:演じている皆さんはいかがですか? そういうこう、手話通訳の方がいる中での動きになってくると思いますけど。息子役の……。

赤澤:あの、基本的に意識しないように。で、本当にさっき言ったみたいに自分が語りなので。語りをやる時は何かこうずっと付いて、たまに見える人だなみたいなとか。そういう感じで自分の中で落としてやっています。あと本当に物理的に事故につながらないようにっていうのはどこかで意識して。

米内山:でも初っ端にお父さんと手がぶつかるっていうところがあって。それは、今日の事故です(笑)。

宇多丸:すいませんね。狭いから……。

赤澤:とんでもないです(笑)。

宇多丸:なるほど(笑)。

■音声ガイドは演劇のなにを説明しているのか

日比:そして音声ガイドを担当していただいている檀さんにもお話をうかがいたいと思います。まず、ご紹介をさせていただきます。檀鼓太郎さんは、俳優活動や舞台演出も手がける「バリアフリー活弁士」でいらっしゃいます。1962年、東京都生まれ。劇団“みなと座”を経て、様々な舞台に出演。そして近年では視覚障害者向けに場面解説を行う「バリアフリー活弁士」の第一人者として活躍されていらっしゃいます。

宇多丸:本当に印象的なのは最初の状況説明。そこも含めてのお仕事なんですか?

檀:そうですね。舞台をやる場合はそういう感じになりますね。普段は映画の場面解説をライブでやるっていうのをやっていて。先週はUDCast、録音のやつを紹介されていましたけども。UDCastが対応していない作品を生で解説するっていうのを普段、やってるんですね。

宇多丸:ああ、まさに本当に活弁士だ。

檀:なのでトーキー映画を活弁する感じなんですけども。その映画の場合もそうなんですけれども。始まる前に知っておいてもらった方が想像しやすい情報を事前に伝えるっていう、「事前解説」というのを映画でもやってるんですね。なので舞台でも、たとえばその舞台の大きさがわかんなかったら大きさを、あと舞台装置がわからなかったら言葉で説明したり。場合によっては実際に開演前とかに舞台に上がっていただいて、実際に装置に触ってもらうっていう場合も。そういう公演も中にはあります。

日比:私が行かせていただいた時には実際に触らせていただいて。幕の奥にある小道具ですら、全部を見せていただいて。やっぱり「それがどんなサイズなのか、どんな材質なのかを事前に知っておいてほしい」という風におっしゃっていましたね。

檀:まあ、特殊な、ちょっと言葉で説明しづらいような小道具が出てくる場合なんかは、お願いして触らせていただくということがありますね。

日比:でもそれってやっぱり、その小道具ひとつで時代背景がわかるものってたくさんあるじゃないですか。それはやっぱり難しいですよね。

檀:そうですね。まあ、本当にそうです。

日比:色だったり形だったり。

檀:そうですね。だから単語で言ったところで、それを触ったことがないとどういうものかそもそもがわからないという。だから日常生活の中にあるものは触ってわかるそうなんですけど、普段触ったことがないものはどういう形かがイメージできないっていうのを聞いたことがありますね。

宇多丸:うんうん。そこにも留意されたりとか。あと、その今回の『メゾン』だったらまあワンシークエンスだから説明できるけど、それこそ映画とかってね、大変じゃないですか。事前情報って。どういう……。

檀:映画の場合は登場人物が多ければ「だいたいこういう人たちが出ていますよ」っていうのをざっと説明しておいたり。あとは、そうですね。特殊な場所が出てきた時は「こういう場所が出てきますけど、これはこういう感じです」とか。そういうのはある程度、ご紹介するぐらいで。本編中で説明できることは本編中で説明します。

宇多丸:これは今回の『メゾン』だったらその作家でいらっしゃる米内山さんと檀さんは内容とかに関して打ち合わせされるんですか?

檀:全然ですね。

米内山:全然。

宇多丸&日比:ええっ!? 宇多丸:マジか!

米内山:全然していないですね。

檀:何の注文も受けていないし。すでに出来上がっている状態のものに、去年の1月に「シンポジウムがあるので音声ガイドも付けてください」って言われて。で、稽古を見に行って。「じゃあ、付けてみますね」って言ってその場で合わせて。「こんな感じですけどどうですか?」って。

米内山:それで「OKです」って(笑)。

日比:へー! 実況というか、そういう感じなんですか?

檀:だから、元々は台本もなかったんですね。それで会場で僕がしゃべってる内容を耳の聞こえない方にも伝えようということで、字幕を出すことになったので、そのために台本を書きました。そのたたき台があったので、今回はちょっと直す程度だったので台本を一応。まあ、尺もタイトだったので台本を作りましたけど、通常は台本なしで僕はしゃべります。映画もそうです。映画も台本なしでしゃべります。

宇多丸:その、フリースタイル・スタイルというか。これは檀さんのやり方ということなんですか? もしくは皆さんがそういうやり方なんですか?

檀:いや、主に僕はそうです。あと、映画でもライブで解説をする人は(台本を)持たない人が多いです。そもそも台本が手に入らないとか、書き起こすこともできないとか。今、公開中の映画とかだったら、そもそも台本を作れない。なのでもう即興でやるしかないんですね。

宇多丸:ないものをその場でやるのはそのメリットもあるのか。

日比:演劇と映画……演劇だとやっぱりライブですから、稽古を見ていたとしても予想だにしない動きであったりとか。たとえばポロッと何かを落としちゃったとか、セリフを間違っちゃったりとか、あるわけじゃないですか。

檀:実際に去年やった時はキャッチボール……今日はエアーでキャッチボールしてましたけど。去年やった時に本番中にキャッチボールでホールを捕りそこねて落としたんですね。その時は「落とす」っていう風にガイドを入れましたからね。「落とす」「拾う」とかね。

日比:もちろんそれはアドリブで?

檀:アドリブで。

宇多丸:森尾さんがすごい頭を抱えている(笑)。

森尾:落としたのは僕じゃないんですよ(笑)。

赤澤:あ、僕でした?

檀:「息子、落とす」って(音声ガイドをしているときに)言いましたよ(笑)。

米内山:その時には通訳も「あー、落としている」っていうのをやりました(笑)。

日比:ああ、逆にそういうことか(笑)。

宇多丸:でも、そうか。逆にフレキシブルに即興性……アドリブとかも取り入れた方が、特に演劇のライブ性には合っているっていう?

檀:そうですね。それに尺とかも稽古の時と尺が変わったりするので。稽古の段階で「ああ、ここは間があるから一言入れられるなと思って入れようと思ったんだけど、今日の事前のリハーサルの時に芝居がタイトルに詰まってきたので「ああ、入らないじゃん」っていう。それで入れたけどやっぱりカットしたのがあります。

日比:役者の皆さんがちょっとおどおどされ始めました(笑)。

檀:いやいや、いいことなんですよ。

赤澤:こっちを優先してくださるので。なんで、僕らはもう自然体で。

檀:芝居がメインなんで。

米内山:私も檀さんもそうなんです。作品がまずあって、そこにどう入っていくか?っていうことなんだと思ってるので。

檀:だから「入れたいけど、これはかぶっちゃうから入れようと思ったけどもしょうがない。これは無理」っていうのはその場で判断してやめる時もあります。

日比:その檀さんのお声を聞いていてびっくりしたのが、「◯◯が××している」といういわゆる説明的な文章は同じトーン。でも、たとえばお父さんが息子にコチョコチョってやったりとか。あとは「まだ(手を)振っている」とか。檀さんのつぶやきみたいな時もあるわけじゃないですか。

檀:あのね、形を言葉で説明するよりもその方が、その感覚が伝わりやすかったりする時があるので。あえてそういうことを僕はやります。他の人はたぶんやらないと思います。

日比:観客の熱量とかも、笑うところが毎回違ったりするんじゃないかなと思うんですけども。

檀:そうですね。それで今日はお父さんが手を振る距離が近かったのであんまり振ってないんですけど。舞台で広いところでやった時はお父さん、離れたところですごい振るんですよ。「うわっ、めっちゃ振ってる!」とかってその時は言ったんです。なので今日はガイドの内容が変わります。「ああ、まだ振ってる」とかってね、ちょっと距離感で芝居が変わったので、ガイドも変わりました。

宇多丸:ああ、でもこれも決め込まないことのプラス面でもありますよね。

日比:堅苦しい「ガイド」っていうイメージじゃなくて、本当に「そうだな」って思いながら。

檀:なんて言うんですかね……見えてる人が感じた感想を言っちゃった方が、その見えてない人に感覚が伝わる時がある。伝わりやすい時がある。

宇多丸:そのままの説明よりも、それを見て感じたことを言った方がダイレクトにつながりうるっていう?

檀:という場合があるので。だから場面によってそれは「こういうのを言っちゃってもいいな」っていうトーンの場面だったらやっちゃうみたいな。

日比:なるほど。ライブだなー。

宇多丸:面白いな。ちなみに『メゾン』のその音声ガイドを付けるのは難しい方か、楽な方だったか……。

檀:うーん……いや、語りが多いので、入れる量はかなり少ないですね。すごく抽象的な部分が少ないという意味ではやりやすいと思います。ただ、展開が早いので、その場面の説明が入れにくいという部分では難しいところもあります。一長一短ですね。

宇多丸:なるほど。でもやっぱり、その手話も音声ガイドもその按配っていうか。よく、いっぱいやられてるのもあると思うけど。たぶんだから自然にそういうものとして受け入れて。だから普通に見ちゃったというのはそういうことだし。あと同時に、あのパーティーのところで一緒になっちゃうなんていう風に中村中さんはおっしゃっていたけども。あれとかは、だからつまりお二人がいること自体が演出の一部にもなり得るというか、武器にもなり得るというか。それも面白いなと思いましたね。

■「親切すぎる作品」はあんまり優しくない

日比:もう1個だけ、聞いてもいいですか? 演出においてあの、写真をバーッとばらまいたりとか。風船をふくらませたりとか。比較的音が出る小道具が多いんじゃないかなと思ったんですけども。そういうのは作品を作る時に意識をされているんですか?

米内山:実はあまり意識しないようにしないと、すごく「親切すぎる作品」になっちゃうなとは思うんですよね。親切すぎることって実はあんまり優しくなかったりするのかもしれないと思って。そういう点においてはあんまり気にせずに、ちゃんといいと思うものをチョイスしようという感じで選びました。

日比:より華やかでした。

宇多丸:はい。ということでですね、あっという間にちょっとお時間が来てしまったんですよね。もうこれを踏まえた上でもう1回……みたいなことをやりたいぐらいなんですけども。本当にね。

檀:ぜひぜひ(笑)。

米内山:また来たい(笑)。

宇多丸:でも、これはすごくラジオ向きな試みでもあるわけだから。普通に定期的にバリアフリー演劇のラジオ番組があってもよかろうに……っていう。

日比:新作をぜひ(笑)。

米内山:がんばります……(笑)。

宇多丸:作るの大変ですけども(笑)。

日比:ほしがっちゃってすいません(笑)。

米内山:いえいえ、やりたいですね。

宇多丸:ということで、今後もこの番組ではね、バリアフリー演劇に注目もしていきたいし。また皆さんにお越しいただいて、いろんなものもちょっとまた拝見、拝聴もしたいし……という感じです。今日の特集は18時半からの分も合わせて、文章化して番組公式サイトに全文を掲載いたしますので。耳が不自由な方にはそちちのページを教えてあげて、これを読んでいただくとちょっとわかりますよ、みたいな感じになっています。ということでいろいろとね、演劇界も大変な感じがあるとは思いますがね。いろんなのが……皆さんから何か、お知らせごとなどがございましたら。

米内山:米内山です。私と母役をやった田中千佳子がチタキヨという劇団を一緒にやっておりまして。あともう2人、女優がいるんですが──もう落ち着いてるといいな──11月に公演がありますので、よかったら「チタキヨ」と検索していただいてSNS、ホームページなどをチェックしていただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。

宇多丸:はい。檀さん。

檀:5月30日に墨田トリフォニーホールで新日本フィルハーモニーの生演奏でチャップリンの『街の灯』を上映するという生オケシネマというのがあります。これにですね、私の副音声が付いているので、目の見えない方が生オーケストラを聞きながらキャップリンの『街の灯』を楽しめるというという。そういうのがあります。で、同じ5月30日、今度は夜になると新木場1stRINGでバリアフリープロレス・HEROという団体でプロレスの音声ガイドをやっております。実況音声ガイド。

日比:ええっ、聞きたい!

宇多丸:それはまた別の時間が必要ですね、これは(笑)。またちょっとそのお話もうかがいたいですね。それも面白そう! そして赤澤さん。

赤澤:赤澤です。普段は僕、声優の方もやらさせていただけておりまして。まあ今、ちょっと公開できるものがないんですけれども。「@007akazawa」でTwitterの方をやっております。そこで随時情報を更新していきますので。声優界のビル・パクストンを目指して……これは宇多丸さんにちょっと言っておきたいと思いまして(笑)。

宇多丸:ビル・パクストンのどの部分なのか、よくわかりませんが(笑)。いやいや、ありがとうございます。赤澤涼太さん。そして森尾さんは?

森尾:はい。父の森尾です。私もちょっとまだ情報公開になっていないものしかないんですけれども。Twitterの方とかで随時発信していきますのでよろしくお願いいたします。

宇多丸:はい。田中さんはじゃあ、先ほどの?

田中:そうですね。チタキヨの11月。どうぞよろしくお願いします(笑)。

宇多丸:最後に1個だけ、メールをご紹介させてください。先ほど、メールをいただいた方。「浜マル」さんですね。手話演劇を目指そうとされていた方。「『メゾン』。このラジオから暖かさが伝わり、普通の演劇の難しさも感じました。目を閉じてずっと聞きました。世界が伝わりました。私も手話演劇を目指してやっていく覚悟ができました」という。

米内山:待っています! 嬉しい!

宇多丸:浜マルさんでした。はい。ということで皆さん、なかなか変わった条件の中、こちらもめちゃめちゃ楽しかったです。以上、「演劇の多様性は今、ここまで来ている。バリアフリー演劇ってどんなもの?」特集でした。ありがとうございました。

一同:ありがとうございました!